iStock-531356649_e
Image by gremlin/iStock
 数千光年という気の遠くなる距離であってすら、一瞬で到達できてしまうワームホール――おそらく宇宙の旅を夢見る人たちにとっては究極の移動手段ではなかろうか?

 だが、それを実現するには少々技術的な難題を解決しなければならない。時空に近道を作り出すワームホールは、それはもう不安定なのだ。

 このほど『arXiv』(7月29日)に掲載された論文では、かなり安定したワームホールの作り方が紹介されている。

 そのワームホールとて結局は崩壊してしまうのだが、少なくともメッセージを、それどころか物体をも送れるかもしれないくらいには開いていてくれるという。

原理は簡単だがあまりにも不安定なワームホール

 原理としては、ワームホールの作り方はしごく単純だ。

 一般性相対理論によれば、質量とエネルギーは時空を歪める。この性質を利用して、それらを一定の条件を満たすように配置してやれば、宇宙の2点間をつなぐトンネルが形成される。

 残念ながら、そうしたワームホールは儚いほどに不安定だ。ちっぽけな光子ひとつを通過させるだけで破壊の連鎖が発生して、光よりも速く崩壊してしまう。
iStock-511059571_e
Image by :YuLi4ka/iStock

ブラックホールとホワイトホールをつなぐ

 もし相応の負の質量があれば、物質が通過することによる不安定化に抵抗し、利用可能なものにすることができるが、そんな都合のいいものは存在しない。

 そこで別の作戦を考案せねばならない。

 まずワームホールには入口と出口が必要だ。これはブラックホール(何者も逃れられない宇宙の領域)とホワイトホール(何者も進入できない理論上の宇宙の領域)をつなぐことで理論上は出来上がる。

 これらふたつをつなぎ合わせたものが、求めるワームホールだ。ぴょんっと飛び込めば、超重力で潰されてしまう代わりに、反対側にさっと抜け出すことができる。

 が、困ったことにホワイトホールもまた存在しない。ならばどうするか?
black-3698081_640_e
Image by Caspar With from Pixabay

チャージしよう。何を? 電荷を!

 起死回生の奇策は、どうやら数学が用意してくれた。その解決策とは、電荷を帯びたブラックホールだという。

 ブラックホールは電荷を帯びることができる(なお、その形成メカニズムゆえに一般的なものではない)。

 電荷を帯びたブラックホールの内部は奇妙な場所で、通常は点のようなブラックホールの特異点が伸びたり歪んだりしており、もうひとつの電荷ブラックホールとの間に橋を形成することができる。

 さあ、このワームホールなら、おそらくこの世に実在するだろうものだけで作ることができる!
wallpaper-3584230_640_e
Image by deselect from Pixabay

引き寄せ合う二人は虚無を作り出す

 しかし、これにもまだ2点ほど問題がある。

 ひとつは相変わらず不安定で、これを使おうとすれば、途端にちぎれてしまうことだ。

 もうひとつは、両端に配置された電荷ブラックホールが、重力と電気力によってお互いに引き寄せ合ってしまうことだ。

 無事、お互いが巡り会えたその瞬間、歓喜に満ちたバラ色の世界が誕生する――ことはなく、巨大で役立たずのブラックホールがひとつ残されるだけだ。

宇宙ひもを利用してブラックホールを離れ離れに

 したがって、ワームホールを望み通りに機能させるためには、ふたつの電荷ブラックホールを安全な距離まで引き離し、きちんと開いたまま維持しておかねばならない。

 その鍵を握るのが「宇宙ひも」だ。

 宇宙ひもとは、氷ができたときに生じるヒビにも似た、理論上の時空の欠陥だ。

 これはビッグバンが生じてから1秒にも満たない誕生直後の宇宙で形成された名残りで、幅は陽子よりも細いくせに、数センチも長さがあればエベレストよりも重たいという、きわめて風変わりな性質を持っている。

 ライトセーバーのようにキレッキレの切れ味で、人間などわけもなく両断してしまえるが、存在が確認されているわけではないので、あまり心配する必要はない。

 だからといって、絶対にないとも言い切れない。

ことワームホール作成に関しては、非常に便利な性質を持っている。張力がバツグンに高く、滅多なことではたわんだりしないのだ。

 だから宇宙ひもをワームホールの入口から入れて、出口まで通しておけば、その張力によって両端の電荷ブラックホールはきちんと距離が維持される。
space-3625701_640_e
Image by bluebudgie from Pixabay

暴れひもに手綱を

 こうして電荷ブラックホールが引き寄せ合う問題は解決されるが、ワームホールが崩壊してしてしまう問題は未解決のままだ。

 そこで宇宙ひもをもう1本通してやる。だが、こちらは電荷ブラックホールの間に広がる宇宙にも引っ張り出して、輪っかを作ってやる。

 こうして宇宙ひもを輪にするとくねくねと動く――それはもう激しく。

 このときの振動は時空を攪拌するのだが、これをうまい具合に調節して、周囲の宇宙エネルギーがマイナスになるようにする。

 すると負の質量のように作用して、ワームホールを安定させてくれる。

宇宙ひもが散る前に通り抜けよう

 なんだが、壮大かつややこしいかもだが、論文を読めば、ワームホールを作成する手順がステップバイステップで紹介されている。

 が、これも完璧ではないようだ。

 宇宙ひもの振動は、ひも自体からエネルギーを奪い取る――つまり質量が減少する。

 このためにひもは次第次第に小さくなり、やがては自滅してしまう。そうなれば、苦労して作り上げたワームホールもまた崩壊する。

 それでもメッセージや、物体さえきちんと通過させられるくらいには開いていてくれるというのだから、苦労して作る甲斐はあるというものだ。

 さあ、あなたはどんなメッセージを宇宙の最果てに送りたいだろうか?

 だが、とびきりロマンチックな伝言を考えるその前に、まだ発見されていない宇宙ひもを宇宙の最果てまで探しに行こう。

References:Traversable Asymptotically Flat Wormholes with Short Transit Times/ written by hiroching / edited by parumo
あわせて読みたい
ワームホールによるワープは可能。でも思っているより時間がかかり近道にはならない(ハーバード大学物理学者)


宇宙の二領域をつなぐワームホールが実験室で作られていた(スペイン)


超大質量のブラックホールにダークマターが加わることでワームホールが形成される可能性(英研究)


ブラックホールを超える不可思議さ。別の宇宙に物質を吐き出すホワイトホールの存在


タイムトラベルは実現可能なのか?理論上のいくつかの方法とパラドックス

Advertisements

コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 20:41
  • ID:ITQPTDs00 #

こういう話はワクワクするけど仮に技術が確立されたとしても
自分が生きてる間に体験する事は無いだろうなぁと考えると残念でもある

2

2. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 20:44
  • ID:hjkORVYy0 #

化学もオカルトだな

3

3. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 20:46
  • ID:qm336IO70 #

恒星間航行を可能にする技術を紐解く鍵になるか!?

…宇宙ひもだけに!宇宙ひもだけに!

4

4. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 20:47
  • ID:mAN21NqL0 #

良いこと聞いた。覚悟しろよ上司め

5

5. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 20:54
  • ID:Qe7APnjr0 #

なんだよ、結局無理ってことじゃんか

6

6. ナパチャット

  • 2019年09月05日 21:02
  • ID:xsznefzW0 #

出来るなら誰かがやってるだろ
宇宙は138億年も歴史があるんだから

7

7. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 21:04
  • ID:NUbL21CH0 #

うん
なるほど
宇宙ひもね
なるほど
アレだ
うん
なるほど

8

8. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 21:15
  • ID:CF5SAcFU0 #

大阪ホールは パラダイス♪

9

9. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 21:31
  • ID:LiCz21i60 #

理論的に可能ならいつの日か技術が追い付いたときに実現できる可能性があるな
人類より1万年進んだ技術を持つ知的生命が宇宙を自在に飛び回っててそのうち地球を発見してやってくる日ももしかしたらあるんじゃないか?

10

10. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 21:35
  • ID:QMOiV57B0 #

なるほどさっぱりわからん

11

11. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 21:39
  • ID:XbntudXi0 #

張力って引っ張る力じゃなかったっけ

12

12. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 21:48
  • ID:AnmNA8gB0 #

宇宙ひもは理論上、宇宙のエネルギーに対して一定の比率で存在するので、探しに行かなくても必ず目の前にある。
ただ人類はそれを認識できないし観測する方法もわからない。

13

13. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 22:20
  • ID:WO6fhbV.0 #

クリスティーナの方が面白かったぞ

14

14. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 22:49
  • ID:eqpTb0rI0 #

うーん電車賃ぐらいで利用できるなら興味湧くけど

15

15. 匿名処理班

  • 2019年09月05日 23:43
  • ID:MRV2h.lw0 #

ワームホールを作る為に、ダイソン球が必要になるのですね
判ります(作るのに何千年掛かるやら?)

16

16. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 00:31
  • ID:QrrZ6TZH0 #

>まだ発見されていない宇宙ひもを宇宙の最果てまで探しに行こう。

ならばまず、ワームホールを作らねばな。

17

17. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 02:19
  • ID:fOX7.Bc90 #

ワームホールの作り方が工作みたいでワクワクさんを思い出したわ。

18

18. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 03:16
  • ID:Cmac1M5z0 #

これ系の記事で珍しく分かりやすい解説

19

19. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 03:51
  • ID:ev8OK2sQ0 #

つまりこれ、通信や移動に使う位にワームホール開けておける理屈はついたけど、使うたびにブラックホールが一つできる厄介な代物と言う事でよろしいか?

20

20.

  • 2019年09月06日 04:29
  • ID:LayhexM20 #
21

21. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 05:43
  • ID:HEcjx9Nn0 #

今の技術って物理レベルでは到達しきってる状態だと思う。
ワープ、ワームホール、光速、量子etc
こんなのを実現できるような技術イノベーションが起きるのって
奇跡レベルだと感じるしそこまで到達する前に人類が亡びそう

22

22. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 06:16
  • ID:CdD.hzck0 #

「かんたん!だれでもつくれるミニワームホールのおまけ付き!」月間幼稚園2519年4月号。



こんな時代が来るのかな?

23

23. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 06:25
  • ID:2r16HlVw0 #

アローヘッド計画

24

24. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 06:29
  • ID:m8VN1cbq0 #

例の紐かな?

25

25. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 07:59
  • ID:fC.kBgh30 #

エル・プサイ・コングルゥ

26

26. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 08:36
  • ID:sldKcNsN0 #

暗黒ホラー軍団
「トランスポーテーション!!」

27

27. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 09:54
  • ID:nK6bwxp00 #

※26
ガイキング「フェイスオープン」。

28

28. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 10:10
  • ID:pXi5mglI0 #

>>17

「今日はね、ワームホールを作るよ!」

「ワームホールぅ?わ、おもしろそー」

29

29. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 10:53
  • ID:I7OrK1SO0 #

この春一般相対性理論(ワームホールやらを扱う分野)の授業を取ったのだけれど、信じられないほど計算が面倒くさい(死ぬほど添え字が出てくる)上に、物理的直感も働きにくいしすごく苦労した。こういう分野で学者として生きていける人は本当に凄いな……

30

30. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 11:34
  • ID:vsEdU.Kb0 #

宇宙ひものリンク先を読んでみたけど1ミリたりとも理解できなかった自分なので、深くは考えないでだれかが実用化してくれる日をおとなしく待つことにします…

31

31. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 12:20
  • ID:v4Ifyfvg0 #

要するにあれやこれやを条件に合うようになんやかんやうまい感じで調整すれはいいのね

32

32. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 14:39
  • ID:5MOwXvM10 #

※1
そう悲観しなくても、ある時ブレークスルーがあれば、あっという間にコモディティ化するかもですよ。
気球は飛んでましたけど、いわゆる飛行機は 1903 年に飛んで、だれが 70 年も経たずに人類が月に降り立つなんて考えていたでしょうか。
あるいは 1816 年ごろ有線で情報を伝えるための仕組み=電信が実験されましたが、最初は複数の人々のために、それが 200 年も経たずに個人が互いにいつでもどこでもだれとでも情報を互いに伝えることができるようになりました。個人宅でそれができるようになるには 100 年くらい前に、 50 年くらい前だと近所のお家に電話を仮に行くのも当たり前で、 30 年くらい前には無線式の電話(いわゆる自動車電話)が一般的になり、 20 年くらい前には個人で電話を持つようになり、10 年くらい前には音声だけでなく、いろんな情報のやり取りが多様な仕方で非常に簡単にできるようになりました。
もしかすると、来年、水素原子をワームホール経由で持ってきたり、送ったりのどちらかができるようになるかもしれません、 10 年も経たずに無生物を送れたりするかもですよ。生物まで何年かかるかな?……そんな楽しい妄想も良いのではないでしょうか。

33

33. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 15:19
  • ID:idvQMNXm0 #

なんだかよくわからんがテンションは上がった

34

34. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 15:43
  • ID:G7HNOlcq0 #

ワームホール、やけに詳しい解説動画見たことあるけど、正直よくわからなかった。
たしかセクプジャ動画チャンネルか世界ゆっくり紀行のどっちかだったけど、難しかった。

35

35. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 19:31
  • ID:WsNIwJ0l0 #

宇宙ひもって、なんとなく手塚治虫テイストがあるワードだよな

36

36. 匿名処理班

  • 2019年09月06日 20:53
  • ID:47iM2cHR0 #

1番魔法に近い学問は物理だと思ってる

37

37. 匿名処理班

  • 2019年09月07日 00:51
  • ID:HkLfIXla0 #

そうか…そういうことだったのか…
ワームホールとは…宇宙ひもとは…ゲッターとは…

38

38. 匿名処理班

  • 2019年09月07日 05:36
  • ID:mwrSjjhB0 #

いまの科学力より数千年進めば使えそうですが、現時点でも真空から突然物質が現れて消滅することは確認されています

39

39. 匿名処理班

  • 2019年09月07日 08:50
  • ID:vIbNpZaM0 #

※22
知育玩具で原子炉制作キット売っていたアメリカならやりかねない

40

40. 匿名処理班

  • 2019年09月07日 12:15
  • ID:rFjaRGY90 #

地上でやる事ではないので宇宙空間で重い元素を加速させてて連続的に同一点で核融合し続ければ空くかもしれん、元素供給止めてブラックホールが消滅するならいいけどある程度大きくなると制御できんから気を付けてね

41

41. 匿名処理班

  • 2019年09月07日 13:04
  • ID:XwkcG2Ng0 #

>>23
霧の中に…!!

42

42. 匿名処理班

  • 2019年09月07日 14:40
  • ID:5BExxVMO0 #

ホワイトホールが数学の数字遊びでしか存在しない机上の空論なんだよなぁ・・・

43

43. 匿名処理班

  • 2019年09月07日 16:02
  • ID:r7ihmpmt0 #

宇宙にあるすべてのエネルギーを集めても足りないくらい燃費悪そう

44

44. 匿名処理班

  • 2019年09月07日 23:42
  • ID:7iLyJJbE0 #

宇宙ひもが観測されて存在が実証されるのはいつになるだろう…。

それよりもダークマターはまだ検出されないのかな?!

45

45.

  • 2019年09月15日 14:37
  • ID:AZ7oJOZF0 #
46

46. 匿名処理班

  • 2019年09月15日 21:21
  • ID:KG84zCcU0 #

>>2
化け物の学問ですからな

47

47. 匿名処理班

  • 2019年10月03日 01:10
  • ID:.3xs8fhl0 #

まずはコールドスリープ実用化してくれ
んでもっと技術進んだら起こして

48

48. 匿名処理班

  • 2019年10月06日 00:35
  • ID:Kmf8ISBD0 #

ブラックホールって電界の分布とかどうなっているんだろう
そもそも電磁気学の理論が通用するものなんだろうか

お名前
Sponsored Links
記事検索
月別アーカイブ
Sponsored Links
Sponsored Links