培養臓器
人間の皮膚から培養したミニ肝臓 image by:UPMC

 もし自分が深刻な肝臓病にかかってしまったとしよう。治すには一刻も早く肝臓の移植手術を受けなければならない。

 そのような状況に陥ったら、いつ入手できるか分からないドナーの肝臓を待つよりも、自分の体から作った肝臓を移植したいと思うのではないだろうか?

 今回紹介する研究は、そのような未来の移植手術へ向けた大きなステップになると言われている。人間のiPS細胞から培養したミニ肝臓をラットに移植することに成功したからだ。
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臓器移植の大きな問題点


 臓器移植はそれでしか治すことができない数多くの命を救っているが、克服すべき問題も抱えている。その最たるものは、臓器を提供してくれるドナーが慢性的に不足していることだという。

 また仮にドナーが見つかったとしても、免疫系が外部の侵入者から体を守ろうと移植された臓器を攻撃するために、拒絶反応が発生してしまうという難点もある。そのため移植手術を受けた人は、生きている間ずっと免疫抑制剤を服用し続けなければならない。

 もし患者自身の細胞から移植用の臓器を育てることができれば、どちらの問題も解決する。必要なときにいつでも手に入るし、元々自分の体なのだから拒絶反応が起きることもない。

 ピッツバーグ大学(アメリカ)の研究チームが行なったのは、ヒト細胞から作り出したミニ肝臓をラットに移植するという、ドナー不足も拒絶反応も心配しなくていい移植手術へ向けた実験だ。

臓器移植
iStock

ヒトから培養したミニ肝臓をラットに移植


 まず人間の皮膚から採取した細胞を再プログラムして、「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」に変える。iPS細胞は、人体のあらゆる細胞に変化することができるので、今回の場合はホルモンなどの化学物質を利用して幹細胞に育てる。

 通常、人間の肝臓は生まれてから成熟するまで2年かかる。しかしラットの肝臓から細胞が付着するための骨組みだけを残して元々の細胞を取り除き、そこにヒト幹細胞を植え付けると、数週間でミニ肝臓を作ることができる。

 こうして作られたミニ・ヒト肝臓が5匹のラットに移植された。

 それから4日間の観察期間、どのラットの体内でも肝臓はきちんと機能していたとのこと。本物と同様に胆汁酸と尿素を分泌しており、血清からは人間の肝タンパク質も検出されたそうだ。

人間の皮膚から培養したミニ肝臓
人間の皮膚から培養したミニ肝臓 image by:UPMC

 だが、まったく問題がなかったわけでもないようだ。

 どのラットでも、ミニ肝臓がつながれた部分に血栓と局部貧血が起きていたという。ミニ肝臓を適切に移植するにはまだ課題があるとのことだ。

 さらに移植手術を受けたラットは拒絶反応が起きにくいよう改変されていたので、他の動物で同じような成果が得られるかどうかは分からないそうだ。

実験用ラット
iStock

培養臓器の未来


 こうした臓器の培養技術が最終的に目指すのは、もちろんドナーいらずの移植用臓器を作り出すことだ。

 しかし、そこまでいかなくても、今回の実験のように人間の臓器を移植した動物で、薬の効果を試すといった使い途がある。

 また研究チームによれば、近い将来の目標はミニ肝臓を移植の架け橋として使えるようにすることであるという。

 たとえば、急性肝不全の患者の場合、肝臓を丸ごと新しいものに変えなくても、肝臓を補い、その機能をアップさせるだけで事足りるかもしれない。そうした場合に、ミニ肝臓の技術が役に立つかもしれないそうだ。

 この研究は『Cell Reports』(6月2日付)に掲載された。

References:eurekalert / newatlasなど/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 09:12
  • ID:UPv32j2E0 #

培養臓器、他のニュースを見てもだんだん進歩してるのがわかるし確か阪大?の病院が培養した角膜移植手術に成功したって話も聞いたな。これからは再生が困難な器官や臓器の疾患に苦しんでる方々にとって良いものになると良いなぁ

2

2.

  • 2020年06月09日 09:16
  • ID:vpOVJ5h40 #
3

3. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 09:41
  • ID:U0Slra2U0 #

最近人間の脳細胞を移植した話もあったし、そのうち怪人じみた生物も作られそうだな。
秘密結社が生まれる日も近い。

4

4. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 11:00
  • ID:zuTim.li0 #

エンジェルハート 〜ネズミ編〜


キャッツアイのネズミのスピンオフが
シティーハンター、それのスピンオフが
エンジェルハート、全てが1つにつながった。

5

5. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 11:46
  • ID:rh9HRQQy0 #

逆に動物の臓器を人間に移植したらビタミンとか作れるようになったりムキムキマッチョになれそう

6

6. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 12:06
  • ID:QiVyUaEb0 #

>>血栓と局部貧血
ラットとヒトの血液組成の違いによるものか、免疫抑制してても多少の拒絶反応が出たのか。

7

7. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 15:05
  • ID:nrrm11d80 #

昔、肝臓を脾臓とか腎臓に発生させる研究があった。
肝細胞を移植するとそこに肝臓が出来て機能するという。

TVで見ていて「これ、ガンとか子宮外妊娠と同じじゃん。人生の終末ならいいけど…」と思った。
これは実用化されなかったようだが、こういう形で進んでるとは。

3Dプリンターで型を作り肝細胞を乗せるスタイルで落ち着くんじゃないかな。
型はコラーゲンとか生体繊維で。

8

8. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 16:50
  • ID:UI32Fvbb0 #

人由来の人造肝臓ならレバ刺し大丈夫かな
食べてみたい!

9

9. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 18:05
  • ID:rHl8.EKA0 #

いろいろ大丈夫なの
倫理とか必修にしたほうがいいんじゃ

10

10. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 18:45
  • ID:v3XtEgc90 #

ここまできたらリアルスプリンター先生みたいな個体の誕生とか起きても不思議ではないな

11

11. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 19:53
  • ID:v0BwLrQ40 #

富める者が貧しきものから臓器を奪うという陰惨な現実を否定する為にも、どうか成功して欲しい研究だよ

12

12. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 20:44
  • ID:JD6d4TSR0 #

内容に関係ないかもしれませんが…
本文中の最後の写真は、
ラットではなくマウスではない?(種が違う)

13

13. 匿名処理班

  • 2020年06月09日 21:55
  • ID:frR..2ZO0 #

「ビール好きにはたまらない!」っていう広告が表示されている件

14

14. 匿名処理班

  • 2020年06月10日 08:04
  • ID:OLRkOLlJ0 #

命を弄んでいるとしか思えない。次は豚や牛や猿で実験するのだろうか?自分の肝臓を移植するために動物を殺さなければいけないのなら自分が死んだほうがマシだ。

15

15.

  • 2020年06月11日 02:02
  • ID:BoqkFrO30 #
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