メインコンテンツにスキップ

大気圧の1000万倍で「金」がついに変化、原子の並びが変わる瞬間を観測

記事の本文にスキップ

21件のコメントを見る

(著)

公開:

この画像を大きなサイズで見る
Image by Istock traffic_analyzer
Advertisement

 「金」といえば、美しい黄金色の輝きを放ち、希少性が高く資産価値を持つ貴金属として知られている。また、錆びにくく溶けにくいという優れた化学的な安定性も兼ね備えているため、科学の世界でもその信頼性は絶大だ。

 特に高圧実験においては、性質が変わりにくい「基準」として長年重宝されてきた。しかし、そんな金でさえも、その姿を変えてしまう極限の世界が観測された。

 アメリカの研究チームが、地球の大気圧の1000万倍という想像を絶する圧力を金にかけたところ、原子の並びが劇的に変化する瞬間を捉えることに成功したのだ。

 これは実験室で再現できる物理学の限界に挑んだ成果であり、巨大惑星の内部構造や、未来のエネルギー技術の解明にもつながる重要な発見だという。

この研究成果は『Physical Review Letters』誌(2025年10月27日付)に掲載された。

科学の「ものさし」としての金の役割

 木星のような巨大ガス惑星の内部では、圧力が地球の大気圧の100万倍以上に達し、物質が私たちの想像を超えるような構造や性質を見せることがある。

 こうした極限状態を理解するために、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所の研究チームは、金を使ってこれまでにない超高圧をかけ、その構造を測定する実験を行った。

 実験の主役に金が選ばれた理由は、金が高圧科学の世界において、最も一般的な「基準物質」として扱われているからだ。

 金は化学的に非常に安定しており、X線を使えば簡単に検出できる。そのため、未知の領域で圧力を測定する際、目盛りを正しく合わせるための「校正物質」としてよく利用されているのだ。

 低い圧力条件での金の振る舞いはよく分かっているが、極端な超高圧下でどうなるかについては、これまで歴史的にもいくつかの見解の食い違いがあった。

 研究チームのコールマン氏は、「金がどのように振る舞うかを正確に知ることで、惑星の核の研究から新材料の設計に至るまで、金を基準として使用する他のすべての実験が、確かな理解に基づいていることを保証できます」と語る。

 今回の実験は、科学の計測に使われる金という「ものさし」そのものが狂っていないかを確かめる、極めて重要な作業だったといえるだろう。

この画像を大きなサイズで見る
Image by Istock

巨大レーザーが生み出した「1000万気圧の衝撃波」

 地球の大気圧の1000万倍という途方もない圧力を、金に一瞬で加えるのは至難の業だ。研究者たちは、アメリカにある巨大施設「国立点火施設」とロチェスター大学の「オメガEPレーザーシステム」を使った。

 彼らはここで、非常に短く強い光の束であるレーザーパルスを作り出し、それを金に照射した。

 この強力なレーザーの衝撃波は、金に超高圧を加え、金が溶けずに固体の状態を保てる温度のまま、超高圧状態へ押し込んだのである。

 この原子レベルの変化を捉えるため、研究者たちはX線回折という特別な撮影技術を使った。これは、X線を物質に当てて、原子の並び(結晶構造)を写真のように分析する技術のことだ。しかも、その撮影時間はわずか10億分の1秒という一瞬の出来事だった。

 コールマン氏は、「これは、そのような極端な圧縮下にある金の結晶構造(原子の並び方)を決定的に捉えた初めてのものであり、理論と実験の間で長年続いてきた不一致をようやく解決するものです」と述べている。

この画像を大きなサイズで見る
国立点火施設でレーザーパルスを使い、超高圧で圧縮された金(ゴールド)を描いたアーティストによるイメージ図。X線がサンプル(金)に当たって散乱し、その回折パターンを調べることで、極限的な圧縮下で金の原子構造がどのように変化するかが明らかになる Image credit:Jacob Long/LLNL

地球の核の2倍で金の構造が変化した瞬間

  通常の状態の金は、原子が「面心立方格子構造」というパターンで並んでいる。これは、サイコロの8つの角と、6つの面の真ん中に原子がある、最も隙間なくぎっしりと詰まった並べ方だ。

 科学者たちは、この並び方が、地球の中心核の約2倍の圧力に達するまでは変わらず、安定していることを発見した。これが、金が持つ唯一の相(フェーズ:状態)だった。

 しかし地球の核の2倍という限界を超えて金がさらに強く圧縮されると、ついに変化が始まった。金という物質の「狂わない性質」が、極限で限界を迎えたのだ。

 一部の金原子は、サイコロの8つの角と立体のど真ん中に1つだけ原子がある「体心立方格子構造」へと、その並びを組み替え始めたのである。

 これは、サイコロの8つの角と、立体のど真ん中に1つだけ原子があるという、原子の並びが異なる構造だ。

 実は、この変化は科学的に見て驚くべきことだ。本来、面心立方格子よりも体心立方格子のほうが、原子同士の間にわずかな「隙間」がある構造だからだ。普通、圧力をかければかけるほど、物質は隙間のない構造に固まるはずである。

 1000万気圧という異次元の世界では、あまりの圧力に金の原子そのものが歪み、内部の電子同士に強い反発が生じる。

 金はこの反発を逃がすため、あえて少し隙間のある構造へと組み替えることで、エネルギー的に安定した状態を保とうとするのだ。極限環境において、金が構造を最適化させた結果といえるだろう。

 今回の観測では、この構造の変化が進行している状態が捉えられた。原子の並び替えはサンプル全体で同時には完了しておらず、元のぎっしり詰まった構造と、新しく組み変わった構造が混在していることがデータによって示されたのだ。

 これは、金が超高圧下で新しい構造へと移行していく具体的な過程を証明するものとなった。

この画像を大きなサイズで見る
Image by Istock

極限の世界を探る新たな一歩

 今回の発見は、長年信じられてきた「金は不動の基準」という考え方に新たなデータを加えるものとなった。

 「これらの実験は、金の構造測定をテラパスカル領域(1000万気圧級の世界)へと拡張し、物質の状態が変わる境界をより正確にするためには、温度の診断も必要であることを浮き彫りにしています」とコールマン氏は指摘する。

 金が極限で示す正確な振る舞いがわかったことで、惑星の深部や、未来のエネルギー技術といった、私たちがまだ知らない極限状態にある物質を探求するための、より強固な基礎が提供されるだろう。

References: Journals.aps.org / Watching gold's atomic structure change at 10 million times Earth's atmospheric pressure

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 21件

コメントを書く

  1. 圧力をかけると面心立方格子から体心立方格子に変化したというところが面白いね
    なぜなら面心立方格子の方が体心立方格子よりも充填率(原子同士の密度)は高いはずなのだから
    つまり圧力をかけたら空間が広がったって話だよね?普通逆じゃない?

    • +7
    1. > 1000万気圧という異次元の世界では、あまりの圧力に金の原子そのものが歪み、内部の電子同士に強い反発が生じる。
      > 金はこの反発を逃がすため、あえて少し隙間のある構造へと組み替えることで、エネルギー的に安定した状態を保とうとするのだ。極限環境において、金が構造を最適化させた結果といえるだろう。

      だそうな。

      • +5
    2. 互いの距離自体は縮まって密度も上がってるのかもしれないね
      電子の軌道も変わってるのかな

      • 評価
    3. リードで犬を散歩させてる人同士が近づいたら
      犬が吠えまくって不安定になるから
      ちょっと距離をとった方が落ち着くみたいな感じ・・・・・かな?

      • +2
    4.  隙間が広がったということは体積増えてるはずなわけで、それが今回得た新しいナゾでしょうね。 水が、液体から固体になるときに体積が増えるのも結構ふしぎですけど、金は固体の状態で圧力をかけると体積が増える可能性があるとー、シミュレーションか何かで予想や仮説があったのかなとか思いますわ

      • +2
    5. 単位胞の充填率が低くても、原子半径自体が小さくなれば密度は上がる。
      文中でも高圧で原子が歪むと書かれているのでそういうことだろう。

      • +2
  2. すごいなぁ。
    金も永遠じゃないんだよって、いっそロマンを感じる。
    地球環境では影響なくてもね。

    • +12
  3. 錬金術かと思ったら逆方向だった
    しかしやはり科学もパワーか…

    • +5
  4. これ、もっとすごい圧力かけられたら中性子になるのかな。
    それこそ新星爆発ぐらいな圧力を。

    • +3
  5. 「時間の戦士」って短編SFがあって
    未来、人類は異星人との戦争に突入、その勝利のために金(きん AU)が必要だという
    金は強化合金として貫通兵器の先端部やあるいは装甲に使うのだ
    だが、金は装飾品などに消費され未来世界ではほとんど枯渇している
    そこで「過去の世界から送ってほしい」と現代にメッセージが…
    という話なんだけど
    金の性質が変わるならそんな利用もアリかもね
    (時間移動はまた先の話だが)

    • +3
  6. 金は元々、超新星か極超新星で作られて爆発して宇宙に散らばったもの。
    地球にある金も何処かの超新星爆発の残骸とするとロマンがあるな。

    • +11
    1. 星の成り立ちを考えると、太陽系ができる以前にあった超新星の爆発によるものでしょうね
      巨大な爆発の後に、太陽系を含む複数の兄弟星が生成されている
      なんというか。母親の置き土産…なんですかね?

      • +2
  7. 理論上可能ならいつかは実行できる
    人類はそうやって前に進んできたのだから
    が、自分が生きてるうちには錬金術は無理か?
    投資先がやれ金がいいだのビットコインがいいだのでもう頭痛い

    • -3
    1. 鉛を金に変える科学技術ならカラパイアで紹介されてたぞい
      もちろん※が付いて現状ではまんま金買ったほうが安いって結論だったが

      • +8
    2. 別の元素から陽子の数を変えることで金の生成自体は出来るんじゃなかったっけ
      ただその生成にかかるエネルギー自体が膨大すぎて利益は出ないどころか大幅なマイナスで生成した量も極小、今はまだとても実用出来ない段階らしい

      • +3
      1. 確か水銀から陽子1個取って金になった!って話を、以前のカラパイアに載ってて読んだ気がする。
        うろ覚えで間違ってたらすまん。

        • 評価
  8. 錬金術とはやはりパワー
    力はすべてを黄金にする

    • +3
  9. 金だって凹むことあるよ
    そんな大騒ぎしたら可哀想だよ

    • +5
  10. 六方最密格子(構造)ってお経みたいな名前だなーと遠い目をして化学からドロップアウトして行った高2の夏を思い出す

    • +5
  11. Au「何かすごい圧高くて寝苦しい…
    縮こまって寝返りでもうつか」
    まさか事もなし? やっぱ金強い?

    • 評価

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

サイエンス&テクノロジー

サイエンス&テクノロジーについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

自然・廃墟・宇宙

自然・廃墟・宇宙についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。