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シュレーディンガーの猫ならぬシュレーディンガーの細菌が量子生物学の重要な一歩となるかもしれない(英研究)

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 量子の世界は奇妙きわまりない。

 理論上、そしてある程度は現実においても、それは粒子が同時に2ヶ所に存在することができると説く――これを「重ね合わせ」という。

 さらに2つの粒子は「もつれ」ており、正体不明のメカニズムでもって遠く離れた者同士で情報を共有することができるとも説明する。

 科学者らは細菌を使って量子のもつれを説明しようとしている。これは量子生物学の重要な一歩となるかもしれない。

シュレーディンガーの猫という思考実験

 量子力学の奇妙さを伝える有名な事例が「シュレーディンガーの猫」だ。

 これは1935年に理論物理学者のエルヴィン・シュレーディンガーが考案した思考実験で、ある箱の中に猫が1匹いる場面を想定したものだ。

 箱の中には、猫のほかに、放射性物質のラジウムと放射線測定器と毒ガスの発生装置がある。ラジウムから放射線が生じれば放射線測定器が反応し、それを合図に毒ガス装置から毒ガスが発生、猫は死にいたる。

 ここで放射線が生じる確率を50パーセントだとすると、「(箱を開けて中を確認するまでは)生きている状態と死んでいる状態が同時に重なり合って存在する」という奇妙な状況が生じることになる。

 じつに奇妙な話であるが、量子のスケールでは、実験によってこの概念が繰り返し確認されてきた。

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量子世界と非量子世界の境界はどこにあるのか?

 ところが、もっと単純で直感的にも分かりやすいマクロの世界になると、状況は一変する。

 猫はおろか、宇宙に無数にある星々や惑星ですらも、重ね合わさって存在している姿や、量子的にもつれている姿は確認されていない。

 量子論が登場して以来、科学者たちはミクロの量子世界とマクロの非量子世界の境界はどこなのだろうかと考え続けてきた。

 量子の世界はどこまで広がっているのか? それはこの世の生物に影響を与えるほど広大なのだろうか? と。

 過去20年で登場した量子生物学という分野では、この疑問への答えを探し求めている。生物を使った実験や理論から、量子世界の広まりを探ろうというのだ。

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pixabay

生物における量子効果を探る量子生物学

 それらの実験では、不可思議だがはっきり断言できない結果が出ている。

 たとえば、今年初め、植物の光合成には量子効果が関係しているかもしれないと発表された。

 またがどのように方角を知るのか、あるいは私たちがどのように臭いを感じているのかといったことにも量子効果が関係しているかもしれないという。

 しかし、こうした結果は、ほんの部分的なものであって、それがバクテリアのようなごく小さな生き物であっても、生物全体にもつれや重ね合わせが生じていることを明らかにした研究はなかった。

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シュレーディンガーの細菌で量子のもつれを説明

 だからこそ、イギリス・オックスフォード大学の研究チームによる、細菌と光子のもつれを観測したという研究論文は驚きであった。

 キアラ・マーレット(Chiara Marletto)らが『Journal of Physics Communications』で発表した研究は、2016年に英シェフィールド大学のデビッド・コールズ(David Coles)らが行った実験を解析したものだ。

 その実験では、光合成細菌の一種である緑色硫黄細菌を2枚の鏡の間に大量に並べた。

 鏡同士は徐々に距離が近づくように配置されており、最後は数百ナノメートル(人の髪の毛よりも細い)まで狭められていた。

 コールズはここに白い光を反射させ、細菌内にある光合成分子と鏡の空洞とを連結(相互作用)させようとした――つまりは細菌に光子の吸収・放出・再吸収を連続的に行わせようとしたのだ。

 結果、細菌6匹が光子と連結した。

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緑色硫黄細菌 image credit:Green d winogradsky.wikimedia

 しかし、これを解析したマーレットらは、ただ単に空洞と連結しているだけではないと論じている。

彼女らによると、実験で確認されたエネルギーの特徴は、細菌の光合成システムが空洞内の光ともつれた場合のそれと一致するという。

 本質的には、光子が細菌の中にある光合成分子に同時に衝突しかつ外れているように見えるのだという――すなわち、もつれの特徴を示しているのだ。

 共著者のトリスタン・ファロー(Tristan Farrow)は、こうした効果が生きた生物の中で確認されたのは初めてのことだとコメントする。彼によれば、”シュレーディンガーの細菌”を実証するための鍵であるという。

 ファローによれば、この発見は、自然界において量子効果が発揮されている事例のありかも指し示している。

 緑色硫黄細菌は光の届かない深海に潜む生物である。こうした環境であるからこそ、光合成を強化するために、量子力学的な進化適応が促された可能性があるのかもしれないのだそうだ。

まだはっきりとした結論は出せない

 ただし、この主張にはいくつもの注意点がある。

 まず一番気をつけねばならないのは、もつれの証拠とされるものは状況証拠でしかなく、細菌を出入りする光の解釈の仕方に依存しているという点だ。マーレットらは、量子効果とは関係のない古典的モデルによって実験結果を説明できる可能性についても認めている。

 もちろん光子はちっとも古典的などではなく、まさに量子のものだ。しかし、より現実的であろう半古典的モデル(細菌にニュートンの法則、光子に量子を使ったモデル)では、件の実験結果が再現できない。

 また別の注意点として、細菌と光子のエネルギーが個々にではなく、集合的に計測されたということもある。通常、もつれを実証するためには、2つの系を独立して計測しなければならない。そうでなければ量子の相関関係は本物とは認められないのだ。

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量子生物学に光明

 こうした不確かな点はあるが、多くの専門家にとって、量子生物学が単なる理論上のものから具体的な現実になるかという疑問は、すでに「なるかどうか?」ではなく「いつか?」というものだ。

 生物系の外における分子については、個々にも集合的にも、量子効果が実験で証明されて数十年になる。ならば、それを細菌や人体の中で探し求めることは、十分理にかなっているように思える。

 人間や大きな動物においては、分子の量子効果は取るに足らないものになってしまうかもしれない。しかしもっと小さな細菌でなら、それが生きる上で量子効果が大きな役割を担っていたとしてもそれほど意外ではないだろう。

 さらに一歩進めようという研究もある。たとえば緩歩動物という小さな水生動物を重ね合わせてしまおうという実験がある。緩歩動物が細菌よりも数百倍も大きいことを考えると、細菌における量子もつれよりもはるかに難しいことだ。

 またファローは細菌の実験をもっと改良する方法を模索している。彼によると、来年には細菌を光ともつれさせるのではなく、2匹の細菌同士でもつれさせたいと考えているそうだ。

 「それは現実がどのような性質を持っているのか理解するためのもの」だとファローは語る。もちろん、物質の根本には量子が存在する。しかし生きている生物の中で量子効果がどのような役割を担っているかは大きな謎だ。

 たとえば、「自然選択によって、量子現象を自然に利用する生物システムが誕生しているという可能性がある」とマーレットは話す。先ほどの緑色硫黄細菌もその一例かもしれない。

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生物における量子の探求は始まったばかり

 しかしそれを明らかにするには、小さなものから始めなければならない。そして、数百万の原子をもつれさせることに成功した最近の実験のように、徐々にマクロレベルの実験へと引き上げていく。

 生物を構成する分子が意味のある量子効果を発揮していると証明することは、次のステップとして非常に重要なことだ。そうした古典的な量子の領域を探求することで、マクロレベルの量子とはどういうことなのか理解を進めることができる。

References:motherboard / abovetopsecret / scientificamerican/ written by hiroching / edited by parumo

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この記事へのコメント 40件

コメントを書く

  1. おらの髪の毛も、もつれた際に抜けちゃうんだけど、そういうことだよね?

    • +1
  2. シュレディンガー言いたいだけだなぁ
    植物の光合成がミクロな領域で量子効果を利用していることの光合成細菌での後追い確認でしかない

    • -4
    1. ※4
      シュレディンガー言いたいだけなのはこの記事の著者だけでしょ
      どの領域まで量子効果が確認出来るかのお話なんだからそもそも後追い確認の為の実験でしょう
      実験方法が不正確な可能性はあるがそこも含めて研究になるんだし、大きな一歩じゃなかろうが小さな一歩として充分だよ

      • 評価
  3. 現場のおじさんの
    「ネコで遊ぶな!」AA略って
    しゅれてぃんがーに言ってたのか、、?

    • 評価
  4. マクロとミクロの境は、視覚的な存在の境かもしれないなと読んでて思った。つまり、パラレルワールドはミクロから存在するって。集合体になればなるほど重力が大きくなり、視覚的に存在する世界が分岐しちゃうっていうイメージ。でもそこに別の世界も存在はしていて、私達もその間を常に揺らいでいる。いま自分をマクロで見れば様々なパターンが無限にあるんだと思う。

    • +3
  5. つまり、りょうこさんがもつれたり重なったりすると言う話ね。

    だいたいわかった。

    • +8
    1. ※9
      その上、みつこさんがぶつかったり外れたりもするらしいんだ。みつこさんはちっとも古典的じゃないって言ってるから、きっと現代的なんだ

      • +8
      1. ※17
        ういえば、はらこさんとようこさんは元気なのかな。

        あまり話題にならないけど。

        • +5
  6. 漁師インターネットと漁師コンピューターが一般的に実現したらパソコン買い換えなくっちゃ!

    • -1
  7. 時々思うことがある
    人間の判断に少ない量子の振る舞いが決定的に関わっているときがあるとしたら、
    その判断から起きるものは量子もつれとなるのだろうかと
    さらに言えば、それは脳の神経の話だけでなく、実験の光子が右に行ったか、左に行ったかで判断を変える時にも起こり得るのではと
    そうであるならば、判断が右に行った私がいつか死んでも、左に行った私は生きている時があるはず
    私は生きている私しか知覚できないとすれば、その後私は左に行った私として生きるだろう
    もしそんなことが連続して起きている、もしくは、起こすのならば、私は分岐した私の中で知覚し得る私のみを知覚し、それら全てが死ぬ可能性まで生きながらえることができるのではないだろう、と 他の死んだ私を犠牲にして

    • +3
  8. つまり緑色硫黄細菌さんは合わせ鏡によって永久機関を獲得した、ということでよろしいか

    • +1
  9. これとは別の話になるんだが、ウィルスや細菌を光子や電子の代わりに二重スリットに投げつけて波の状態の細菌を観測できないかやっている人たちの実験、成功しないかな?

    • +2
  10. シュレーディンガーの猫を、「生きているか死んでいるか分からない」という風にしか解釈できない自分には難しい話でした
    「同時に重なり合って存在する」っていう言葉を実感を伴って理解するにはどうしたらいいんだ

    • +2
    1. ※20
      重なりあっているのは、例えば…
      電子をあるルートに沿って飛ばす。このルートは途中で一度左右に分岐して、その後に再度合流する。すると出口側では右から来た電子と左から来た電子がぶつかった時のみ起こる現象が発生する。
      不思議な事にポツリ…ポツリ…と電子を1個ずつ飛ばしても、やっぱりこの現象が発生する。これは一つの電子が右を通った状態と、左を通った状態が重なり合ってるから、と言うのがこの考え方。

      猫の例えが分かり難いのは実はワザとで…。シュレディンガーさんは電子の重なり合いとか無いと考えてた。それで「そんなの生きてると同時に死んでる、と言ってるの同じだ。ある訳無いだろ!」って意図で例えを作ったからなのよ。

      • +5
      1. ※26
        ところがむしろ「その概念と例えはむしろ判りやすくしかもこの謎の状態を説明するのに凄い適してる」って採用されてしまうという凄い皮肉…
        まあ事実そうとしか説明できなきゃそういうもんだと認めて受け入れるのが科学だしね

        • +5
  11. ごめん、なんかもう、コメ欄の「りょうこさん」「みつこさん」「はらこさん」「ようこさん」に全部持ってかれて、何がなんだか(笑。
    まだ誰かいる? 愛してるよ、みんな!(笑。

    • +3
  12. 発見するのはいいけどいかに日用品に落とし込めるかが重要なのではと俗っぽい自分は思う

    • 評価
  13. シュレディンガーの猫って、
    生きた状態と死んだ状態が重なり合って存在している
    なんて事あるはずないじゃん考えたら判るだろう。って思考実験じゃなかったのか?

    • +2
    1. ※27
      そう、誤解してる人が多いけど、
      単に「生きているか死んでいるかわからない」というだけではなく
      「生きていて、同時に死んでもいる」っていう状態(重ね合わせ)が特徴なんだよね。
      今回の実験は「光を吸収し、かつ、吸収していない」って重ね合わせが起きたかどうか。
      人間で言えば「ケーキを食べた、でも、手に持っている」って状態が生じたって主張だね。

      • +6
  14. 面白い分野だよね。
    ミクロを扱う量子力学の不思議というか特殊な性質がどこまで適用されるのか、生物に利用されているのか…

    • +1
  15. 男女関係の重なり合いやもつれはシュレディンガー案件なのだろうか?

    • -2
  16. 結局、実験ではどんな現象が見られたのかがわからん・・・
    光子1つ分のエネルギーで複数の細菌が同時に光合成した、とかなんだろうか?

    • 評価
  17. 漢字で書くと、きちんと意味の通る内容でも、ひらがなで書きかつ人名っぽくすると途端に、意味不明なものになることって結構多いけど、物理関係ってその典型だと思う。

    例えば、みずもとさんを構成するはらこさんは、でんこさん一人とようこさん一人の組み合わせで、成立しています。

    そして、常に「いる」と思われている、でんこさんは、実は「いる、いない」の状態を行ったり来たりしていて、かつ、スリットを通す実験をすると一人のはずのでんこさんが、複数のスリットから出現するのです。

    また、物質はつぶこさんの段階が最も小さいと思われていましたが、前世紀にさらに小さい状態としてりょうこさんの在り方が明かされていて、そのりょうこさんの状態では、もつれたり重なったりすることになるのです。

    こんな感じで。

    • 評価
  18. 「複数の状態が同時に存在している」
    この原理が、どこまでの大きさの生物にとって存在に関わる意味が大きくて、どの大きさからはそうでなくなるか、っていうのを探ろうとしているんだよね。
    なぜ、大きくなると「複数の状態が同時に存在」がないように見えるようになってしまうんだろうか?
    「複数の状態が同時に存在」自体はなくなりはしないのだろうから、認識する側の認識能力が非常に限られたものでそう受け取っているだけで、神たる存在の目で見れば、私たちも「複数の状態が同時に存在」しているんだろうと思う。
    というか、それはすでに「私たち」という形式にすら見えない別物として映るのかも。
    今の認識世界を脱してそれを見てみたい。

    • 評価
  19. 答えを言ってしまうと、シュレーディンガーの猫は成り立たない。
    なぜなら「猫が生死が分からなくなる箱」を作れないから。どんなに密閉しても猫の鼓動による重力波が外に漏れてしまう。猫の生死は外から観測できるのでシュレーディンガーの猫のパラドクスは成り立たない。というわけでどんなに小さくても動的平衡状態にある生物は量子的状態にはならないだろうね。

    • +1
  20. 量子さんは相当自由なヒトですね
    重力が無いと尻軽なの?
    「捕まえてごらんなさい…」
    つかもう忍者みたいですね
    量子は2人になった!
    物は大きすぎると色々歪む、小さ過ぎるとあちこち逃げる…こんなイメージでいいんだろうか??

    • +2
  21. コメ欄のおかげでちょっとわかった。ほんとにありがとう!
    でもなんで重なりあったりもつれたりし得るんだろう。
    極微の世界に別の次元が垣間見えてるのかな。
    パラレルワールドというと平行世界だけど、この世界自体に三次元を超えた事象が起きているような印象を持った。

    • +2
    1. ※39
      じつは、逆なのかもしれない。

      つまり、りょうこさんやみつこさんの段階では、もつれたり重なったりぶつかったり外れたりするのが当たり前で、それが、はらこさんやでんこさん、ようこさんの段階になるそれまでできたことができなくなる。

      ちょうど、お年寄りが歩くのに、だんだん不自由になるように。

      りょうこさんについて学ぼうとすると、それまでの常識を逆転させて考える必要があるのかもね。

      • 評価
  22. 高い次元は極小の世界っていうから、我々の次元から高次元を観測してるせいで珍妙なふるまいに見えるんだろうねえ
    2次元の人が3次元の物体を観測したら、謎の法則で全然違う姿に変化する気持ち悪い物体に見えるのと同じように

    • +1
  23. 量子の世界は、すごい……!

    この現実世界に、まるで物理法則がまったく違うかのようにさえ見せる、ミクロな異世界。
    ファンタジーな世界が、実在することを、示している。

    私の常識的世界観が、ほぐれた瞬間だった。

    • 評価

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