この画像を大きなサイズで見る等身大ほどある西洋風の服を着た男の上には大きなトラ。トラは男の首元にかぶりついている。これは機械仕掛けの木製のオートマタ(自動楽器)である。
トラの脇腹についているクランクを回すと機械が作動して、トラがうなり声をあげ、男は腕が上下しながら叫び声をあげる。
「ティプーのトラ」として知られるこの機械じかけのトラは18世紀に作られたもので、当時南インドのマイソール王国の君主であったティプー・スルターンが作ったものだ。
これはインドを植民地化しようとしたイギリスに対する敵愾心(てきがいしん)を明白に表わしたものである。「ティプーのトラ」を通してその歴史を見ていこう。
激戦が繰り広げられていた南インド
インドを植民地にしようとするイギリス東インド会社とマイソール王国との間では激戦が繰り広げられていた。18世紀後半から4度に渡って行われたマイソール戦争である。
戦争も第四次となり大詰めを迎えていた時、イギリス東インド会社のふたつの部隊を率いていたイギリスのアーサー・ウェルズリー大佐は、セリンガパタムの砦を守っている者が午後1時に休憩をとることを知り、そのタイミングで攻撃しようという計画をたてた。
1799年5月4日、イギリス東インド会社と強大な君主ティプー・スルターン率いるマイソール王国との戦いの最後の日。
この画像を大きなサイズで見る予定どおりの時間に、76人の男たちが水深1.2メートルのコーヴェリ川を素早く渡り、わずか16分で塁壁をよじ登って、砦になだれ込んだ。
不意をつかれたティプー側の兵たちはたちまち征服され、2時間で砦は完全に陥落した。
のちに、砦の内部にあるトンネルのような閉鎖された通路で銃弾でハチの巣になった「マイソールのトラ」の異名を持つティプー・スルターンの遺体が発見された。
この画像を大きなサイズで見る勝利したイギリス軍はマイソール王国の宝を略奪し、数週間かけて宝庫をすっかり空にして、戦利品を英軍内で分配した。
戦利品から発見されたティプーのトラ
しばらくして、宮殿の音楽室から興味深いものが見つかった。それは、トラが西洋風の服を着た男を襲っている大きな木製のオートマタ(自動楽器)だった。
この画像を大きなサイズで見る等身大の男が仰向けに横たわっていて、トラが彼の首元にかぶりついている。
トラの脇腹からはクランクが飛び出していて、それを回すと内蔵されている機械が作動して男の腕が上下する。
同時にトラがうなり声を発し、哀れな男が苦悶の叫び声をあげる仕掛けになっている。トラの体のフラップは開くようになっていて、18の音符を奏でることができる小さなオルガンのキーボードのようなものが現われる。
この画像を大きなサイズで見るティプーのイギリスに対する敵愾心の現れ
「ティプーのトラ」として知られるこのティプー・スルターンの機械じかけのトラは、イギリスに対する敵愾心を明白に表わしている。
これは父親ハイダル・アリーと同じ感情で、彼が子供の頃から抱いてきた思いだった。ハイダル・アリーはイギリスを王国の拡大を妨げた不倶戴天(ふぐたいてん)の敵とみなしていて、ティプーも激しい反英感情をもって育った。
1792年、第三次マイソール戦争の敗北後、ティプーは多額の賠償金とともにマイソールの領土の半分をイギリスに譲渡しなくてはならなくなった。このオートマタはその後で作られた。
この画像を大きなサイズで見るティプーの紋章はトラ。トラはティプー自身
ティプー個人の紋章はトラだったため、トラのモチーフは玉座、武器、甲冑など彼の宮殿のいたるところで見られる。
トラの縞模様が壁や軍服にも使われ、生きたトラも宮殿内で飼われていた。ティプー自身が自分につけたニックネームも”マイソールのトラ”。
だから、この「ティプーのトラ」は彼のイギリスに対する勝利という希望を象徴的に表しているといっていい。ティプーはよく自らクランクを回してこのオートマタを奏で、イギリス人が苦悶に泣き叫ぶ声を聞いて楽しんでいたという。
当然のことながら、イギリス側はおもしろくない。この精巧な機械を発見したとき、東インド会社総督は、「ティプー・スルターンの傲慢と野蛮な残虐性の記憶」や「スルターンのイギリス人に対する極端なまでの憎しみと嫌悪の証拠」といった記録を残している。
この画像を大きなサイズで見る現在は修復不可能ながら人気の展示物であるティプーのトラ
しばらくの間、「ティプーのトラ」は東インド会社博物館の読書室やロンドン図書館に展示され、人気を博した。
誰でも機械のクランクを回して叫び声を聞くことができたからだ。クランクのハンドルは酷使されたせいで数年で壊れてしまい、展示されていた読書室を利用していた学生たちはほっとした。
1880年、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館がこのオートマタを手に入れて、それ以来、この施設で一番人気の必見展示物となっている。
だが壊れやすいため、現在は操作することはできない。第二次大戦中、爆撃で博物館の屋根が崩落したとき、このオートマタは粉々に破壊されてしまった。戦後、丁寧につなぎあわされたが、もう音は出ない。
以下はメンテナンス時の映像なのだが、どれだけ大きいかがわかるだろう。
最近、「ティプーのトラ」はインドの英国支配への抵抗やイギリスの偏見、侵略を研究するための不可欠な展示品となっている。
博物館のショップでは、ポストカード、模型キット、ぬいぐるみなど、さまざまなお土産のモティーフになっている。
References:Tipu Sultan’s Mechanical Tiger | Amusing Planet/ written by konohazuku / edited by parumo
















音が出るレプリカ作ったりできないのかな
音が聞けないの残念。読書室には置かないで欲しい。
トップの画像だけ見てなんだコレwwwと草生やしてしまったが
記事読んだら非常に重い意味のあるものだと考えを改めさせられた
歴史的にも貴重なものだと思うだけに音が出ないのが悔やまれる
おっと待った!俺を食べるのは
思ったよりデカかった!
本題からズレるけど、西洋諸国の植民地化が正当化されたように感じる文面を見ると嫌気が差しますね。
植民地って、国家奴隷みたいなもので、そりゃ抵抗もするわな。
※8 どういう読み方をすればそうとれる?どう考えても侵略したイギリスの方が悪いように読めたよ俺は。
※26
米主なんだが、イギリスが悪いのに正当化しているように見えるって意味のつもりだったんだけど、逆読みされる書き方だったのかな?
表現下手ですまん
動画見たら予想外に大きかった
トップの画像みて手のひらサイズだと思ったら
オートマタは普通、自動人形と訳す。原文ではmusical automataとなっているから、自動楽器と訳さず、音を奏でる自動人形とでもすべき。
ウッディかと思った。
でかくてびっくり
思ったより大きかった
なぜか手のひらより少し大きいサイズだと思ってたw
敵の敵は味方? 内部のメカニカルな部分を担ったのは連携関係にあったフランスの技術者らであろうとされているのが面白いですね。ノリノリで作ったのでは…。スルターンが作らせたものかフランスが贈り物として作ったのかどうなのでしょうね。
人が演奏するパイプオルガンの部分は生き残っているらしく動画で聴くことができますが、虎・人がうめくという失われた機構(この部分が「自動演奏」にあたるのでしょうか)が再現できないのは残念。フランスさんの古き自動人形研究を持ってして想像上の再現できないものなのだろうか。
(虎の造形が実に愛らしい、この部分だけ欲しい)
しかし、何キロあるんだコレ
軽く人が押し潰されそうだな
インドは昔ムガール帝国だった。
しかし中央集権国家では無く藩王国の集合体であった。
それぞれの藩王国同士は隣接する藩王国と仲が悪かった。
そこに目を付けた英国は互いに武器と資金を供与し争わせた。
撒けた藩王国は解体され、勝った藩王国も英国に借金が返せなくなり
どちらも英国の植民地と成り果てた。
こうして英国は数十倍も大きなムガール帝国を植民地にした。
そんな事ばかりしていれば恨みを買うからこのようなオートマタを作られてしまうんだろう。
※18
なおあんな事をした所は恨みを買ってかのようなを作られてしまいました
何故か僕にはわからない宇宙の友人たちよ教えてくれ
ヨーロッパの移民、多人種は植民地主義のツケだといわれているからね。異民族への侵略行為は何百年も尾を引くわけだ。
オートマタっていいよね
昔澁澤龍彦の本で読んで一体どんなものなんだと想像を掻き立てられたなぁ
>アーサー・ウェルズリー
どっかで聞いた名前だと思ったら、ナポレオンと戦う前のウェリントン公はこんな所にいたのか
オレもこのオルガンがテーブルくらいの大きさなので驚いている
作られた経緯がずいぶんと重たいな…
おそらくほかの人もそうだと思うけど、日本のからくり人形的なサイズ感を想像してたら予想をはるかに上回るデカさでびっくりした。
動画で出てきた技術者が襲われてる人にちょっと似てる気がする(鼻とか)。
最初と最後に流れる音楽のタイトルは何でしょうか?
音が出ない状態なのは壊れやすいからあえてそのままにしてあるから?それとも直し方がわからないから?後者ならロスト・テクノロジーじゃん。
写真の時は、小さい玩具に見えてました💧