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カザフスタンで絶滅危惧種サイガ約2000頭が大量死 原因は不明、毒物の可能性も

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(著)

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Saiga antelope at the Stepnoi Sanctuary” by Andrey Giljov is licensed under CC BY-SA 4.0
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 中央アジアのカザフスタンで、カモシカの仲間である絶滅危惧種「サイガ」が謎の死を遂げた。

 AFP通信によると、2010年5月21日、約2000頭のサイガが死亡しているのが発見され、同国の農業省が、毒による攻撃を受けた可能性を視野に捜査しているそうなんだ。

中毒の可能性も

 カザフスタンの農業省のエルラン・ニサンバエフ氏によると、死んだサイガは「胃が膨張しており、口からは緑色の泡を吹き、悪性の下痢を発症していた。獣医らによると、これらは中毒の典型的な症状だ」という。

 関係者によると、牧草地の上空に「正体不明の灰色の霧」が見えたあと、サイガたちが死んでいるのが発見されたという。

 ニサンバエフ氏は、「もしも人間が原因だという証拠をつかんだら、刑事事件として捜査する」と述べ、大量死の原因を調べると述べた。

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 サイガは、モンゴルとカザフスタン、ロシア南部に生息するカモシカの仲間。別名オオハナレイヨウ。体長は100-170cm程度。かつては食用とされたり、毛皮が利用されたり、角が薬用になると信じられていたために乱獲が進み、開発による生息地の破壊ともあいまって全世界の生息数は5万頭と推定されている。

 パイプのような大きな鼻が特徴だ。オスの鼻は発情期に発達し、鼻を通して低く響く音を出すことで、他のオスを威嚇したり、メスをひきつけたりする。動画で実際の鳴き声を聞いてみよう。

サイガの鳴き声

 余談だが、ロシア製の散弾銃「Saiga-12」は、銃のシルエットがサイガと似ていたことから、こう名づけられた。

続報: 死んだサイガは1万頭以上に拡大

 被害はこれだけにとどまらなかったようだ。BBCの報道によると、2010年5月28日までにカザフスタン全土で1万頭以上のサイガが死亡していたという。

 サイガはすでに国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されており、このような大規模な死亡は、個体群の崩壊に直結しかねない事態だと専門家たちは警告している。

サイガの「大量死」は初めてではない

 2012年に発表された調査結果に基づくと、2010年から2011年にかけて確認されたサイガの死は累計12000頭。このような大量死は、実は今回が初めてではなかった。

 カザフスタンでは1950年代から現在にいたるまで、複数回のサイガの大量死が記録されており、現在では、その原因はいずれも「自然発生的な病気の流行」だと考えられている。

 2010年の大量死の原因として、最も有力視されているのは、サイガの群れが運悪く、消化しづらい草木がしげったエリアに入ってしまったことだそうだ。これらの草木を食べたサイガが第一胃(ルーメン)で胃もたれを起こし、消化不良や腹部の膨張、嘔吐、下痢が起きた。

 死亡が確認された個体の多くが出産後のメスであった。サイガ保護同盟(SCA)の代表であるミルナー・ガランド氏はこう語る。

出産を終えた母親たちは、授乳のために多くの栄養を必要とします。しかし出産直後で体力も消耗しており、十分な栄養を摂ることができずにいます。そのため、必死に栄養価の高い草地を探し求めます。

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 さらに、それらの排泄物を媒介して、パスツレラ症の感染が起こった可能性も指摘されている。パスツレラ症は牛、豚、羊などの家畜にも起こる細菌性の感染症で、高熱、呼吸困難、さらに肺の炎症で発生した痰などの分泌液を口から泡のように吹く症状を引き起こす。初期の調査で見られた「緑色の泡」は、これに消化途中の草がまざり緑に見えたのかもしれない。

2015年には12万頭以上の大量死

 国連の報告によると、2015年5月28日、カザフスタン中部のベトパク・ダラ地域で、12万頭以上のサイガの死が確認された。これは当時の世界個体数の30%以上に相当する。死亡したのはやはり、主に出産後のメスと子であった。

 事態を重く見たカザフスタン政府は国連に支援を要請。これを受け、移動性野生動物種の保全に関する条約(通称「ボン条約」)の事務局は、英国王立獣医大学や国連食糧農業機関(FAO)の専門家らで構成された調査団を現地に派遣。

 死体の検査や病理分析の結果、パスツレラ菌とクロストリジウム菌(破傷風菌・ボツリヌス菌など)が関与していることが明らかになっている。

バイコヌール宇宙基地による環境汚染説

 現地の環境保護団体「アンチ・ヘプチル」のムサガリ・ドゥアンベコフ氏は、2010年のサイガの大量死の原因が、バイコヌール宇宙基地から打ち上げられたロシアのロケットの燃料に含まれる毒性の強い化合物「ヘプチル」であると長年主張してきた。

 バイコヌール宇宙基地とは、カザフスタン中央部に位置する、ロシア連邦宇宙局が管理するロシアのロケット発射場だ。しかし、2015年の大量死はこの宇宙基地から何百kmも離れたところで起こった。

 ボン条約事務局の担当官は、「これまでに分析されたデータに、ロケット燃料が大量死に関連していることを示すものはない」と話す。

サイガの個体数は順調に回復

 絶望的な話ばかりではない。カザフスタン政府と国際的な保護団体の努力により、2016年以降、サイガの個体数は飛躍的に回復してきた。2021年には84万頭までに増加し、2022年には132万頭に達したという報告もある。これには密猟対策や保護区の設置が大きく貢献したと考えられている。

 そしてもう一つ、忘れてはならないのがサイガ自身の生態的な回復力の強さだ。ADWによると、サイガのメスは一度の出産で双子を産むことが非常に多く、さらに7~8か月で性成熟するため、毎年多くの子どもを残すことができる。この高い繁殖能力が、個体数の急速な回復を支える大きな要因になっている。

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References: AFP(2010) / BBC(2010) / ResearchGate(2012) / RFERL(2012) / 国連(2015) / TheGuardian(2015)

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この記事へのコメント 31件

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  1. ただ単に殺すとか誰得
    毒ガスの実験でもやったのかね?

    • +1
  2. もし彼らを殺すのが目的じゃなく、何か違う理由があったとしたら、えらい事とばっちりだな。いろいろ早急に解明しないと。
    愛護団体さん、出番です。
    こんな時ぐらい役に立って下さい。

    • +2
  3. 生息地域が火山地帯でしたってオチか?
    それにしても立派な鼻筋だこと。

    • 評価
  4. カザフスタンってどっかの国に妬まれたりしてる?
    日本も重要文化財を燃やされたりトキを殺されたりしてるだろ
    ここもそういう何かの逆恨みかな?と思ったんだが
    あんなキチガイ民族そうそういないか・・・

    • 評価
  5. なにこの不思議生物わくわくしちゃう

    • 評価
  6. 牛の様な鹿の様なバクの様な・・・・・

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  7. 海犬「これは恐らく日本のクジラ虐殺への抗議だ。日本が捕鯨を止めねば、我々はもっと多くの野生動物を手に掛けねばならないだろう」

    • 評価
  8. 初めて「ザイーガ」をWikipediaで調べてみることを思い立った。でも消されてた。

    • 評価
  9. パルモさんありがとう。
    毎晩楽しみにしてます。

    • -1
  10. 灰色の霧-何かの有毒スモッグか?
    工業地帯が近くにあるともないが、中国からの有毒工業廃棄物が雲にのってやってきたのか?

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  11. UMAちっくな顔つきだ。
    まあ絶滅危惧種だから似たようなもんだけど

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  12. >口からは緑色の泡を吹き
    神奈川の烏大量死もこれあったよな

    • 評価
  13. 自然界にも毒になる成分は結構と有ると思うが、
    自然に有る成分で2000頭もの野生動物が死ぬ例は稀だと思う
    例えば火山の噴火とか、毒の植物の大量発生とかの理由で
    突発的に毒が増えてしまったのなら、仕方がないと思う
    でも、もし人間が毒を与えたのなら許せない所業だと思った
    是非とも原因を究明して再発を防止して欲しいと願う。

    >牧草地の上空に「正体不明の灰色の霧」
    火山性ガスでも噴出したのかね?そういう例は過去にも有るけど

    • 評価

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