
意思だけではやめられない、飲酒に潜む罠 / Pixabay
新型コロナウイルスの影響で、家庭内で消費する酒量が増加傾向にあるという。外出自粛中、先行きの見えない不安やストレスから、自宅で深酒をする人が増えたためとみられている。だが懸念されるのがアルコール依存症だ。アルコール依存症の多くの人たちは、映画でお酒を飲むシーンを見てしまったり、飲み屋で楽しそうにしている客に出くわしたり、飲酒と関連づいたものに遭遇すると、脳にこびりついているお酒の記憶が蘇ってしまう。
そのために、たとえ何年も禁酒に成功していたとしても、お酒を飲みたいという強い衝動に駆られてしまうのだという。
『Science Advances』(5月6日付)に掲載されたマウスを使った研究では、そうしたアルコールを飲みたいという欲求とそれを誘発する記憶の関係について調べている。
A persistent alcohol cue memory trace drives relapse to alcohol seeking after prolonged abstinence | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/6/19/eaax7060
意志の力では止められない、飲酒を誘発するトリガー
アムステルダム自由大学の研究者によると、人間とマウス双方にとって、アルコールは強い満足感が味わえる体験であり、それを飲んでいるうちに、脳には持続的な変化が生じてしまい、ついついお酒に手を出したくなってしまうという。厄介なのは、飲酒と関連づいた特定のサインだ。それはお酒のボトルかもしれないし、赤提灯の明かりかもしれない。その状況の中で何度もアルコールを摂取すると、脳にいつまでも残る「記憶痕跡」が形成されてしまう。
なお、記憶痕跡は、脳に保存された経験を意味する記憶とは少々違い、学習時に活動した特定のニューロン集団(セルアセンブリ)という形で脳内に残った物理的な痕跡のことだ。
この記憶痕跡は、アルコールと関連づいたサインがトリガーとなって活性化する。その結果、お酒の記憶が蘇り、また飲みたいという気分になってしまう。記憶痕跡はいつまでも脳に残るので、どれだけ禁酒を続けていても、ふとしたときに無性にお酒が恋しくなる。
よく言われることだが、サインによって”再発”してしまうこうした欲求は、単純に意思の力で止められるような代物ではない。

axelbueckert/iStock
マウス実験で分かったアルコールの記憶痕跡
今回の研究チームは、脳のどこにアルコール関連の記憶痕跡があるのか調べるために、マウスに"飲み会"を開いてもらい、そのときの脳の活動を観察するという実験を行なった。飲み会はこのような感じだ――。
マウスがレバーを操作すると、アルコール入りの溶液を1滴飲むことができる。同時にライトが点灯する。これを繰り返すと、やがてマウスはライトからアルコールを連想するようになる。
そうなると、ただライトを点灯しただけで、アルコールを求めるようになる。つまりアルコールに関連するサインによる誘発だ。
次いで研究チームは、アルコールで活性化したニューロングループに特殊な方法でマーキングを施し、クロザピンN-オキシドという薬剤でそれを選択的に鎮静化させてみた。
そして前回の飲み会から1ヶ月後にサインを与えてみると、誘発率が低下したという。アルコールで活発化するニューロンを鎮静化されたマウスは、ライトが点灯してもあまりレバーを操作しようとはしなかったのだ。
なお、研究チームはアルコールに並ぶなかなかやめられない物質、砂糖でも同じような実験を行なっている。
興味深いことに、砂糖を食べているときに活発化したニューロンを鎮静化しても、再発率の低下は確認されなかったとのことだ。このことは、アルコール関連の記憶痕跡が前頭前皮質に存在することを示唆しているという。

iStock
人間にもアルコールの記憶痕跡が形成されている可能性が大
今回の実験はマウスを対象としたものだが、研究チームによれば、人間でも同じようなアルコールの記憶痕跡が形成されているだろうとのこと。さらに研究を続けることで、将来的には、なかなかお酒を止められないアルコール依存症患者の治療にも役立つ可能性があるという。
ちなみにマウスの脳にアルコール関連の記憶痕跡が形成されるまで、たったの15日しかかからなかったそうだ。
人間の場合の日数はまだ分からないが、お酒が脳に作用する力はそれだけ強力であるということだろう。
巣ごもりで昼間からお酒を飲む機会が増えたという人も多いかもしれないが、ほどほどにしておかないと依存症になってしまうかもしれないので注意しよう。いつでも止められると思っていても、関連するサインを見ただけで飲みたいという強い衝動に駆られてしまう。
それは脳にこびりついて離れない、意思の力だけでは抗えないほど強いものだというのだから。
References:An “alcohol memory trace” in the brain can trigger relapses — study/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
お酒って下手なクスリよりもやばさ度ではワーストテン1位と
海外の表で見たぜ
そりゃ一度依存症になったら少々のことでは逃げ切れん
2. 匿名処理班
(ついついお酒に手を出したくなって)
おっしゃる通りございます。
3. 匿名処理班
それをいったらタバコも同じだと思うが、自分は5年前に禁煙して1本も吸ってないなあ。オジーオズボーンいわく禁煙できるか出来ないかは、そいつの準備が出来てるかできてないかの違いなんだそうだけど、本当にその通りだと思う。喫煙や飲酒を依存症でとか脳の回路がって言うのも、結局は準備が出来てるか出来てないかでしかないのかもしれない。自分が喫煙や飲酒や薬物をやめる理由をきちんと理解して納得していたらきれいにさよならできるのかもしれない。やめることに対していい訳があったり、何か理由をつけてしょうがなくやめる、本当はやめたくないけど、みたいな自分が被害者であるかのような心理状態だと失敗するのではないのかね。
人間の意志は時に本能を凌駕して、摂食障害などを引き起こすほど強いものなので、意志の力ではどうにもならないと言うことはないのではないかとも思う。
4. 匿名処理班
暖かくなってきてビール(偽物の安物)がうまいです
5. 匿名処理班
下戸の人間にとってはアルコールなんて頭は痛くなるし気持ち悪いだけのつらい記憶しかないから、飲みたいなんてこれっぽちも思わないんですが・・・
6. 匿名処理班
とはいえ飲みたい時には飲もうぜ
7. 匿名処理班
酒飲むと気分悪くなるからよかった。
8. 匿名処理班
酒が飲めるだけで飲めない人間を見下してたアイツらどうしてるかなあ
9. 匿名処理班
偽薬みたいにノンアルコールを酒だと偽って飲ませれば良いんじゃないかな?
10. 匿名処理班
これは別に酒に限った話じゃないだろ。
人間が中毒になるメカニズムであって、対象はさまざまなはず。
11. 匿名処理班
砂糖の記憶痕跡というのははないのだろうか
どうしてもお菓子がやめられないんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉ
(魂の叫び)
辛い時や悲しい時、嫌なことがあった時など
家に帰ってお菓子を食べるとほっとするんです…(;∀;)
12. 匿名処理班
逆に良い習慣で記憶痕跡形成出来るとちょっと幸せに成れそうだね
13. 匿名処理班
何を今更って言う内容だね。
アル中だけど、深夜にオープンバーで飲んだくれてる若者を見ると
飲みたくなるね。
14. 匿名処理班
「美味いものを見ると菊正宗が飲みたくなる」
15. 匿名処理班
ヤク中だった人も「⚪⚪逮捕」ってニュースがトリガーになって、またやらかしちゃったりするんだろうな。
16. 匿名処理班
おい待てよ。それじゃ俺ただのアル中じゃん
17. 匿名処理班
※11
栄養が偏ってるか単純に食べる量や回数が足りなくて、体が砂糖に頼ってたりしないかな
毎日きちんと食事をとればあっさりやめられるかも(ソースは自分)
お菓子以外のストレス発散方法を2つ3つ増やせばなおよし
18. 匿名処理班
ギャンブル依存もそうだけど、アル中は家族が巻き込まれ
悲惨な事になるよね。
最近某スーパーでどのメーカーのかわからないけど
「もう飲むしかない」というポスターがあり、無責任だと
腹がたった。治療制度を整えるから、という日本カジノも
ゼッタイ反対。
※3 摂食障害は意思が本能を凌駕したものではないと思う。
強いストレスにより空腹に関わらず食べられなくなる、
あるいは満腹でも食べるのが止められなくなるのは、
「ストレスで怒りっぽくなる」のと同じ基本的な反応。
人間にも動物にもある。
19.
20. 匿名処理班
※1
アビガンの副作用、催奇形性の話がよく出てくるが、
アルコールだって催奇形性あるし、妊婦は飲んじゃダメだしね。
21. 匿名処理班
わかっちゃいるけど やめられない♪
22. 匿名処理班
俺タバコも酒もやめたけど、結局最後の所は自分の意志だぞ
23. 匿名処理班
依存する人しない人の違いは何かな
それこそ若い頃は週7で浴びるように飲んでたけど
学校卒業して間もなく結婚、2年後には子供も生まれて全く飲まなくなった
そしたらもう全然飲みたくなんかないんだよ
誘われたって嫌
気の合う友達となら喜んで行くけど、飲まなくていいなら飲まなくてもいい
要は、普通の酒好きって酒が好きなんじゃなく酒を飲む環境が好きなんだよ
でもアル中はトイレにいる時すらアルコールのこと考えてる
味さえ関係ない
そのスイッチが入る人はなんなんだろう
正直、こんなに「よくない」と言われててもアル中になるまでブレーキ効かない人は頭のネジ飛んでると思うけどね
24. 匿名処理班
煙草はやめるのが大変だったな
成功したのは「無くても死なないんだから」という気持ちだけだった
体に必要でもないものに支配されていることへの嫌悪かな
25. 匿名処理班
やめられる人とそうでない人の研究をして欲しいものだ。
自分には、やめられない人の気持はわからん。
26. 匿名処理班
毎晩僕二本、父一本ワインのボトルを空ける
月に90本のワインのビン。缶とビン回収の日はうちのビンだけで
プラスチックのビンケースがほぼ一杯になる
27. 匿名処理班
酒はやめられたがタバコがやめられん…
タバコやめたい…
28. 匿名処理班
見方を変えれば酒に関わる大きなトラウマさえあれば禁酒につながる可能性も出てきたと
29. 匿名処理班
体に悪いのわかってるんだけど、たまに友達と一緒に飲む楽しいお酒はすごくいいはず(精神的に)。
30. 匿名処理班
>>23
お幸せな方には分からない。
孤独な人が溺れるのがアルコールで、陽気に全部忘れちゃうのが薬物。
31. 匿名処理班
ただのパブロフの犬では?
32. 匿名処理班
※3
タバコは酒よりも依存度が低いんだよ
アルコールが依存度「高」ならタバコは「中」
アルコールはLSDや大麻よりも依存度が高い
もちろん意志の強さも重要だけど、中毒になってしまったら「意志」だけでは無理
それに摂食障害は「食べないぞ」という意志でなるもんじゃない
逆に「食べるぞ」と強い意志をもってしても、食べられないから病気なんだよ
33. 匿名処理班
という言い訳
34. 匿名処理班
※3
てか摂食障害自体が依存症だった気がする…。意思が本能を凌駕した結果が摂食障害って聞いたことない。