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ボイジャー1号がまたしても危機!だが、推進器の切り替えに成功し、再び蘇る

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(著)

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 宇宙の不思議と謎を解き明かすため、47年に渡りひとり旅を続けていたNASAの無人宇宙探査機「ボイジャー1号」だが、2023年12月に異変が生じ、瀕死の状態となった。

 だが地上チームのがんばりによりどうにか正気を取り戻したしたものの、ご老体のため、次から次へとトラブルに見舞われている。

 今度は推進器(スラスター)内の燃料管につまりが発生し、姿勢制御ができなくなってしまったのだ。人間で言うなら血管がつまってしまったのと同じ、深刻な症状だ。

 だが、さすがは一流科学者がそろうNASAのエンジニアチームだ。

 まるでパズルのような難しい症状を数週間かけて見事に解析し、別の推進器に切り替え、無事にアンテナを地球に向けることに成功したそうだ。

ボイジャー1号が再び危機に!

 人間、歳をとれば血管がつまっていくものだが、老いたボイジャー1号にもそれが起きている。

 孤独な一人旅を続けるボイジャー1号は、地球との通信を行うために、アンテナを地球に向けなければならない。

 そのために液体ヒドラジンを推進器に送り、これを気化させて噴射することで姿勢制御を行なっている。

 それは本来なら1日に40回、数十ミリ秒単位で行われる繊細な作業だ。

 ところが2002年、その姿勢制御用の推進器(スラスター)に燃料を送る管がつまるというトラブルに見舞われた。

 その原因は、燃料タンク内のゴム製ダイアフラムが劣化して、燃料管にシリコン酸化物が蓄積したことだ。

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ボイジャー1号 Credit: NASA/JPL-Caltech

軌道修正用の推進器の管につまりが生じ制御不能に

 幸いなことに、ボイジャー1号には推進器が複数(姿勢制御用2系統、軌道修正用1系統)搭載されている。

 そこで当時の担当チームはひとまず、別の推進器に切り替えることで問題に対処した。

 だが2018年になると、せっかく切り替えた推進器にもつまりが生じ、さらに軌道修正用の推進器に切り替えられた。

 ところが今回、その軌道修正用の推進器もまたつまってしまったのだ。しかも症状は、以前よりも深刻だった。

 つまってしまったのは、燃料を触媒(ここで液体が気体になる)に送る推進器内の管だ。

 その管の径は0.25mmともともと細いものだったが、つまりのせいで0.035mm、つまり人間の髪の毛の半分ほどにまで狭くなってしまった。

 これでは姿勢制御は難しい。そこでNASAのチームは、再び姿勢制御用の推進器に切り替えることを決断した。

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Credit: NASA/JPL-Caltech

パズルのように複雑なスラスター切り替えに成功

 新品ピッカピカのボイジャー1号なら、そんなことわけもなかった。だが今や1号はご老体で、体のあちこちにガタが来ている。それがこの作業をパズルのように難しいものにした。

 難題だったのは、電力と温度の問題だ。すでに太陽圏を脱出したボイジャー1号は、その寿命をできるだけ延ばすために、不要なシステムを停止させ、徹底した節電を行なっている。おかげで一部のヒーターも停止されている。

 結果、使っていなかった推進器は、いきなり始動させると故障しかねないほど冷えていた。そこで、まずそれを温める必要があった。が、これが厄介だったのだ。

 推進器を温めるには、使っていないヒーターを作動させねばならない。だが今のボイジャー1号は無駄を削ぎ落としたストイックな状態で、余計な機器を動作させる電力の余裕がない。

 もしヒーターにスイッチを入れるのなら、かわりに別の機器を停止させる必要がある。

 問題は、今動いている機器がどれもボイジャー1号が活動するうえで必要不可欠なものばかりであることだ。下手に停止させれば、かえって首を絞める結果になりかねない。

 チームは、この問題を入念に検討し、稼働中の機器を停止させるという方法を断念。かわりに考案されたのが、今使っているヒーターを1時間ばかり停止し、それで別のヒーターを動かす電力をまかなうというものだ。

 文字にすればほんの数行だが、実際には、そのための方法が数週間かけて慎重に計画されている。その甲斐あってこの作戦は見事成功!

 ボイジャー1号はどうにか姿勢を制御して、2024年8月27日にアンテナを地球に向けていることが確認された。

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credit: NASA/JPL-Caltech

最後の力を振り絞りながら、命が続く限り宇宙を調査

 老いた人間がそうであるように、おそらく今後もボイジャー1号はいくつものトラブルに見舞われることだろう。それはますます深刻なものになっていくはずだ。

 NASAジェット推進研究所のスザンヌ・ドッド氏は、「今後のすべての決定は、以前よりもはるかに慎重な分析が必要になるでしょう」と述べる

 ボイジャー1号は今もなお地球から244億km先の遠く離れた宇宙空間星間宇宙を旅しており、命あるかぎりその様子を地球に伝えてくれるはずだ。

 ボロボロになってまで懸命に働き続けるその姿には、どこか胸を打たれるものがある。

References: Voyager 1 Team Accomplishes Tricky Thruster Swap

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この記事へのコメント 22件

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  1. 240億キロメートル彼方の探査機にコマンドが送れること
    様々な問題に都度対処できるように設計されていたこと
    どれもすごすぎる。人類の叡智だ

    • +24
  2. せめて1光日まで行って信号を送って欲しいゼ

    • +7
  3. こちらからの信号は22時間半あまりかかって届き、結果がわかるのは45時間以上待ってからということで本当に遠いんだなと。思いっきり冷え切ってるでしょうから多分電気が通ってないところは摂氏ー260度よりも低いでしょうね。もしかすると宇宙背景放射で測定される2.7K、摂氏ー270度近くまで落ちてるかも?
    ってかまだ稼働するってのもすごいし、まだ推進剤があるってのも驚き。さらに一部がダメでも別の方法でという可用性すごい。もう設計した人たちはこの世にいないかもしれないけど尊敬する。

    • +10
  4. アポロ13事故を彷彿させるな
    どうやっても助けには行けないから有るもの・出来ることを工夫して危機を脱するシーンは胸熱

    • +9
  5. 耐用年数を遙かに超えて稼働してるんだから、設計や製作に関わった人は誇らしいだろうね。
    地球上のものだって10~15年くらいで大規模なメンテや交換が必要なんだから、過酷な宇宙の環境で部品交換無しがどれだけすごいかわかる。

    • +17
  6. 意味が分からない

    アンテナが地球に向けられていなかった状態になったのなら、電波を送って制御のしようがない

    • -6
  7. 某工学実験機「さすが先輩や。気合が違う」

    • +2
  8. ボイジャー計画の責任者エドワードストーンがこないだ地球から旅立っていったのは、
    このメンテナンスのためだったんだな

    • +11
  9. ボイジャーと聞くと松任谷由実の歌を思い出す

    • +3
  10. アンテナが地球を向いていないのに、どうやって指令を受信したんだ? 向き方が不完全だったけれど、かろうじて受信できて、トラブルを解決して、アンテナの向きが完全になるように制御出来たという意味かな。

    • 評価
  11. 工場内や工事用の保線車も客相手に使うものじゃないので
    徹底したリサイクル精神で昭和とか戦前の部品や車両を使ったり
    一説には明治や大正の部品モノを使われてるものが現役に
    使われてる会社有るようだ
    昔のほうが長く持たせる考えあったのでボイジャーもここまで
    使えるのだろうな

    • +6
  12. うちで使っている今は無きメーカー「三洋電機」の掃除機も、かれこれ35年 未だに現役でボイジャー並みの耐久力じゃ

    • +9
    1. えっとw その掃除機とボイジャー1号 干支が一回りしますがな(w
      まあ昔の日本の機械って無駄?に丈夫だった気がしますけどね
      かく言う自分も1986年に買った冷蔵庫7年前まで使ってたからね(笑

      • +1
  13. かみさんから言われるオレ
    「こわれたらポイじゃー」

    • +2
  14. …ハッ! まさか、スターフィールドのチャンクス(多種多様な味が売りな原材料不明のキューブ状ジャンクフード)の正体はこれだったり?

    • 評価
  15. ここまで長く稼働しているのもすばらしいが
    現在の地球とのやり取りの内容を知りたいね

    • 評価
  16. 最近のボイジャー見てると写りの悪くなったテレビを
    バンバン叩いて延命してるのを連想してしまうわ。
    いつまで持つんだろう・・・

    • +7
  17. 艱難辛苦を乗り越えて…
    命を燃やしながら試料を地球に送り届けたはやぶさ1
    死の淵から何度も蘇生して使命を果たし続けるボイジャー1

    • +8
  18. ボイジャーに続いて中継機能をもたせた探査衛星を送り続ければ、先行する衛星の電源が生きている限りずっとそいつの電波を地球で受信しつづけることができるのでは?

    • +3

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