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人間の指は古代魚のおしりにある遺伝子スイッチを利用して進化した可能性

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(著)

公開:

デボン紀後期(約3億7500万年前)に生息した古代魚、ティクターリクこの画像を大きなサイズで見る
National Science Foundation / public domain/wikimedia
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 進化とは、ときに残酷で、そして予想もしない道をたどる。私たちの指や足の指は、魚のヒレから進化したと考えられてきたが、最新の研究が示したのはもう1つの遺伝子スイッチだった。

 スイスとアメリカの研究チームが明らかにしたのは、デボン紀の古代魚の「おしり」である、排泄と生殖を兼ねる開口部「総排出腔」の形成に使われていた遺伝子の制御プログラムが、指を形づくるスイッチとして機能していたという点だ。

 つまり古代魚のおしりにあった遺伝子の制御方法が、進化の過程で哺乳類の「指」に転用されたということになる。

この研究成果は『Nature』誌(2025年9月17日付)に発表された。

哺乳類の指のルーツは古代魚のおしりにあった?

 これまで哺乳類の指は、魚のヒレから進化したとする説が広く受け入れられてきた。2020年には、カナダで発見されたデボン紀の古代魚「エルピストステゲ・ワトソニ(Elpistostege watsoni)」のヒレに、指の骨に似た構造が確認され、この考えを裏づけるものとして注目された。

 だが今回、スイスのジュネーブ大学とローザンヌ連邦工科大学、アメリカのストワーズ研究所による研究チームは、もう1つの進化の可能性を提示している。

 研究者たちは、マウスとゼブラフィッシュという進化的に離れた2種の動物を使い、それぞれの胚の成長過程を比較。指の形成に関わる特定の遺伝子が、体のどこで、どのように働いているのかを調べた。

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デボン紀に生息していた古代魚、ダンクルオステウス。デボン紀は、「魚類の時代」と呼ばれるほど魚類が多様化し、シーラカンスや肺魚などが繁栄した Photo by:iStock

指とおしりをつなぐ共通の遺伝子「Hoxd13」

 研究チームは、「Hoxd13(ホックスD13)」という遺伝子に注目した。これは、哺乳類の指やつま先の形成に欠かせないもので、マウスではこの遺伝子が手足の先端で活性化し、指の成長を促している。

 興味深いことに、ゼブラフィッシュのような魚にも、Hoxd13遺伝子は存在している。だが彼らには指がない。

 そこで研究チームはHoxd13が魚の体内のどこで働いているのかを調べることにした。

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Photo by:iStock

指とおしりは、同じ遺伝子制御ネットワークでつながっていた

 マウスとゼブラフィッシュの胚を比較した研究チームは、意外な共通点を発見した。指の形成に関わる遺伝子「Hoxd13(ホックスD13)」が、魚類ではヒレではなく、排泄や生殖をつかさどる「総排出腔(cloaca)」で活性化していたのだ。

 総排出腔とは、排泄と生殖をひとつの開口部で行う構造で、魚類、両生類、爬虫類、鳥類などに広く見られる。いわば「おしり」のようなものである。

 ではなぜ、まったく異なる働きを持つ「指」と「おしり」に同じ遺伝子が使われていたのだろうか。

 その鍵を握っていたのが、Hoxd13の働きを制御する「遺伝子制御ネットワーク」だった。

 これは、遺伝子そのものではなくいわばスイッチのようなもので、働く場所やタイミングをオン・オフで切り替えて調節する役目を持つ領域のことだ。

 この研究で明らかになったのは、マウスの指とゼブラフィッシュの総排出腔の両方で、同じ遺伝子制御ネットワークがHoxd13を活性化していたという事実だ。

 つまり、もともとは古代魚が「おしり」をつくるために働いていた遺伝子のスイッチが、進化の過程で「指」の形成にも転用されたということになる。

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Photo by:iStock

遺伝子の働きを止めて進化の痕跡を検証

 この仮説を裏づけるため、研究チームは「CRISPR/Cas9」と呼ばれる遺伝子編集技術を使って、Hoxd13を制御する領域を削除する実験を行った。

 その結果、マウスではこの制御領域が失われると、Hoxd13が働かなくなり、指が正常に形成されなくなった。

 一方でゼブラフィッシュではヒレに変化はなかったが、総排出腔の形成が妨げられた。

 このことから、Hoxd13をコントロールしていた制御ネットワークは、本来は総排出腔の形成に使われていたものであり、それが進化の過程で指に転用されたと考えられる。

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デボン紀後期(約3億7500万年前)に生息していた絶滅肉鰭類 ティクターリク Nobu Tamura / WIKI commons CC BY-SA 4.0

古代魚の遺伝子スイッチが、私たちの指にも使われていた

 このように、まったく別の目的で使われていた遺伝子制御ネットワークが、新たな構造の形成に利用れる現象は、「進化的流用(evolutionary co-option)」と呼ばれている。

 今回の研究は、それが実際に分子レベルで起こっていた証拠を示したものだ。

  実際、哺乳類の胎児にも「urogenital sinus(尿生殖洞)」と呼ばれる器官が一時的に現れる。

 この構造は、将来の尿道や膀胱、生殖器につながる“共通の出口”のようなもので、男女の体が分化する前に一時的に存在する。つまり、魚類に見られる「総排出腔」の進化的な名残であると考えられている。

 今回の研究で明らかになったのは、まさに哺乳類の指に古代魚のおしりと同じ遺伝スイッチが使われているという点だ。

 進化は常に新しいものを一から作るわけではなく、すでに存在する仕組みを巧みに使い回しながら、新たな構造を生み出してきた。今回の研究は、その柔軟なプロセスを見事に浮き彫りにしている。

 我々の指はヒレからきているのか、お尻からきているのか、どちらも仮説なのでまだ正確なことはわからない。

 だが、いずれにせよ私たちの体には、陸上に進出する以前の古代魚たちの名残が今も息づいている。

 そう思うと、生命のつながりが織りなす進化の歴史に、どこかロマンを感じずにはいられない。

追記(2025/10/09)誤解を招きやすい点を修正して再送します

References: Nature / Our Fingers May Have Evolved From a Fish Butthole / How Human Fingers May Have Evolved From Ancient Fish Butts

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この記事へのコメント 32件

コメントを書く

  1. 当たり前じゃん

    生物の祖先は口と肛門しかなかったのだから

    • -6
    1. 後だしジャンケンみたいな言い草だけど「先端を作る遺伝子」が指先にも肛門にも共通で使われるというのは分かる話ではある
      魚の尻尾つまり肛門から後ろが出来る前は間違いなく肛門が先端ではあった
      先脊椎動物の古虫類なども尾びれがあるように見えるがアレは実のところ胴体で尾びれ状の胴体の後端に肛門が開いていて真の鰭や尻尾はまだ持っていないない
      脊椎動物となり尻尾や胸鰭や手指を付け足すにあたって肛門遺伝子が転用されていったんだろうね
      でも後だしジャンケンみたいな言い草は冷笑系ぽいからやめなー

      • +9
  2. なんてこった
    それじゃあ、指とおしりが惹かれ合う人達は母体回帰的な…おっと仕事に行かなくちゃ

    • +8
  3. 岩本虎眼が心の平衡を失ったのはいつの頃からであろう
    神妙である筈のおしりの動きを制御できぬと自覚した時ではなかったか

    • -3
  4. コードの使いまわしなんてプログラムの世界じゃ当たり前だもんね
    そりゃ神様だってやってるさ

    • +20
  5. 流用されてるのは遺伝子スイッチってだけで指の形成自体はヒレからなんじゃねぇか?
    ただ、そのままヒレの転用だと指を自由に動かせないから総排泄腔の自在な動きを転用したと考える。

    • +17
  6. 総排出腔が進化して指になった
    わけじゃなくて
    ヒレから指に進化する過程で
    使われなくなった総排出腔の形成に関わる遺伝子が転用して使われるようになった
    ってことでいいんだよね?

    • +22
    1. タイトルが誤解を招く、というか誤解を促してるね・・・

      • +4
  7. 指と肛門の共通点は複雑な動きを可能とする筋組織である。おそらく骨格を含めた全体構造はヒレ由来で制御系の筋肉や神経は肛門由来なのだろう。条鰭類ではヒレの中に筋組織がほとんどないからヒレでこの遺伝子が機能しないのだと思われる。肉鰭類であるシーラカンスの人工繁殖ができたらまた違った結果が得られるだろうと予想する。

    • +6
  8. 最近の分子生物学では遺伝子そのものよりも、その遺伝子の働きを調節するスイッチに注目が集まっている。
    Hoxd13は哺乳類の指や魚のヒレで働いている。Hoxd13の遺伝子そのものを潰せば指やヒレができなくなる。だから、ヒレも指も同じ仕組みでできていると考えられていた。
    しかし今回、その上流にある「Hoxd13を働かせるスイッチ」に注目し、Hoxd13はそのままでスイッチの部分だけを壊してみた。するとマウスでは指に異常が出るのに対して魚ではヒレに影響がなく、排泄孔に異常が出た。

    この研究は、別の生物では似た構造が同じ遺伝子でできているように見えて、実際は全く異なる仕組みで働いていることを明らかにしたものでもある。アカデミズムの世界では、ある生物で明らかになっていることを別の生物で確かめる研究を馬鹿にする風潮があるが、そのような地道な研究の重要性も示している。

    • +18
  9. >マウスではこの制御領域が失われると、Hoxd13が働かなくなり、指が正常に形成されなくなった。
    おしりは大丈夫なんだね
    じゃあ哺乳利の排泄・生殖機構は別の遺伝子が関与している可能性がある
    途中からバトンタッチするのかも

    どこかで読んだが「肛門はガスと固体、あるいは液体を選んで出す(通す)ことができると特別な仕組みがある」と絶賛していた
    総排泄穴からの進化が凄いという話、哺乳類は子育てだけじゃないんだ

    • +8
    1. 記事内の『実際、哺乳類の胎児にも「urogenital sinus(尿生殖洞)」と呼ばれる器官が一時的に現れる。』から、こちらのほうでは何らか影響が生じてた可能性はありそうですね。原著の論文ではこれも議論で触れてるのかもしれない(未確認)

      • +3
    2. 「たまに失敗する時もある」も付け加えておいてくれ

      • +2
  10. つまりこれは、イソギンチャックの触手が指になったと思えばいいんだよ。
    彼らは口と肛門が同じ。

    • +7
    1. 総排出腔(要するに万能穴)を検索してみるとフチや内部に突起を作るものだと書いてあるね
      穴と触手というのは生命デフォ仕様なのだろう

      • 評価
  11. 体の中で動いている部位で心臓は自動操作みたいなもんだし
    消化器は食物が届いたら反射運動してるみたいなもんだろうから
    ある程度任意でon/off操作できるのは口か排出口だわなあ

    • +3
  12. まさかコロコロの「ケツバトラー」がこんな科学的知見に裏打ちされていようとは

    • +6
  13. うちらの肛門も遠い未来に知らない生き物の訳のわからないパーツになっているのかねぇ(しんみり…)

    • +9
  14. 難しい事はよくわからんけど、これから握手の度にお尻が頭をよぎりそうで困った。

    • 評価
    1. これで我々も「お尻合い」というわけですな

      • +5
  15. 指の形成において、指と指の間の細胞が失われる(アポトーシス)過程があるんだけど、そこに総排泄孔をあけるためのコードを流用している、みたいな感じじゃないかな

    • +7
  16. カラパイア内の記事のマウス六本足現象を思い出した 今のところ手指からは汗しか出なくてよかった

    • +1
  17. カエルとかはどうなんだろ?両方あるから両方で効いてるのかな

    • +2
  18. Xenoturbella みたいな口しかない生物にある精子放出口が肛門に進化したという仮説に続いて発表されたというのが興味深いですね

    >これらの発見は、肛門自体がゴノポア(Xenoturbella bockiのような原始的な海洋ワームに見られる精子放出口)から進化したという別の挑発的な仮説に続いてもたらされた。bioRxivに投稿されたプレプリントで、研究者らは、高等動物の肛門をマークする遺伝子が、ワームのこの古代の精子穴の周りでも活動していると主張している。

    • 評価
  19. 手先が器用な人がいるように
    肛門が器用な人もいるんですよね?

    • +1
  20. イボ痔で肛門科に行き、切除できないか相談した時に医師に言われたのが、「肛門は口と同じぐらい感度が良く精密に動かすことができる。切らずに括約筋を鍛えて治しましょう」と半年間の括約筋トレーニングを指示された。

    ウズラやニワトリを飼っていたことがあるが、鳥の総排出腔は人間の肛門よりも複雑でより繊細に動かせているように見えた。その遺伝子が哺乳類の指に使われているのだろうか?

    生物は膨大な遺伝子でできており、繊細に操作するための遺伝子を手や足の先に組み入れたのだと思う。ヒレから進化した部位を別の遺伝子で魔改造してるのが実に面白い。

    • +2

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