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立ち退き拒否。高速鉄道の路線に挟まれた状態で残る「釘の家」

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(著) (編集)

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 中国の「釘の家(釘子戸)」については、カラパイアでも何度かお伝えしてきたので「またあれか!」と思う人も多いかもしれない。

 この「釘の家」とは、高速道路の建設予定地などにある住宅が立ち退きを拒否した結果、結局その家だけがぽつんと取り残される状態をいう。

 まるで1本だけ釘が残っているかのように見えることから「釘の家」というわけだが、道路のみならず高速鉄道の建設の場でも、「釘の家」が話題になったようだ。

 江蘇省に住む住人が、高速鉄道の建設予定地にある家の退去を拒否。法外な補償金を要求し、鉄道プロジェクトを遅らせる事態になったという。

高速鉄道の建設予定地で立ち退きを拒否する女性

 2020年、中国は上海市と蘇州市・湖州市を結ぶ高速鉄道「上海蘇湖高速鉄道」プロジェクトを正式に開始した。

 総延長163.54kmで、停車駅は8カ所。設計上の最高速度は時速350kmとされ、総工費は367.95億元(約7630億円)が見込まれていた。

 工事は順調に進み、当初の開業予定の2024年年内には完成の目途が立つかに見えた。だが突如、用地取得の過程で厄介な問題が生じることになった。

 2022年になって、建設予定地の蘇州市にある黎里鎮湯角村の住人女性・張さんが、補償について当局と合意を拒否。自宅からの退去を拒んだのだ。

 下が上海蘇湖高速鉄道の路線図で、黎里鎮湯角村はちょうど路線の真ん中あたりに位置している。

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image credit: 上海铁路局 via CCTV

 村のほかの住人たちは、紆余曲折はありながらも、全員が政府の移転提案を受け入れて、早々に補償金を受け取って引っ越していた。

 張さんだけが最後まで抵抗し、法外な金額の補償金を払わない限り、ここを動かないと抵抗を続けていた。

 そこで業を煮やした当局は、この住人の家の両側ギリギリまで鉄道を建設する強硬手段に打って出た。

 その結果、家は文字通り、鉄道の線路に挟まれる形に。2本の高架橋脚の間に、二階建ての自宅が一軒だけ取り残されるという異様な光景が生まれたのだ。

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立ち退き拒否の理由は補償内容への不満?

 当初、張さんに提示された補償は、「最大で約500万元(約1億円)の補償金に加え、同じ面積の住宅を3戸」というものだったそうだ。

 張さんは当初はこの条件に同意する意向を見せていたが、突然態度を硬化させ、さらなる増額を要求したという。

1平方mにつき20万元(約415万円)。合計で2億元(約41億5000万円)払わなければ、私は絶対に引っ越さない!

 張さんは、当局の調整担当者を前にこう言い放ったと伝えられる。だが当局は「あまりにも法外だ」としてこれを拒否。

 何度も当局と張さんの間で協議の場が設けられたが、彼女は頑なに上記の条件を覆すことはなかった。

 当局としても、一軒の家だけを特別扱いするわけにはいかない。とは言え、今さら工事計画を覆し、新たなルートに変更するのも現実的ではなかった。

 その結果、張さんの家を挟むギリギリのところまで線路の建設が進められ、そこですべての工事がストップしてしまったのだ。

 当局の担当者が何度も話し合いを持ちかけたが、張さんはそれをことごとく拒否。その後しばらくの間高速鉄道のプロジェクトはストップし、膠着状態が続いた。

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補償金で「一攫千金」を狙う風潮

 そもそもなぜ張さんは、ここまで頑なに退去を拒否したのか。それは中国の、補償金で「一攫千金」を夢見る風潮が原因だという。

 中国では土地は全て国家の所有だが、その使用権は最長で70年まで個人が取得できるようになっている。

 この間に公共工事などで立ち退きを余儀なくさせられる場合、国は土地管理法に基づき、土地を収用する代わりに住人に適切な保証を行う必要がある。

 補償は代替の住宅との交換となる場合、現金が支払われる場合、あるいはその両方が補償される場合がある。

 以前紹介した「金渓(きんけい)の眼」や、今回の張さんのケースは、この両方の補償を当局が当初申し出たかたちだったと言えるだろう。

 場合によっては、文字通り「一夜にして億万長者になる」といった、夢物語が現実になる状況も珍しくないんだとか。

 中国農村部の一般庶民にとって、こんな大金を得られる機会は、それこそ宝くじに当たるか自宅が立ち退きに当たるかの二択しかない。

 張さんの場合は、どうやら娘が「工期を優先したいなら、当局はこの条件を呑むはず」と彼女を焚きつけた結果、強硬な態度に出ることになったらしい。

 地元の報道によれば、この件は司法の場に持ち込まれ、補償の受け入れと退去を命じる判決が下されたとされる。

 だがその一方で、張さんが現在も居住中であるという実情を考慮し、強制執行は見送られたという。

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最終的には退去に同意することに

 強制執行が行われなかったことで、一時、張さんたちは「このままいける!」と自信を持ったようだ。

 だが、事態は彼女たちの思惑通りには進まなかった。この異様な光景は周囲の注目を集め、メディアやSNSなどでも取り上げられ、張さんの家は有名になった。

 ネット上ではことの経緯が拡散され、ドローンで撮影された映像が全国ニュースの見出しを語ることに。

 報道を受けて張さん一家への批判が集まり、家までやって来て嫌がらせをする者まで現れたという。

 世間の注目と批判を浴びて、張さんは重度の神経衰弱を発症。ストレスに耐えかねた彼女は、2023年になってとうとう自宅から退去することに同意した。

 そして2024年12月26日、高速鉄道は無事に完成。年内ギリギリとはなったが、なんとか当初の予定通りの開通にこぎつけたそうだ。

 開通を報じる現地のニュースはこちら。張さんの件については一切触れられておらず、公式には「予定通りに開業」という扱いになっているようだ。

“轨道上的长三角”再添新动脉 沪苏湖高铁开通运营

 張さんがどんな条件で退去に合意したのかはわかっていないが、最後には「これ以上、社会に迷惑をかけないよう、当局と再度交渉します」と述べていたという。

江苏最牛钉子户,索要四倍补偿款,遭拒后宁死不拆,后来怎样了

References: Homeowner Refuses to Relocate, Delays $5.3 Billion Infrastructure Project for 2 Years / 江苏最牛钉子户,逼停国家380亿高铁项目,叫嚣没2亿不搬!

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この記事へのコメント 30件

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  1. 中国なら非合法なやり方使ってでも強引に立ち退かせそうだけどそうでもないのか

    • +34
    1. あそこまで完成させた上で、報道しまくるって時点でまぁ…

      • +10
    2. でもニュース等で大々的に取り上げる時点で、『やり方』が変わっただけって話じゃない?
      むしろ一般大衆の民意を『利用』してる分、悪質かもしれないね。

      • +11
  2. まあ欲が過ぎると身の回りに「いろいろ」起きるのは世の常
    こわいこわい

    • +37
    1. これ本当に金銭の問題なんだろうか?
      中国の釘子戸だとたいてい補償金の釣り上げって卑近な論点で出てくるが、日本ほか世界の同事例は「思い入れのある故郷を奪うな」「国や大企業の強引なやり方が逆鱗に触れた」的な要素が大きく(そして得てして高齢者)、なんか異質な感じがする。

      1億から釣り上げたいなら、2億とか3億とか、吹っ掛けるにしても5億とか、もっと勝算の高い かつ 個人としては充分すぎる大金の設定もありそうに思う。
      最初は順調に進んでいた話し合いが、突如として1億⇒40億超もらわんとテコでも動かん!って、何か担当者の態度とかでこじれて、実質的に「払えるもんなら払ってみろ!絶対にお前らの思い通りにはさせない!」という意思表示に見える。

      子世代に唆されて~みたいな話も全部伝聞で、結局嫌がらせで出て行かざるを得ず、2010年代にはまだ強制立ち退きの反対者を投獄で暴行死とかやってた国だからキナ臭い。

      • +9
      1. 自分もきな臭いと思ってしまったな
        元から中国国内のメディアやSNSは政府に都合の悪い事は日本じゃ考えられないレベルで言論統制される国らしいし、張さん側からして本当に全てが真実なのかと疑ってる

        • +8
      2. 日本の場合は「金の問題じゃないから幾ら支払うと言っても立ち退かない」って表明するのに対して
        中国は具体的金額を示して「幾ら支払ったら立ち退いてやる」と条件や妥協点を設けるのが印象の差じゃないかな

        • +1
  3. 道路作る時に、同じように立ち退き費用を高額にあげようと目論んだけど
    行政はじゃあ計画変えるのでもういいですと途中まで進んでたモノを中止
    新たな道へ変更し、そこを通らない方法へ完成した
    ビビったのはその家で、今から立ち退き乗るのでお願いと騒いだけど
    すでに完成し問題解決したので一切無視
    空気を読み適度に曲げることも必要だぜ。でないとすべてを失う
    日本のある本気に行政の怒らせた道を思い出したぜ

    • +26
  4. 最初に提示された条件すごくいいじゃないか
    一瞬こっちが張さんとやらの出した条件なのかと思ってしまった

    • +50
  5. 弱い立場の一般市民が酷い目に遭ったのかと思ったら欲深い守銭奴だった。
    この件に関しては全く擁護できん。
    ごねれば一攫千金の風潮は国を問わず見苦しい。
    協議を突っぱねるたびに保証金を下げて行って工期に間に合わなくなったら強制執行位でいい。

    • +12
  6. 初手で提示された
    「最大で約500万元(約1億円)の補償金に加え、同じ面積の住宅を3戸」
    って普通まずありえんほどの好条件だったのになあ…

    • +48
  7. 舌切り雀を読み聞かせて育てればこんなに欲深い事を言い出さなかったかもそれないのに……。

    • +5
  8. 前のやつも住んでない娘婿が焚き付けてたじゃん…
    老人は子供に強く言われたら反対できないもんなんだよ
    結局残されるのは哀れな老人だけっていうね

    • +12
  9. 既に最初の条件で億万長者だと思うのですが
    強欲は破滅するんだな

    • +8
  10. まぁ逆に足元見られて二束三文で手放したとかだろうなぁ
    嫌味とかでなくそれが交渉だからね
    都合の良い時は強気に出る
    これはお互い様なのだから

    • +5
  11.  日本の新幹線のそばに住んだことはないですが、目視できておよそ数百メートルはなれたところにある店に行ったことがありますけど、列車が通過するたびに低音の轟音が響くわけですわ。 防音設備がよほどしっかりしていないとと思ったのですけど、完成したらダイヤにもよりますけど両側に挟まれて頻繁に轟音にさらされることを考えると住み続けることはおそらく不可能だったとも思います。 娘は同居していたのでしょうかねぇ。 あくまでも想像ですけどカリフォルニアから来た娘症候群をおもいだして、同居してなかったんじゃないかとか思ったり。

    • +3
  12. 見出しで、また中国?と思ったら
    大正解の上を行く内容だった。

    想像を超えてくる。
    やっぱりスゲェな中国

    • +5
  13. 中国ってさ、こういうケースにこそ国家権力を行使すればいいのに。
     
    ゴネ得という風潮は良くないと思うし、ゴネた本人だって最後は不幸になってるし。

    • 評価
  14. 建物では無いが、用地買収で日本でも良くある事象
    高速道路の周辺に豪華建屋がある田舎
    コースから外れるとど田舎まっしぐら

    • +2
  15. 意外と中国は穏便な方向をとりますね。日本の方が収用委員会にかけてから問答無用って感じですが。

    • +2
  16. 神経衰弱になって立ち退きますって言って、足元みられて減額されただろこれ。

    • +1
  17. 路線至近と駅至近の間には天と地ほどの差があるのだよな。41億とか言わずに少し避けてやるから目の前に駅作ってくれ、とか言いたい。

    • +1
  18. SNSで批判が高まって、自宅まで押し寄せて嫌がらせをしたのは当局に雇われた人達でした…とかありそう。

    この話もどこまで真実がわからないけど、見え隠れするのは「当局は誠心誠
    意対応したが、住人は強欲だった」という印象操作で、当局=正義、住人=強欲みたいな図式。
    何事もなかったように開業したのも、SNSで散々騒がれてたのに不自然だし。

    …勘繰りすぎかな?

    • +4

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