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実験室で培養された”ミニブレイン(脳)”が解き明かす人間の独自性(米研究)

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(著) (編集)

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 数年前、アメリカの研究者が、史上初めてほぼ完全な人間の脳を実験室で成長させたと発表して話題を呼んだが、今や脳は実験室で培養できる時代となった。

 問題は培養した脳で何を研究するかということだ。

 研究者たちは、ヒトの脳の特殊性、独自性を理解する為、白血球細胞から作成された幹細胞を使いミニブレイン(小さな脳)を培養し、研究している。

人間だけが持つ脳の独自性とは何か?

 神経科学者の父を持つアメリカ・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のアレックス・ポレン博士は、子供の頃から進化を通じて作り上げられたヒトの脳の独自性を知りたいと思っていた。

 ヒトの脳は他の動物よりも大きいが、それ自体は重要ではない。重要なのは、その体との比率における大きさだ。

 「ゾウやクジラの脳は人間よりも大きい」とポレン博士。しかしヒトとその他の動物の生体構造やゲノムを比較しても、我々の脳がそのような道筋をたどることになった遺伝学的・発達学的変化についてはほとんど分からない。

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培養された脳オルガノイドで分子メカニズムを解き明かす

 これまでの限界を突破するべく、今研究者が用いている新しい研究手法は、ヒト脳の特殊性の背後にある分子メカニズムを理解するためのものだ。

 先月開催されたアメリカ人類遺伝学会のシンポジウムでは、単一の脳細胞において発現した遺伝子を拡大して観察する方法や遺伝子が遠く離れた脳領域間で結合する仕組みについてに報告された。

 ポレン博士らは、脳オルガノイドという、実験室で培養した組織の小さな構造体を用いた実験で、未発達の脳の折りたたみや成長を司る分子メカニズムの詳細を解き明かそうとしている。

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左:培養された脳オルガノイド 右:オルガノイドの前駆細胞(紫)と神経細胞(緑)image credit:KRIEGSTEIN LAB

これまでの研究で明らかになった脳に関すること

 シンポジウムにおける発表の大多数は、記憶・注意・意識・言語・思考といった高度な認知機能を司る大脳皮質の発達に関するものだ。

 ヒトの皮質はチンパンジーの3倍細胞が多く、そうした余剰な細胞を小さくまとめやすくするために深いシワが刻まれているという特殊性がある。

 こうした違いは、胎児の最初期の発達段階において展開され始める。だが、この変化を指令する遺伝子やその情報をコード化した分子についてはほとんど分からない。

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 独マックス・プランク分子細胞生物学・遺伝子学研究所のヴィーラント・フットナー教授は、発達の最初期段階にあるヒトの脳で発現したタンパク質とその他の遺伝子産物のデータベースを探す方法について説明した。

 彼らは胎児の脳組織内で発達する細胞を囲む細胞外基質で発見された3つのタンパク質を、堕胎されたヒトの胎児から採取した培養脳組織に加えた。すると組織は妊娠20週目に相当するような溝を形成したという。

脳におけるヒアルロン酸の役割

 さらにMPI-CBGのケイティ・ロング博士によって、この3つのタンパク質が折りたたみを形成するのは、それらがヒアルロン酸という複雑なグリカン分子とひとかたまりになった後であることも発見された。

 ヒアルロン酸には、細胞間の信号を伝達したり、細胞を成長させたりといったいくつもの機能がある(化粧品に利用されるのはこのためだ)。

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 これまでもヒアルロン酸が神経線維に現れることは知られていたが、脳の発達にこれほど決定的な役割を担っている事実は今回初めて明らかになったことだ。

類人猿とヒトの脳オルガノイドの発達の類似性

 またフットナー教授は、マックス・プランク進化人類学研究所の研究者と協力し、脳オルガノイドを成長させている。

 脳オルガノイドはヒトや他の類人猿の白血球細胞から作成された幹細胞から成長したものだ。数週間あるいは場合によっては1年成長させ、異種間に見られる発達の違いを比較することができる。

 類人猿とヒトの脳オルガノイドの発達は驚くほど似ている。いずれも同タイプの幹細胞から形成され、これが前駆細胞となり、神経細胞に分裂し、やがて6層からなる脳組織へと組織される。

 しかし顕微鏡で幅4ミリの脳オルガノイドが発達する様子を観察すると、ヒトの前駆細胞が染色体を準備し、娘細胞に分裂するまでには50パーセント長く時間がかかることが判明した。ヒト細胞は中期の細胞分裂段階においてずっと長い時間的投資を行っているようなのだ。

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脳の新皮質の特定層に存在する細胞にカギが?

 米ハーバード大学医学大学院のフェナ・クリーネン博士は、fMRIで1000人の脳を検査し、ヒトの脳が大脳皮質の広範囲に渡ってシナプス結合を形成することを明らかにした。

 彼女の仮説によると、進化の過程で皮質を拡大させながら、領域間でより複雑な結合が可能になるよう再組織化が進められた。

 この発見以来、クリーネン博士は新皮質の特定の層に存在する細胞のリストを作ってきた。そして昨年、fMRIによって明らかにされた皮質結合領域と同じ場所で19の遺伝子のスイッチが入ることを発表した。

 マウスでは、これらの遺伝子は別の皮質層で発現する。なにやら、霊長類やヒトの進化の途上で、これらの遺伝子の活発化が発達段階のもっと遅い時点になるよう仕向けられてきたかのようだ。

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image credit:Primate – Wikipedia

遺伝子の発現と脳回路の変化をマップ化

 今、クリーネン博士は、彼女が博士課程の学生時代に在籍していた研究室が開発した新しい単細胞解析法を用いて、こうした結果を組織層レベルのものから1つの細胞レベルのものに突き詰めようとしている。

 彼女が目指すのは、脳細胞が長距離の結合を形成する際に、細胞タイプそれぞれにおいてどの遺伝子が発現するのか突き止め、さらには進化によって脳の回路にどのような変化が起きたのかマップ化することだ。

 こうした新しい研究方法が登場してからまだまだ日が浅い。しかし、1つ、ないしは2つ以上の遺伝子がヒトの脳の独自性を生み出したことはすでに明らかだ。

 これはヒトに起きたいくつもの出来事が協調して、脳という驚異の器官で蓄積された結果なのである。

via:bioethics / sciencemagなど written by hiroching / edited by parumo

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この記事へのコメント 42件

コメントを書く

  1. これって植物状態(って今言っちゃいけないらしいけど)と同じなのかなぁ。
    だとしたら今後、人権とかどうなるんだろ
    願わくば人口脳に意識がありませんように(´・ω・`)

    • +9
    1. ※1
      脳だけを培養した状態っていわばCPUだけで
      キーボードもモニターもない状態だよね。

      胎児だって手足や目を動かしたりするのに、
      この状態では意識どころか人間の脳としては
      ほとんど機能しないと思う。

      • +5
    2. ※1,※3
      意識の定義が定まってませんよね
      感情なら生存に好ましい、あるいは好ましくない事象が根源になるので感情が生まれる可能性は高いと思いますが
      医学的な意識の定義はありますが、この場合の意識の定義は定まっていないので
      むしろ積極的に進めたほうが意識に解明に繋がると思います

      • +4
    3. ※1
      目や鼻や耳などの入力機器はないから…
      でも触覚や嗅覚から知性を発露して言ったヘレンケラーが居たように、ある程度外部から刺激を受ければなんらかのレスポンスを発露する可能性も否定出来ないよね。存在するだけでストレスは受けるはずだから。

      でもハード、体がないから個人を形成、認知することは無いとは思う。

      • +2
    1. ※2
      これそのものが独自の知能を持つかもしれんのに接続して何すんねん

      • 評価
  2. 実験のレベルが進んでいくうちに実験体の脳組織に意識が生まれてしまったらどうするんだ…というのは心配しすぎかな

    • +4
  3. またぞろ倫理面で物言いがつきそうな研究ではあります。
    どの段階でどういう組織を発達させるかが遺伝子が活発になる時期に組み込まれてるのは目や皮膚もそうだし、指を作るためのアポトーシスもそうだと思う。進化が選択生き残りの結果だけだと思うのが感覚的に難しくなるくらい精巧な仕組みだとも思います。

    • 評価
  4. 「とんでるアイデア、試してブレイン~ 作ってワクワク ! 」
    「ワクワクさん、あんた、なんて物を作っちまったんだ・・・」

    • +4
  5. 某有名SF小説で犬の脳を使った宇宙船思い出した
    間違いなくこういう宇宙船は誕生しないと思うが
    IPS細胞にしろ素人の知識を吹っ飛んでいる現状が
    ちょっと怖い

    • 評価
  6. 人が理解できる出力が無いと
    思考が無いとは違う

    • +1
    1. ※9
      観測できない物はないものと見なさざるを得ない、それが科学(の限界)

      • +3
      1. ※17
        無いものとみなす
        というよりも
        観測できないし、有るかもしれないけど特に有用じゃないから今は考えないでおこう
        だね
        なんらか観測する手段が出来たらその時考えますってスタンス

        • +3
    1. ※10
      立て 要塞ワンセブン
      救えるものは 他になし

      • 評価
  7. さすがに何の刺激も与えていない培養細胞(しかも元は白血球)が
    十分な組織化も外界からの刺激も無しに意識を持つっていうのは
    魂こそが人間の本質である的な考え方に通じるものがあるな
    それならゴキブリホイホイのゴキブリの方がまだ確実に意識を持っている
    たぶん元になった胎児の記憶がとか面白おかしく書く人もいるだろうけど
    白血球が意識をつかさどるならヘルシングのアーカードみたいに
    血を吸っただけで別人になれることになってしまう
    そうすると献血も非人道的な行為ということになって以下略

    • +8
  8. 宇宙(ビックバン)は、何もないところから突然現れたって言われてて、それは生物の「意識」に似てるって誰かが言ってたな、この人工脳から新しい宇宙が誕生したりしてね。

    • 評価
  9. いよいよ意識の定義を明確にする必要がありそう

    • +3
  10. たとえ実験室の培養脳に意識が芽生えたとしても、外部からはそれに意識があるとは分からないから、意識が無いと言って問題ない。

    つまり、培養脳に意識は存在しない。
    例えあったとしても、実験室内で処理して発表しなければ良い。

    • -2
  11. 出血により死んだ脳細胞と交換して
    成長したのちに
    記憶以外の別の場所を切り取り移植
    それを繰り返し
    記憶を外部に保存できる技術ができ
    記憶を外部に保存
    そして脳を移植、記憶を定着
    さて彼は本物か?

    • +1
  12. 実験が終わったら、脳供養とかするんかしら

    • +1
  13. これを警察用ロボットに積んでロボコップに…

    • +3
  14. 気がつくとそこは薄明だった。私は眠り続けた、そしてたまに目を覚ました。私は海の上に浮かび静かに流れる音楽を聞き続けた。あるとき声が聞こえた、「この実験は中止します、上からの命令です。」やがて私の意識は混濁を始めた、意識が薄れてゆくなかで別の声が聞こえた、「あなたは母と呼ばれるようになるだろう、」

    • +5
  15. 神経系が、形として脳組織を創れるほどあるなら意識の元は有るだろ
    入力と出力が無いだけで

    • +2
  16. 脳のメカニズムの解析とかを研究している・・・ほんとうか?本当なのか?
    純粋に医学的研究だと?軍事利用目的ではないって!あんたが言ってても、このオレですら厨二脳がモリモリ、フル回転して悪用方法が湧き上がってくるんだが。
    ファイブ・○ター物語の○ファティマみたいな技術にも応用可能そうだな。いや、もっと何かスゲーやつ・・・悶々
     漠然とした未来像は、厨二脳で年中妄想しているが・・世界中の頭のいい奴ら更に斜め上いくから、世界相手に戦えん!(鳳○院狂ま風に)まさに現代はAnythingGoes♫(何でもあり)だな!
    最近でもないんだろうけど、科学技術って受け入れるとか、受け入れないとか議論する前にどんどん進んでいくのな・・・。もう、ついてけましぇん!
    でもさ、マジで考えていかないと・・・何かヤバーーーイ感じがする・・・
    この後、「おまえが考えんでも大丈夫だ」とかさみしいコメ書かないように
    クッスン

    • 評価
  17. この小さい脳が辛いとか怖いとか感じてたら悲しすぎるから、ほんと意識が無いといいな。

    • +2
  18. なんというか、
    どうなるのか?っていう期待と恐怖があるなあ。

    • +1
  19. 自立的にニューロン間の作用があることが物理的にわかれば意思と呼べるかもしれない
    神経組織だから少なくとも反射は成立してそう。そこから学習行動の有無、人間的な意思の観測はできるのか
    人間の倫理的な話をするとヒト以外の動物は意識がないモノとして多々扱うことがあるけど、脳の発達段階と構造によってその有無を定義する必要。
    ヒトでも言語機能が完成していない状態に意志があるかは正直怪しい気もする。出産直後のヒトの脳が完成しているとすると意思を認めることになるけど、その場合どこから個体の成長として、どこまでを種としての発生とするかを定義する必要。
    後者に関しては定義されてるかも知れないけど研究が進むにつれてこういった人間の常識、定義は変わるからね。未来が楽しみだね。

    • 評価
  20. 朝おっきしたら、目が見えない、耳が聞こえない、しゃべれない、匂いがしない、何も感じない、ただし、あたまのなかで考えることだけはできる。背中がかゆい気がするが、かけない。虫がもぞもぞする感覚だけはあるが、取ってくれ!と誰にも言えない。コレ!
    自分だったら耐えられるか自信ない・・・。
    しかし、どうやってその脳の「意識」の有無をみきわめるん?
    いくら脳に痛覚ないからっていって、電極ぶッさして活動部位から探るのか?(まあ、直接刺さんかもしれんけど)「かいいのーーーっつ」て感じてるのわかってくれるんかな?
    かいいときビーって電気刺激でごまかすんかな?ゾーー。意識がないことを祈ルウウウ!

    • 評価
    1. ※34
      赤ちゃんの状態がそんなかもしれませんね。
      とりあえず出力すると、大人には泣いているように見える感じ。別に悲しくて泣いているわけじゃないハズ。
      そのうち、あちこちの神経がつながり始めて、生理的微笑とか新生児微笑とか言われるものができるようになり、目が明るい暗いからピントを合わせたりすることができるようになり、目のコントロールができるとモノを追って見えるようになり、手足のコントロールができるようになって、体幹のコントロールができるようになると寝返り、ハイハイ、歩く、走るができるようと発達していきますね。
      いきなり全身義体化したときにはこんな風になるんじゃないかと。

      • +1
  21. 辛いとか怖いとかは経験による判断にすぎないので
    知覚する為の器官を持たず何も経験しない脳は何も感じることは無い

    • +1
    1. ※35 ※36 ※37 ※38
      あんがとやで!ちょっと冷静さ取り戻せたわ。
      論理的思考には言語化が必要←確かにそうだね。
      知覚する脳の部位を持たないなら痛い、かゆいとか感じない←確かに・・・。
      経験ガないことは、想像できない←確かに・・・確かに。
      究極的には人間だってそういったパーツの集合に過ぎないんやからね・・・。
      コレは寂しいとか、人間性を欠いているとかの問題として考えんで、ただこうした技術が出来たんねんけど・・・なんぞええことに使えへんか?とぐらいに考えとったらええ類いのことなのかも知らんな。できることと、個人的倫理観は別の問題やからな・・・。
      しかし、みんなあたまええな。ほんまサンキュウやで!

      • 評価
  22. 環境的教育をまったく受けない脳の中で、自意識ってのがどんな形で存在するのか興味があるな。五感もない、言語もない、音や映像という情報もない世界で、我は我という認識が生まれ得るのか。

    • +1
    1. ※37
      論理的思考には言語が必要なのでこのままの状態だと自我も生まれ辛いかと
      ただニューロンの数が増えて独自の言語や思考体型を生み出すまで成長する可能性も否定出来ない
      そうなったとしてもコミュニケーションを取る手段が無いから色々厳しい

      • +1
  23. 五感と記憶が無ければ脳は働かないと思ってたけど、よく考えたらそういった外部刺激に対する反応以外にも、遺伝子に組み込まれた欲求ってあるよね。
    生物の脳なら必ず繁殖欲があるのでは。食欲とかも潜在的に。それだけで思考が始まってしまわないか心配だ・・・。

    • 評価
  24. 類人猿をイメージさせる写真が載っていますが、このうちの一種はノドジロオマキザルであって、類人猿ではありません。
    オランウータンを入れるべきです。

    • 評価

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