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南極の氷に8ヶ月閉じ込められたロボットが奇跡の生還、貴重なデータを持ち帰る

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(著)

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奇跡の生還を果たしたImage credit:Pete Harmsen/Australian Antarctic Division
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 将来の海面上昇を予測するという重大な使命を帯びて、複数台の水中探査ロボットが、オーストラリアの研究チームに見送られながら南極海へと旅立っていった。

 黄色いボディの「アルゴフロート」チームは、厚い氷に阻まれ人間が近づけない海域の水温や塩分の調査を黙々と行っていた。

 ところがロボットの1台が仲間とはぐれて海流に流され、巨大な氷棚の奥深くにある過酷な未開の領域に閉じ込められてしまった。

 光もGPSも届かない暗闇で8ヶ月間音信不通となり、誰もが「二度と戻らない」と諦めかけた。

 だがその時、ロボットはひょっこりと海面に姿を現した。そのボディには、人類が初めて目にする貴重なデータが集められており、ロボットは逆境の中でも、任務を懸命に果たしたのである。

 この研究は『Science Advances』誌(2025年12月15日付)に掲載された。

氷の天井に閉じ込められた孤独な冒険者

 「アルゴフロート(Argo float)」と呼ばれる水中探査ロボットは、魚雷のような見た目の黄色いボディに、高性能なセンサーを搭載している。

 アルゴフロートはチームで海流に乗って漂いながら、定期的に海面まで浮上してデータを衛星に送信する任務を負っており、今回の調査は、地球上で最も過酷な場所の一つ、東南極の氷棚周辺で行われていた。

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水中探査ロボット、アルゴフロート

 2年半にわたる観測の途中、1台のアルゴフロートが、デンマン氷棚とシャクルトン氷棚の下を流れる海流に運ばれ、氷の下へと姿を消してしまった。

 そこは、数百mから数千mもの厚さがある氷の板が海に浮いている場所だ。分厚い「氷の天井」が頭上を塞いでいるため、一度入り込めば、海面へ浮上することは困難だ。

 衛星通信ができないため、GPSで現在地を知らせることもできない。

 研究チームの一員である、オーストラリア・連邦科学産業研究機構(CSIRO)の海洋学者スティーブ・リントゥール博士も「アルゴが戻ってくるまで、私たちはただ運を天に任せるしかなかった」と語る。

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デンマン氷河 Image credit:Pete Harmsen/Australian Antarctic Division

行方不明中も黙々と観測を続け、8か月後に帰還

 しかし、この小さなロボットは観測を止めなかった。氷の下に閉じ込められている間も、5日ごとに海底から氷の裏側までのデータを黙々と記録し続けていたのだ。

 自分の位置を知るすべを失ったアルゴフロートは、浮上しようとするたびに氷の天井に機体をぶつけてしまう。だがその時の深さも記録し続けた。

 後に研究者たちは、この「氷にぶつかった深さ」と衛星データを照らし合わせることで、ロボットが暗闇の中でどのようなルートを辿っていたのかを突き止めることができたと語る。

 氷の下での孤独な旅は8ヶ月にも及んだ。そしてついに、アルゴフロートは氷のない海域へと脱出することに成功し、溜め込んでいたデータを一気に送信してきたのだ。

 行方不明となっていたロボットが記録していたのは、これまで誰も測定したことのない「氷棚の下の海」の断面図だ。

 これにより科学者たちは、シャクルトン氷棚とデンマン氷河付近の新たな知見を得ることができた。

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シャクルトン氷棚の下に8か月間閉じ込められ、行方不明となっていたアルゴフロートの航跡(緑の線)Image credit:CSIRO

南極海の現状

 データを詳しく分析したところ、シャクルトン氷棚の下は比較的安全だった。

 氷を溶かすような温かい海水は入り込んでおらず、今のところ安定していることが分かった。

 問題は「デンマン氷河」の方だ。

 デンマン氷河の下には、すでに温かい海水が入り込んでいることが判明したのである。

 この氷河は、もしすべて溶ければ世界の海面を1.5mも上昇させるほどの巨大な氷の塊だ。

 観測データは、この巨大な氷河が非常に危ういバランスの上に成り立っていることを示していた。

温かい海水の層がわずかに厚くなるだけで、融解速度が一気に加速し、氷河全体が不安定になって崩壊する恐れがあるという。

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デンマン氷河-シャクルトン棚氷システムの衛星画像 Image credit:NASA

小さなロボットが人類の未来を救う

南極の氷がどれくらいのスピードで溶けるのか、それは私たちの未来の海面水位を予測する上で最大の「謎」だった。

 氷が溶ける鍵を握っているのは、氷棚の底面と海水が直接触れ合うわずか10 mほどの「境界層」だ。

 これまで、分厚い氷棚に穴を開けて調べるには莫大な費用と労力がかかり、ほとんどデータがなかった。

 しかし、今回のようなロボットなら、自ら危険な場所へ潜り込み、この重要なエリアのデータを取ってくることができる。

 「この小さなアルゴフロートの物語は、『成せば成る』を体現した素晴らしいものです」と、オーストラリア南極プログラム・パートナーシップ(AAPP)のリーダーで、タスマニア大学 海洋・南極研究所(IMAS)のデルフィン・ラヌゼル教授は称賛する。

 「信じられないほど過酷な状況下で、この小さなロボットは計り知れない価値のある情報を私たちにもたらしてくれました」。

 たった1台のロボットが命がけで持ち帰ったデータは、気候変動・地球温暖化予測モデルの精度を高め、私たちが将来の海面上昇にどう備えるべきかを教えてくれる重要なヒントをもたらしてくれることだろう。

References: Science / Adrift like Shackleton: Robot float survives Antarctic ice / Csiro

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この記事へのコメント 9件

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  1.  さすがアルゴー船( Argo )の名を冠するだけに冒険に満ちた旅をしてますね。 水中翼みたいなのが出ている写真からすると多少は動く部分(アクティブ)があるのかな? てっきり大きな写真のほうのブイみたいに全く流されるだけで動きとしてはパッシブなものなのかと思ってましたが、記事中の浮上とかあるのでちょっと混乱してます。 考えて見ると南極大陸は巨大な淡水のカタマリなのでどうせとけてしまうなら、どこかの水不足の陸上にもっていけるといいなとも思いましたが、経済性がみあいませんね

    • +4
  2. 移動ラインが大冒険すぎるw
    そしてこの機体の移動モデルを使って氷河の下でデータを収集する新型ドローンができそう

    しかしデンマン氷河の下にすでに温かい海流が流れ込んでいるということは、
    隣接する”シャクルトン氷棚”の下に流れ込むのも時間の問題では?
    集めてきてくれたデータはかなり貴重&かなり大問題なんじゃ…

    • +5
  3. 受信が判明した時は感動だったでしょうね。電池的には問題なかったのでしょうから浮き沈みでのデータ蓄積を地道に続けていたと…メモリは足りたのだろか。
    今も稼働しているのでしょうがいつか沈むまでのお役目に支障ありませぬように。
    ところでフロートでなく軍の海洋グライダー写真(Littoral Battlespace Sensing-Glider?)がまぎれているような?

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  4. 大ピンチになった結果、データ収集の仕事は大成功。
    このロボットは虎穴に入らずんば虎子を得ずを地でいったね。

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