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時空を喰らう「無の泡」とは何か?

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(著) (編集)

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Maximusnd/iStock
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 もしかしたら宇宙は自らを内側から喰らおうとしているのかもしれない。

 物理学者はこの現象を「時空崩壊(spacetime decay)」と呼んでいる。幸いにも、これが起きる可能性は相当に低いようだが、それでも研究テーマとしては面白い。

 宇宙が「無の泡(bubbles of nothing)」によって完全に破壊されるという説は、1982年に理論物理学者エドワード・ウィッテンによって提唱された。その論文では、「宇宙に穴が自然発生し、急激に無限に拡大しながら、遭遇するあらゆるものを無限へと押しやる」と述べられている。

 宇宙開闢より140億年が経過しても、無の泡によってこの宇宙が破壊されていないことを鑑みれば、どうやらそれほど差し迫った話ではないようだ。

 しかしオビエド大学(スペイン)とウプサラ大学(スウェーデン)の研究グループが『Journal of High-Energy Physics』(2月5日投稿)で発表した学説によれば、ここから重要な洞察を得られるのだという。

 それは宇宙を構成する最小の構成単位――すなわち「超弦」に関することだ。

真空の宇宙

 真空には完全なる無というイメージがある。だから、真空であるこの宇宙に、恒星やら惑星やらが存在するという事実は、どうにも腑に落ちないかもしれない。

 だが、この宇宙がほとんど真空であるということは、ここが比較的安定した状態で存在できる理由の1つである。

 「場の量子論」では、真空をエネルギー状態が限界まで低い状態と解釈している。たとえ量子が励起して真空よりも高いエネルギー状態になったとしても、それは長くは続かず、陽子などの形のエネルギーを放出しながら、すぐに一番低いエネルギー状態へと崩壊してしまう。

 この宇宙がほぼ真空であるということは、最初から一番低いエネルギー状態にあるということだ。だから、時空崩壊を心配する必要はそれほどない――はずだ。

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keeze from Pixabay

安定しているように見えて安定していない偽の真空

 だが、理論物理学によれば、このような前提では、ちっとも安定しないのだという。

 1970年代初頭、ロシアの研究者によって、安定した真空と不安定な非真空との中間の状態について考察された。それは長い間”メタ安定状態”が続き、なかなか崩壊しないことから、一見安定しているように見える状態だ。

 この状態は「偽の真空」と呼ばれており、初期宇宙の状態に関する理論、重力の効果、宇宙を観察した結果といったものに関する矛盾点を解消するために考案された。

 じつのところ、偽の真空はビッグバンへの移行期のみを記述するための仮説だが、「ヒッグス場」に関するより最近の研究からは、我々がまだ偽の真空状態を生きている可能性が示唆されている。

 というのも、これまで安定している(エネルギーが最低の状態)と考えられてきたヒッグス場が、最低エネルギー状態ではないかもしれないことが分かったからだ。

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Gerd Altmann from Pixabay

すべてを無に還す「無の泡」

 もし、安定した宇宙というイメージが幻想であるならば、宇宙はいかにして崩壊するのだろうか? その答えが「無の泡」である。

 無の泡は、時空は内側と外側とでは特性が異なると説く「時空の泡」の一種だ。泡には、たとえば内外でダークエネルギーの強さが異なるタイプが考えられるが、無の泡の場合、内側には何もない。文字通りの無である。

 偽の真空の時空の中でこの無の泡が発生してしまうと、それは急激に成長し、やがては宇宙全体を飲み込んでしまう。最終的に時空は完全に無に還り、宇宙は終焉を迎える。

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iStock

無限の宇宙では無の泡が100パーセント発生する

 だが、そもそも無の泡はなぜ発生するのだろうか? その答えは「超弦理論」に求められる。

 超弦理論や超ひも理論と呼ばれるこの仮説は、物質の基本的な単位は点ではなく、1次元の広がりを持つひもであると説明する。ひもは振動することができ、これが量子重力を作り出す。

 宇宙の姿を説明しうる優れた理論とされているが、いくつかの立証されていない前提に立脚してもいる。

 一例を挙げるなら、同理論は4次元よりも多くの次元を必要とする。3次元空間と時間に加えて、コンパクトに折り畳まれて検出できない、数学的にはあるとされる小さな次元がなければならないのだ。

 専門的すぎてここで詳しく説明することはできないが、無の泡は4次元の時空ではなく、ひものような多次元時空の中で生じるとされる。

 その1つである「カルツァ=クライン真空」と呼ばれるひも状時空モデルによれば、すべてを破壊する無の泡が無限の宇宙で発生する確率は1だ――つまり100パーセントだ。

 この宇宙が無限の広がりを持つのかどうか、確かなことは分からないが、この事実を知って、あなたは運命づけられているかもしれない宇宙の終わりに恐怖するだろうか?

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Oleg Gamulinskiy from Pixabay

それが運命ならすでに起きているはず

 安心して欲しい。チェコの超弦理論学者ルボシュ・モトルによれば、無の泡による終焉は、理論を却下するために使うべきなのだという。なぜなら、仮にそれが本当に起きるのならば、すでに起きているはずだからだ。

 彼によれば、この時空が安定しているどうか、はっきりとは分からないという。宇宙がやがて終焉を迎える可能性は確かにある。だが、宇宙開闢より140億年が経過しているというのに、無の泡の侵略が始まっていないのだから、その可能性はかなり低いと考えていいのだそうだ。

 無の泡理論が相当に大きな破滅の可能性を示唆するものならば、それはすでに起きている。そうなっていないからには、同理論には何か欠陥があるに違いないのだ。

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Rost-9D/iStock

無の泡理論の真の目的とは?

これについて、今回紹介した論文の著者の1人、ウプサラ大学のマージョリー・スキロー氏も同意している。

 彼女によれば、無の泡理論の目的の1つは、無の泡による時空崩壊がほとんどあり得ないことだと仮定した場合に導かれる、超弦理論的宇宙についての洞察を得ることであるという。ひも状真空に基づいて私たちが暮らす宇宙を記述するつもりなら、宇宙が崩壊する経路を理解することが大切なのだそうだ。

 じつは論文にはもう1つ目的がある。スキロー氏らの考えでは、宇宙を破壊する無の泡の数学的説明は、宇宙の起源のモデルとしても使えるかもしれないのだそうだ。

 凄まじいスピードで拡大する無の泡の挙動は、初期の宇宙が膨張する様子とよく似ている。特に、無の泡の外側の表面は、仮に宇宙の誕生を外側から観察できたときの様子にそっくりだと考えられるらしい。

 ずいぶん強引にも思えるかもしれないが、これは理論物理学と初期の宇宙理論の重要なテーマだ。

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Elen11/iStock

 「どのような条件なら、観測者は無の泡に”乗る”ことができるのか。これを探求し、今私たちが暮らしている宇宙と似た宇宙を調べるのはとても面白いことです」とスキロー氏は話す。こうした理論は、観測されたダークエネルギーの説明にもつながるかもしれないそうだ。

 研究者だって宇宙については分からないことだらけなのだ。こうした話は我々素人の頭を混乱させるばかりかもしれない。

 とにかく、ここで理解して欲しいのは、少なくとも無の泡に飲み込まれてあなたの存在が消えてしまう恐怖で今夜眠れなくなる必要はないということだ。

References:futurism / vice./ written by hiroching / edited by parumo

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この記事へのコメント 46件

コメントを書く

  1. すまん今回は記事以上にかみ砕いた説明はできん。
    過去に物理を学んでいてもこれは難しいな、この分野の現役バリバリの研究者でないと妥当な評価ができなそうだ。

    • +3
  2. 無の泡はあるよ
    俺の思考力が飲み込まれてしまった

    • +9
  3. どうせ物質だけじゃなくて時間も空間も次元も無い、みたいな意味わからん感じなんでしょ
    「じゃあ中には『無』すら存在しないの〜?w」みたいな頭の悪い突っ込みされようと
    涼しい顔して、想像できないくらいあらゆる物が無いって状態をそのまま扱うのが宇宙さんだよね

    • +9
  4. なーんにも無い部分が、どのくらい続いているのだろう?
    そしてそれが、どのくらい珍しい事なのか判り易く教えて欲しい

    • +3
  5. 何もないのが根源的な「無」だけど、全て存在するのも「無」だと思う。
    だから、「無から有が生まれない」という法則は、「有の中のみ」
    で、無は零であり無限大だから、「無の中の有」は一瞬で崩壊するけど、その一瞬は、「有の中から見た無」だと永遠に来ない。
    「有の中に生まれる、無の泡」ってのは、ちょっと疑問に思う。
    だって、無の一部が有じゃない?
    もし、その「無の泡」が存在するなら、おそらく”零、あるいは無限大”に関する法則性を持った物理現象であって、根源的な無では無いと思うなぁ。
    勿論これ、思考実験的なもの(?)って事だろうから、全然アリだと思う。
    素人考えですが。

    • 評価
  6. こういうの見ると超弦理論とかちゃんと勉強したいな~って思うけれど、場の量子論を軽く触った時点でだいぶ理解するのが厳しかったので難しそう。とはいえ、せっかく人類に生まれたからには、宇宙が崩壊する前には超弦理論を理解したいものだ……

    • +10
  7. ほーん、オレの考えが良くまとまってるやん。

    • -1
  8. 宇宙のことなんてまだまだ分からないことだらけ
    もしかしたら地球が一瞬のうちに消滅してしまうようなことが明日にも起こるかもしれない

    • 評価
  9. この話題の根底には、「宇宙は安定な状態なのか?」という宇宙物理学者にとっては根源的な、そして一般の人にとっては心底どうでもいい疑問がある

    一説によるとその昔、宇宙はビッグバンによって生まれたと考えられています
    その時大きなエネルギーの変動(相転移)が起こり、現在の物理法則が定まったと思われます(慣性の法則や万有引力の法則など)
    やがて宇宙は段々と冷えていき、大人しくなってきました
    でも本当に?
    またどこかでビッグバンのような派手な爆発が起こったりするんじゃないの?

    この、一見大人しそうな状態のことを偽の真空と呼び、本当に大人しくなってその後イベントが起こらない状態のことを真の真空と呼びます
    現代物理学の理論では、我々の宇宙が偽の真空である限り、いつかどこかで突然真の真空へと移り変わるイベントが起こるはずです
    このときに現れると推測されたものが「無の泡」です
    その時には新たな宇宙が生まれ、現在と異なる物理法則が働く世界となると考えられています

    過去にあったビッグバンもそのような相転移の1つに過ぎないかもしれず、宇宙は現代の我々が考えているよりも遥かに長い時間と広い空間を有しているのかもしません
    また一方でこの研究が進めば、なぜ重力があるのかとか反物質はどこへ行ったのかといったような根源的な物理学上の謎が解き明かされる可能性もあります

    • +9
  10. 管理人ちゃん、ここで言う「真空」と宇宙の真空は言葉は同じでもまったく別のもんやで
    この記事の「真空」はエネルギーが一番低い安定した場って意味や
    今この宇宙を絶対に溶けない氷だとする、って仮定を「真空状態」と便宜上呼んでる
    空気が無いとかは関係ないのよ
    んで、もしかしたらそのうち溶けて水になるんじゃないの?って仮定が「偽の真空」や
    無の泡ってのは実際に溶け出した瞬間のことやな

    あと真空崩壊のスピードは光速くらいってどっかで見たから、
    それが正しければ既にどこかで広がってるかもしれない
    光速より宇宙が広がるスピードの方が速いからな
    よって起こりえない事象というのは結論付けられないはずなんやけどな

    • +3
    1. >>18
      無の泡という最低のエネルギー状態(これまでの真空)よりも低い場が発生する事で限定的な真空崩壊が発生して、炸裂したエネルギーが無の泡を崩壊させるんだなという妄想。爆発の規模=カロリー量ではないので、少量のエネルギーの損失で済むに違いない!

      • 評価
  11. 宇宙内空間の大部分がボイド(超空洞)なのとなんか関係してるんだろうか

    • 評価
  12. 無と言うよりは、現宇宙より低いレベルのエネルギー状態で安定する空間が支配的になる可能性、と言った方がいいかな。
    多分カギは絶対零度にある。

    • 評価
  13. なるほど、よくわかった

    俺が、女に もてる確率が 1 なのに

    全く もてない

    のと 同じ ということなんだ

    • 評価
  14. クッソ無知なワイは宇宙空間のいわゆる真空部分には暗黒物質がギッチリ詰まってるのかと思ってた。極拡大すれば、暗黒物質と原子類によるモザイクアートのようなもんかなぁ、てな感じで。
    でもそんな簡単なもんじゃないわなぁ。
    宇宙やばすぎ。

    • 評価
  15. 話は聞かせてもらったぞ!
    宇宙こわい!

    • +1
  16. ttps://www.youtube.com/watch?v=ijFm6DxNVyI
    これのことかな・・・

    • 評価
  17. 「無の泡」って言葉がなんかかっこいいと思いました。
    無の泡……無泡…むほぅっ!

    • 評価
  18. 石川賢の時天空かキャプテン・ハーロックか…

    • +1
    1. ※29
      ゲッペラーとアルカディア号とヤマトが共闘してドワォするんですか?

      • +1
  19. ネバーエンディングストーリーの無(虚無)みたい

    • +2
    1. >>33
      「その時」までの安寧のために隠蔽工作を主にするタイプのやつ~

      • 評価
  20. 今の状態が真の真空か偽の真空かはまだはっきり確かめられてないから真空の泡が発生するかどうかはわからない
    泡が広がる速度は光速だから、億光年を超える広さの我々の宇宙で泡が発生したとしても地球が生命の星であるうちに飲み込まれる可能性は極めて低い
    ついでに光速なので先んじて観測出来ず、飲み込まれるときは気付く間も無くお陀仏
    だから気にすることはない

    • +1
    1. ※34
      よく考えたら「真の真空の泡」が発生したとしても、観測可能な宇宙よりもずっと遠い光速よりも空間の膨張速度のほうが勝るような距離の場所で発生したなら
      俺たちの観測可能な宇宙には到達できないな
      ということはただ発生する発生しないってことよりもずっと安心できることなのかもしれない

      • 評価
      1. ※39
        そう考えると観測可能な地平面の向こう側では既に発生している可能性もあり、記事のように、未だ発生してないから無の泡理論が間違っている、とは決めつけられないかな?

        • 評価
  21. 取り合えず分かるのは今日もコーヒーが美味いって事だ。

    • +2
  22. 粒子加速器で発生させるぞ!核を超える兵器や!みんなまとめてチャラにしたろか!、手な事に

    • 評価
  23. ゴム紐を想像してほしい
    両サイドに平等の力で急速に引っ張れば真ん中辺りが千切れる

    その千切れが無の泡でもあり、宇宙はまた千切れない(無限)の可能性もある

    つまり人類の小さな脳ミソじゃ断定出来ないし『絶対』は『絶対』でない。
    そういう事です。 by大学教授

    • 評価
    1. ※37
      なるほど判りやすいです
      後は次元を増やせば泡になるんだろうね
      でも、待って欲しい、ホントにソコは無かどうか判らないはず
      宇宙の外に繋がっているかもしれないよね
      ※42
      良く判ります
      トンネル効果は
      ゆらぎがゆらいで繋がるからだと思います
      でも、待って欲しい、ホントにソコは無かどうか判らないはず
      宇宙の外に繋がっているかもしれないよね

      • 評価
  24. 「無限の宇宙で発生する確率は1だ」って「当たるまでガチャ引くから出現率100%だ」って言ってるのと同じ話でしょ?

    • +3
  25. 無の穴が広がる速度は光速だそうなので、たとえ既に発生していたとしても、
    自分たちが飲み込まれるまでその存在に気付くことはない。

    もしかしたら、既に100億年ぐらいまえに、100億光年彼方で発生しているかもしれない。
    そして今この瞬間にも、地球にその泡の外縁が到達するのかもしれない。

    • 評価
  26. 上下にくねくねした曲線のグラフを考えればいい。
    縦軸の一番低いところが「真の真空」で、それよりも高い位置にあるけど、
    お椀の底のようになっている場所が、「偽の真空」にあたる。
    お椀の底は安定した場所なので、基本的にはそこから坂を上ってより低い位置に
    移動したりすることはない。
    だから、我々の宇宙が「偽の真空」であっても、そこから真空の状態が変化する
    ことは無い。
    だけど、「トンネル効果」が起きた場合に、坂道を上ることなく、「真の真空」
    に移動してしまうことが、論理的には考えられる。
    この「トンネル効果」によって「真の真空」に移行した場合、「真の真空の泡」
    が生じて、それがやがては宇宙を全て飲み込んでしまう。
    「真の真空」は、それ以上(以下?)考えられない程、ポテンシャル(ゆらぎ?)
    が最も低い状態の真空で、量子の生成や対消滅が、限りなく起きにくい空間とと
    らえればいいと思う。

    • 評価
  27. ウルトラマンXのラスボスか量子魚雷の仕組みのどっちかだな、わかった!

    • 評価

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