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虫の世界は劇場よりドラマティック!「クモを利用する策士、クモヒメバチ ― 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い」

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(著)

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 さて前回、神戸大学の昆虫学者、高須賀圭三博士におねだりして、クモを奴隷化するクモヒメバチの幼虫の恐ろしい生態に関しての記事を書いていただいたのだが、(関連記事)、そのクモヒメバチを題材に虫世界における弱肉強食の凄まじさを詳しくわかりやすく解説した本が、今月末に出版される。

 虫の世界は知れば知るほど興味深い。今までは何の気なしに怖がっていたクモですら情愛の目を向けることができるってもんだ。というわけで、今回出版に先駆け、また高須賀先生におねだりして、事実上のプレデターであるクモや、それに挑むクモヒメバチの驚くべき戦略について書かれた本書について、かいつまんで書いていただいた。つまり、著者本人による本書の予告編ってわけだ。

 それではワクワクしながら見ていくことにしよう。

地上の節足動物界きってのプレデター生物、クモ

 クモと聞くと恐ろしいゲテモノ生物、なんてイメージが先走るのではないだろうか。実際、カラパイアに過去登場した“世界で多く見られる恐怖症ランキング”でも、クモ恐怖症(Arachnophobia)が堂々の一位を獲得している。

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 確かにそうだ、8本もの脚を備え、毛で覆われていたり、派手派手しい体色をしていたりする。獲物を仕留めるための毒を持ち、造網性の種は不気味な網を張り、徘徊性の種は家の中でも神出鬼没で我々をドキッとさせる(ハエトリグモはかわいいけど)。映画の主人公としてホラー映画が作られるくらいなのだから、人に嫌われているのは前提条件のようなものである。

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 でも実際にはそこまで恐れるべき存在ではないのだ。一部の毒グモをのぞいて、クモの毒は微量すぎてほとんど問題にならないし、それ以前にクモ自体まったくと言っていいほど人に対して攻撃的ではない。あなたと出くわし干渉されたクモは、反撃なんかしない。一目散に逃げるはずである。本当は糸がないと生きていけない臆病で繊細な生き物なのだ。

 ご存知の通り、クモは数少ない糸を操る生物であり、その糸はクモにとって不可欠な武器であり防具でもある。クモが地球に現れた当初は、糸は巣穴を補強する道具でしかなかった。しかし、新しいタイプの糸を生み出す腺が徐々に進化し、それに伴って糸の用途も変わっていった。

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 そう、獲物を積極的に捕えるトラップとしての糸、すなわち網の誕生である。網の獲得によりクモは初めて地面より上の環境に進出でき、網によって外敵から身を守り、網を使って豊富に飛び回る昆虫を捕えることで、クモの種数と網の形は爆発的に多様化した。クモには、糸と共に進化したそんな興味深い進化史がある。それは本書でも大事なことなので、詳しく解説した。

『クモを利用する策士、クモヒメバチ ― 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い』 304pp. フィールドの生物学シリーズ第17巻、東海大学出版部、税込2,180円。

はじめに

第1章 寄生蜂、他の生物に宿って命を奪うハチ

第2章 非昆虫少年とクモに寄生するハチ

第3章 クモと糸と網、その進化

第4章 クモとハチの知恵比べ ─クモを手玉に取った多彩な産卵行動

第5章 母の強さを知る ─アイディアが可能にした子殺し実験

第6章 胚のうちから闘いは始まっている

第7章 薬漬けでクモを労働ゾンビに

第8章 進学か就職か ─ インドネシアが呼んでいる

終 章 クモとハチの虜

ヒトはなぜクモを恐れるのか?

 なぜ人はクモが恐れるのだろう?それはグロテスクな見た目と共に、プレデター(捕食者)として地上生態系のあらゆる場所にいるからではないだろうか。襲ってくるかもしれないという恐怖。これは人の深層心理に、野獣やヘビと同じように、関わるべきじゃないと思わせるのに十分なのかもしれない。

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 しかし本当のクモの恐怖は実際にクモに襲われる昆虫達にしかわからない。想像してみてほしい。もしクモの体長が2mあって、人を専食しているとしたらどうだろうか。どこに網がトラップされているかわからないし、いつ徘徊性のクモが飛びかかってくるのかわからないのである。捕まったら即アウト、強力な毒と消化液を体内に注入されて、生きたまま体液を吸い上げられるのである。地上や地表で活動する昆虫は、常にクモに襲われるリスクを背負って生きている。

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プレデター、クモに進化の勝負を挑んだエイリアン昆虫、クモヒメバチ

 しかし、昆虫にとってそんなにも恐ろしい天敵を、逆に獲物に選んだ昆虫がいる。それが、寄生バチのなかまであるクモヒメバチだ。

 寄生バチとは、幼虫が他の生物(主に昆虫)に宿って、最後には相手を殺すエイリアン昆虫である。寄生バチは無論ハチのなかまであり、よくご存知のスズメバチやミツバチ、アリなどと同じハチ目である。ただし、これらの有名なハチとは少し遠縁なグループである。寄生バチの中で唯一クモに寄生できるクモヒメバチとはどんな生物だろうか。

 クモヒメバチ類は現在、世界中から240種以上が記録されているが、注目度の低いマイナー生物でもあり、未発見の種もまだまだいる。何よりクモの種数(45,000種以上)を考えると、そのごく一部しか利用されていないにしても、クモヒメバチの種数は今後もっと増えることは間違いない。

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 クモヒメバチの最大の特徴は、特定種のクモに外部寄生することと、寄生のあいだ幼虫はクモを生かし続け、その外側に居座ることである。こんな変わった生活史を成立させるためには、次に述べるようにクモヒメバチだけに必要とされる様々な適応進化があることに気づかされる。それこそが、著者の研究テーマであり、本書で一番伝えたいことである。

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 たとえばクモヒメバチは、母バチがクモを一時的に麻酔に貶めて体表に産卵する。でもどうやって?クモには様々な種がいて、多様な形の網を進化させた。クモを麻酔するには、クモの網に捕まることなく、クモを無防備な状態にしなければいけない。そんな産卵にまつわる話は、本書の一つの主題である。

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 クモに卵を産めたら、次はクモに落とされないように幼虫が貼りつき続けることである。クモの体表に居座るには、取り外されないための特別な付着様式が必要そうだ。母バチが産卵時に何か細工をしてくれるわけではない。卵を覆う粘つきでクモに貼りつけるだけである。クモヒメバチの幼虫は自力で、それも驚くべき方法で自身をクモにがっちりと架橋する能力を持っていたのだ。

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 幼虫は最後にはクモを殺す。これはつまり、今までクモの網をメンテナンスしてくれていた召し使いを失うことを意味する。クモの網は捕虫に特化しているので、そのままで耐え続けるにはあまりに心許ない。自然な劣化に加えて、風雨や衝突する生物・非生物などで、網はたちまち朽ちていく。元々耐久性を目的にしていないので当然である。ハチがこの問題を解決するために生み出した進化は、カラパイアにも載せたとおり、幼虫がクモの造網行動を操作し、網を丈夫にするという信じがたい能力だった。

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 本書は、こんなクモヒメバチの興味深い生態の数々を、糸と歩んだクモの進化史と合わせて一冊にまとめた。マイナーな生物ではあるけれど、読めばきっとその生態の巧みさに引き込まれるだろう。

 特殊な生物のお話しだけど、実は私は元々生き物に詳しかったわけではない。生き物は好きだったけど、ただそれだけのどこにでもいる野球少年だった。

 そんな状態で大学でクモヒメバチと出会い、研究を始めたエピソードや奮闘した日々にも、恥ずかしいけど少し触れた。また、縁あって長くインドネシアで研究する機会があり、日本人一人で屈強なインドネシア人学生たちを仲間にして山籠り調査をした記録も綴った。

 このように、研究内容や成果だけでなく研究の過程にもたくさん言及しているので、生物の研究に興味がある若い人には参考にできるところもあるかもしれない。

 もちろん、生き物好きのカラパイアのお友達は誰でもきっと楽しんでもらえるはずだ。みんなぜひ手に取っていただきたい。また、こんなありがたい機会を提供してくださったパルモさんに感謝申し上げる。


 高須賀先生ありがとう!

 その見た目で忌み嫌われがちな虫たちだけど、彼らも必死で生きているし人間と密接に関わり合っている。なんてったって虫がいなきゃ花だって受粉してくれないので植物だって育たない。クモは我々にとって害のあるダニなんかを食べてくれる。適切な知識と適度の距離感で同じ地球内生命体である虫たちと共存していこうではないか。

 ということで、書店では10月25日から、アマゾンでは10月27日に販売開始されるので要チェックだ!ちなみに本に高須賀先生の顔写真が載るのかどうかはアイドンノウだ。

『クモを利用する策士、クモヒメバチ ― 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い』 304pp. フィールドの生物学シリーズ第17巻、東海大学出版部、税込2,180円。

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この記事へのコメント 26件

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  1. 昆虫博士と言うと50代以上を想像するが、高須賀圭三博士は1983年生まれなのね。若い。ファミコンと同い年

    • +10
  2. 素晴らしい記事でした!高須賀先生に心からの感謝と盛大な拍手を~!!

    • +8
  3. 下から3枚目、なんて綺麗なハチだろう
    オレンジのボディーに群青色の羽根
    生態はドスがきいてるのにほっそりしなやか体型だし

    • +9
  4. 面白そうだ。プレデターvsエイリアンの図式はテンション上がるね~。

    • +3
  5. クモには恐怖や嫌悪というよりはセクシーさを強く感じるな…

    • 評価
  6. スターシップ・トゥルーパーズ1のボスの虫に
    頭から足みたいなの刺されて脳みそずっちょずっちょ吸ってるシーンで何かが目覚めた。
    DVD買って、時々お世話になってる。

    • +5
    1. >>11
      人のトラウマ掘り起こすなよもう!!
      あれ見て以来スターなんちゃらって聞くと鳥肌が止まらなくなったんだよぉぉ
      それはさておき、他の昆虫なら避けるであろうクモを敢えて子孫を残す為のエサとする選択をしたハチか…興味深い生態だね
      他にもっとエサとなる物はあると思うんだが

      • 評価
  7. 蜘蛛の糸って強度では鋼鉄のワイヤーをも凌ぐ世界最強の糸って話を聞いたことがある。
    もし人間サイズの蜘蛛がいたら絶対逃げられないだろうね。死角もないしw

    • 評価
  8. 自分も一回だけクモを狩って持ち帰る途中のハチを目撃したんだが、地上を直線距離で引っ張る代わりに、すぐそばの池の水面に持ち込んで、水面上をスイーッと軽々運んで、巣のすぐそばまで来たら池から上がって運び込んで行ったよ。人間のその場で考えるという意味の知能とは違うにしても、これはすごいと思ったね…

    • +1
  9. 俺、蜘蛛と同じ空間にいるとパニックになるくらい蜘蛛恐怖症なんだけど、写真や動画で蜘蛛を見るのは大好きなんだ。
    意味不明で、日常生活にも差支えるから、催眠療法まで受けてみたけどお手上げだった。生まれる前、蜘蛛の巣地獄にでもいたんじゃないかって、親にも言われるくらいだった
    んで、蜘蛛の本や写真集見たら買ってしまうから、この本も絶対買うと思う!

    • +2
    1. ※16
      ハチにそんな知恵あったんだな…昆虫なんて本能に従って食う寝る殖えるを毎日繰り返してるだけの単純なものだと思ってた。考え直さないといけないな

      • 評価
  10. クモって目が沢山有ってかわいい顔してると思うんだけど、家の中に小さいクモが出ただけで家族は大騒ぎだよ。おれはGの方がよっぽど怖いし、クモは益虫だからね。

    • 評価
  11. 昆虫の世界は摩訶不思議だね
    ファンタジーな世界が展開されてる

    • +1
  12. 最後までよんでやっと気付いたが高須賀先生による寄稿なんだな
    すごいな。

    • 評価
  13. オレはアシダカグモだけが怖い。他のはタランチュラとかのデカイのでも平気なんだけどなあ。何でなんだろ。

    • +1
  14. セミが7年も地中にいるのはこういった寄生生物から身を守るためだと言われてるな

    • 評価
  15. アシダカ軍曹のおかげで一年でゴキブリなんか1~3回しか見かけなくなったよ。
    最初は家族がシューってやってたんだけど、
    生体を教えて、殺さないように!って念を押した結果だよ。
    ありがとう、アシダカグモさん。

    • +1
  16. こういう話を聞くと進化論がたまに疑わしくなってくる。特定の種にここまで特化して適応し、ここまで利用し尽くす種が偶然の連続で産まれてくるんだろうか。

    • +1
  17. オファーしたにせよどんな人脈の形成してるんだろ
    こんなパイプまで持ってるなんて、パルモ…恐ろしい子

    • 評価

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