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北極海の氷の下で微生物を発見 極限環境で生態系を支える栄養源を生み出す存在

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(著)

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Image by Istock Orbs
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 これまで不可能と考えられていた生命活動が、北極海の氷の下で確認された。

 北極の海氷下にも微生物が存在すること自体は以前から知られていたが、光が届かず気温も低いため、ほとんど活動できないと考えられていた。

 特に、空気中の窒素を栄養に変えるようなエネルギーを多く使う反応は、環境が厳しすぎて起こらないとされていた。

 しかしデンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームが、極寒の氷の下で生物が実際に空気中の窒素を栄養に変える働きをしていることを発見したのだ。

 この活動は海の栄養循環を支え、北極の生態系や地球の炭素循環に影響を与える可能性がある。

 この研究成果は『Communications Earth & Environment』誌(2025年10月20日付)に発表された。

氷の下に活発に営まれていた生命活動

 これまで極限の環境とされてきた北極の海氷下で、微生物が実際に活動していることが明らかになった。 

 微生物の存在自体は確認されていたものの、その多くは休眠状態にあり、空気中の窒素を栄養分に変える「窒素固定」という反応は、エネルギーを多く必要とするため、この環境では不可能だと考えられていた。

 窒素ガス(N₂)は、生き物の体をつくるたんぱく質やDNAに欠かせない元素だ。しかし空気中の窒素ガスは非常に安定した形をしており、ほとんどの生き物はそのままでは利用できない。

 そこで登場するのが「窒素固定」を行う微生物である。彼らは特殊な酵素を使い、空気中の窒素を「アンモニウム(NH₄⁺)」という、藻類などが栄養として使える形に変えることができる。

 ところが今回、デンマーク・コペンハーゲン大学が行った研究によって、北極中央部の海氷の下でもこの窒素固定が実際に起きていることが初めて確認された。

 微生物たちは、極寒と暗闇の中で活発に代謝を行い、栄養を生み出して生態系を支えていた。 

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測定は北極海の13か所で行われた Image credit:Lisa W. von Friesen

新たに見つかった「非シアノバクテリア」の働き

 これまで世界の多くの海では、窒素固定を行う主な生物はシアノバクテリア(藍藻)とされてきた。

 しかし今回の研究では、北極海の氷の下で活動していたのはまったく別の種類の細菌だった。

 研究チームはこのタイプを「非シアノバクテリア(非藍藻)」と呼んでいる。

 観測の結果、氷が溶けて海と混ざり合う「氷縁(ひょうえん)」と呼ばれる場所で、窒素を栄養に変える働きが最も活発に行われていたことがわかった。

 氷が溶けることで光や酸素が届きやすくなり、微生物の活動が盛んになるのだ。

 海氷が減少して融ける範囲が広がるほど、この働きも拡大していくと考えられている。

 研究を主導したコペンハーゲン大学のリサ・W・フォン・フリーセン氏は「北極海の窒素量はこれまで過小評価されていた可能性がある。つまり藻類の生産力も、実際にはもっと高いのかもしれない」と話している。

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RVポーラーシュテルン号による北極海の窒素固定測定 Image credit:Rebecca Duncan

気候変動が皮肉にも命の連鎖を動かす

 藍藻によって生み出された窒素は、藻類などの植物性プランクトンの栄養源になる。藻類は海の食物連鎖の出発点にあたり、小さな甲殻類がそれを食べ、小魚、大型魚、海鳥、アザラシへと命がつながっていく。

 気候変動により、北極海の海氷が年々縮小しているのは深刻な問題だ。だが、氷の融解が進むことで、北極の食物連鎖を動かすエンジンである藻類の成長を助ける一面もある。

 氷がとけて氷縁の範囲が広がることで、微生物が活動しやすい環境が増え、窒素固定の働きも活発になったのだ。

 氷の下の微生物がつくり出す栄養によって藻類が増えれば、北極の海全体がより豊かになる可能性があるという。

 さらに藻類が増えるということは、光合成によって二酸化炭素(CO₂)をより多く吸収することを意味する。

 北極海が大気中のCO₂を取り込む力が強まれば、地球温暖化をやわらげる方向に働くかもしれない。

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北極海 Image by unsplash Hao Zhang

油断は禁物。将来的には悪影響をもたらす可能性も

 ただし油断は禁物だ。

 研究チームの一員であるラッセ・リーマン教授は、「藻類の生産が増えればCO₂吸収も増える。それは良い兆しだが、自然の仕組みは複雑で、逆の作用をもたらすこともある」と慎重に語る。

 例えば、藻類が死んで分解されるとCO₂が再び放出され、栄養バランスが崩れて他の生態系に影響が及んだりする可能性もあるという。

 研究チームは、こうした不確定な要素を踏まえたうえで、北極海の将来を正確に予測するためには、微生物による窒素固定という新たなプロセスを計算に含める必要があると考えている。

 リーマン教授は「この現象の最終的な影響はまだわからないが、北極を理解するうえで欠かせない要素である」と述べた。 

References: Nature / Science.ku.dk

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この記事へのコメント 1件

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  1. エウロパの氷の下の海にも微生物くらいは普通にいそうだし、場合によってはもっと高等な生物もいるかもしれない

    • +3

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