遺伝子組み換え作物に関しては賛否両論分かれているが、農業が誕生して以来、栽培植物においては、人間に有用な品種を作り出す為、人為的な選択や交雑、突然変異を発生させる「品種改良」が昔から行われていた。
今普通に食べている野菜や果物も、大きくその姿を変えてしまったものがある。そのほとんどが選択的な作付けを経て存在しているのだ。中には人為的でなく、自らの力で遺伝子組み換えをしている種もある。
前にもちらっと紹介したが、今とはまるで姿の違っていた10種の野菜や果物を見ていこう。
10. ニンジン
10世紀頃の小アジアとペルシャにおけるニンジンの栽培が、知られている中では最も古い事例だ。それ以前の野生のニンジンは世界中に分布しており、5000年前のヨーロッパでも種が発見されている。
ニンジンは本来小さく、白かった。また植物の根のように枝分かれしていた。おそらく薬草として用いられたと思われる。
そして人間の手でオレンジが濃く、甘く、苦味の少ないものが選ばれてきた。今日のオレンジ色のニンジンは西洋系ニンジンであり、紫や黄色の東洋系ニンジンもある。
9. ナス
ナスは非常に種類が豊富な植物だ。初めて栽培されたのは現代のインドとミャンマーにおいてだ。今日ではインド東北部やミャンマーからタイ北部、ラオス、ベトナム、中国南西部まで広く栽培されている。
ナスは英語で「エッグプラント(卵の植物)」というが、これはイギリスによるインド植民地時代、それが白く卵型だったことに由来する。
だが最古のもので紀元前300年に遡る数々の記録には、「青いフルーツ」、「メロンのよう」、「トゲがある」といった様々な記述がある。その多様な形状は古い芸術や文学などにも見ることができる。
8. バナナ
子供のおやつにもポピュラーなバナナが最初に栽培されたのは、7000〜1万年前のパプアニューギニアである。バナナもまた種類が豊富で、現在でもそのほとんどをアジアで見ることができる。
長く黄色い品種はキャベンディッシュであり、これは細心の注意を払って改良されてきたものだ。直接の祖先はタイワンバナナ(Musa acuminata)とリュウキュウイトバショウ(Musa balbisiana)。前者は生で食べてもそれほど美味しくなく、後者はずんぐりと丸く、種が多い。
数千年前のバナナ生産者は種類の違う両者を受粉させ、時折甘く、黄色く、種がないうえ、栄養も豊富なバナナが育つことを発見した。そうして作られたこの品種には種がないために、人工的に栽培されねばならない(つまりクローンである)。
したがってキャベンディッシュは病気に非常に弱い。遺伝子的に一様であるため、バナナを殺す病原菌が発生すれば、あっという間に全滅するおそれがある。
7. トマト
あらゆるトマトの祖先の名をワイルド・タイニー・ピンプ(Solanum pimpinellifolium)という。それはペルー北部とエクアドル南部に自生していたツタに実っていた。これがコロンブス以前の時代に栽培され、やがてヨーロッパへ広まり、さらに北アメリカに逆輸入された。
今日の栽培品種としてのトマトは、いずれもタイニー・ピンプの子孫であり、それぞれの間の遺伝的な差異は5パーセントしかない。タイニー・ピンプなどの古い品種と異種交配することで、病気に強い品種を生み出すことができる。
6. スイカ
スイカの起源については諸説ある。はっきり分かっているのは、まずアフリカで栽培され、それが地中海に広まり、後にヨーロッパで持て囃されるようになったということだけだ。
イスラエルの園芸家ハリー・パリスは、スイカ最古の祖先が4000年ほど前にエジプトで栽培されたと結論付けている。それは硬く、苦く、薄緑で、現在の甘く水々しいものとはまるで違う。
パリスは、その栽培目的は水分であったと考えている。乾季であっても古代エジプトのスイカは水分をよく蓄えたので、水に乏しい地域では重宝されたのだ。また、このエジプト人による選択的な栽培プロセスが現代のスイカにつながったと考えられるそうだ。
関連記事:悪魔の実かよ!500年前のスイカがホラー。17世紀の絵画がスイカの品種改良の歴史を物語る
5. トウモロコシ
トウモロコシは農業が始まった1万年前、現在のメキシコにあたる地域で栽培された人類最初の作物の1つだ。当時のトウモロコシは穂の部分が小さかったが、品種改良によって徐々に大きくなっていった。
農業が始まる以前の野生の品種はテオシント(teosinte)と呼ばれる。穀粒を実らせるが、現在のそれとはちっとも似ていない。それでも遺伝子のレベルでは、どちらもよく似ている。
遺伝子学者ジョージ・ビードルは、両者の違いがわずか5つの染色体に起因することを発見した。わずかな遺伝子の変化がテオシントを現在のトウモロコシにしたのだ。
4. モモ(ピーチ)
モモにはとても長い歴史がある。事実、中国では、250万年前のモモの種の化石が発見されている。それは今日の品種より小さく、どちらかと言えばサクランボに似ていた。
それから現在の姿になるまでには3000年を要した。モモは中国文化ではとても重要な存在であり、長寿のシンボルとして全国の市場で売られている。
3. アボカド
栄養満点のアボカドは本来6650万年前に生息した哺乳類の餌であった。アボカドの種はそうした動物に食べられることで別の場所に運ばれ、フンに混じって落とされた土地で発芽した。
当時のそれは現在のハス・アボカドよりも種が大きく、果肉が少なかった。運び屋だった哺乳類が絶滅してしばらくすると人間がその栽培を始め、果肉が大きく美味しいものへと改良されていった。
2. パパイヤ
パパイヤは熱帯気候のラテンアメリカが原産だ。現在流通するパパイヤはそれとは見た目が大きく違う野生種から改良されたものだ。
野生のパパイヤは丸く、プラムの半分ほどの大きさだ。中にはカカオによく似たものもあった。最初に栽培が行われたのは4000年前の古代マヤである。どの種が果実を実らせるものか実際に発芽するまで分からないため、栽培は複雑な作業だ。
1. カボチャ
カボチャ、すなわち「pumpkin」は「大きなメロン」を意味するギリシャ語の「pepon」が語源だ。だが起源自体はアメリカ大陸にある。最初期のものはソフトボール大で苦味があり、生で食べると毒があった。
先史時代の大型哺乳類のみが食べており、彼らが種を方々に移動させた。こうした哺乳類が絶滅した後、幸いにも人間によって栽培されるようになった。さもなければカボチャもまた消えていたことだろう。
カボチャにはくり抜いて水を入れる容器にするなど、さまざまな使い道があった。やがて食用に供されるようになると、甘い品種を選んで作付けされるようになった。
via:10 Foods That Have Been Genetically Modified Beyond Recognition/ translated by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
果物類は食味が跡形もないものも多いんじゃないか。
ほとんどが品種改良されて、特に糖度は元々の物とは全然違うはず。
2. 匿名処理班
米すらあれほどの変化を遂げたのだから冷静に考えてみれば他の野菜もそうか
当たり前に胡座をかいていると当たり前の事を見落としてしまうものだな
3. 匿名処理班
懐古主義者やナチュラリストは昔の野菜の方が美味しかったと言うがこの10種の原種食べても同じ事言えるの?
4. 匿名処理班
選択・交配による品種改良は日本でも縄文時代には栗で行われているよね。
なんていうか、ある意味人間と植物の両方で協力あわないとしないと上手く行かない。
人間が世話をしてくれるから毒を持たずに済むわけだし。
5. 匿名処理班
トマトもナス科だったような。
6. 匿名処理班
米と麦がなかった
7. にゃあ
8番のバナナについて。
以前CNNの記事で、現在のキャベンディッシュ種も危機的状況にあるように感じたのだけれど、2017年時点ではどうなっているんだろう?
↓ここら辺。
www.cnn.co.jp/business/35081497.html
8. 匿名処理班
「小さんの昔ばなし」という本に種ありバナナの話が出てくるね
"ひどいバナナもありました。太くって、短くって皮が薄いン。
それが配給になったときは、驚きました。食べたら"バリバリィ"ッていうんです。
「おやァ?!」と思ってよく見ると、真ッ黒なタネがいっぱい入ってるんですな。
これは美味くないン。で、あたし達は『クソバナナ』ッて呼んでました。"
9. 匿名処理班
モモの改良してくれた人に心からのありがとうを伝えたい!
10. 匿名処理班
旧バナナはお風呂で体をゴシゴシするのに良さそう
11. 匿名処理班
バナナの種ってどこにあるんだろうって昔から疑問だったが、無いのか
というかクローンとか病気コエー
12. 匿名処理班
苺は戦後と今とで完全に別モノになってる気がする
高度成長期の苺はすっぱかったから
生クリームショートケーキのアクセントになった
今の苺は甘すぎてアクセントになっていないので
生クリームの方の甘さを控える始末
ショートケーキ用の苺だけはすっぱいままの方が合う気がするよ…
13. 匿名処理班
自分の子供の頃と比べただけでも野菜も果物もすっごく甘く美味しく食べやすくなったからね。
数百年単位で見たらもう別物だろう。
14. 匿名処理班
>「青いフルーツ」、「メロンのよう」、「トゲがある」
外国のナスは甘いんか!
15. 匿名処理班
最近はシャインマスカットがうまいな
今はまだちょっと高いけど、これも普通になってくんだろうな
16. 匿名処理班
「もうね、アボガドバナナかと。」
17. 匿名処理班
実際数年前バナナの病気が流行ってバナナ不足にならなかったっけ?
今は普通に売ってるし数が回復したのかな
18. 匿名処理班
トウモロコシも自分が子供の頃と今、味が随分変わっちゃったなぁ
今のトウモロコシ甘いばっかりで今一好きになれないんだ
19. 匿名処理班
昔の人参はゴボウみたいに長くて、苦くて薬みたいな
味がしたらしいというのもよく分かる話だった。
こうしてまとめてみると、分かり易いね。
20. 匿名処理班
※3
ほんと、俺たちの批判精神ってやつは、いい加減で薄っぺらだよなぁ。
21. 匿名処理班
とても食べられないようなものの中から未だしも食用になりそうな物を選んで行った結果かね?昔は食糧事情が大変だったんだろうな、
22. 匿名処理班
※14
英語のフルーツは、植物学的には
花が咲いた後に実る「果実」部分の構造体を指す言葉で、
甘いかどうかは関係ない。
トマトもキュウリもピーマンもフルーツ。
あと、メロンも
マスクメロンみたいなのだけを指すんじゃなく、
日本語に訳してしまえば要するに「瓜」だ。
日本語でも、胡瓜(キュウリ)とか冬瓜とか糸瓜(ヘチマ)とか
べつに甘い訳じゃないだろ。
23. 匿名処理班
昔のカボチャって
ヒョウタンみたいなもんだったのか
24. 匿名処理班
「当時のそれは現在のハス・アボカドよりも種が大きく、果肉が少なかった。」
今より種が大きいって相当でかいけどわざわざ飲み込むの?てか肛門通らなくね?w
25. 匿名処理班
完全に異世界の食べ物と勘違いしてしまう。
26. 匿名処理班
バナナ栽培する地域の農法は基本的に種子作物を欠くので、太古のバナナ農民は自然界で偶然に発生した種無し品種を株分けだけで現代までに伝えてきた。
27. 2
かつては主食の座にあったどんぐり各種なんかを、もし品種改良し続けたら思いもしない大きくて美味しいものが出来るのではないかと常々思う。そういうモノって結構たくさんある気がしまする。
28. 匿名処理班
これをみるに、いままで注目されなかった植物の中にも頑張れば有用で美味しく改良できるものがいるかもしれない。もっともっと探求されてしかるべきである。例えばムベやアケビなら、つる性を木立性にして果肉を大きく種子を小さく改良すればいけると思うのだが
29. 匿名処理班
バナナは栄養豊富で持ちやすく食べやすい、まるで食べられるために生まれてきたような果物だと思ってたけど、品種改良の賜物だったのか
元の姿が持ちやすく食べやすいとは程遠い姿だった…
30. 匿名処理班
バナナがもっと長持ちするように改良してくれ。
すぐ黒くなっちゃう。
31. 匿名処理班
※11
桜と同じだね
ソメイヨシノも同じように種子ができないため
接ぎ木で増やしてるので病気で全滅する可能性がある
今は新しく植樹する桜を神代曙という品種にして世代交代をしています
神代曙についても同様の問題はあるけど品種が多様化することで全滅しづらくなる
バナナについても同様の試みはされているんではないだろうか
32. 匿名処理班
20年前、トマトが嫌いだったけど今は食べられる。よくよく考えたら今のトマトは青臭さが全然無いな。
33. 匿名処理班
※3
言いたい事は分かるが「昔はよかった」の「昔」って、40年くらい前なのよ。
俺は40年前のホウレンソウが食いたいよ。流水で洗っただけでバラバラに砕ける今のホウレンソウを食べてるとわびしくなる。
34. 匿名処理班
バナナはフィリピンや南米で広範囲で栽培されているけど、
木の寿命が30年ぐらいで実がならなくなる。
でも品種改良し過ぎて原木が無くなってしまって、
実は10年ほど前まで1億ドルの賞金がかけられていた。
沢山の探検家がアマゾンの奥地に入り原木を探していて、
5年以上かけて未開のジャングルで見つけることが出来た。
35. 匿名処理班
※3
一見正しいように見えるけど、意図的に相手の言葉を捏造してる。
この場合の昔っていうのは数十年前のことで、数千年前じゃない。
36. 匿名処理班
※29
バナナは火を通して食べる文化(ブラジルとか)のところもありますから、私たちが想像する果物としてのバナナでないところもありますね。
パパイヤなんかは、日本の沖縄でも炒め物にして食べるんです。
37. 匿名処理班
※30
バナナはヘタの切り口から空気が入って酸化して黒くなるので、
ヘタの部分をラップできっちり包むと酸化を遅らせることが出来るのだ
あと実が押されるとエチレンガスが出て熟成が進んでしまうので、
自重で押されないように房のままではなく1本づつにバラしておくのも良いのだ
もっと良い方法は急いで全部食べちゃうことなのだ
38. 匿名処理班
※12
トマトも甘くなっててそのまま食べる分には美味いんだけど、トマトソースにすると美味しく無いんだよね
トマトソースにはホールトマト(トマトの水煮缶)の細長くて酸っぱいトマトの方が合う
39. 匿名処理班
※28 ムベやアケビは果実部分は主に料理に使うよね。
大きさも種の小ささも今の感じで良いのでは。
甘いのは種を包んでる部分で、そこを大きく
したいんじゃない?
パッション・フルーツもおんなじ仕組みだけど
物足りないよー。
ちょいトリビア→ バナナは植物学的には草である。
40. 匿名処理班
※33
ほうれん草作ってるけど、昔のほうれん草って虫が食わない、作るのが楽な野菜だったのよな
それが今じゃあ虫も食うし鳥も食う。まったく別モンだと思うわ
品種改良もいいことばかりじゃないね
41. 匿名処理班
パパイヤも草に近いから
42. 匿名処理班
10. ニンジン
京野菜には赤い奴があるじゃん。
今の人参は「黄色系+赤色系=橙」なんだよね。
9. ナス
「エッグプラント」の名で園芸種がある、始めて見ると驚くよ。
8. バナナ
パナマ病でグロス・ミッシェル種がほぼ壊滅したから、今はキャベンディッシュ種ばかりなんだよね。
で第二のパナマ病が始まっている…
なおグロス・ミッシェル種は買える、かなり美味しいがこの時期は追熟が難しい。
ホムトン・バナナで検索を。
食料になる種類が多いのはアブラナ科(野菜)、バラ科(果実)、イネ科(主食)など毒性は低い、ナス科とマメ科は全部有毒。
なおバラ科でも種子には毒があり、梅や杏、アーモンドの種子が猛毒。
アーモンドチョコの奴は毒性の低いスィート系、毒の強いビター系はアメリカでは販売禁止、日本では持ち込み禁止なのだが、欧州では可食販売している
43. 匿名処理班
※37
リンゴも似たような感じだね。
今の甘くて柔らかいリンゴをアップルパイにするとあんまり美味しくない。
火を通して料理するには品種で言うと紅玉みたいのが向いてるんだけど置いてる店は少ない。
44. 匿名処理班
パンプキンは飼料用のカボチャで、人間用はスカッシュじゃなかったか?
45. 匿名処理班
※5 トマト ナス ピーマン 唐辛子 ジャガイモ
ナス科の作物を食べない民族はいない というくらいナス科は役立ってる
でもタバコもナス科だって
46. 匿名処理班
数年前近所の安売り店で買った一房のバナナの一本が固くて種がぎっしりだったけど
もしかして先祖買えりしてた一本だったのか?
47. 匿名処理班
米24
動物は種ごと噛み砕く。
砕かれたらアボガドさんとしてはどうしようもないので、種はより固く、果肉部は食べやすく進化した。
48. 匿名処理班
日本にあるタブノキっていう木がアボカドの仲間らしいという噂が。
果実が味はアボカドで、記事中にあるように種が大きくて食べるのには向かないみたい。
49. 匿名処理班
※12
コンデンスミルクに専用スプーンなんて過去の遺物なんですよ
寂しいですねえ
50. 匿名処理班
※47 アボ「カ」ドね。
51. 幽霊管理
サクランボがクランボンに見えて
パパイヤがパパイヤ鈴木に見えた
52. 匿名処理班
バナナは実際に病気による壊滅的な被害を受けたことがある
53. 匿名処理班
※12
日本の果物を料理に使ったりタルトやら製菓に使うと甘過ぎで大変
日本の果物は基本単体で食うデザートだから甘ければいいみたいな所あるよね
54. 匿名処理班
※27
その同じブナ科の中でも、
より大きい実を付ける種類を選抜して栽培を続けたのが
栗なんじゃないの?
55. 匿名処理班
※3
昔を持ち出す人の「昔」ってその人にとって都合のいい「昔」なのよ
56. 匿名処理班
カリンも頑張るとおいしくなるのかなー