顧客のライフスタイル、行動心理学、嗜好性などのデータを分析して販売戦略を構築するのは企業の常識だ。フェイスブックやツイッターなど、Web上で人と人がつながる社会的ネットワークサービス、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)運営企業も例外ではない。
企業は利益を上げていかなければ存続できない。利用者を満足させ、従業員の生活を保障し、税金を納めることで国や地域に還元することで成り立っていく。
時として、企業の仕掛けた緻密なテクニックにより、自分で選択し、行動しているつもりが、実は操られているなんて場合もある。
SNS企業も様々なテクニックを駆使して、人々の動向を分析し、関心を引きつけていく。ここではSNS企業の行っている10のテクニックを見ていこう。
10. 赤の心理学
References:‘Wear red, get noticed’ – and other subtle psychological ways colour affects us
赤い色は、危険や警告を連想させる。学童を対象とした研究によると、赤い表紙の冊子でテストをすると、黒や緑の表紙の場合よりも成績が落ちるという。これは赤が、無意識のうちに忌避行動を連想させるからだと推測されている。
フェイスブックが初めに採用した通知アイコン(既読していない時に現れる数字を表示したアイコン)はサイトの色に統一した青であった。しかし、これはあまり効果がなかったため、赤に変更された。
赤いアイコンは非常に効果的で目を引く。今では数多くのアプリで通知には赤いアイコンが採用され、ユーザーの利用を促すようになった。
9. 承認欲求を満たす。「いいね」や「リツイート」ボタンは正の強化
References:Social Media Triggers a Dopamine High
「いいね」や「リツイート」ボタンは、ユーザーを再びSNSに戻すための正の強化(行動の結果、好ましい刺激が与えられ、さらにその行動をとるようになる)である。
他者からこうした評価をもらった人の脳では、ドーパミンが放出されている。これは何かを達成した時と同じ現象だ。
しばしばスマホへの通知のような報酬の前触れすらドーパミンの放出を引き起こす。ユーザーが他者からの承認を得られるツールを組み込むことで、SNS企業は彼らがプラットフォームに戻るように仕向け、さらに正の強化の循環が生まれる。
8. 変動報酬システム
References:'Our minds can be hijacked': the tech insiders who fear a smartphone dystopia | Technology
脳で欲求を司る側坐核(そくざかく)は、ご褒美を期待している時に最も活発となる。この物事への願望を発動させる最も効果的な方法は、ある行動によって報酬がもらえるかどうか分からない状況下で、頻度が変化する強化を行うことだ。
そうなる理由は、人が未知のものに熱狂し、その結果に長く固着するようになるからだ。こうした変動報酬システムを利用した古典的な機器がスロットマシンである。このメカニズムはギャンブル依存症の原因になるとも主張されている。
SNS企業は変動報酬システムを利用して、ユーザーにプラットフォームを求めさせる。
ツイッターはコンテンツのアップデートにプルダウン法を用いる。自動的に新コンテンツが投稿されないために利便性は落ちるが、どんなコンテンツが溜まっているだろうかという期待を生み出し、ツイートを見たいという気にさせる。
フェイスブックのようなニュースフィードを利用するSNSは、関心あるコンテンツと関心のないコンテンツを混ぜることで変動報酬システムを実現する。面白そうなコンテンツを読むために、ユーザーは画面をスクロールさせねばならない。
画面のスクロールは、スロットマシンにコインを入れる心理と同じだ。人は次の報酬を求めて検索を続けるよう動機付けられる。
ユーザーが面白いコンテンツという報酬を求めてフィードをスクロールするということは、つまりプラットフォームに長く止まり、それだけ多くの広告を目にするようになるということだ。
7. ネガティブな感情を利用
References:Facebook admits it poses mental health risk – but says using site more can help | Technology
人は、退屈や不安など、ネガティブな感情を味わっている時の方がSNSを利用しがちだ。そうすることで嫌な気分から目をそらせられるからだ。
ある研究によると、人は落ち込むとメールを確認する回数が増えるという。メール受信によって生じる軽いドーパミン放出を必要とするからだ。
SNS企業も、ユーザーがネガティブな感情を味わっている時にSNSを見る習慣を身につけて欲しいと思っている。そのためにフィードバックを操作し、落ち込んだ時だからこそ投稿に「いいね」がつくようにする。
例えば、インスタグラムは投稿した写真への「いいね」を保留して不安感を煽り、突然「いいね」のラッシュを流す。
アルゴリズムによって、様々な状況においてどのタイミングで情報を流せばユーザーが最も戻ってきてくれるのか、計算しているのである。
この戦略はかなり問題がある。SNSの長期的な利用が人の幸福感を悪化させることが判明しているのだ。
・世の中に不幸な人があふれている理由。余暇の過ごし方が幸福度を押し下げていた(アメリカの若者の場合) : カラパイア
6. 社会的証明の利用
References:Harnessing the Science of Persuasion
社会的証明とは、ある状況において正しい振る舞いをするために、他人の行動を真似することを意味する心理学用語だ。
古典的な実験では、すでに多くの署名を集めた誓願書の方が、より多くの署名を集めやすいことが分かっている。似たようなものとして、投げ銭がたくさん溜まっている大道芸人の方が、より多くの投げ銭を集められるという事例もある。
SNSではユーザーに長く留まってもらうために、友達の活動を知らせる。しばらく利用に間が空こうものなら、メールで友達があなたのいないところで何をしているのか知らせ、見逃さないようにと促してくる。
フェイスブック上でメッセンジャーを使う唯一の方法は、ユーザーがオンラインであることを全員に公開することだ。フェイスブックはあなたの友達がオンラインであることを必ず知らせてくる。社会的証明を利用して、みんながやっているのだから、あなたもやるべきだと思わせるのだ。
5. 社会的相互関係
References:What is "brain hacking"? Tech insiders on why you should care
社会心理学で相互関係とは、親切にしてくれた人には親切を返す社会規範を指す。例えば、チャリティでは氏名入りの名札を送り(安価に作れる)、その見返りとして寄付を求める。
SNSでは、自分のページをよく閲覧している人を表示する。そうすればユーザーが相手のページを見るようになるからだ。
フェイスブックなら、メッセージを読めばそれが相手に通知される。すると、相手はそれに応対するよう仕向けられる。スナップチャットなら、「ストリーク」という機能があり、友達と連続でメッセージを送りあった日数が分かる。
4. 権威に弱い心理を利用する
References:Shadow profiles - Facebook knows about you, even if you're not on Facebook
人は権威があると思われる人物の指示には従いやすい。化粧品メーカーによっては、販売員の制服が医師の白衣に似たタイプのものもある。販売員が権威的に見えるようにするためだ。
ウェブサイトに関しては、実在の組織があり、プロ向けのデザインで、使いやすく、さらにサポートに問い合わせがしやすかったりすると権威があるとみなされるようになる。SNSがこうした要件を備えると、ユーザーは個人情報を安心して開示するようになる。
またプライバシー設定にもトリックがある。
そのデザインにはダークカラーが使われる。また隅の方に南京錠のマークが表示され、情報のセキュリティが万全であるかのような印象を与える。だがここにも仕掛けがある。
例えば、フェイスブックのメッセンジャーをダウンロードして、携帯電話と同期するか質問されたことがあるかもしれない。その回答の選択肢には、「はい」か「後で」しかない。これに同意すると、ウィザードによって連絡先が同期される。
フェイスブックはこうした情報を基に”影のプロフィール”を作成する。これはそのデータを利用し、広告販売につなげる為だ。
3. 友達の投稿と同じようなフォーマットで広告を表示
References:Brands Are Not Your Friends
SNSは今や世界中で多くの人が利用する。それを運営するには設備や最新技術、従業員が必要で、莫大なお金がかかる。だが基本的にSNSは無料で誰もが利用できる。
ではその利益はどのようにしてあげているのか?
そこでプラットフォームにユーザーに広告を表示する。ニュースフィードに流れる情報は、友達がシェアした情報と同じフォーマットで広告が流される。その広告も各ユーザーのSNSの内容を分析し、興味のありそうな広告を挿入するのだ。
誰もが同じ広告ではない。ユーザーの特性に応じて広告は自動選択されている。時にクッキーを利用し、どんなサイトをどれくらい閲覧したかのデータも分析しながら最適な広告を選んでいる。
2. フェイスブックに集められるユーザー情報
References:#109 Is Facebook Spying on You? by Reply All from Gimlet Media
SNS企業は広告主にユーザーの情報を販売することがある。だがそれだけではなく、フェイスブックはユーザーのインターネット利用状況を追跡している。
フェイスブックのアイコンが表示されたサイトには、そこにアクセスした人の情報が自動的にフェイスブックに報告される仕組みがある。
さらにフェイスブックはクレジット報告を売る企業から所得や訴訟の有無といった情報を買っている。そうした企業はスーパーマーケットのポイントサービスの情報を買い、消費者の支払い状況をチェックしている。
プライバシー設定を変更しないかぎり、フェイスブックはユーザーの位置すら追跡できる。最近では、フェイスブックが電話やメールの履歴のログをつけていることが明らかになっている。
データベースには52000もの項目があり、これに基づきユーザーは分類される。フェイスブックの広告設定では自分がどのカテゴリーに属しているのか見ることができる。
彼らが集めた情報は、そのユーザーに表示する広告を決めるために利用される。問題となっているのはSNS企業がこうして集めた情報をほとんど誰に対しても売ってしまうことだ。
1. サイコグラフィックスの利用
References:The myth of Cambridge Analytica’s power
サイコグラフィックスとは、心理学的属性のことで、個人の性格を分析する方法のことだ。ある研究によると、コンピューターはフェイスブックの「いいね」を300ほど解析するだけで、家族や友人よりも正確にその人の性格を判断することができるという。
また別の研究では、知性と雷やカーリーフライ(くるくるしたフライドポテト)への嗜好とに高い相関があることが分かっている。ハロー・キティが好きな人は、開放的だが、感情的に不安定な傾向があるそうだ。
ケンブリッジ・アナリティカ社は、人を操作するためには、何が人を動かすのか理解せねばならないと考えている。過失が取り沙汰されているフェイスブックは、ケンブリッジ・アナリティカ社にサイコグラフィックでユーザーを分析させ、それに合わせた政治広告を表示していた。
このターゲットキャンペーンの実際の影響は議論されている最中だが、同社はその手法によって巧みに人の心に影響を与えることができると考えている。
written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1.
2. 匿名処理班
こういうのが「仕事をする」てことだと思う
3. 匿名処理班
この記事を見ていると、ほかの記事の「無意識のバイアス」ってもう日常的に商業利用されているんだなって、思えてくる。
とにかく、この利用が行き過ぎて、内戦とか動乱とかそういう方向に行かないように願いたいものだけどね。
4. 匿名処理班
物理現実で友達がいない人への物理的供給は
どの企業もいまだに成功していないな。
5. 匿名処理班
古くはスーパーマーケットの棚配置で消費者を誘導している
6. 匿名処理班
テレビに踊らされていた者たちの子供がsnsやまとめサイトに踊らされる
依存する媒体が変わっただけで蛙の子は蛙なのだ
7. 匿名処理班
>承認欲求を満たす。「いいね」や「リツイート」ボタンは正の強化
SNSをやってない自分にとって承認欲求を満たす唯一の場所はカラパイアのコメ欄なんだけど、SNSやるより自分の人生はシアワセだと確信してる。ありがとう、パルモ!
8. 匿名処理班
身内用や友人用とかアカウント分けないとタイムラインを見て小言を言ってきたり詮索してくる人が一定数いるものなのだと学び、最近はSNSをやってないかな。
自分の環境ではメリットよりもデメリットの方が多かった。
9. 匿名処理班
※6
実は未だテレビにも踊らされ続けてるんだよなぁ。
過剰報道ややらせ番組を信じて、ネットで派手に拡散なんて珍しくも無いよ。
常に何かに踊らされるのは、もう世の常なんだろう…。
10. 匿名処理班
SNSに嵌らなくて良かったと思った
11. 匿名処理班
心理ばっか重視して誠意を軽んじた結果、客も商人も騙しあいするようになったね、残念なことだ
12. 匿名処理班
9. 承認欲求を満たす。「いいね」や「リツイート」ボタンは正の強化
>スマホへの通知のような報酬の前触れすらドーパミンの放出を引き起こす。
ツイッターがこれを思いっきり利用してるね。
あまりアクティビティ(いいねとかリツイートとか)のないアカウントだと、
「フォロワーAさんがXXさんに返信しました」
(XXさんは、全く知らない人)
「フォロワーYさんがZZにいいね!しました」
(リツイートじゃなくて、わざわざ他人のいいね!を紹介している)
という感じの、アホみたいな要件の通知を送ってくるようになる。
13.
14.
15. 匿名処理班
広告は消しちゃってるからなぁ
ごめんねー 工夫してる人達
16. 匿名処理班
会議は踊る、ええぢゃないかええぢゃないか、ジュリ扇もってお立ち台。
踊らされるのもまあ人生の醍醐味です。
17.
18. 匿名処理班
蓄積された行動データで人は丸裸にされてしまうんだなぁ
莫大なデータとそれを深層学習するAI
群体としての人を操作する試みは遥か昔から続いているけど
いよいよ本格的かつスマートに操作されうる時代が来そうだな
19. 匿名処理班
こうやって一般大衆はコントロールされていくんだなあ
陰謀論()とか本気で信じちゃう人がいるのも解らなくも無いわ
(自分の様に心の奥底では性善説を信じたい人間には哀しい事だけど)
20. 匿名処理班
※2
投稿に似せた広告だとかいいねの保留だとか仕事は仕事でも余計な仕事だな。
21. 匿名処理班
あらゆる場所でこの手の心理戦術は使われていてもはや避けることは出来ない
ので、こういう事が行われている事を前提に思考や判断ができるようになる教育が必要だろう
22. 匿名処理班
こわいな〜
※21
そういう思考に「陰謀論」のレッテルを貼って貶めているから
23. 匿名処理班
なんとなく感じていたことをハッキリ説明してもらった感じだ。
24. 匿名処理班
心理学的トリックというと、最近読み直していた本に、体験談風のCMをやらせで撮るのはマナー違反だと書いてあって腰を抜かすほど驚いた。やらせが当たり前だと思っていた視聴者の自分もじつは非常に毒されていたのかもしれない。本当は当たり前にように世にあふれていたらダメなものなのではなかろうか。
25. 匿名処理班
IT企業は非倫理的、非競争的、反社会的なことを割と当たり前にやっているが、人は知らないか慣れて気にもしなくなるんだ。考えてもみればいい。何故我々はコンピューターを自分がどう使うかについて、たかだか企業につべこべ言われなければならない?OS自体を自由にできないことにについては企業の所有だからいい。しかし、コンピュータで何をするか、どの機能を使わないかについて、監視したり指図し、強制できるなんて間違ってる。企業は行政機関でもなければ法執行機関でもない。これは完全に越権行為だ。
IT業界では愚かなユーザーを下位に置くことが常態化したために、様々な越権行為が日常的に行われている。これは陰謀でもなんでもなく、年(IT業界では極めて長い時間だ)単位でズレていく倫理観とその変化に気づかないか慣れていくユーザーの共依存的で奇怪な、酷く歪な関係と事実だ。
26. 匿名処理班
>2. フェイスブックに集められるユーザー情報
さらっととんでもないこと書いてるぞ。
ユーザーがどんなページを閲覧して、購入履歴や、通話やメールの履歴を監視して、しかもその情報を売ってるって・・・
それが合法と認められてるの?
おかしいでしょ。
27. 匿名処理班
>関心あるコンテンツと関心のないコンテンツを混ぜることで変動報酬システムを実現する。面白そうなコンテンツを読むために、ユーザーは画面をスクロールさせねばならない。
SNSやめた理由がこれ
広告だけでも鬱陶しいのに高確率でわざとヘンテコな投稿をオススメしてくる
28. 匿名処理班
※27
昔のツイッターは他人のいいねだとか広告だとか表示されない、実にシンプルなデザインだったのにね
どんどん改悪されていってるわ
29. 匿名処理班
未成年(思春期)に一番悪影響なのはSNSって研究結果あったよね
30. 匿名処理班
※26
フェイスブックをやっている人のアドレス帳に入っている自分の情報が勝手にフェイスブックの会社に漏れてしまう。
自分は自分の情報を提供する事を承諾していないのに勝手に搾取されてしまう。
皆で訴えてこの会社をつぶせないものなのだろうか?
と、いろいろなソーシャルな会社に対して思ってしまいます。
でもみんな気にしていないんだよね。
「みんながやっているのだから、あなたもやるべきだと思わせるのだ。」
31. 匿名処理班
こんなこともあろうかと、
フェイスブックやLINEなどには登録していない( ̄ー ̄)ニヤリ