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ストレスが脳をどのように変化させているのか?ストレスとうつ病の関係性(米研究)

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(著) (編集)

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 ストレスが全て悪いというわけではない。生きていくうえでストレスはつきものだが、中には人を負のスパイラルへ突き落としてしまう類のものもある。

 慢性的に受ける過度なストレスは、うつ病への片道切符のようなものだ。それは分かっているが、生物学的には不思議だ。手に負えないストレスとうつ病との因果関係がよく分からないからだ。

 さらに個人差も大きい。同じストレスをうけても、うまく対処できる人がいる一方で、それで心を病んでしまう人がいる。この違いは何なのだろうか?

 『The Journal of Neuroscience』に掲載された研究では、一見したところ直感に反するストレスでうつ病になるメカニズムが紹介されている。

うつ症状とセロトニンの意外な関係

 それまでは大好きだったはずなのに、喜びを感じられななくなってしまう。ちっとも楽しさを感じられない「無快感症」は、うつ病の中核的な症状だ。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校(アメリカ)の研究グループによれば、この無快感症を発症したラットの脳内には、そうでないラットに比べ、主に生体リズム・神経内分泌・睡眠・体温調節などに関与するセロトニンを作り出す神経細胞がたくさんあるのだという。

 直感に反する結果だろう。なにしろ、うつ病になった人は、セロトニンが不足している傾向にあると言われているくらいだ。

 しかし、これはストレスによってセロトニン生産のプロセスが変化してしまう生物学的経路を指し示している可能性があるらしい。

Serotonergic Plasticity in the Dorsal Raphe Nucleus Characterizes Susceptibility and Resilience to Anhedonia | Journal of Neuroscience
https://www.jneurosci.org/content/40/3/569

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xrender/iStock

ラットに見るストレスと無快感症との関係

 研究グループが調べたのは、ストレスと無快感症との関係だ。

 研究では、脳に電極を移植したラットに車輪を回転させることを教えた。電極は報酬系につながっており、車輪を回転させるとそこが刺激され、ラットは快感を感じる。

 ところが、数週間ほど「慢性的な社会的挫折」を味わわせると、一部のラットでは報酬系が活発になりにくくなったという。

 そうしたラットこそが無快感症になりやすい個体だ。そして、これらラットの「背側縫線核」(セロトニンの主な供給源)にはセロトニン作動性神経細胞が多い傾向にもあることが判明した。

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iStock

これまで知られていなかった新しい脳の可塑性

 はたして、こうしたセロトニンの供給源となる細胞はどこからやってきたのだろうか? 成長した脳では、新しく神経細胞が作られるようなことはないはずだ。

 研究グループによれば、セロトニンを作り出すために、ほかの神経細胞が”リクルーティング(募集)”されたのかもしれないという。そして、このリクルーティングプロセスを始動させるのが、ストレスなのだそうだ。

 このリクルーティングプロセスはこれまで知られていなかった脳の新しい「可塑性(外部からの刺激に対応して変形適応すること)」を示すもので、セロトニンとストレスがうつ病発症に果たす役割を説明できるという。

 なぜ、ストレスでうつ病になる人とそうでない人がいるのか? その答えは、ストレスで無快感症を発症させたラットで観察された影響の受けやすさと強く関係しているとのことだ。

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pixabay.

リクルーティングプロセスを逆転した新しいうつ病の治療法

 この発見は、一部の人々が慢性的なストレスで無快感症になってしまう理由を説明する分子マーカーを指し示しているという。

 この理論を応用してうつ病の治療法を考案するべく、研究グループは、同プロセスのリバースエンジニアリングを行ってみた。背側縫線核にシグナルを送る主要な領域である「扁桃体」の神経細胞を活性化させてみたのだ。

 すると、シグナルを受けた背側縫線核ではセロトニン・シグナルが減少し、ラットの無快感症は緩和された。これはストレスの影響から回復する力が改善したということであるらしい。

 研究グループは今後、より侵襲性の低い(体を傷つけない)やり方でストレスに対する脳の回復力を向上させる方法を模索したいとのことだ。

References:inverse/ written by hiroching / edited by parumo

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この記事へのコメント 25件

コメントを書く

  1. ストレス社会って金銭的な面も大きいよね、頑張ったら頑張った分大きく報酬もらえるならまだよかった。
    昔の何倍何十倍の量のタスクこなすのに報酬少ない増えないっておかしいわ

    • +16
    1. ※1
      あなたの仰るとおり、お金はストレスを軽減する力を(かなり大きな力を)持ちます。
      ただ「大学を出た」と言う、それだけでは社会の生産になんら寄与しない部分に、払ってはならない報酬を支払ってしまうから、おしりを拭いたり、汚水処理をしたり、そのほかいろんな「みんながやりたくない」仕事をやってくれる人たちに払わなければならないお金が支払えなくなるんだと思います、今回のコロナ禍はそこを見直すいい機会になるかもしれませんね。

      • +6
    2. ※1
      金銭で補えるかどうかって、
      ストレスの種類にもよると思う。

      負荷の大きい肉体労働や、多忙な頭脳労働など
      「業務」として大変なものは、それに見合った報酬があり
      納得して選んでいるんであれば、甘受できるだろう。でも、
      接客や頭下げて回る営業などいわゆる“精神労働”に属するもので
      理不尽な顧客から毎日毎日 言いがかりで無意味に罵倒されたり、
      派閥のいがみ合いで職場の雰囲気がギスギスし
      同僚からのいじめや 上司からのパワハラが横行して
      個人的な人格攻撃や肉親への悪口を浴びせられたりしていると、
      いくら高収入でも、「エリートの自殺」なんて事が起きる。

      • +4
    3. ※1
      頑張っただけ報酬が発生する仕事をすればいいのでは・・・?

      • -6
  2. 脳の反射がおかしくなるというか、物を見聞きしたときの反応が以前とは変わってしまうのは実際に体感できるな。
    当時は脳に電流流しまくって治せるものなら自分の体で人体実験してもらってもいいと思ってたわ。

    • +7
  3. 過剰なストレスは有害だが適度なストレスは有益でもある
    わかりやすいのはパズルやゲーム
    あれらは問題と言うコントロール可能なストレスを意図的に与え、解決(クリア)でそのストレスを発散するのがその原理
    適切なトレーニングによる負荷で成長する筋肉と同じく、ストレス耐性もまたそういった適度なストレスで向上する
    ストレスは可能な限り排除すると言う方法では怪我を恐れて運動しないと言う状態と同じであり、運動不足のようにストレス耐性不足になる
    また別なある研究において、ハッピーエンドよりもバッドエンドの方が見終わった後の幸福感が増えると言う報告もある
    これはフィクションの不快な展開を見た後、自分の現実生活と比較して「まだマシだ」と安堵する結果らしい
    幸せで平穏な明るい作品を見たあと、次の日の仕事を思い出し憂鬱になるのはよくある話
    逆にホラー映画で怖い思いをしたあと、映画館を出るとホッとした事は誰でもある経験のはず
    ハッピーエンドや何もない平穏な日常系作品が増える昨今、そう言ったところでもストレスは増えている可能性がある
    生活で不可避なストレスに溢れる昨今、乗り切るために適度なストレスをあえて浴びて、それを解消する事でも精神の健康を保ちたいもの

    • +1
  4. 矢っ張り対処法だよな
    人間誰しもノンストレスで生きてくなんて先ず不可能だし、ストレスを受け流したり自己完結で解消する方法を子供の内から覚えるのが一番だと思う
    避けるより現実的な解決策じゃないかな

    個人的には単純に気持ちの切り替えが上手いかどうかの問題だと思ってるけど

    • -7
    1. ※5
      「単純に気持ちの切り替えが上手いか」がうつ病になる根幹要因とすれば上手い下手という技術の巧緻に帰着しますね
      あなたの見解に従えばうつ病は個人のテクニックの差であり下手くそがなる病ということです
      そして技術であれば特殊技能でない限りはマニュアル化して真似ることで一定の質を実現できます
      では何を「現実的な解決策」としてどのように「子供の内から覚えるのが一番」なのでしょうね

      • 評価
      1. ※22
        まさしくその通り
        教えるべきは深く考えないことかな 自分は学生というレールから外れた20歳から鬱と不眠なってもう9年目だ

        • +1
        1. ※25
          「深く考えない」を説いてすなわち「深く考えなくなる」とするなら誰も苦労していないと思います。
          落とし込みの手法がよく分からないにもかかわらず結論だけは足早に上手下手に帰着させれば結局は個人の資質や個人の責任に行き着きかねません。
          マニュアル化できないうちは軽々しく「技術の巧緻の差」のように考えるのは危険かと。

          ※26
          「誰しもが習得できる技巧とは限らない」と仮定すると「気持ちの切り替えが上手いか」は特殊な技術ということになりますね。
          また本邦でのうつ病の有病率は6.7%程度とのことです。
          以上から特殊な技術とするならば残りの93.3%は割合としては多すぎる思います。
          「技術である」が間違いか「特殊な技術である」のどちらかが間違いのように思えます。

          「特殊な技術である」が間違いであれば93.3%側の人間によって現実的な手法としてマニュアル化できるはずですね。
          「技術である」が間違いであれば「気持ちの切り替えが上手いか」を論点とするのは偏見や思い込みに過ぎない根性論の類ということではないでしょうか。

          • 評価
          1. ※27
            >「誰しもが習得できる技巧とは限らない」と仮定すると「気持ちの切り替えが上手いか」は特殊な技術ということになりますね。
            >「特殊な技術である」が間違いであれば93.3%側の人間によって現実的な手法としてマニュアル化できるはずですね。

            …? どういう理屈で?

            ※26で言ってるのは、「ノウハウに関わらず、『生まれつき』気持ちを切り替えやすい人とそうでない人との『体質』差があるのでは?(脳内分泌などで)」という点だけど。

            そして、実際に鬱病を発症するかどうかは、
            気持ちが切り替えられず落ち込みやすい人でも
            穏やかで安定した生活環境なら問題なく暮らせるし、
            切り替えが利く耐ストレス性が高い人でも
            継続的に拷問レベルの苦痛に苛まれれば発症し得るし、
            環境要因も大きいので、体質だけでは決まらない。

            ただ、同じレベルの体質の人が同じレベルの環境負荷を受けて
            ちょうどそれが鬱病に陥るかどうかの境い目ぐらいだった場合、
            そのまま思い詰めて視野狭窄に陥るのと
            客観視し 意識して気分転換を図ろうとする視点を持つのとでは、
            テクニックによってギリギリ回避できるかどうかの差が生じるかも知れない。

            • 評価
    2. ※5 ※22
      効率性の差はあっても、習得できる技巧とは限らないと思うが。

      例えば生活習慣病なんかも、同じように暴飲暴食していても
      もともとの遺伝体質で平気な人と覿面こたえる人とがいるし。
      脳内の伝達物質も、生まれつき切り替えが上手い人と
      いつまでも引きずりやすい人との体質差はあると思う。

      ただ、ガン家系じゃない人でも致死量の放射線被曝をすれば
      どうあっても細胞に異常は生じるし、環境要因も大きい。
      いくらストレスに強い人でも、
      監禁して拷問を繰り返せば発狂するだろう。

      それはそうとして、子供の頃からの対策としては
      進路や交友関係など「これしかない」「これがダメだったら破滅」みたいに強迫観念的に切羽詰まって思い込ませるような教育を親や教師がせず、行き詰ったら一歩引いて客観的に眺める習慣をアドバイスしたり、息抜きの楽しみに連れ出したり、多面的に考えてみる癖をつけたり、生活を通しての育て方は一定の影響があると思う。
      あと、いろんな小説や伝記や映画や漫画や、良質の物語を通じていろんなパターンの生き方を疑似体験させるのも良いと思う(間違っても感想文を強制するなど教育的な押し付けにせず、あくまで娯楽として)。スポ根や献身的な奉公からの成り上がり譚など一途な努力を讃美するものも、生真面目すぎて現実に対応できず破綻する悲劇も、チャランポランなダメ人間がそれでもなんか日々楽しく適当に生きてるコメディーも、いい加減すぎてどんどん堕落していく転落人生も、いったん地に落ちて歯を食いしばりながら苦境から立ち直る話も、不思議な運や人の縁に導かれて変わる人生も、いろいろと。

      • +1
  5. > 背側縫線核にシグナルを送る主要な領域である「扁桃体」の神経細胞を活性化させてみたのだ。
    この場合はきっと物理的な刺激なんだろうけど、欝や無気力症に陥っていた人が、事故や災害などの危機に際してはっとなって生き延びようとすることで気力を取り戻す、といったプロセスを思い起こす。
    これまでそういうことって物語的には生命の危機に際して本能覚醒的!な文脈で捉えられていたと思うけど、脳的には”「扁桃体」の神経細胞を活性化”ってことになるのかな。

    • +1
  6. 数ヶ月前まで楽しく思えていた事が最近、全く無反応になっている自分に愕然中。セロトニンカムバーック!!

    • +6
  7. いじめや虐待を受けると心が死に精神が不安定になるとともに脳が大きく萎縮する。
    この萎縮は脳細胞の死もあるけどリクルーティングによるものもあるのかな。

    • +6
  8. 元気に家事をやれていた80歳の高齢者が、ちいさな病院で手術したら、二泊三日で退院させられた。当然、手術の傷口が痛くて、そのストレスから一気に認知症&うつ病になった。朝4時に台所に立つんだけど、3時間立ち尽くして「何をしたらいいのかわからない」と泣いていた。
    高齢者のストレスは本当に危険。

    • +5
    1. >>9
      読んでいて悲しくなった…
      高齢者の怪我や病気がきっかけの話はよく聞くね

      • +3
  9. マウスに与えた「慢性的な社会的挫折」の内容が気になる

    • +5
    1. 米12
      一字一句同じことを思っていた

      群れからハブられたとか、十日間ぶっ続けで迷路とか?

      • +1
      1. ※18
        ストレスと鬱病に関する他の実験例だと、
        「反復社会挫折」の与え方として
        「体格が優位で攻撃性の強い雄マウスからの攻撃に
         1日10分間、10日間連続で曝露する」と説明してあった。

        要は、「毎日 下校時間に、ジャイアンから
        10日間連続でいじめられる」的な状況を作った感じかと。

        • +2
  10. ストレスで脳が変化するなら
    適度なストレスを受ければ頭が良くなることもありそう

    • 評価
  11. 緊張した状況がボケ防止に役立ってるかもしれない

    • 評価
  12. 自分の脳が変化したのが分かるときがある。半年前まで一カ月かかった悩みや問題を5分くらいで解決できたとき「脳が変わった」と思う。

    • 評価
  13. なんかホントに感情薄いんだよなあ

    • 評価
  14. 補足。
    マウスと人間の寿命や世代交代の差を考えると、
    「1ヶ月以上連続でいじめられた」レベルかも。

    • 評価

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