スウェーデンで起きた電動キックボードの死亡事故を調べたところ、なんと半数近くが飲酒運転によるものだった。
運転者の血中アルコール濃度の中央値は、日本の飲酒運転の基準をはるかに超えるレベルだったという。
さらに全員ヘルメットをかぶっていなかったこともわかり、自転車や電動アシスト自転車とは異なる事故の傾向が見えてきた。
2026年6月に道路交通法の改正以降で東京都内初の電動キックボード死亡事故が発生した日本にとっても他人事とはいえない話だ。
この研究成果は『Journal of Safety Research』誌(2026年6月4日付)に掲載された。
参考文献:
- ‘Drunk riding’ behind almost half of fatal electric scooter crashes in Sweden
電動キックボードによる死亡事故の44%が飲酒運転
スウェーデンのチャルマース工科大学と同国の運輸局が、2016年から2024年までに起きた電動キックボード、電動アシスト自転車、一般的な自転車の死亡事故204件を調べた。
すると電動キックボードで亡くなった人のうち、18人中8人、割合にして約44%が飲酒運転をしていたことがわかった。
それ以外の乗り物ごとでは、電動アシスト自転車は約27%、一般的な自転車は約13%だった。電動キックボードの数字がいかに突き抜けているかがわかる。
また酔っていた運転者の血中アルコール濃度は、中央値で1.8パーミルだった。
パーミル(‰)とは主にヨーロッパで使われる、血液中のアルコール濃度を示す単位(千分率)で、1.8パーミルは血液100mlあたり180mgのアルコールが含まれている状態を指す。
日本の道路交通法の酒気帯び運転の基準値は、呼気中アルコール濃度 0.15mg/l以上、血中アルコール濃度では、血液1mlあたり0.3mg(100mlあたり30mg)以上と定められており、今回わかった中央値はその約6倍にあたる重い酩酊状態だったことになる。
ちなみにスウェーデンで自動車を運転する場合、血中アルコール濃度が0.2パーミルを超えると飲酒運転になる。研究を率いたマルコ・ドッツァ教授は、運転者の酔いの深さは尋常ではなかった、と話している。
この画像を大きなサイズで見るヘルメットをかぶっていた人はゼロ
電動キックボードで亡くなった人は、全員ヘルメットをかぶっていなかった。
電動アシスト自転車やふつうの自転車でも、着用者は4人に1人程度にとどまる。そして、どの乗り物であっても、命を落とす原因として一番多かったのは頭の怪我だった。
論文の筆頭著者であるラフル・ラジェンドラ・パイ氏は、最も命に関わる部位が頭部であるにもかかわらず、ほとんどの人が頭を守るヘルメットをかぶっていない現状に警鐘を鳴らす。
ヘルメットをかぶれば必ず助かるわけではないが、生き延びる確率はぐんと上がるという。
ドッツァ教授も、電動キックボードは一見スピードが遅そうだが、道の小さな石や段差でも簡単にバランスを崩す、と語る。酔って反応が鈍っていれば、なおさら危険は増す。
ヘルメットの着用に関しては日本も似たような状況だ。
電動キックボード、正式には「特定小型原動機付自転車」と呼ばれる車両において、ヘルメットの着用はあくまで「努力義務」であり、罰則があるわけではない。こうしたヘルメット着用率の低さも同様に問題視されている。
この画像を大きなサイズで見る自転車と対策が全く異なる「夜の単独」事故
204件の死亡事故を見ていくと、乗り物ごとにまったく違う傾向が浮かび上がってきた。
一般的な自転車と電動アシスト自転車の死亡事故は、亡くなった人の年齢が70歳前後と高齢傾向にあり、平日の昼間に自動車とぶつかるケースが目立つ。
一方、電動キックボードで亡くなった人は年齢の中央値が47.5歳と若く、事故の多くは誰ともぶつからない単独事故で、週末の夜から明け方にかけ、集中して起きている。

この画像を大きなサイズで見るドッツァ教授は、昼間に高齢者が乗って自動車と衝突する事例が多い自転車事故と、夜中に酔った若者が乗ってひとりで転ぶ電動キックボード事故とでは、必要な対策がまったく違うはずだ、と話す。
事故の9割は「自分で買った」電動キックボード
これまで電動キックボードの安全対策といえば、レンタルサービスの車両が話題の中心だった。夜間の利用制限やスピード制限など、事業者側も安全のためいろいろな工夫を凝らしている。
ところが今回の調査でわかったのは、飲酒がらみの死亡事故のうち約9割が、レンタルではなく自分で購入した電動キックボードで起きていた、という事実だ。
レンタル向けのルールをどれだけ厳しくしようと、個人所有の車両にはなんら影響しない。
ドッツァ教授は現在、レンタル用の車両にセンサーを搭載し、運転者の異変をその場で察知する技術の研究も進めている。
乗っている人がふらついていることに誰かが気づけば、事故を未然に防ぐ何らかの対応ができるかもしれない。しかしルールや技術だけでは解決しきれない面もある。
そもそもの原因である、飲酒運転をしてしまう社会の空気そのものを変えるには、教育を通じて一人ひとりの意識を変えていくしかないという。
共同研究者のリカルド・フレドリクソン氏によると、スウェーデン全体の交通死亡事故のうち、飲酒が関係する割合は約20%だという。その数字と比べても、電動キックボードはその2倍以上とはるかに高く、深刻だ。
フレドリクソン氏は、飲酒運転を防ぐ技術の開発を進めると同時に、ヘルメットの着用義務、そして法定速度を超えない車両を選ぶことの大切さを呼びかけている。
日本でも電動キックボードの死亡事故が発生
スウェーデンほど深刻ではないが、日本でも電動キックボードの交通事故に占める飲酒の割合が高い、とされる傾向がある。時間帯も夜から明け方と同様だ。
日本で2025年に起きた特定小型原動機付自転車の事故386件のうち、飲酒が関わっていたのは約1割で、政府がまとめる交通安全白書は「自転車や一般の原付と比べて割合が著しく高い」と指摘する。
事故の多くは、深夜から明け方にかけて起きていて、電車やバスが終わった後の帰り道に使われるケースが目立つという。
また2026年6月2日には、東京都北区で電動キックボードのシェアサービス「LUUP」を利用していた62歳の男性が、軽貨物車と衝突し、亡くなる事故が起きた。
この画像を大きなサイズで見るこの事故は、2023年7月の道交法改正以降、都内初の死亡事故と報じられている。
この事故により、免許なしで乗れ、ヘルメット着用も努力義務止まり、という電動キックボードの制度見直しを巡り、再び議論が広がっている。
スウェーデンの今回の調査結果は、たとえ電動キックボードのように手軽に乗れる乗り物にも事故の危険が伴うこと、運転時は飲酒を控えること、ヘルメットをかぶること、といった至極当然の備えの有無が、命を左右する事実を改めて周知するものといえるだろう。
References: Polisen / 道路交通法施行令 第四十四条の三|e-Gov法令検索 / doi.org/10.1016/j.jsr.2026.05.001














