0_e5

 顔・声紋・指紋といった身体的・行動的特徴に基づき個人を認識する技術、「生体認証」の重要性は、セキュリティ保全の分野においてますます増している。

 従来の個人識別番号とパスワードといったやり方では容易に破られてしまうからだ。例えばバークレイズは、スマホからネットバンキングを行う顧客向けに指紋認証システムの「TouchID」を導入した。

 だが、これだけでは不正を完全に防ぐことができない。極端な話、指を切り落としてしまえばいいのだ。またセロファンを使って、ガラス面に付着した指紋を採取し、そこにゼラチンを塗るなど、指紋を偽造する方法はいくつかある。

 こうしたことから、コピーが困難な、より高度な生体認証システムの開発が急務であった。そして、その答えとして有望視されるもの、それが「脳」である。
スポンサードリンク

脳の電気的活動をベースにする脳紋の研究


 脳の電気的活動をベースにする生体認証技術は、不正を防止する確かな潜在能力を示している。ここ数年になされたいくつもの研究が、脳が考える方法は人によって異なっており、”脳紋(brainprint)”は人それぞれ独自のものであることを明らかにしている。

 事実、当時ですら、102人の被験者を対象にした実験で98パーセントの精度で個人を特定できている。これは指紋の99.8パーセントという精度にかなり近い。

 より最近では、こうしたことが血流の変化から脳の活動を測定するfMRIによって確認されている。


精神的作業から個人を特定



 ある研究では、リラックスする・ストーリーを聞く・計算する・感情を浮かべた顔を見る・体の動いている部位を想像するといった特定の精神的作業を行わせることで、最大99パーセントの精度で個人の特定に成功している。


脳紋を認証する装置の開発


 しかしfMRIのコストと難しさ(長時間スキャナーの中でじっと横になっていなければならない)は、日常的な生体認証を行う上では実用的ではない。

 電極で脳波パターンを計測する脳波計(EEG)が注目されたのはこのためだ。しかしEEGも楽ではない。計測にはゼリーが塗られた電極付きのキャップを被らなければならないからだ。

 こうしたことが脳紋を利用する技術の実現を阻んでいた。

 ところが最近では、一般的なイヤフォンの表面に組み込んだ電極を用いて、ゼリーを塗ることなく、耳から脳波を測定できるようになった。

 だからといって脳紋の測定は簡単ではない。脳が常に様々な情報を処理しているために、脳波は雑音だらけだからだ。そうした雑音を減らす技術もあるが、それには強力な演算能力が必要であった。

 だがスマートフォンの進化は目覚ましく、それもそれほど問題ではなくなってきた。つまり、理論的にはあらゆる演算能力をスマートフォンで賄えるようになってきたということだ。


1_e5


双子には使えない、脳紋が安定しないなどがネックだった


 では脳紋が未だに普及していない理由は何だろうか? まず1つには、双子には使えないことが挙げられる。双子の脳波はほとんど同じパターンを示すのだ。

 しかし最大の問題は長期的に脳紋が安定していないことである。脳紋は一度測定すればそれで済むというものではなく、例えば1か月間隔といった具合で、定期的に測定を続けなければならない。

 これは脳の接続が可塑的な振る舞い(経験に応じて変化する)をすることが原因だ。


特定の発信音を使用することで弱点を克服


 しかしイギリス、ケント大学の研究チームの調査からは、イヤフォンで鳴らす特定の発信音を用いれば、こうした変化を最小限に抑えられることが判明した。

 発信音が脳に与える影響についてはまだ完全には明らかになっていないが、これが脳を落ち着かせ、活動に対する集中力を増加させると推測されている。

 ニューヨークの銀行では、じきにニューヨーク州金融サービス局が推奨する多因子認証プロトコルが導入されるようになるだろう。これは内部システムなどにアクセスする際、3つ以上の認証メカニズムを併用するものだ。

 指紋認証や声紋認証も有望であるが、新しいサイバーセキュリティ基準を満たす上では脳紋のほうがよりふさわしい。

 例えば、指紋の場合は一生変化することがないために、仮にセキュリティが破られてしまっても、新しい指紋を用意することはできない。しかし脳紋は異なる精神的活動を用いれば、更新することができる。

2_e4

将来的にはパスワードを入力する代わりに利用できる可能性も


 脳紋はさらに、従来の英数字のパスワードに代わるパスワード生成にも利用することができる。例えば、ATMの利用者はいちいち暗証番号を入力するのではなく、イヤフォンを耳に入れて、ATMの画面に表示される個人識別番号を見るといったやり方がある。

 個人識別番号を見ると脳に変化が現れ、それが認証されてATMを利用できるようになるのである。

 また強要されている状況においては、ストレスで脳紋が機能しなくなる。したがって犯罪の防止にも有効である。

 こうした点や他人の思考をコピーすることの難しさを考えれば、脳紋を利用する利点は明らかである。

 特に多因子認証システムの一部として今後脳紋が採用される可能性は非常に高いだろう。いつの日か、銀行から脳波を測定するイヤフォンが送られてきても驚かないことだ。

via:The 'perfect password' could be your BRAINPRINT, researchers claim

 というか、パスワードを入力しなければならないことが多い昨今。パスワードをうっかり忘れがちな私にとっては朗報なのかもしれない。iPhoneとかの指紋認証とか、乾燥体質の為か、何度指で押しても開かなくて、結局パスワード打ち込んでるわけだし、はやくどうにかしてくれよ。パスワードを一切覚えなくていい未来かもーん!

▼あわせて読みたい
これでもう安心?完璧なパスワードの作りの為の10のテクニック


飲むパスワード?貼るパスワード?パスワードの未来


テレパシーで会話する時代がこの後すぐ!?コンピューターによって脳波に現れた言葉の解読に成功(日本研究)


脳波で動きを制御する人型ロボット「バクスター」が爆誕(米研究)


記憶の達人が伝授。物事を覚えておくのに便利な5つの記憶術【ライフハック】

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
この記事をシェア :    

Facebook

コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 09:52
  • ID:Q1YlDgEF0 #

スパイ映画の新たなギミックですね

2

2. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 10:16
  • ID:wSuptmIp0 #

指紋と同じでパターン見るだけだろうから、簡単にコピー可能だろうね。
しかもバイオメトリクス系の認証は、一度偽造されたら一生涯にわたって使用不可になるからリスク高すぎる。

3

3. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 10:33
  • ID:E4d2z3ob0 #

情緒不安定でも認証されるかな…

4

4. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 10:39
  • ID:YSLqwBB80 #

てんかんとか、
脳波が不安定な人でも使えるのかな
(´・ω・`)

5

5. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 10:43
  • ID:nbXYiPc70 #

技術はどんどん進歩するんだから、その脳紋だっていずれ破られる時が来ると思うよ

6

6. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 10:59
  • ID:lrn9X76s0 #

デジタルデータにした時点でコピーされる可能性出て来るし、例えば指輪型とかみたいな身につけやすいハードウェアトークンつかえばいいんじゃと思うけど。

7

7. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 11:11
  • ID:7EJli0sY0 #

ゴーストラインだな

8

8. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 11:13
  • ID:5zBJHe6G0 #

銃夢では脳にコード打つシーンあったけど、脳紋と言う手があったか。でも、双子には使えないか・・・。

9

9. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 11:27
  • ID:4JzbU6UO0 #

攻殻のゴースト認証がついにきたか

10

10. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 11:32
  • ID:NqL692Pv0 #

脳紋だって虹彩だって指紋だってデータ化された時点でコピーでもされたら破られるのではないかな?

11

11. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 12:02
  • ID:VCPIz4nW0 #

悪用されるのは問題ないのか?

12

12. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 12:36
  • ID:eeJKbMVg0 #

その発想はなかった
よく思い付いたな

13

13.

  • 2017年03月20日 12:40
  • ID:5uUGXLVM0 #
14

14. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 12:52
  • ID:ZcDYHjuo0 #

※10
その通り
情報量増やしても意味がない
しかも脳はなんて安定しない

完璧なパスワードなんて理解している人がいるから困ってしまう

15

15.

  • 2017年03月20日 14:21
  • ID:WOr3gjzS0 #
16

16. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 14:28
  • ID:JuAfru7o0 #

長期的に安定しないというのと、双子がほとんど同じというのは両立するのかな?
ちょっと混乱した。

17

17. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 14:56
  • ID:S6JmVRM.0 #

脳波のパターンって事ですよね
重大な事故後や病気だと認識が難しそうだけどソフトウェアの進化でなんとかなりそう
偽造は指紋より簡単そう、カツラや手袋に仕込めば出来そうな気する

18

18. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 16:53
  • ID:WfUHuw.70 #

特殊な入力装置を使ったら、そっちをハックされるだけだと思う。

19

19. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 17:34
  • ID:KHje4tO80 #

けどまぁデータ化した時点で問題はセキュリティの方に移ってしまうんですけどね…

20

20. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 19:50
  • ID:5uUGXLVM0 #

この紋所が目に入らぬか!控えおろーーーー!

21

21. 匿名処理班

  • 2017年03月20日 21:56
  • ID:Nif6696T0 #

次は肛紋ですか、そうですかwww

22

22. 匿名処理班

  • 2017年03月21日 00:00
  • ID:xg2oj.Oi0 #

指紋は20コあるから一度に両手と両足失う大事故でもなければ、複数登録できるんで大丈夫だけど、脳紋て脳梗塞とか起きたときの対策ってあるの?

23

23. 匿名処理班

  • 2017年03月21日 01:51
  • ID:.al6W44G0 #

複製することは無理っぽいけどさ、脳腫瘍や脳梗塞、てんかん、アルツハイマーなどになったら本人と識別不可になるんじゃね

24

24. 匿名処理班

  • 2017年03月21日 02:02
  • ID:M4yq0Pqh0 #

それでも今のキーロガーと似た方式で、認証中のデータを盗んで悪用する輩は後を絶たない。

25

25. 匿名処理班

  • 2017年03月21日 09:05
  • ID:WN6RGGbs0 #

脳の神経回路なんて常に変化してるだろうにどうやって照合するんだ?

26

26. 匿名処理班

  • 2017年03月21日 12:30
  • ID:lW84p3Eg0 #

異なる精神的活動って何なんだ……
妙な薬物でも打つのかよ怖いわ

27

27. 匿名処理班

  • 2017年03月21日 20:59
  • ID:FmsYHkbQ0 #

急ぎで鍵を開けようとしてる時に
「脳波が乱れています。リラックスしてください」とか機械に言われたら余計イライラしそう。指紋、声紋、光彩、静脈の複合が確実じゃないかな

28

28. 匿名処理班

  • 2017年03月22日 02:15
  • ID:aTZoWqxh0 #

TEDで研究者が語っていましたが「指紋」については写真や映像を解析するだけでコピーを作れるレベルまで画像解析の技術が上がっているそうなので完全に破綻するかもしれません

物理キーがみなおされるかもしれませんね、材料工学やらなんやらの進歩にもよって

29

29. 匿名処理班

  • 2017年03月22日 09:58
  • ID:lAnGwlUJ0 #

悪用できそうでゾクゾクする研究だね

30

30. 匿名処理班

  • 2017年03月23日 07:16
  • ID:Qp.Hh3oJ0 #

ふと思ったんだけど、デジタルでユニークなデータって存在し得るのかな?
ハード的にコピー不可とかじゃなくて。

31

31. 匿名処理班

  • 2017年03月24日 22:52
  • ID:ZjKRurOy0 #

特定の映像を見せて、その反応を観察するというやり方もパスワードになるんだ。

例えば女性の全身写真を一瞬見せて、視点を追跡すれば、パスワードになる気がする。
真っ先に見に行くところは、人によって決まってるだろうから。
猫とかケーキとか、5枚くらい連続で行えば個人特有のパターンが現れて、
パスワードに使えるんじゃなかろうか。
技術的なハードルは脳紋認証よりかなり低そうだけど、どうでしょう。

お名前
スポンサードリンク
記事検索
月別アーカイブ
スマートフォン版
スマートフォン版QRコード
「カラパイア」で検索!!
スポンサードリンク