この画像を大きなサイズで見るジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、土星の衛星タイタンと準惑星の冥王星の表面から、地球で知られているどの物質とも一致しない未知の物質が発見された。
フランスのパリ天文台を中心とする国際研究チームによると、2つの星に同じ物質が見つかり、その正体は生命の材料にもなりうる有機物の可能性もあるという。
この研究成果は『Astronomy & Astrophysics』誌に掲載予定で、現在は『arXiv』(2026年6月11日付)でプレプリントが公開されている。
タイタンと冥王星、大気は似ていても環境は正反対
土星の衛星タイタンと、太陽系のはるか外側をまわる準惑星の冥王星は、遠く離れていながらよく似た大気を持つ。
どちらも主成分は窒素とメタンだ。日光や放射線がメタンを分解すると、その破片がつながって、もやのような有機物ができる。
有機物は炭素を骨格に持つ物質で、生命の材料にもなる。2つの星は、有機物のもやに覆われている点で共通している。
一方で、置かれた環境は正反対と言っていいほど違う。
タイタンの気圧は冥王星のおよそ10万倍あり、温度もタイタンの摂氏マイナス179度に対し冥王星はさらに冷え込む。
似た材料を持ちながら違う条件に置かれた2つの星を並べれば、冷たい大気の中で物質がどう作られるのかが見えてくる。
だが地表を調べるのは簡単ではない。
特にタイタンは分厚い大気ともやが日光をさえぎるため、表面で反射した光が地球まで届きにくく、地表の物質は長い間わからなかった。
この課題を克服する手段となったのが、2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡だ。
赤外線を高感度でとらえる望遠鏡を、研究チームはタイタンと冥王星の両方に向けた。
この画像を大きなサイズで見るウェッブ望遠鏡がタイタンの地表に謎の吸収帯を発見
物質には、特定の波長の光だけを吸い込む性質がある。
天体に太陽光が当たって反射してくるとき、ある波長の光が吸い込まれると、反射光のうちその波長だけが弱まる。
光を波長ごとに並べたグラフでは、弱まった部分が谷のようにへこむ。へこんだ部分を吸収帯と呼ぶ。どの波長に谷ができるかは物質ごとに決まっているため、谷の位置を読めば表面に何があるかがわかる。
研究チームは、もやの影響が最も少ない波長5マイクロメートル付近の光を調べた。
1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1で、5マイクロメートルの光は目に見えない赤外線にあたる。観測の結果、波長5.113マイクロメートルのところに、はっきりとした吸収帯が見つかった。
問題は、この波長に谷を作る物質が見当たらないことだった。
研究チームは、タイタンの大気に含まれるメタンやほかのガスをすべて計算に入れたモデルを作り、観測結果と比べた。しかしモデルには吸収帯がまったく現れず、大気のガスでは説明のつかない谷が、実際の観測にだけ残された。
この画像を大きなサイズで見る同じ吸収帯は遠く離れた冥王星にもあった
吸収帯が大気ではなく地表から生じていることを、研究チームは光の届き方から確かめた。
天体の縁のあたりでは、光が大気の層を長く通り抜けてくる。もし大気で谷が生じているなら、縁のほうが深くなるはずだ。
ところが観測では逆に、縁のほうで谷が浅くなっていた。この結果から、谷は大気ではなく地表そのものから生じていると判断できた。
さらに研究チームは、JWSTが観測した冥王星のデータを調べた。すると冥王星の表面にも、タイタンとほぼ同じ5.113マイクロメートルの位置に吸収帯が見つかった。
冥王星の大気はタイタンよりずっと薄い。薄い大気でも同じ谷が現れたことは、吸収帯が地表から生じているという見方をさらに裏づけた。
2つの吸収帯は位置こそ同じだが、谷の幅は違った。
冥王星の谷はタイタンのおよそ3倍広い。同じ物質でも、表面の温度や、宇宙線が地表に与える影響の違いによって、幅は変わりうる。冥王星は大気が薄いぶん宇宙線が地表深くまで届き、物質の状態を変えている可能性がある。
この画像を大きなサイズで見る候補は生命の材料にもなりうる有機物
研究チームは、地球の実験室で正体がわかっている氷や有機物のデータと、見つかった吸収帯を片っ端から照らし合わせた。
エタン、アセチレン、ベンゼン、シアン化水素など、タイタンや冥王星の大気で見つかっている物質が対象になった。しかし、どれも谷の位置が合わず、正体は特定できないまま残された。
それでも研究チームは、いくつかの候補を挙げている。
最も有力なのがアレン類と呼ばれる有機化合物のグループだ。アレン類は、この波長の範囲で強い吸収帯を出せる数少ない有機物で、端につく原子の種類しだいで谷の位置が変わる。
まだ実験されていないアレン類の一種なら、位置が合う見込みがある。別の物質と混ざったベンゼンやケテンも候補に残った。どれも生命の材料になりうる有機物だが、正体を確かめるには実験室での追加の測定が要る。
正体をつかむため、研究チームは今後、より多くのJWSTのデータを使ってタイタンの表面全体で吸収帯の地図を作る計画だ。
さらに2030年代半ばには、探査機ドラゴンフライがタイタンに到達し、地表の物質を現地で直接調べる予定になっている。遠く離れた2つの星が同じ物質を抱える理由は、これから少しずつ明らかになっていく。
この研究でわかったこと
- ウェッブ望遠鏡が、タイタンと冥王星の両方の表面から、正体不明の同じ物質を見つけた。
- 環境が全く違う2つの星に同じ物質があり、有力な候補は生命の材料にもなる有機物とされる。
まだわかっていないこと・今後の課題
- 見つかった物質の正体は特定できておらず、確かめるには実験室での追加測定が必要になる。
- タイタンの表面全体を調べる計画や、探査機ドラゴンフライによる現地調査がこれから進む。
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References: arXiv:2606.13350 / The James Webb Telescope Discovers an Unknown Substance on the Surface of Titan and Pluto
















何の塩梅からか、今記事中のタイタンのカラー画像は「ガミラス星」のよう。