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核廃棄物から電力を生み出す技術が開発される

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(著) (編集)

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原子力発電所のイメージ図この画像を大きなサイズで見る
Photo by:iStock
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 原子力発電は二酸化炭素をほぼ排出しないエネルギー源だが、放射性廃棄物の処理が大きな課題となっている。

 そんな中、アメリカのオハイオ州立大学の研究チームが、核廃棄物を活用してバッテリーの電源として利用する方法を開発した。

 研究チームは、核廃棄物から発せられるガンマ線を電力に変換し、マイクロチップを動かすことに成功したのだ。

 この技術が実用化されれば、原子力発電の持続可能性が高まり、エネルギーの新たな可能性が広がるかもしれないと期待されている。

クリーンだがクリーンではない原子力発電

 原子力発電は、核分裂によって発生する熱エネルギーを利用した発電のことだ。

 少しの燃料で大きな電力を発電でき、また化石燃料を使用しないために、日本ような資源に乏しい国にとっては大きな意味を持つ。また、温室効果ガスをほとんど排出しないことも大きなメリットだ。

 その一方、発電によってできる放射性廃棄物をどう処理するのかという問題もある。

 とりわけ高レベルの放射線廃棄物の場合、数万年にも渡り人体や環境に有害な放射線を放ち続ける。

 それによる被害を防ぐには、たとえゴミであっても適切に管理しなければならないが、それは極めて長期にわたるため、現世代はもちろん、将来世代の人類にとっても大きな負担となる。

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Photo by:iStock

ガンマ線を活用、放射性廃棄物を電力に変換

 今回、米国オハイオ州立大学の研究チームが考案したのは、その放射性廃棄物を有効利用する新型バッテリーである。

 その心臓となるパーツは、「シンチレーター結晶」と呼ばれる高密度材料だ。これは放射線を吸収して、光に変換する機能がある。

 そこで、この結晶を太陽光発電に使用されるソーラーパネルと一緒に使用済燃料貯蔵プールなどに設置しておけば、その光で発電できるようになる。

 実際に試作されたプロトタイプは、一辺4cmほどのキューブのようなもの。研究チームは、その発電性能を「セシウム137」と「コバルト60」の2種類の放射性物質で確かめている。

 その結果、セシウム137ではせいぜい288ナノワット程度の電力だったが、コバルト60では1.5マイクロワットの電力を発電することに成功したという。これは小型のセンサーなら十分稼働させられるくらいの電力だ。

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 新型バッテリーは、シンチレータ結晶とソーラーパネルを組み合わせたものだ image credit:Oksuz et al., Optical Materials: X, 2025

ゴミの山が宝の山に

 家電の消費電力を調べてみれば、数百ワットや1000ワットを超えるものがほとんどだ。ゆえにナノ/マイクロワットのレベルでは、身の周りの電化製品は動かないということになる。

 だが、そもそも今回の放射性廃棄物バッテリーは家庭用に考案されたものではない。研究チームが想定する用途は、使用済燃料貯蔵プールや宇宙・深海探査用の原子力システムの近くなど、一般向けではないものだ。

 また放射性廃棄物バッテリーのスケールアップや出力アップも可能だと考えられている。

 たとえばシンチレーター結晶の最終的な出力は、形状やサイズによって左右される可能性がある。

 体積や表面積が大きくなるようなデザインにすれば、それだけ多くの放射線を吸収でき、かつソーラーパネルにも有利なので、より大きな電力を発電できる。

 もう1つ重要な点は、放射性廃棄物バッテリーによる環境汚染がほとんど問題にならないことだ。

 それが設置されるのは、人間が簡単には近づけない高放射線環境だ。そこにバッテリーを置いたとしても、それによる環境の負荷はほとんど変わらない。

 また、定期的なメンテナンスなしで長期間動作すると期待できるのも大きい。

 研究チームによれば、まだ改善の余地はあるが、いずれこうしたバッテリーはエネルギー生産やセンサー業界において重要なシステムになるだろうとのこと。

 研究を主導したレイモンド・チャオ氏は、「私たちはゴミとされたものを集め、それをお宝に変えようとしています」と、ニュースリリースで語っている。

 この研究は『Optical Materials: X』(2025年1月29日付)に掲載された。

References: Scientists design novel battery that runs on atomic waste

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この記事へのコメント 28件

コメントを書く

  1. もう、カラカラの出涸らしになるまで再利用して欲しいな どうせ放射性物質を使うのなら

    • +43
  2. 「〇〇に捨てるところ無し」という日本古来の考え方に
    ようやく世界が追い付いてきた

    • +16
  3. いっぱい作るとね、紛失とか一般産廃に間違って捨てたとか普通に起こるね。

    • -13
    1. この記事内に
      「そもそも今回の放射性廃棄物バッテリーは家庭用に考案されたものではない。」
      「放射性廃棄物バッテリーによる環境汚染がほとんど問題にならないことだ。」
      って書いてあるのに読んでないの?

      • +12
      1. いっぱい作るとねって書いてるのに、読んでないの?

        • -10
        1. 横からですが、記事の内容を理解すれば(発電が微量なので面積を広く業務用の巨大な施設になる)紛失や一般産廃に間違って捨てたなど普通には起こりにくい構造なのですが、大丈夫ですか?

          • +13
          1. 技術が確立されたら、現場では大小様々な規格の電池を、結局末端では人が設置交換修理をする訳です。発電量からして、何千何万個という数量が世界各地で作られると思います。原発といっても、施設から出る廃棄物は、すべて放射性廃棄物ではなく、一般可燃ゴミや不燃ゴミもあれば、一般産業廃棄物もある訳です。設置した人と取り外した人と運んだ人、そして受け取った人が同じ人とは限りません。そんな状況で、数千から数万回に一回の間違いを犯さないな事ど、ないのではないか、と思うのです。ちなみに働いてる人は、講習等は受けるでしょうが我々と同じ普通の人だと思われます。

            • -1
  4. 放射線って何でもかんでもぶっ壊すでしょ。この装置も最初は動くかもしれないけど使ってるうちに壊れるんじゃないの?しかも放射化して。
    夢のような話だけど、正直あんまり楽観視できないなあ。

    • +1
    1. 記事の通りガンマ線を放射するタイプのならそれほど問題にはならないと思う
      物質を放射化する伝染性のようなものを持つのは中性子線を放射するタイプね

      • +15
  5. ラジオの送信所に逝くとガードレールからラジオが聞こえる理論と
    似た感じかな。だとすると人には悪影響あるし使えんはずだ

    • -7
    1. 違うよ。 それにラジオが危険で停止になってないしね。

      • +10
  6. 先週、日本原子力研究開発機構が「劣化ウランを用いた蓄電池を開発」と報道してたから、それとどちらが優れてるか競争だな。

    • +11
    1. この「放射性廃棄物で発電」したのを「劣化ウラン蓄電池」で貯めて
      ほぼ無限に電力供給出来たら最強なのだが
      発電の方がまだ微量なので難しいな
      (それなら太陽光や風力発電を劣化ウラン蓄電池でフル活用した方が効率良い)

      • -1
  7. 核廃棄物はどこまで行っても核廃棄物だよ。少々発電したとて、廃棄物には変わらないし、リサイクルして無害になるなら意味があるけど、この発電の規模を大きくするということは、核廃棄物が大量に必要になるって事じゃないの?これはエコでもなんでもないよ。
    核廃棄物を無害化してからリサイクルが筋なんじゃないかな。

    • 評価
    1. どうしたって無害にならないから厄介なのさ 唯一実効的な「無害化」方法はとにかく広範囲にまき散らして許容レベルまで薄めることだが、そんなの嫌でしょ?固めてるから有害なのに固めておくしかないのが放射性廃棄物なんだ
      廃棄物が必要になるから問題だって言ったって廃棄物はドンドン出てくるんだからしょうがないし、電池に加工されたならそれはもう「廃棄物」じゃなくて「電池」だよ。言葉遊びじみてるが、あなたが言ってることもそういうことじゃない?
      あらゆる核利用を停止しろといったって頼みの石油はあと200年も持たないしそれより先に温暖化が致命傷になりつつあり、代替エネルギーは一向に目途が立たん。ダメージ分散として石油/核の併用を選択せざるを得ない現実を見なければ

      • +13
    2. 石油はどこまで行っても石油だし無害にはならない。飲料水に出来なければ意味がない?そんな事は無い。その理論は筋でも無い(何の筋?誰の筋?)我々は多くの無害化出来てない物質に囲まれ利用して生きている。パソコンやスマホですら廃棄物が出る。廃棄物を出来るだけ少なくする取り組みには賛成だが、その理論には賛同しない。

      • +8
      1. 石油を飲みたいとは思わない。
        核廃棄物が有害だからリサイクルするにも有害なままではなく無害化してからではどうか?って話よね。
        有害なものを有毒なままリサイクルするのは危険なまま使い続けるということでしょう?
        核廃棄物の処理は今の科学ではほぼ不可能なのはわかる。この先原子力に頼らなければ立ち行かなくなるなら、リサイクルではなくて無害化にもっと本腰入れないと、世界のあちこちが廃棄物で溢れちゃうよ。
        世界には賢い人らがたくさんいるんだから、誰か一人くらい、やってくれる人がいないのかな?

        • -1
        1. 放射線が問題で、それを出さないようにしてから使うという趣旨ならば、放射線を発しない金属になるまで待ってから使うことになるからエネルギー源としても資源としてもほとんど意味がない。
          むしろそれまでの間、垂れ流しになってる放射線をエネルギーとして使うという点ではこっちのほうがスジが遥かにいいと思う。

          • 評価
    3. 核廃棄物の無害化には、高速炉を使って半減期が短いものに変換するってのがある
      問題は今ある高速炉のできが残念なものってこと

      • +1
      1. 高速増殖炉はプルトニウムになるのが厄介よね…
        半減期は短くなるが核爆弾にもできるようになるというのは無害化かというとむしろ更なる有害化ではないかと意見が割れそうではあるし、そもそも機械的に本質的な危険性を孕んでて既存の炉よりずっと有害
        ただまあ、背に腹は代えられぬということでいずれは無理無理でも実用されるんだろうなと思うから否定はしきれない ヒトの業の深さよ

        • +4
  8. これ系の技術はどんどこ伸びてって欲しい
    ダイヤモンド発電も頑張って欲しい
    あとあと核融合も来て欲しい!

    • +3
  9. 放射性同位体を使った発電は長期にわたって電力が供給できるので、デバイスによって電源不要になるので便利。捨てるときはちょっと難しいけど。

    • +3
  10. 放射性が無害になる技術が重要なのは承知だが、それ以外の可能性を試していく科学者たちのアイディアと熱意が凄いね
    そうしていくうちにこの分野と他分野の研究も進んで情報量が蓄積された中で、無害化の道がふいに見つかる日が早く訪れるといぃね

    • +9
  11. ベータボルテックスの技術とも組み合わせてベータ線も使って欲しい

    • +1
  12. 「核廃棄物から電力を生み出す技術」はそれなりに種類があって
    燃焼炉のように使用済み燃料をさらに燃やして発電しながら、その放射性を下げて安全に廃棄できる炉みたいなものもある

    この手の分野研究は日本が結構最先端を行っていたのだけど、3.11後に国民がアレルギー発病し
    「臭い物に蓋をする」の精神で研究が滞ってしまっているので、多分もう先端にはいない…

    • 評価
    1. アメリカと比べたら先端というほど先端ではないな
      それに、3.11前からぼろが出ていたというのが実情だし
      研究だって現在もやっていないわけじゃないのが救いかもな

      • +4

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