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37次元に同時アクセスする光の粒子を生成 量子物理学の限界に挑む

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 我々の暮らす世界は3次元空間だ。ここに時間を加えると、4次元時空として表される。だが量子の世界では、それよりもはるかに多次元の構造が存在するという。

 科学者たちは光子(フォトン)を37次元に存在させるという、前代未聞の量子物理学的実験に成功した。そこには古典物理学では説明できない「量子の奇妙なルール」が働いている。

この発見は、量子世界の奥深さを改めて示すものであり、未来の量子技術につながる可能性も秘めている。

【この記事のポイント】

  • 光子を37次元に存在させるという量子実験に初成功
  • GHZ状態を用いた実験が古典物理学では説明できない現象を明確に示した
  • 高次元の量子システムが量子技術の新たな可能性をひらくと期待されている

不思議な量子の世界。物質は空間を超えて存在する

 量子力学の世界では、私たちの直感や古典物理学の常識ではとても説明できない現象が数多く発見されている。

 その代表例が「量子もつれ」と呼ばれる現象だ。

 これは、一対の粒子のうち一方を観測すると、たとえどれほど距離が離れていてももう一方の粒子にも瞬時に影響が現れるというものだ。

 アルベルト・アインシュタインはこれを「不気味な遠隔作用」と呼んだことで知られている。

 古典物理学では、こうした「離れた場所で同時に変化が起きる現象」はありえないと考えられていた。だが量子の世界ではそれが当たり前のように起きてしまう。

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GHZパラドックスが示す古典物理学との矛盾

 こうした現象がなぜ起こるのかについて、「隠れた変数理論」という考え方がかつて提案された。

 これは「私たちがまだ知らない情報(隠れた変数)が、粒子のふるまいをあらかじめ決めているだけではないか」という理論だ。

 もしそうであれば、量子もつれも古典的な理屈で説明できることになる。

 だが1989年、物理学者グリーンバーガー、ホーン、ツァイリンガー氏によって「GHZ状態」が提唱され。この状態を用いた実験により、隠れた変数理論が成立しないことが明確に示された。

 このときの論理的な矛盾(ある前提が成り立つはずなのに、実際の結果が正反対になること)は「GHZパラドックス」とも呼ばれている。

 ツァイリンガー氏の行った実験では3つの粒子(たとえば光子)を量子もつれの状態にし、それぞれを遠く離れた場所で同時に測定する。

 もし隠れた変数が存在するならば、測定結果はあらかじめ決まっているはずだ。

 ところが実際の測定結果は、古典物理学的な予測とは一致せず、どう計算しても矛盾が生じてしまう。

 これは単なる偶然や確率的な違いではない。そもそもの理屈として、古典的な説明では量子のふるまいを理解できないことをはっきりと示しているのである。

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37次元の量子状態を持つ光子の生成に成功

 そこで、中国科学技術大学とデンマーク工科大学など国際チームの研究者たちは、色や波長をそろえた高精度な光を用いて、GHZ状態の光子をさらに高次元で生成する実験に挑戦した。

 色や波長をそろえた高精度なレーザー光を用い、GHZ状態の光子をこれまでにない高次元での生成に成功した。

 この実験によって、光子は37種類の状態の組み合わせとして存在することが可能になり、これまでにない高次元の量子もつれ状態が初めて実現された。

 ここで言う「次元」とは、空間の次元そのものではなく、粒子のもつさまざまな状態、たとえば偏光(光の波の振動方向)、軌道角運動量(光が渦を巻くように進む性質)、時間ビン(光子が異なる時間帯で存在する状態)などを表す自由度の数を意味している。

 私たちが暮らす空間3次元+時間1次元の4次元をはるかに超えた、極めて多次元な量子状態が現実の実験で作り出されたことになる。

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量子技術の未来を切りひらく可能性

 研究チームは「今回の結果は、これまでに実験で確認された中でも、最も古典物理学の枠組みを超えた量子現象を示したものだ」だとしている。

 中国科学技術大学の鄭浩劉氏は、「量子物理学が発見から100年たった今でも、まだ氷山の一角しか見えていないのかもしれない」と語っている。

 今回の成果により、高次元量子システムの制御技術は大きく前進した。

 今回の成果は、量子情報処理や量子通信、量子コンピューターの開発において、より多くの情報を効率よく処理したり、耐干渉性の高い量子通信の実現に役立つ可能性がある。

 研究チームは「この成果が高次元量子技術のさらなる発展につながることを強く期待している」と述べている。

 この研究は『Science Advances』(2025年1月29日付)に掲載された。

 本記事は、2025年2月7日に紹介した同一の研究を、よりわかりやすく整理し、全文を書き換えたものです。

References: Science / Scientists Produced a Particle of Light That Simultaneously Accessed 37 Different Dimensions

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この記事へのコメント 14件

コメントを書く

  1. 多次元なのか多元的なのか意味が違う
    言葉遊びに陥りそう

    >ここで言う「次元」とは、空間の次元そのものではなく、粒子のもつさまざまな状態
    ということなら37次元にまたがるわけでないということ

    前回の
    >「光は古典物理の想像をはるかに超える37もの次元にまたがって存在している」という結果を得た

    は間違いということになるのでは???

    次元というより位相に近いのか

    • +7
    1. 間違いという訳ではなく、そう説明されているわけだから
      空間的な次元を変えて実験しなくても、それと同じ結果がわかる実験である、という事なのではあるまいか

      > 光子は37種類の状態の組み合わせとして存在することが可能になり、これまでにない高次元の量子もつれ状態が初めて実現された。

      と書かれているので、高次元の量子もつれが観測出来たわけだし。

      >粒子のもつさまざまな状態、たとえば偏光(光の波の振動方向)、軌道角運動量(光が渦を巻くように進む性質)、時間ビン(光子が異なる時間帯で存在する状態)などを表す自由度の数

      これを観測する事で、どうして多次元を観測したのと同じことになるのか、の説明がないのでこちらとしてはよく理解できないのよね

      • 評価
  2. ファラデーやマックスウェルらによる電磁気学は無線技術を始めとした多彩な応用を産み、現代社会はこれなしには成り立たない。さて37次元の光子云々はどうかな?

    • +1
  3. 37次元か、最早凡骨がイメージすらできない領域なんだろうな

    • 評価
  4. > 光子は37種類の状態の組み合わせとして存在することが可能になり、

    この組み合わせを自由に発信・受信できるように制御できるようになれば
    1クロックで送れる情報量が膨大な量に跳ね上がるな

    • +2
  5. 流石に何言ってんのか分からん
    しっかりと勉強すれば納得なんだろうな

    • 評価
  6. 時空的な意味での次元と粒子の状態的な意味(?)での次元は区別しないとわけわからなくなりそう

    • +2
  7. >ここで言う「次元」とは、空間の次元そのものではなく~…粒子の様々な状態を表す自由度の数を意味している ~
    >私たちが暮らす空間3次元+時間1次元の4次元をはるかに超えた、極めて多次元な量子状態が現実の実験で作り出されたことになる

    なして時空間の次元ではなく諸相の次元の事だと断ってるのに時空の話をするだ

    • +1
  8. 光子の状態を表すパラメータを37次元と定義しており、空間の次元じゃ無いと自分で書いているのに最後に4次元時空と結びつけるから訳わからなくなってる

    • 評価

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