メインコンテンツにスキップ

インフルエンザ・ワクチンを腫瘍に注射することで、がん細胞を減らすことができるとする研究結果(米研究)

記事の本文にスキップ

24件のコメントを見る

(著) (編集)

公開:

この画像を大きなサイズで見る
Willfried Wende from Pixabay
Advertisement

 数年前、ウイルスを利用してがんを殺す方法が話題になったことがある。がん細胞をウイルスに感染させ増殖させることでがん細胞を破壊し、また次のターゲットを探すという方法だ。

 がん細胞にしか感染しないウイルスを作り出すことができれば、その細胞だけを選択的に殺すことが可能になるだろう。

 しかし、ことはそう単純ではなかった。免疫系がウイルスに反応して、せっかくの治療効果を抑制してしまうのだ。しかも腫瘍を殺す効果の一部は、ウイルスというよりも、免疫系の働きによるものであるらしかった。

 そこで注目されたのが、ウイルスではなく腫瘍で生じた免疫反応の方だ。インフルエンザのワクチンを腫瘍に注射して免疫反応を起こし、それによって殺してしまおうというのだ。

攻撃抑制命令から免疫細胞を解き放つ

 まず知っておかねばならないのは、免疫細胞で構成される免疫系は常に体全体をカバーしているわけではないということだ。

 そのかわりに免疫細胞は感染が起きた部位で組織され、互いに連絡を取りながら、標的に対して攻撃をくわえたり、健康な細胞が巻き添えを食わないよう攻撃を調整したりしている。

 この視点から見ると、免疫系ががん細胞を駆逐できない理由は、ただそれらが健康な細胞と似ているからに尽きる。

 健康な細胞を傷つけないように攻撃を抑制する信号ネットワークのおかげで、がん細胞は攻撃を免れているのだ。

 最近では、こうした免疫抑制機能を阻害する薬が開発されている。これは本庶佑氏らによって免疫細胞の攻撃を抑制するシステムが発見されたことで可能になった。同氏はこの業績が評価されて2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。

この画像を大きなサイズで見る
Gerd Altmann from Pixabay

インフルエンザに感染した肺ガン患者は死亡率が低い

 だが、こうした薬は誰にでもに効くわけではなかった。そこで腫瘍で免疫系を活性化させる別の方法が模索されることになった。

 そのためのひとつの方法として考えられたのが、単純に免疫系をブーストするやり方だ。先述した腫瘍に感染しようとするウイルスへの免疫反応からは、これが起きているらしいことが窺える。

 実際、今回の研究グループが、3万人の肺ガン患者の中からインフルエンザになった人を探してみたところ、意外な事実が明らかになっている。

 肺ガンとインフルエンザのダブルパンチはさぞかし辛いだろうと思うかもしれないが、なんとそうした患者はインフルエンザにかからなかった患者よりも死亡率が低かったのだ。

この画像を大きなサイズで見る
Alfonso Cerezo from Pixabay

インフルエンザ・ウイルスがマウスのがん細胞の成長を抑制

 同研究グループはさらに詳しく調査するために、マウスの肺にメラノーマ細胞を移植し、腫瘍を作るという実験を行った。

 じつはメラノーマ細胞にはインフルエンザ・ウイルスが感染しない。そのため、腫瘍に対する免疫反応をブーストするために、腫瘍細胞自体の感染が必要なのかどうかも知ることができる。

 結果、どうやら感染は必要ないらしいことが分かった。インフルエンザ・ウイルスに感染した肺では腫瘍形成が抑制され、さらにその効果は感染した部位に限られたものではなく、感染していない肺でも抑制効果が確認された。

 また肺に乳がん細胞を移植した場合でも同様の効果が確認されている。

インフルエンザ・ワクチンの有用性

 免疫系が刺激を受けるとそれ全体が活性化し、免疫細胞に腫瘍への攻撃を躊躇させてしまうリミッターが解除される。そこで研究グループが思いついたのは、わざわざウイルスに感染させてやる必要すらないのではということだ。

 実際、熱処理して不活性化したインフルエンザ・ウイルスで試してみると、なんと元気なウイルスに感染したときと同様に効果があることが分かったのだ。

 このことは、まったく予想外だったというわけでもない。というのも、不活性化ウイルスはワクチンとしてよく利用されており、免疫系を刺激することが明らかだったからだ。

 こうなると頭に浮かぶ次の疑問は、ではワクチンではどうか? だ。

 研究グループは今年のインフルエンザ・ワクチンを入手して、これをマウスの腫瘍に注射してみた。すると腫瘍の成長が遅くなったばかりか、インフルエンザに対しての免疫までつくという一石二鳥の結果が得られた。

この画像を大きなサイズで見る
Alexandru Strujac from Pixabay

免疫系はがんとの戦いにおける強力な武器となりうる

 妙なことに、インフルエンザのワクチンならどれでも有効なわけではないらしい。

 ワクチンの中には、予防効果を持続させるために、免疫系の記憶を強化する化学物質が含まれているものがある。こうしたワクチンの場合、腫瘍の成長を抑制するような免疫系への刺激は生じなかった。

 このことは免疫刺激の問題ではなく、それよりも攻撃をすぐに引き起こしているかが関係しているようだ。

 今後さらなる研究が必要となるだろう。まず免疫刺激をどこで起こすべきかきちんと把握しなければならない。片方の肺を刺激すると、両方の肺で腫瘍抑制効果が得られたが、筋肉に注射したのではダメだった。

 また肺の外側でひどい感染があった場合、免疫細胞の戦力がそちらに割かれてしまい、腫瘍の成長がかえって速まることも分かっている。

 しかし、こうした研究は、免疫系ががんとの戦いにおける強力な武器であるという科学者の一般的な意見と一致しているだろう。

 この研究は『PNAS』(12月30日付)に掲載された。

References:arstechnica/ written by hiroching / edited by parumo

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 24件

コメントを書く

  1. インフルエンザ限定なのかな?
    他のウィルス、細菌とかではどうなるのだろうか

    • +1
    1. ※1
      まずは手軽に手に入って増殖も簡単でコントロールしやすい(間違って拡散しても対応可能かつ重篤なレベルになりにくい)ところから手を付け始めたってところじゃないかなー
      他のウイルスにまで手を出すには資金が足りないパターンも考えられるし
      医療系は下手すると10年単位で時間がかかるのもあるし、続報をゆっくりまとうぜ

      • +7
    2. >>1
      こういう実験って総当たりだからね
      一回何ヶ月も掛かる検証をあらゆる物質で繰り返して
      たまたま良さそうな結果が出た物を、さらに確証に変えるための実験をする
      使えなさそうなら振り出しからやり直し

      だから何万何億とあるまだ試してない細菌とかで特効薬が見つかる可能性はある
      それが明日かもしれないし永久に見つからないかもしれないしってだけの話

      • +7
    3. ※1
      昔、「結核患者に癌は少ない」という経験則から
      丸山ワクチンが生まれて、
      奇跡の特効薬としてもてはやされたのは有名な話。

      結局「治験で有意な効果は無い」として認可が却下され
      その過程について製薬利権の陰謀論などもいろいろ言われたけど、
      数十年たってあらゆる方面で癌研究が進められている現在でも
      海外含め、一部での細々とした利用に留まるところを見ると、
      まぁ丸山ワクチン自体は当初期待された程の特効性は無かったのだろう。(ただ、数値としての延命効果には表れないが、
      患者のQOLの改善に役立っという意見もある。)

      だが、丸山ワクチン自体の議論はさておき、
      他の感染症で免疫機能を活性化し癌細胞へも影響を与える
      という機序そのもの(要は免疫療法の一種)は、
      今後も研究の余地がある分野なのかも。

      • +8
  2. ただ免疫系のクスリって、抗がん剤とかが何を使っても効かないがんに”困ったとき”に使うもので、患者が死ぬまで何もしないわけにはいかないから一応使ってみると言う程度の薬で、効果はあるが寛解までいかなくて、せいぜい1か月延命する程度しかないけどな。

    • -2
    1. ※2
      オプジーボとかは完治した事例も多くありますが・・・?

      • -2
      1. >>14
        無いとは言えませんが、多いとは言えないのでは?

        • +4
        1. ※16
          「多いとは言えない」というのと「せいぜい1か月延命する程度しかない」と言い切ってしまうのとでは雲泥の差なんですけどね

          • +1
        2. ※16
          純粋に投薬結果のみだけで「多くない」理由を挙げてもらえませんか?
          治療費と設備と適合率で中止するケースは多いのですが、それ以外がネックになったケースって聞かないなあと。
          それなりに成果があるから(本来の用途ではない薬が)選択肢に入ってるわけですし。

          • 評価
    2. ※2
      その情報にエビデンスはありますか?お持ちの情報は古いんじゃ無いですかね?
      現在では、例えばCAR-T療法、樹状細胞ワクチン、各種抗体製剤、ペプチドワクチン、NK細胞療法、免疫賦活剤療法、サイトカイン療法、光免疫療法など既に数多くの免疫療法が開発されていて単体での寛解が認められている療法も増えています。
      その中にはオプジーボのような免疫チェックポイント阻害剤もあります。

      • +1
  3. 去年わいがブログであげたアプローチやん。体温上げればよいんだけど風呂じゃ駄目だぞ、所謂身体の芯から43℃まであげなきゃいけない。ただ寒い地域は癌が多いから部屋を温めるのは予防にはなると思う

    • -6
    1. 遺伝子を使った治療薬もウイルスを遺伝子の運び屋に使ってたな
      ※4
      ガンには血管が多いから、寒くなると血管が縮んでガンが餓死するってことないかなあ がん細胞に直接液体窒素を注射して焼いてしまうって手もあると思うし

      • +1
      1. ※9
        組織が壊死するくらい血管を収縮させるとなると、現状では素直に切ったほうが速いです。
        末端ならともかく、深部となると重要臓器も影響を受けますし、何より仕留め損ねるとがん細胞が全身に散らばる恐れがありますので。

        • 評価
  4. そういや以前、犬の虫下し飲んだら末期癌が治ったなんて記事を見掛けた事が有ったなぁ
    鵜呑みにする気はないがこんな意外な所に糸口が有ったりするのかもね

    • +7
  5. 熱に弱いから癌患者がインフルエンザに罹って癌細胞消えたとかあるから、開き直って南の国とか温泉に遊びに行けば案外治るんじゃね?

    • +1
  6. 以前からガンへの免疫療法は注目されてるけど
    これは盲点だったわ

    • +4
  7. 熱に弱いってホンマかいな
    以前稀少性のガンになったけど、温泉効果はまったくなく
    奴は神経をつぶしながら大きく育ってたぞ

    • +3
  8. こうなると若年性のガンに関しては暴論ではあるけど、花粉症と同じように清潔すぎる環境が生んだ免疫系のバグが原因の1つと言えるのかも。

    花粉症の場合は免疫の過剰反応と言われてるけど、ガンは逆に過少反応で免疫の活力が低下しているからこその取りこぼしというか。腸内フローラとかも絡んできそうな予感。アトピーや花粉症とガンの関連性はどうなんだろう。

    • +1
  9. にきびの元、アクネ菌を注射したらメラノーマ(皮膚がん)が治ったって話もあったね
    その後話を聞かない辺り極めて限定的なのかな?とは思うけど

    • +1
  10. 患者にとっては、すばらしい情報だよな
    一日も早く臨床試験が終わって一般化してほしい

    • +5
  11. 風が吹けば桶屋が儲かる…的な話だと思ったが、
    こういう小さな発見の積み重ねで物事は進歩して行くから
    生命の不思議を追及し続けて欲しい(何時か癌も克服できるかも?)

    • +3
  12. 癌治療研究は年々進歩していっとるな
    20年後には大したことない病になっていてほしいものだ

    • +2
  13. 順調に癌も撲滅できて寿命のトリックもあらかた解けたころろ、仕事の大半はAIやら何やらに任されてるだろうから、長寿化した人間がするべきミッションを今からでも誰かが真剣に考えとかなくちゃね

    • +1

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

サイエンス&テクノロジー

サイエンス&テクノロジーについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

知る

知るについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。