メインコンテンツにスキップ

その毒どうした?猛毒を持つ鳥、ニューギニアの「ズグロモリモズ」の秘密

記事の本文にスキップ

16件のコメントを見る

(著)

公開:

この画像を大きなサイズで見る
Photo by:iStock
Advertisement

 自然界には「触るな危険!」の生物が存在する。咬まれたら危険な生物もいるが、触っただけで危険なのはやっかいだ。

 そんな有毒タイプは植物だけにとどまらず、動物ではカツオノエボシ、ヤドクガエルなんかがそうだが、そのヤドクガエルに匹敵をする猛毒を持つ鳥が存在する。

 ニューギニア島に生息するズグロモリモズは、かわいらしい鳥だが、その羽や皮膚には猛毒を持っており、触るだけで手がしびれ、麻痺してしまう。

 毒を持っていることが分かったのは、1990年代と比較的最近だ。では詳しく見ていこう。

ズグロモリモズとは?

 スズメ目コウライウグイス科の鳥の「ズグロモリモズ(学名:Pitohui dichrous)」は、ニューギニア島(パプアニューギニア・インドネシア)に生息する中型の鳥だ。

 かつてフードピトフイ(hooded pitohui)とも呼ばれたこの鳥の体長は約23cm。重さは65gほどで、オレンジ色の体に黒い頭部、翼、尾を持つ。

  ニューギニアの森で鳥類学者のジャック・ダンバカー氏の研究チームは、「アカカザリフウチョウ(Paradisaea raggiana)」を捕獲するための調査を行っていた。

 ところが、誤ってズグロモリモズを捕まえてしまった。

 そのズグロモリモズは後に放したのだが、その時にくちばしでつつかれたチームのメンバーは思わぬ体験をすることになる。傷口を消毒するために指をなめたところ、すぐに口の中がピリピリとしびれ次第に麻痺していった。しびれは数時間続き、翌朝まで残ったという。

 驚いたダンバカー氏たちは、地元のガイドに尋ねてみた。すると、彼らは「その鳥は役に立たないし、食べることもできない」と語った。

 これをきっかけに、ダンバカー氏のチームはズグロモリモズの毒性について本格的な研究を開始した。

ヤドクガエルが持つ猛毒「バトラコトキシン」を持っていた

 調査の結果、ズグロモリモズの羽毛と皮膚には強力な毒が含まれていることが判明した。

 この毒は「バトラコトキシン」という神経毒で、口に入るとしびれや麻痺を引き起こす。

 高濃度のバトラコトキシンは、心停止や死に至る可能性もある。これは自然界で最も強力な毒の一つであり、南米の猛毒ガエル「ヤドクガエル」も同様の毒を持っている。

 バトラコトキシンという名前の由来は、ギリシャ語で「カエル」を意味する「バトラコス(batrachos)」に由来し、もともとはカエルの毒として知られていた。

この画像を大きなサイズで見る
ヤドクガエル Photo by:iStock

ズグロモリモズが猛毒を持つ理由は餌

 では、なぜ鳥の皮膚や羽にこれほど強力な毒が含まれているのか? ズグロモリモズ自身がこの毒を体内で作り出しているわけではない。

 1992年に『science』誌に掲載された研究によると、彼らは餌となる甲虫類から毒を得ているのだという。

 その主な供給源と考えられるのが、ニューギニアに生息する「コレシン(Choresine属)」という甲虫である。

 この甲虫にはバトラコトキシンが含まれており、それを食べることで鳥の体内に毒が蓄積される。

 これはヤドクガエルと同じメカニズムであり、ヤドクガエルもまた、森の中で捕食する昆虫から毒を得ていることが分かっている。

 実際、飼育下で育てられたこの甲虫を食べさせていないヤドクガエルは毒を持たないことが知られている。それはズグロモリモズも同様で、甲虫を食べさせなければ触ることも可能だ。

ズグロモリモズの毒の役割は?

 ズグロモリモズが毒を持つ理由については、いくつかの説がある。

 一つは捕食者から身を守るための防御手段という説だ。毒を持つことで、天敵が襲うのをためらう可能性がある。

 しかし、ズグロモリモズの毒性は強いものの、ヤドクガエルほどではない。ヤドクガエルの場合、わずか20μg(マイクログラム)で人間の大人を死に至らしめるが、ズグロモリモズの場合羽1枚分だ。

 そのため「捕食者対策」としては効果が薄いのではないかとする研究者もいる。

 別の仮説として「寄生虫対策」とする考えもある。

 研究によると、ズグロモリモズの羽や皮膚に含まれるバトラコトキシンは、ダニやシラミなどの外部寄生虫を寄せ付けない効果があることが分かっている。

 つまり、毒は天敵への防御だけでなく、自身の健康を維持する役割も果たしている可能性があるというのだ。

この画像を大きなサイズで見る
Photo by:iStock

毒を持つ鳥は他にもいるのか?

 ズグロモリモズは最も有名な「毒を持つ鳥」だが、実は他にもいくつかの種が毒を持つことが確認されている。

 例えば、同じくニューギニアに生息する「カワリモリモズ(Pitohui kirhocephalus)」や「ズアオチメドリ(Ifrita kowaldi)」もバトラコトキシンを持つことが判明している。

 これらの鳥も同じく餌となる甲虫を食べることで毒を蓄積していると考えられている。

References: This poisonous bird is the world's most toxic bird - able to exude some of the most powerful poisons in nature  | Discover Wildlife / In New Guinea, There’s A Bird That Can Poison You With Its Feathers | IFLScience

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 16件

コメントを書く

  1. こいつが毒持ってることが判明した結果、毒鳥の鴆の伝説がただの伝説じゃない可能性が高まって研究が再燃したんだよね

    • +22
    1. もしかしたら古代中国には毒を持つ鳥がまだいたのかもね

      • +5
      1. 鴆は南の島にいる鳥って昔の書でも紹介されてたからそれはないんじゃないかな?

        それはそうとバトラコトキシンってダニ毒じゃなかったっけ?
        ダニを食べた虫を鳥が食べてダニよけに使う・・・何か面白いね

        • +1
    2. 伝承でも自分の毒じゃなくて毒蛇かなんかを食べて毒を蓄えるって話だったよね

      • +1
    3. 羽根を酒に浸して毒酒にする!
      空想上の鳥なんていわれる割に日本の史書にも出てくるから、なにか気になる存在ではあったんだ。記録されてる習性もズグロモリモズを彷彿とさせるし、存在を知った時は感動したよ。鳥展でめっちゃ写真撮った。
      政争の道具になる鳥だったから根絶やしにされたんじゃないか、ってネットのどこかで誰かが言ってたけどその可能性、あるよなあ…

      • +4
  2. フグも養殖で餌を管理すると無毒化するというからな

    • +13
  3. ニッ、ニギコロちゃんの可愛すぎ毒がまわって、ウウッ。。。パタン。

    • +5
  4. 実は毒耐性だけで分解能力が獲得出来なかっただけだったりしてw

    • 評価
  5. こっそり料理して食べさせれば暗殺に利用できるな……でも調理の段階で危険がありすぎてダメか

    • +1
  6. 毒を持つ理由が外部寄生虫避けって話はむしろ納得いく。
    たまたまそれが人間には猛毒だったみたいな話で。

    身を守るために毒持った説ってどうも信憑性に欠けるんよな。
    だって大体のやつ普通に食われてるやん。ヤドクガエルだって蛇とか昆虫とかに食われてるし。

    • +3
    1. 進化は偶然性ってことなんやろねえ
      うまくハマると特効入る、っていう

      • +3
    2. 二度と食べたくないと思わせるだけ
      自然界で毒があるか美味しいかを学習するのは実践あるのみ
      誰かに教えてもらえるなら別だけどね

      • 評価
  7. 現に現地人から食べられてないんだし身を守る毒のが納得いくけどなあ。
    小鳥の捕食者なんて体重数kgが精々だから致死量もずっと少ないはずだし、
    手袋を手洗いもないから羽毟るのも命懸けだしね。

    • 評価

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

知る

知るについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

動物・鳥類

動物・鳥類についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。