この画像を大きなサイズで見るかつて孤立していたパプアニューギニア東部の高地に住むフォア族は、長い間仲間の遺体を葬式で食べるという習慣を持っていた。男性は腐敗した親族の肉を食べ、女性と子供は脳を食べる。これは故人へ捧げる哀悼の表現であるが、この習慣が残された部族に悲劇をももたらした。
クールー病という狂牛病にも似た病気を引き起こす脳内の危険な分子が、それを口にした女性の間に蔓延していたからだ。その犠牲者は毎年部族人口の2パーセントに及んでいた。
この習慣は1950年代に禁止され、病気の流行も収束し始めた。だが、同時にフォア族に非常に興味深い、消えることのない痕跡を残していた。
それはパプアニューギニア国内に留まるものではない。長きに渡って脳を食べ続けた結果、クールー病、狂牛病、一部の認知症などといった危険な脳疾患に対する遺伝的な耐性を身につけた人がフォア族の中に現れたのだ。
プリオンから身を守る保護遺伝子
この保護遺伝子は、プリオンという奇妙で、ときに人の命も奪うタンパク質から所有者を守る。プリオンはどの哺乳類でも自然に産生されるが、変形し、ウイルスのように組織を攻撃するようになる。さらに変形プリオンは周囲のプリオンに感染し、その構造や危険な振る舞いを模倣させてしまう。
宿主に対するプリオンの影響は破壊的で、常に致命的だ。フォア族の犠牲者の脳は、微細な穴が開きスポンジ状になってしまっていた。牛の場合、プリオンは狂牛病を引き起こす。イギリスではこの病気が80年代後半から90年代にかけて大流行し、大量の牛が殺処分されている。また、人々から睡眠を奪い死に至らせる謎の不眠症にも関連している。さらに、急激に進行する認知症や人格変化、筋肉障害、記憶喪失などを特徴とするクロイツフェルト=ヤコブ病の原因でもある。
プリオンに関連する疾病の大半が散発性で、一見したところ原因不明だ。本研究を行った英ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのジョン・コリンジ教授によれば、病気の一部は両親から受け継いだもので、感染した組織を食べることで病気になる割合はそれよりも少ない。また、”ヒト狂牛病”と呼ばれることもある変異型クロイツフェルト=ヤコブ病は、感染した牛肉を食べることで引き起こされるという。
プリオンは極めて厄介で、それを止める手立てはない。病原体としては、ウイルス以上に発見が難しく、治療も困難だ。抗生剤や放射線で治すこともできない。通常なら強力な消毒であるはずのホルマリンを使っても、さらに悪化するだけだ。プリオンに汚染された物を洗浄するには、超強力な漂白剤を大量に使うしかない。それでも、すでに感染してしまった人間の治療には無力だ。
この画像を大きなサイズで見るコリンジ教授らの今回の研究は、不明な点が多いプリオンから人間を守る方法について決定的な洞察を与えるものだ。その発見は、何度も脳を食べて病気に暴露されたが、特に被害がなかったと思われるフォア族の家族の遺伝情報を検査したことでなされた。
プリオンを作るタンパク質がコード化されているゲノムを観察したとき、前代未聞の事実が明らかとなった。人間など、あらゆる脊椎動物が持つグリシンというアミノ酸があるはずの場所に、耐性を有するフォア族はバリンという別種のアミノ酸を持っていたのだ。
このゲノムのわずかな差異が、プリオン産生タンパク質が病因となる分子形態を作ることを防ぎ、クールー病から守っていた。コリンジ博士は、これが他のプリオン病にも有効かどうか実験するために、マウスの遺伝子を使ってその変異を模倣した。
その結果、通常のタンパク質と変異タンパク質をほぼ等量有するマウスは、クールー病にもクロイツフェルト=ヤコブ病にも完全な耐性を示した。だが、より強い耐性を持たせるために、変異タンパク質のみを産生するよう遺伝的に改変されたマウスのグループでは、実験に用いた18種類全てのプリオン株に対して耐性を持っていた。
この画像を大きなサイズで見るプリオン耐性を持つ人は世界じゅうに分布する
人間のダーウィン的進化に関する驚きの事例だ、とコリンジ教授は述べる。実は、プリオン耐性を持つ人々はフォア族だけではない。10年以上前、本研究にも携わったクールー病の専門家マイケル・アルパーズ教授は、世界中の人間のプリオン・タンパク質遺伝子について研究を行ったことがある。
そこで発見されたことは、遺伝的な耐性を持つ人々はヨーロッパから日本まで広範囲に分布しており、かつて食人の風習が世界中に存在し、先史時代の人類が進化の過程でクールー病のような病気の蔓延に対処していた可能性が示唆されていた。
しかし、フォア族で見つかった遺伝子は、突然変異体プリオン産生タンパク質(親から子へ遺伝するタイプ)によるプリオン産生を一切不可能にしてしまう点で特別だ。また、野生型タンパク質(大抵の人が持つ表現型)の奇形プリオン産生も食い止める。
この発見からもたらされる恩恵はプリオン病を止めることではない。プリオン病は、アメリカでは年間300例と比較的珍しい病気でしかない。コリンジ博士によれば、プリオン病のプロセス、すなわちプリオンが周囲の分子の形状を変化させることで互いに繋がり、ポリマーという長い鎖を形成し、脳を破壊するプロセスは、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症など危険な退行性脳疾患すべての原因であると考えられるらしい。
WHOによれば、世界の認知症患者は4750万人に上り、毎年770万人の患者が新たに診断されている。プリオンによる分子メカニズムと、プリオン耐性遺伝子を利用してこれを抑える方法が判明すれば、大勢の人が苦しむ脳の変成疾患に関する理解を大きく促すことになる。
本研究は、英科学誌『ネイチャー』に掲載された。
via:washingtonpost/ 原文翻訳:hiroching
















素直にすごい。研究の発展が楽しみ。
こりゃまた意外なところから認知症の研究につながったな
クロイツフェルト=ヤコブ病は食人習慣の無い地域でも発症するんだよな
医療器具や移植手術、牛肉を食べるという経路以外にも全く原因不明の理由で発症することもあると読んだ事がある
もし異常プリオンの沈着に対する耐性が有るフォア族の方の髄液からバリンを分けて貰って耐性免疫を増殖させる事ができたら、アルツハイマーや一部の認知症や難聴の治療に希望が持てる
生き物の体って、攻撃にさらされ続けると
どんな攻撃にも対応しようとするんだね。
※4
人の変形プリオン病は自然発生もする、そうして自然発生した人の遺体を食べると
クールー病にかかるって話
フォア族に入り込み研究する学者の方がすごいな
その上気が付くとは驚きだ
戦後、アメリカの医師が、ニューギニアでこの病気で亡くなった人の脳を
多数解剖、研究してノーベル賞受賞したそうな。この教授がまた、奇妙な人物で…。
名前は忘れたが、失礼、面白い本を読んだ。
おうNOとかいう人
いるでしょうね・・・
でもこれだと脳を食べてアルツハイマーを
直せる可能性のあると言う事か?
だとしたら凄く怖い話だ・・・・
本来はこんな風に進化していくのかな?
耐性を持った個体が生き残り、次第と淘汰されていくみたいな…
ま、それはともかく、これは期待出来そうな研究だね。
>男性は腐敗した親族の肉を食べ、
故人を悼むために肉を食べる風習は分かるんだけど
なんで腐ってから食べるの!?そっちは大丈夫なの!?
※9
ダニエル・ガジュセックのことかな。
※9
『眠れない一族』 ?
ああ、これで認知症の根本治療が可能になることを切に願う
普通に耐性なしが淘汰されてったから耐性持ちが濃縮されてったんやないの
※11
よく読め。そんなことは、どこにも書いてない。
※15
食人がそれを加速させたんやないの
確か脳は石灰分が結構多いので、食べるにはじっくりアク出ししないと腹を壊すと聞いたことがあるなぁ
ちなみに戦国時代の秀吉の干殺しの件では、飢餓状態の城内で死者の脳みそを食べるのが大流行して、城兵同士で死んだ戦友の首の取り合いになって、それで刃傷沙汰になるのが当たり前だったという証言が(どこのバタリアンだよ…)
多様性ってのはどこで役に立つか本当に分からないな。
※13
間違ってたらゴメン
腐らせるつもりが無くてもあの熱帯気候だし、弔ってる間に腐っちゃうんじゃないかな…?
進化始まってた
食べたから耐性ができたんじゃなくて、
耐性のある人が生き残って遺伝子残したってだけじゃないの?
夢枕獏の『荒野に獣慟哭す』という小説でも、ニューギニアにおける食人の風習がテーマの一つとして取り上げられてたな。伊藤勢が漫画化してるんで、興味がある方は一読をお勧めする。
プリオンへの耐性ってあるんだな
医食同源…!
食わなきゃいいだけの話
理解を深める=治療法の確立ではないけれど
何かの形で治療もしくは予防の可能性に光が見えるといいなあ
生き物の身体は危険や飢餓に曝されたとき「次はこうはなるまい」と「次は負けない」と反撃の機会をうかがうように変化していく
ような事をある漫画では言っていたけど。外的要因に対する肉体の変化は凄いものがあるな
腐ると言うな。熟成されたと言え。
こういう遺伝的な耐性と疾患の相関関係に早くから気づいて、意図的に疾病に晒して生き残った者だけに子孫を作らせていた部族とか世界の何処かにないのかな
いろんな疾病に対する効果的(と思われる)治療法って学者さん方が頑張って結構発見されてるけど
マウスとかの動物実験から人間に下りてくるまでが長いよなー
まぁ仕方ないけど
子牛の脳みそなら焼いて食べたことあるけど
独特過ぎる触感と味でした
ノーサンキュー
脳って(腐っていない新鮮なやつでも)すごくくさいって聞いたことが歩けど本当かな?
※32
意図的に晒すてのが困難だから(疫病発症中の人間の確保が困難)
多分ないんじゃないか
数年前出版された眠れない一族という本にクールーやプリオンに関する話が詳しく書かれていてとても興味深かった。
肝臓が弱い人はレバーを食べると良いっていう話と似たようなものかな
なるほどなぁ
妙に納得するのが二つ。
一つは食人族が抗体を保有するって事。
これは毒から薬が出来る原理と似ている。
二つ目は世界中に食人の痕跡があるって事。
多分この原因は戦争や飢餓だろう。
この食人族のように風習で食したのではなく、戦争で飢餓にある兵士や、飢饉などで飢餓状態の人々なのだろうと推測できる。
親類から聞いた話では、日本でも戦時中にどうしようもなく、海外で遺体を食べた兵士がいたそうだ。
これは今では想像も出来ない言葉では言い表せない過酷な状況が可能にする判断なのだろうと思う。
そういった異常な状態での飢餓が世界中で食人を行わせたのではないかと個人的に推測する。
胃に入ったら肉も脳もただのタンパク質じゃないの?
なんで影響が出るんだろう。
伝統と言ってもせいぜい半世紀くらいの習慣だけどな
『幽☆遊☆白書』に出てくる食脱医師みたいな話だと思った
病人の肉を食べて体内で抗体を作って他の病人を治す女性
獲得形質は遺伝しないからね
脅威に晒されて変化するのでなく、あくまでも偶然その脅威に対して有効な変化をしたモノが生き残る
らしいけどもしあらゆる進化が偶然の元に成り立っているのなら
それは正しく奇跡で、まさしく神のような存在がいるんじゃないかと思えてくる
映画「バタリアン」を思い出した。
「脳をくれぇぇい!」
「ひーっ!」
ガン研究だけじゃなく認知症研究も重要だよな
※43 タンパク質はもっと細かく分解するとアミノ酸になるんやで
このアミノ酸の並び方が異常なタンパク質が異常プリオンってやつ
体内の正常なタンパク質を異常なプリオンに変えていくんや
タンパク質ってのはアミノ酸の組み合わせで多様性があるんやで
免疫としてはたらくタンパク質もあったりするんや
※47
まだ何が遺伝するか判ってないだけって可能性はある
確か寄生中か何かで獲得形質の遺伝が発見されてたはずだし
エイズも猿の脳を食べる習慣のあるアフリカの部族からひろまったって話だよね。
ダメ、ぜったい、脳食い。
進化ってすごい
死んでようが生きてようが脳みそは元から腐ってるんだよ
人間は腐ったものでも食べ物に変えるからその感覚がないんだろうが
戦国時代の武士はカニバリズムしたのですか?
ブラックジャックに出てきた、体が小さくなって死に至る未開の地の奇病の話を思い出した。
BJ自身も感染するんだけど、草食であるはずのシマウマが小さくなって死んだ仲間を食べていることからヒントを得て治療法を見つけるっていう結末だったかな。
認知症の治療が出来れば、それは素晴らしいことだね
さらには、脳の機能を回復する薬なんかが出来たらいいな
これこそまさしく進化と呼んでも差し支えないほどすごいことだと思う。
環境や外的要因で幾らでも生物は自身を書き換えて行くことができると証明できる
脳に塩をかけて食べるとヒンナだ。
すごすぎひん
ニュータイプや
ぐぬぬ、2015年の記事なのに、まだ認知症が治る病気になってない