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脳神経学者が解き明かす「不思議の国のアリス」に隠された脳に関する5つの事実

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(著)

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 今年はルイス・キャロルの名作「不思議の国のアリス」が誕生して150周年となる。1世紀半もの長い間、キャロルの書いたアリスの物語は映画、絵画、バレエにいたるまで、数多くの作品に影響を与えてきた。しかし、この作品が人間の” 脳” に関する理解を描いていることはあまり知られていない。

 記憶、言語、意識など、我々が脳の不思議の国の地図を作成する技術を手に入れるよりもずっと前に、キャロルは遊び心に溢れた思考実験によってその輪郭を描き出していたのだ。

 「継続する自己は存在するのか、あるいは過去の物事を思い出し未来を予測する仕組みなど、この作品では多くの概念が思索されています。科学者がこれまで解き明かした認識に関して、多くのことを示唆しています」と語るのはカリフォルニア大学バークレー校のアリソン・ゴプニック女史だ。

1. 不思議の国のアリス症候群

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「私を飲んで」、「ええ、頂くわ」とアリス。「これで大きくなれば鍵に手が届くし、小さくなっちゃったらドアの下から潜ればいいし、どっちにしても庭に行けるものね。どっちでもかまわないわ!」

 冒険の序盤でアリスは「私を飲んで」とラベルが貼られた薬を飲み、たったの25cmにまで縮んでしまう。そして、次に口にした魔法のケーキでは、天井に頭をぶつけるほど大きくなる。とても印象的なシーンだ。

 1955年、精神科医のジョン・トッドは、一部の患者がこれとまったく同じ感覚を経験していることに気がついた。この症状は不思議の国のアリス症候群といい、子供によく見られる。物が逆さまに感じられたり、部屋の反対にいる人が隣にいるかのような感覚も報告されている。

 キャロルの日記からは彼が偏頭痛で悩んでいたことが伺われる。これは時折アリス症候群を引き起こすことがあったようで、例の場面のアイデアはここから得たのではないかと言われている。ある専門家によれば、同症候群の原因は、空間認識を司る頭頂葉での異常活動であり、これが遠近感や距離感を歪めている可能性があるそうだ。

2. 睡眠中の脳の記憶の統合

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今度は間違えようもありません。それはまさしく豚そのもので、これ以上抱っこしているのは実に馬鹿げていると思いました。

 醜い公爵夫人とその赤ちゃんなど、不思議の国には変身するキャラクターが数多く登場する。アリスが赤ちゃんを抱っこしていると、その鼻が上を向き、両目が近くにより始め、ブヒブヒ泣くようになる。また別の場面でアリスがフラミンゴをマレット代わりにクロッケーで遊んでいるとき、にやにや笑うチェシャ猫と出会うが、その笑いは身体が消えたあとも残される。

 夢の中にはしばしば姿を変えて別の存在になる物が登場するが、こうした特徴はアリスの冒険が眠りについた心の中で起きていることを想起させる実に巧みな方法なのだ。神経学者の考えでは、この現象は睡眠中の脳が記憶を統合することに起因する。脳が記憶を強固にするにとき、様々な出来事の関係が結びつけられ、より大きな生活の物語が作られる。これが例えば豚の記憶と赤ちゃんに関する出来事が横断的に参照された場合に、夢の風景の中で混じり合い超現実的な色彩を帯びるのだ。

3. 脳を刺激する言葉の働き

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なんと間抜けな名前だ!」とハンプティ・ダンプティは、せっかちにも口を挟みます。「どんな意味なのかね?」、「名前って意味がないといけないのかしら?」とアリスは怪訝そうに尋ねました。「もちろん、いかんよ」と短く笑いながらハンプティ・ダンプティ。「我が名の意味は我が輩の形だ…しかも見事に格好いい形であるな。君のような名前では、ほとんどどんな形にもなれるじゃないか。」

 鏡の国でもアリスの冒険はこうした探索が続く。それは最初の章でアリスがジャバウォックの詩を読んだときに始まる。

夕火の刻、粘滑なるトーブ

 遥場にありて回儀い錐穿つ。

 「すごく素敵な感じね。でもとっても難しいわ」と読み終わったアリスが洩らすが、まさにその通りである。この詩は言葉自体がナンセンスなものでありながらも、適切な文法に対して抱く我々の感覚をくすぐるのだ。言語の処理過程に関する研究者は脳を検査する際、よく”ジャバウォックの詩的文章”を利用する。これによって意味と文法が脳内でまったく別々に処理されていることを明らかにするのだ(ちなみにニルヴァーナの『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』など、”文法的なナンセンス”を効果的に利用する者は他にもいる)。

 ハンプティ・ダンプティと出会ったアリスは、その会話で言語のより根源的な性質を掘り下げている。ハンプティ・ダンプティのような2つの単語でなるフレーズが、他の無作為な音よりも彼の”格好いい形”を上手く表している可能性はあるのだろうか? これはプラトンの時代まで遡る大昔からの哲学的な問いである。以前はそんなことはあり得ないと考えられていた。すなわち言葉は偶然によるものであり、音に固有の意味などあるはずがないと見られてきたのだ。だが、どうもハンプティは正しかったのかもしれないのだ。

 “キキ”や”ブーバ”といった単語を思い浮かべて欲しい。これに対応する形を与えてもらうと、ほとんどの人間がキキには鋭い形、ブーバには丸い形を選ぶ。こうした”音象徴”は今、盛んに研究が進められている分野である。そして、ある理論によれば、この関連性は発生するときの唇の形に起因するらしい。

 その真偽は定かではないが、この事実は外国語の意味をより正確に推測できるということだ。さらには、これが人類最初の発声を留めた”言語の化石”と睨む研究者もいる。

4. 白の女王と心のタイムトラベル

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「後ろにしか働かないなんて、情けない記憶でございますわね」と白の女王。

 「陛下が一番よく覚えていらっしゃることは、どういった類いのものなんでしょう?」とアリスはあえて尋ねました。 「そうね、再来週に起きたことですわ」と白の女王はさらりと答えました。

 旅も進んだころ、アリスは白の女王と長い議論を交わしている。彼女はキャロルの登場人物の中では最も捉えどころのないキャラクターで、不思議な先見の明がある。実際、彼女の記憶に関する発言は驚くべきことに予知そのものであった。2000年代の中頃から、神経学者たちは記憶が必ずしも過去に関するものとは言えないと気づき始めたのだ。それは未来における適切な行動を助けるものである。最適な行動をとるには先を予測する必要があるからだ。

 1つの可能性として、記憶を分析し、それを繋いでモンタージュを作ることで、未来を想像していることが考えられる。このやり方では、記憶と先を読む力は、脳の同じ領域にある同じ”心のタイムトラベル”を利用している。例えば、海馬に損傷がある人を対象にした研究では、過去を思い出せない他にも、未来を考える能力に支障を来すことが判明している。こうした人たちは、次の週に友達と待ち合わせをするといったことが想像できないのだ。永遠の現在に捕われてしまったかのようだ。

5. ありえないことを思考できるか?

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「無駄ですわ」とアリス。「ありえないことは信じられないもの。」、「言わせて頂きますが、あなたはあまり練習をしてこなかったようですね」と女王。「わたくしがあなたくらいの年頃には、日に30分は欠かさず練習したものですわ。ときには朝食前にありえないことを6つも信じたほどですのよ。」

 人間の想像力について思索しながら、女王はありえないことを考える美点を賞賛する。このくだりを3歳のときに読んで心理学者となったゴプニック女史は、例えば、ごっこ遊びや”ありえないことを信じる”よう練習をする子供は、より高度な認知能力を発達させる傾向があることに気がついた。

 彼らは仮の話をよく理解し、より高度な”心の理論”を発達させ、他人の動機や意図について鋭い理解を示す。多くのごっこ遊びは仮定を前提としており、これが論理的な帰結に繋がる。「面白いのは、キャロルは手品が好きなのですが、これからも同じように仮定し、奇想天外な帰結を導き出す能力を伺うことができます」とゴプニック女史。

 アリスの冒険は超現実的な出会いに満ちており、これがこうした力を磨く手助けとなる。キャロルのような超現実的で、不条理な文学が認知能力に与える影響を調査した研究がある。これによれば、奇妙な異世界で予想が裏切られると、脳の柔軟性や創造性が向上し、新しいアイデアも速く覚えられるようになるそうだ。型にはまった考えを打破したいのならば、アリスは絶好の対策となるだろう。

 なお、幻覚誘発性の麻薬を使用したときも、常識から解き放たれた子供のような状態になれる場合があるとゴプニック女史は指摘する。だが、読書の方が確実に安全な方法であることは言うまでもない。

via:bbc・原文翻訳:hiroching

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この記事へのコメント 47件

コメントを書く

    1. ※1
      悲しい奴だな、お前も俺も・・・

      • +16
    2. ※1
      ふーーん あっそ
      うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

      • +3
  1. アリスの物語って、心理学とか言語学とか、脳科学とかの分野でも研究されてるんだね
    そりゃ150年経っても今だに人気なわけだ

    • +13
  2. 俺も空から女の子が降ってくるのを14年待ってる
    今じゃ俺が親方(´・ω・`)

    • +16
  3. この話って有名じゃないの?
    まあ多くの人が不思議の国のアリスを読まずに、その存在だけ知っている状態だから広まらないだけで、読めばわかるがアリス自体は決して面白い話ではないよ。
    ただ考えさせられる。
    子供が見た夢の話を忠実にまとめた支離滅裂な物語という印象。
    ただ翻訳版だとセンスのいいと言われる詩の部分が残念になる。

    • -21
    1. ※5
      話もけっこう面白かったけどなぁ。
      続編の『鏡の国のアリス』も物語にのめり込んで、読み終わった後はなんだか胸がぽっかり寂しくなったもんだよ。

      • +9
    2. ※5
      夕火の刻、粘滑なるトーブ
       遥場にありて回儀い錐穿つ。
      この部分みただけでも、翻訳の大変さがしのばれるな

      • +6
  4. このトピック、すごく素敵な感じね。でもとっても難しいわ

    • +31
  5. 作者のルイス・キャロル本人が発達障害持ちで、
    それによる健常者との感覚のズレを文字化したものが、
    アリスや彼が残した作品群に表れている、
    という人もいる。

    • +10
  6. 不思議の国のアリスか、鏡の国のアリスかで話しの内容が若干変わる。
    ハンプティダンプティの謎掛けや白の女王がいるから、鏡の国のアリスの方かな。

    • +3
  7. 力が欲しいか?
    ならば、くれてやる!

    • 評価
  8. LSDやキノコの世界。
    昔だからキノコだったのかな?サボテンの可能性もあるなぁ。

    • +5
  9. アリス症候群は経験者けっこういるよね
    子供の頃に熱出すと体感できた
    脳がまだ不安定だったからかな

    • -5
  10. 脳のブレーキを外すとってやつだね。
    概念が壊れた世界は天国と地獄なんだろうね。

    • +3
  11. アリス大好きだったからSHUさんのイラストもハマったなぁ。
    ジグソーパズル初心者なのにいきなり1000ピースに手を出して苦労した思い出

    • +7
  12. 子供の頃アリス症候群で、ピアノを練習する時とか発熱してる時になってた
    当時は厄介だったけど今はあの感覚が懐かしいわ

    • +3
  13. この記事で自分がアリス症候群だった事に初めて気づいた。
    寝ている時に方向感覚が狂ったり、手足が肥大したり(イメージ)、
    頭の中で高速で怒鳴られたりとか。。。
    確かに偏頭痛で、頭がガンガンしている時に多いかもしれない。

    • 評価
  14. ドジソンさんは本業が数学者だからな。
    言葉遊びを数式遊びにしてた結果なんじゃないかと勝手に思ってる。

    • 評価
  15. 子供の頃から今までずっとアリス症候群だわ。
    風邪ひくと必ず発症するし、たまーに軽い症状がでる。

    • +5
    1. ※23
      そう、ピアノ練習!グーっと入って行くと自分の指の動きと音の速さが乖離して面白かったけど、発表会の時に起こると最悪。

      • +8
      1. ※29
        ときしもぶりにく、しばねいトーブがくるくるじゃいれば
         もながをきりれば
        すっぺらじめなポロドンキン、ちからのピギミイふんだべく
        私が読んだのは福音館の翻訳でしたが
        翻訳者さんの苦労が本っっっっ当にしのばれます

        • +1
  16. アリス服ほんとロリロリしてて好き
    ただのメイド服じゃあの雰囲気は出せない

    • +4
  17. いかようにも解釈ができるというのは、その本の懐が広いんだろうな。

    • +6
  18. キキはサンリオの妖精か魔女の宅急便
    ブーバは炎タイプのポケモンしか思い浮かばないが

    • +2
  19. 子供に良いとは言うけど想像の世界は現実に戻れる事を前提に楽しむのが良かですよ
    それなら確かに認知能力を発達に役立つと思う
    たまに行きっぱなしで帰ってこなくなる子が居るので時間制限は親がちゃんとしてあげてね
    現実と幻想の比重が逆転しないようにね

    • 評価
  20. ファンが増えすぎた作品は
    作者が意図していないものを
    勝手に読み取り始める

    • 評価
  21. 人間の感覚や記憶なんてとてもいい加減なものなのね
    そういえば違う研究で、人間は自分にとって都合のいいように過去の記憶を書き換える
    ってのもあったな

    • -2
  22. トップ絵はThibaut Claeysさんて人がCGコンテストで受賞した際の画像っぽいのだけど正面からの別レンダリングは無いみたいで残念

    • +1
  23. 不思議の国も鏡の国も読んだけど、読めば読むほど作者の想像力に舌を巻いた
    確かに心理的な意図は感じたなあ

    • 評価
  24. 文法も生得じゃないかというし、共感覚で音に色を感じる人もいる。
    名前の音に形を感じてたのかも

    • +1
  25. 脳を刺激する言葉の働き、音象徴
    音には固有の意味がある、か
    ゆでたまご先生がジャイアントスイングをミスミスと表現するのもそのせいだな

    • 評価
  26. 「人間は、知っていることしか思考できない」
    「『浦島太郎』には現代物理学が描出されている」と思う人は、より高度な認知能力を発達させているに違いない

    • 評価
  27. このアリスシリーズのパズル持ってるわ(゜_゜)

    • 評価
  28. 子供の頃、病気になった時に、よくうなされた!天井が迫ってきたり、布団が重たくなったり‥アリス症候群だったんかな?

    • +1
  29. 手足が太くなったり細くなったり重くなったり重さが消えたり
    遠くの物が近くに見えてまるで絵というかHDR写真みたいに見えたり
    複数の誰かが波のように囁いてたり突然近くで大声を出したり…ってのは
    脳が未熟だったんだろうな。今も疲れるとたまに感じる。

    • 評価
  30. 自分はもう大人なんですけど、まだアリス症候群が発症するんですよね…
    怒られると相手の顔が大きくなって困るんです…
    小さい頃に発症した時は自分が巨人になったかの様な感覚になって、歩けない時がありました。

    • 評価
  31. ディズニーのアニメしか知らなかったけど、今度古本でも探してみようかな
    オススメの訳あったら教えて

    • 評価

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