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AIの記憶消失問題。人間の脳を模倣した電子部品でアナログ的特性を持たせ克服に成功

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(著) (編集)

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 AIは使い方次第で非常に便利な技術であり、さまざまな分野で研究が進められている。しかし、その一方でいくつかの弱点もある。その一つが、新しいことを学ぶと、それまで覚えていたことが大幅に失われてしまう「記憶の消失(壊滅的忘却)」問題だ。

 この問題を解決する新技術が発表された。ドイツの研究チームは、人間の脳の学習方法をまねた新しい電子部品「メモリスタ」を開発した。

この新型メモリスタは、デジタルとアナログの両方の性質を持ち、より柔軟な学習が可能になる。

 さらに、人間の脳が持つニューロン同士のつながり(シナプス)の強さを調整する能力を模倣することで、新しい知識を学んでも過去の記憶が失われず、「記憶を消さずに学習を続ける」ことができるのだ。

AIが過去の記憶を消してしまう理由

 現在のAI(人工知能)は、ディープラーニング(深層学習)によって知識を増やすが、新しいことを学ぶたびに過去の記憶が上書きされ、忘れてしまうことがある。

 この現象は「記憶の消失(壊滅的忘却)」と呼ばれ、AIが長期的に学習し続けることができない弊害となっている。

 一方、人間の脳はこの問題を回避する仕組みを持っている。

 脳の神経細胞(ニューロン)は、学習の際にシナプスの強さを調節し、古い記憶を守りながら新しい情報を蓄積する。

 この能力は「メタ可塑性」と呼ばれ、人間が効率よく学習できる理由の一つだ。

 ドイツのユーリッヒ総合研究機構のイリア・ヴァロフ氏らの研究チームは、この仕組みをAIに応用しようと、新しい電子部品「メモリス」を開発した。

 この最新式メモリスタを活用すれば、AIが記憶を失わずに学習を続けられる可能性があるという。

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デジタルにもアナログにも振る舞える新型メモリスタのイメージ/Credit: Chen, S., Yang, Z., Hartmann, H. et al., Nat. Commun.

メモリスタとは?

 メモリスタは、「メモリ(記憶)」と「レジスタ(抵抗)」を組み合わせた名前の電子部品で、電圧によって抵抗値が変化し、その状態を記憶することができる。

 これは、人間の脳のシナプスが信号の強さによって変化する仕組みに似ている。

 現在のコンピューターでは、データを処理する「プロセッサー」と情報を保存する「メモリー」が別々に存在している。

 しかし、メモリスタを活用すれば、計算と記憶を同じ場所で行うことが可能になり、より効率的なAIチップの開発につながると期待されている。

新型メモリスタの仕組み

 これまでのメモリスタの仕組みには、大きく「ECM(Electrochemical Metallization)」と「VCM(Valence Change Mechanism)」の2つがあった。

 ECMメモリスタは、2つの電極間で金属イオンを移動させ、金属フィラメント(導電ブリッジ)を形成し、それによって抵抗値を変化させる。このタイプは、スイッチング電圧が低く、反応速度が速いという長所がある。

 ただし、形成されたフィラメントは構造的に不安定で、電圧を反転させることで溶解してしまう。その結果として、動作が不安定で、寿命が短い。

 一方、VCMメモリスタは、金属イオンではなく酸素イオンの移動を利用して、抵抗を制御する。長所は、安定性が高いことだが、そのかわり高い電圧が必要になる。

 新たに開発されたメモリスタは、ECMとVCMの両方の長所を組み合わせたものだ。

 その仕組みは「FCM(Filament Conductivity Modification)」と呼ばれ、フィラメントは酸素イオンとタンタルイオンの移動によって形成される。

 これは完全には溶解しないため非常に安定しており、その結果として、製造の歩留も改善され、寿命も長い。

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新型メモリスタのフィラメントのイメージ/Credit: Chen, S., Yang, Z., Hartmann, H. et al., Nat. Commun.

アナログ的動作で、AIの壊滅的忘却を解決

 FCMメモリスタのもう1つの特徴は、デジタル的にもアナログ的にも動作できることだ。信号を0か1の2つの状態で表すことも、連続的な状態として扱うこともできる。

 じつはこの特徴が、AIの”物忘れ”を防ぐうえできわめて重要なのだ。

 そして今回の新型メモリスタにも、これと同様の機能がある。

 ヴァロフ博士によれば、新型メモリスタは「独自の特性により、変調を制御して記憶された情報が失われないようにできる」のだという。

 このメモリスタの有効性は、すでにシミュレーションによって確認されているとのこと。今後はさらに安定したメモリスタの開発を続けていく予定であるそうだ。

 この研究は『Nature Communications』(2025年3月8日付)に掲載された。

References: Fz Juelich / This Brain-Inspired Memristor Could Finally Solve AI’s “Catastrophic Forgetting”

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この記事へのコメント 10件

コメントを書く

  1. ハードウェア上の物理的状態で記憶計算するということは…ついにAIも本物の「老化と死」を手に入れたってこと?内部状態のコピーは容易にできるのだろうか気になる

    • +10
  2. 記憶の消失(壊滅的忘却)は弱点ではない

    古い記憶にこだわっていては何も進化しない

    • -6
  3. ふぅん…AIも壊滅的忘却なんていう弱点があったんだなぁ。
    AIは人間に脅威をもたらす万能マシンだと思ってたけど、そんなでもないのか。

    • 評価
    1. AIなんて所詮は教育者や情報取得元が”人間”なんだぞ?
      万能でもなければ脅威でもなんでもない。単なる道具
      道具は使い方次第で便利にもなるけど、その反面脅威にもなる

      そしてAIを”脅威”として使おうとする人間が一番ヤバい

      • +2
    2. AIを何かしらの評価で断定する人って、技術が成長することを度外視しがちよね。
      ここ2〜3年の急成長を知らないとは言わせない。

      • +3
      1. 急成長してる反面問題点もいろいろ指摘されてるよね。
        使う人次第ってとこかな。

        • +1
  4. chatGPTは覚えててくれるけど、Grokはイーロンの考え一つで性格替わる…

    • 評価
  5. アルゴリズムで回避できそうな気もするけどなー
    メモリ容量の問題だとしてもそれはメモリスタも同じことだし。

    • 評価

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