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特別な任務の為、カナダからヘリコプターでアメリカに上陸した4頭のオオカミ

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(著) (編集)

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photo by istock
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 重要な任務をかかえた4頭のタイリクオオカミ(Canis lupus)が、アメリカ・ミシガン州にあるアイル・ロイヤル国立公園に降下した。

 ヘリコプターで舞い降りたカナダ出身の4頭組のミッションは、五大湖の1つであるスペリオル湖の最大の島に生息するヘラジカ(ムース)の個体数を捕食によってコントロールし、公園の生態系のバランスを取り戻すことである。ここでは肉食獣がいないために、ヘラジカの個体数の爆発的な増加が問題となっている。

 同時にオオカミはもう1つの任務も負っている。それは、島のオオカミの個体数を増やし、「再野生化」(Rewilding)することだ。計画時点で島には2頭の野生のオオカミが生き残っていたが、今回のオス1頭、メス3頭の4人組がそこに新しい仲間として加わることになる。

 オオカミの再導入は、アメリカ国立公園局が主体となって進めているプロジェクトだ。オオカミの捕獲と輸送を担当するカナダの天然資源省は、今後3年以内で20~30頭のオオカミを導入することを見込んでいる。

Wolf released on Isle Royale! Feb, 2019

気候変動の影響でオオカミが激減

 かつてアイル・ロイヤル国立公園は、年に50日間ほど氷の橋で本土と地続きになるのが常だった。野生のオオカミはこれを渡って、島に渡ることができた。

 しかし温暖化の影響で、この氷の橋が現れなくなってしまった。その結果、1980年には50頭いたオオカミが、2016年にはわずか2頭にまで減ってしまったのである。この2頭は父娘と見られるオスとメスのペアであった

 これが島のヘラジカに影響した。オオカミが減少した一方で、これ幸いとばかりにヘラジカは激増。エサとなる植物をめぐる争いが激化するようになり、数千頭が飢え死にするという事態まで生じてしまった。

 今回のミッションは、こうした状況を改善することが目的なのである。

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photo by istock

意外にも難しいオオカミの適任者選び

 しかし、このミッションをきちんと遂行できるオオカミを探すことは予想以上に難しかった。

 「罠にかかってしまうようなオオカミではダメなんです。そうしたオオカミは高齢か幼いか、それか怪我をしていますから」とプロジェクトの中心人物であるミシガン工科大学のジョン・ブセティッチ氏は話す。

 また派遣される動物へのストレスも考えねばならなかった。オオカミはまったく見知らぬ仲間と一緒に、見知らぬ土地へ送り込まれるのだ。

 「オオカミは群れで生きています。イヌが行ったこともない土地に放り込まれるようなものです。それに初対面の相手にはとにかく警戒する生き物ですし、初めての土地でエサを見つけるのだって大変でしょう。ストレスだらけですよ。」

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Image by mitzy123 on Pixabay

オオカミ保護の見直しを進める米政府

 アイル・ロイヤル国立公園へのオオカミの再導入が進む一方、米政府(トランプ1次政権)は絶滅危惧種保護法(ESA)による保護の見直しを行なっている。

 オオカミが保護リストに登録されたのは1974年、農家や牧場主による駆除などで、ほぼ絶滅状態となったためだ。しかし、再導入や保護政策によって個体数は大幅に増え、五大湖周辺では回復目標を上回る数が定着し、西部の山岳地帯(モンタナ、アイダホ、ワイオミングなど)では当初の目標を大きく超える野生のオオカミが確認されている。

 オオカミによる家畜被害も多いようで、アメリカ農業連盟(AFBF)などの業界団体は保護からの除外を求めるロビー活動を続けてきた。家畜被害に対しては、公的な補償制度も整えられている。アメリカ魚類野生生物局(FWS)は、もはやオオカミは絶滅の危機にないと判断し、ESAの対象から外すことが科学的にも正当だと主張している。

 ワイオミング州では2012年に保護対象から除外されたが、自然保護団体がこの判断に異議を唱える訴訟を起こし、2014年に再登録された。

 FWSはオオカミを保護対象から除外することを「保全政策の成功事例」と主張しているが、生物多様性センターのコレット・アドキンス弁護士は「国中のオオカミに死刑宣告をするもの」と批判する。

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youtube

たくましく生きるオオカミたち

 なお、アイル・ロイヤル国立公園のオオカミについては、万事順調なようだ。

 「捕獲や島に放って数時間のうちに見せるオオカミたちの適応力の高さには舌を巻きます。すぐに群れの仲間を追い始めるんですからね」とアイル・ロイヤル国立公園のマーク・ロマンスキさんは話す。

 「オスは体重40キロもありますが、ヘラジカを見つけたとき、何をするべきか間違いなく心得ていますよ。」

続報

2018年9月にこの4頭が導入された後、さらに2019年冬に11頭、2019年秋に4頭、合計19頭が導入された。2019年9月には、最初の4頭から産まれたと思われる2頭の子オオカミの存在が遠隔カメラによって確認された。

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国立公園局(NPS) / Wolf Pups Born on Isle Royale

References: Nplsf / Iflscience / Theguardian / NPS

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この記事へのコメント 42件

コメントを書く

  1. オオカミはカッコいいし、冬場だとモフモフしてて抱き心地よさそう。

    • +14
  2. マングースの二の舞いに成りませぬように

    • +13
    1. >>3
      マングースと今回の狼の事例は似て非なるものやで
      ちゃんと調べたら勉強になるで

      • 評価
  3. 人間が壊した自然界のバランスは
    また人間が手を加えて戻すべき

    みたいな意見をTVで観たことがあるけど、
    全くもってその通りなのだが、
    人間の都合で振り回される動物たちは気の毒だなとも思ってしまう。

    • +31
  4. この狼達がどう島の生活に慣れてくのか
    ドキュメント番組作ったらおもしろそうやね

    • +14
    1. ※5
      ナショジオかディスカバリーあたりに期待したい

      • 評価
  5. この記事に相応しくないかもしれないけど
    保護したり駆除したり
    結局人間が生態系をコントロールしてるじゃんよって思っちゃうんだよね

    • +7
  6. 北米でヘラジカって言ったら、轢いた車がスクラップになるあの巨大怪獣だよね?
    群れてるとはいえ、3~40kgの体でそれを仕留めるオオカミを自分は尊敬する。

    • +17
  7. 自然の力で現状がある以上は、人間が手を出すことじゃないと思う。

    • 評価
  8. ヘラジカじゃなくてもっと狩りやすい動物を狙うかもね。結局ヘラジカは減らない。

    • +12
  9. 多分当座は監視でいいんすよ…元々島にいた狼たちと昨年投入の狼(一部死亡したらしい)と今回の狼は遺伝子的にも十分遠いものが選ばれているみたいで、今後投入の狼たちも多様性を考慮した捕獲→引っ越しがなされるようですのでまずは繁殖していただいて数と質の安定を望みたいんでしょうね。

    ムース狩れるなら弱った個体でも狩っていただいていいのでしょうが、小動物でつないでいってもらっても別によいでしょうし。isleroyalewolf.orgの公式にあるムース追いの写真でのパックは7頭くらい、大きなパックなら14頭ほどで仕留めているようですからまずはそこまで成長したパックが複数編成されて欲しいのでしょうか。

    つーか公式のAbout The Project: Overviewをちらっと読むだけでもムースとオオカミの安定の難しさに唸ります。ヒト原因のイヌパルポウィルスで狼絶滅寸前までいってみたり、ムースはムースで狩られずに増えすぎが由来の飢餓に気候の複数パンチで激減とかどんだけ変動しやすいのっていう…。
    投入された子たちにはきちんと生き抜いていただきたいです。

    • +12
    1. ※12
      関係者の苦心には本当に頭が下がります。

      人為的な再導入には賛否両論あり、生態系に介入すべきではないという主張もありますが、それは全くもってその通りですが、むしろ、「人類は生態系をコントロールする責務がある」と思います。

      これはなにも「人間至上主義」の発想ではなく、生態系の多様さが失われた先に起こる事態が、おぼろげながら見えてきた以上、人類が得た知恵を使って、何らかのアクションをおこすべき責任があると。

      その方法は明確な答えがあるわけではないので、※12のコメントの通り手探り状態だとは思いますが、座して事態を悪化させることを良しとしない人たちの行動は、尊敬に値すると思います。

      じゃ自分はなんかやってるのか、と問われれば窮しますが。

      • +6
  10. 同じ群れの個体群を放すのではなくそれぞれ出身が異なる個体を放して上手くやっていけるんだろうか… 元からいる2頭は縄張りを守るために後からくるオオカミと戦う羽目にならないかな

    • +3
  11. (オオカミを擬人化してみると)
    一枚目の写真がギャング映画の一コマみたいでカッコイイねw

    • +1
  12. 増やしたり減らしたり人間様は大変だね~
    神にでもなったつもりかよ(笑)

    • -3
    1. >>15
      0から作る事が出来ないからやってるのだと思うよ

      • 評価
  13. 既存のバランスが崩れると俺たちも対応を余儀なくされるし被害が出る
    自然に干渉するなとか人類の発展に犠牲はつきものだとか言うけど
    保護はある程度は自分たちのためなんだよ

    • +6
  14. 神「人間増えすぎたし、ちょっとウイルス投入して調整するかな」

    • +2
  15. でも自分だったらいきなり知らない土地に異性数人と連れられてもしんどいだろうな
    気の毒

    • +4
  16. 日本にも小型のオオカミを導入すれば
    鹿とかイノシシの獣害が減るのにね
    人間が襲われるかもしれないデメリットはあるけど
    農家さんのメリットも大きい

    • -1
      1. ※46 米でコヨーテと犬のミックスが育っていて、
        コヨーテほど人間を恐れないのでマズイ事に
        って過去記事読んだ気がするよ。

        スペリオル湖に結構な大きさの島が複数ある
        ことにオドロイタ。キャナダ広大なり。

        • +1
      2. ※46
        だいぶ前は野犬の集団が廃墟とかに居て集団で来るから怖かったよ。
        最近見ないけど、今も野犬掃討してるとこもあるので検索してみてください。

        • -1
    1. >>23
      鹿やイノシシを狩れる動物って農家にも脅威だよ。ヒグマくらい戦闘能力あるのがウロウロするわけだから。
      でも、猿の対策に犬を放し飼いしてるところはある。鹿やイノシシより猿の方が対策は難しい。犬の効果は抜群らしいです。

      • 評価
  17. 確かに神は動物を管理する権限を人間に与えた
    じゃ、神は人間の数をどう管理するか
    人間の理性化→出生率の低下、という自己抑制機能なのかな

    中国が一人っこ政策を止めたのに出生率低下が止まらないらしい。神の意志を感じる

    • -3
  18. 増えて餓死するまでに至ったから喰われて死ぬように調整するのか…
    農作物被害対策とかではなく

    • +2
  19. アイル・ロイヤル国立公園「おお、カミよ。彼らに神の祝福があらんことを」

    • 評価
  20. 空中からパラシュートで狼を投下したと勘違いされて話題になったそうな

    • 評価
    1. ※36
      群狼空挺隊とかいう謎ワードが閃いた

      我が厨二病、未だ健在なりorz

      • 評価
    2. >>36
      自分も一瞬そう思ったけど
      狼さん🐺達が安全に着地出来るとは限らないし
      自分でパラシュート外したり出来ない筈だから
      違うよな、と思った

      • 評価
  21. 家畜を襲うからと言って駆逐されて
    増えた草食動物が作物を荒らすと言って繁殖させられて…
    不憫な動物だなあ

    • +4
  22. ヘラジカさんもモンスターやからなぁ
    しかし数千頭が餓死ってやばいな。死肉だけ食っていけそうな気がする

    • +3
  23. 人間が偉そうにすべての命をコントロールする感がうぜー

    • 評価
  24. 一方イエローストーンでは、926Fと名付けられた伝説の雌狼がハンターに射殺された。
    彼女が生まれた翌年、母親も同じく射殺され、その後必死で子育てをして7年半。
    今、狼の大虐殺が進行してます。人間の都合で減らしては増やし、また減らす。
    報いあれ。

    • 評価
  25. 外国産トキを繁殖させてる日本があれこれ言える立場じゃないわな

    • +1

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