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17世紀前後のヨーロッパで流行った古典的騙し絵。人物像を隠した風景画

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 西洋美術における「風景画」は、現在ではひとつのジャンルとして定着している。しかし、古い時代には「風景」は人物画の背景に過ぎなかった。

 木、草原、山並み、あるいは嵐の荒れ狂う海といったものは、その絵画における人間の活動に迫真性を持たせるために、フレーム内に描き加えられるものに過ぎなかったのである。「人間に関する物語」を欠いた「風景」のみでは意味を持たなかったのだ。

 しかし、ルネッサンス期を迎え、この状況は大きく変わることとなった。

「人物画」と「風景画」の狭間

 ルネサンス期以降、「風景画」は、それ自体ひとつの形式として確立した。しかし、「風景画という形式」が生み出されるまでの短い期間には、葛藤の中から、ある一風変わった様式の絵が生み出されることになったのである。

 それらの絵は、一見、風景を描いたものである。が、それはまた同時に「人物画」でもあるのだ。

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マテウス・メーリアン(1593~1650)による作品

 よく見られるのは、風景が巨大な人物の頭部を形作っているものである。このような、「人物画と風景画のフュージョン」は、17世紀のオランダの芸術家の作品に特に多い。

 あるいは、「土地の重要性は、それを利用する人間活動によって形作られる」という哲学を読み取れるかもしれない。

キルヒャーによる「人物像的風景画」

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キルヒャーによる構図:『光と影の大いなる術』より

 これは、カトリックのイエズス会司祭にして博識な学者でもあったアタナシウス・キルヒャー(1602~1680)による、典型的な「人物像的風景画」(Anthropomorphic Landscapes)のひとつである。

 イメージを呼び起こしたのは、紀元前4世紀の建築家、ディノクラティス(紀元前4世紀)の、「ギリシャのアトス山にアレクサンダー大王の像を彫る」というプランである。想定されていた大王像は、「片手に小さな街を掲げ、片手は巨大な水源として、海に流れ込む水を噴出している」という巨大なものであった。

 キルヒャーによるその他の作品は、1646年に “Ars Magna Lucis et umbrae”(光と影の大いなる術)としてまとめられている。

他の画家たちの作品

 キルヒャーの「人物像的風景画」の構図は、その後の数十年間に何度も模倣され、多くのヴァリエーションがつくられた。

 その中には、有名な銅版画家、ヴェンツェスラウス・ホラー(1607~1677)による作品も含まれる。ホラーの作品では、「髪」と「髭」は、より洗練された形に手入れされている。

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ヴェンツェスラウス・ホラーによる作品
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ホラーの作品に色をつけたもの(1797)

 ドイツの画家、ヨハン・マルティン・ヴィル(1727~1806)によるこれらの作品は、キルヒャーの構図からは大分離れてくる。

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 19世紀に描かれたこの絵には、「ピクニック」というタイトルがついている。「胃と肝臓、そして腹部のあらゆる病気」に効くという、「アウグスト・ケーニッヒ博士のハンブルク・ドロップ」という薬の広告だ。

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アウグスト・ケーニッヒ博士のハンブルク・ドロップを常に必要としている男はどこにいるでしょう?

 また、人物の頭が縦になっている構図もある。

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ヨース・デ・モンペルの『四季』より「夏」

様々な概念を表象するための二重構図

 「人物の頭部」を構図に嵌め込むことで、様々な主張や概念を表した絵も存在する。16世紀のこの作品は、おそらく「聖像破壊主義」を象徴していると考えられている。

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マークス・ヘラート(1520~1590)の「聖像破壊主義の象徴」(1566)

 イエズス会の最初の寓意画集、”Veridicus Christianus”(1601)に掲載されているこの作品は、「死」の象徴だ。

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ジュゼッペ・アルチンボルド(1526~1593):「軽率な凝視」

 こちらの絵に隠されているものはお分かりだろうか?それぞれが生命に満ちあふれている要素が集まって織り成すものは、「メメント・モリ」(死を忘るるなかれ)の象徴、髑髏なのである。

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imege credit: Wellcome Library, London / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0]

Currier & Ives.:リトグラフ「生と死」

via: Flashbak / The Public Domain Review など / written by K.Y.K. / edited by parumo

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この記事へのコメント 18件

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  1. 年代が近くなるとアレンジしたり創作したりといろいろバージョンができて楽しい
    もっと色々見てみたいな
    検索してみよう

    • +4
  2. 「人物」に見え出すと、「風景」に見えなくなってしまうね

    • +11
  3. 確かにサロンでも格式高いのは歴史画や宗教画とされていたけど、地位を確立してすっかり有名になった画家は余生を風景画を描いて過ごしてたりする。風景画自体は地位は低くても画家には密かに人気だったよ(ヴィジェ=ルブランやルーベンスも)

    クロード・ロランみたいに、主題は神話や歴史なのにどう考えても風景メインで、めいっぱい風景を描いて人物は申し訳程度に添えてる画家もいたけどw

    ちなみに花鳥風月(人間不在)といえばポンペイの壁画でも見られるよ

    • +4
  4. 萌えキャラに見えるJAXAの案内図を思い出した。

    • 評価
  5. むしろ人の顔に見えてほしいという情熱を感じる

    • +3
  6. この時代ってペストや処刑で死なんてごく普通の
    現象だったし、暗殺や戦争、そして餓死なんて嫌な
    死も経験から逃れん
    そんな中では死神イコール骸骨なんて考えるのは
    普通になるな

    • -1
  7. あからさま過ぎて今ひとつピンとこないけど、こういうのが後のちトロンプルイユに発展していったのかな。
    いかに見せるか?じゃなく、いかに見せないか!っていう方向へ。

    • -1
  8. 正直騙し成分はいらない。
    このタッチの絵と世界観で普通に風景画書いてくれた方が嬉しい

    • -5
  9. 最後の絵は髑髏のシルエットプラス歯は分かるんだけど・・・
    なんか微妙

    • +1
    1. ※13
      こういうタッチの物も定番の1つなんだよ。可愛いと思うよ

      • +1
  10. 「背景であるはずの風景だけで人物がいないじゃないか!」「いますぅー、実はいるんですよw」
    ってこと?単なる遊び心じゃなくて意図があるのか。
    野菜で顔を表現しただまし絵があるけどこの系譜なのかね。

    • +1
  11. 西洋には様々な騙し絵があるね、きっと当時の娯楽だったのだろう。

    • +1
  12. 下から二番目の絵にアルファベットが記してあるけど、元は本や新聞の挿絵か何かで注釈でもあるのかな?
    昔、小学校の教室に置いてあった学級図書に西洋の怪物や日本のお化けの図鑑があったのだけど、あちらの絵にはよくアルファベットの表記が在った気がする。
    大きな口で裸の男女を食べてる化物が描かれてる、そんな絵が多かったな。

    • 評価

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