地に根を張りほぼ移動することのない静なるイメージがある植物だが、その静けさの裏には恐ろしいポテンシャルを秘めている。
人間すらもあっさり殺すことができるほどの毒物を蓄えている種も存在するわけで(関連記事)、さすが地球の生態系を牛耳っているといっても過言ではない植物さんたちなのだ。
そんな植物の中には、中には積極的に動くものも存在する。食虫植物を含め、ここでは動きが活発な10の植物を見ていこう。
10. タヌキモ
Plantas carnivoras, Utricularia.
References:Predator plants: how N.W.T.'s carnivorous vegetation snare their prey | CBC News
一見平和な池だが、水面の下には捕虫嚢の精密なネットワークが張り巡らされ、何も知らない獲物が近寄ってくるのを待ち構えている。
食虫植物は陸生のものが多いが、タヌキモは流れの乏しい小さな獲物が豊富にいる水の中で繁殖する。本来は湖の植物だが、ゆっくりと河川や湿地などへ移動し、今では世界中で獲物を消化する姿を見ることができる。
根はなく、基本的な栄養は光合成とともに生き餌に頼る。グレーターブラダーワートのような大きなタヌキモの仲間だと、単なる昆虫や小さな甲殻類よりももっと大きな小型のヘビトンボやオタマジャクシを捕らえることもできる。
水の上に可愛らしい花を咲かせて、人間の目を楽しませたり花粉を運ぶ動物を引き寄せたりもする。
9. ムシタタキ
References:Introduction - International TriggerPlant Society
受粉は、それに見合った成果を得るには多大な労力を要する。そこでほぼオーストラリアにしか分布しないムシタタキは、特定の昆虫に対して選択的に反応し、花粉を放出するという受粉方法を身につけた。
虫がムシタタキに乗ると、まるで襲いかかるかのようにオシベで打つのだ。だがそれは昆虫を殺すためではない。無理やり花粉をなすりつけるためだ。オシベで打たれた昆虫がまた別の花に止まれば、それでめでたく受粉が完了する。
面白いことに、ムシタタキは半食虫だと考えられている。昆虫を花粉まみれにする仕組み以外にも、花の裏側にはくっつきやすい産毛が生えており、開花すれば小さな虫を罠にかけることができるのである。罠にはまって死んだ虫の死骸を消化吸収し、ある程度の栄養も得られるようだ。
8. ウツボカズラ
References:Giant Plant Eats Rodents
ウツボカズラは動いたり、ぱしっと閉じたりしない。が、その捕獲技術は見事だ。長く伸びた茎にはツボのようなものが形成され、そこに美味しそうな液体を溜める。
うかつにもこれを飲もうとした生き物が落ちてしまえば、あとは消化されるのを待つしかない。映画のように人間を飲み込むようなことはできないが、小さな生物にとっては危険極まりない存在だ。
ツボに溜まった液体は獲物をおびき寄せるだけではなく、ネバネバしており、落ちた獲物を逃さないためのものでもある。
驚いたことに、大型のNepenthes rajahにもなれば、昆虫ばかりかネズミまで捕食することがある。
Carnivorous Plant VS Mouse!
頻繁にあることではないが、哺乳類の獲物は大型種にとってはいい栄養源であろう。また猿がこの液体を飲む姿も観察されている。
7. オジギソウ
References:Sensitive Plant - Mimosa pudica - Care Tips, Picture
植物としては異例の速さで葉をたたむことができる。それには葉の部分に触れられるだけでいい。ネムリグサという別名でも知られ、中・南米原産である。内側に葉を閉じる様子はドラマチックかつ動物のようで、ものの数秒で扇子のようにたたまれる。
触れられた刺激で葉を閉じる本当の目的はよく分かっておらず、すべて推測にすぎない。
仮説としては、葉を食べられないようにするためや暖かい環境で水分の蒸発を防ぐためといった理由が挙げられている。藪や木など、自分より大きな植物の下で育つ。最初はまっすぐ縦に伸びるが、やがて横に這うように成長し、長さが1.5メートルに達することもある。
6. モウセンゴケ
References:All About the Sundew Plant
お腹を空かせた虫にとっては絶対遭遇したくない相手かもしれない。南極を除くすべての地域に分布するモウセンゴケは、鋲のようなもので獲物をおびき寄せる。
うっかりそれに触れてしまうと、ネバネバした液体でべったりと抱きかかえられて、消化されてしまう。茎には棍棒状の腺毛があり、それは液体を分泌する触手に覆われている。
目を引くユニークな姿であるが、昆虫を捕らえるには打ってつけだ。甘い化学物質は獲物をおびき寄せると同時に、捕獲する糊としても機能する。
しかもそこには酵素が含まれており、捕獲された昆虫を溶かす。この分泌液のおかげで、モウセンゴケは光に当たるとキラキラと輝く。
このために育てることが難しいにもかかわらず、園芸家から人気である。種類が豊富で190種以上もある。多くは草のような姿だが、3メートルにも伸びるDrosera erythrogyneのような種もある。
5. ムジナモ
References:The Carnivorous Plant FAQ: Aldrovanda: the waterwheel plant
水面下では、あまり聞きなれない食虫植物が獲物を捕らえようとせっせと働いている。水中で策略を巡らせる植物はタヌキモだけではないのだ。
面白いことに、ムジナモの葉は中央の茎を軸とする水車のような構造をしており、英名はこれに因んでウォーターウィールプラント(水車草)という。
ハエトリグサのような捕虫葉で近寄ってきた植物プランクトンを捕食する。アフリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなど、世界各地で見ることができる。
水車状の構造の末端についている葉の内側に感覚毛が生えており、ここに獲物が触れると、さっと葉を閉じる。
その速度は速く、完全に開いた状態から閉じるまでに4分の1秒〜2分の1秒程度しかかからない。一見ヒルムシロの仲間にも見えるが、この水中の捕食者はずっと有名で陸に生えるハエトリグサの近縁種である。
4. マイハギ
References:Telegraph Plant l Astounding Leaves - Our Breathing Planet
マイハギは学名をCodariocalyx motoriusという。motoriusは不思議な運動能力のことを指しているのだが、その外見は何の変哲も無いただの植物だ。
しかしそれが動いているところを見れば、目を離せなくなるだろう。じつはこれ、日光を最大限に浴びるための能力である。
熱帯アジア原産で、ちゃんと目で確認できるほどの速さで葉を動かすことができる。茎はまっすぐに伸び、紫の花を咲かせる。
楕円形の葉にはひょろ長い側小葉がついており、まるで生きている日時計のように太陽の動きを追う。
踊る植物とも知られてるマイハギが最初に記述されたのは1880年のことで、記述者はかのチャールズ・ダーウィンである。一般には熱帯雨林で繁殖する。ここでは非常に背の高い植物と日光を競い合わなければならない。運動能力はそうした環境に適応したものだ。
3. テッポウウリ
References:Squirting cucumber | plant | Britannica.com
ウリ科の中でも想像の斜め上を行くテッポウウリは、ド派手に種を撒き散らす。熟れたテッポウウリはその名の通り、液体と共に種を射出するのである。
その手榴弾のような実は種を6メートルも飛ばすことができる。
ウリ科の仲間は食べられるものが多いが、テッポウウリに手を出すのは止めたほうがいい。毒性が強く、人間が口にすれば死ぬ可能性もある。
毛に覆われた黒っぽい外見で、大きさは60センチくらいにまで成長する。実の大きさは5センチ程度だ。地中海沿岸の乾燥地域原産で、その奇妙な芸風ゆえに園芸ファンには人気だ。
2. ハエトリグサ
References:Facts About Venus Flytraps
食虫植物の代名詞ともいえるハエトリグサ。
ネバネバした粘液と歯のような構造で、ハマグリのように獲物を捕らえる。どこか顎で噛み付く動物のようにも見える。
昆虫だけでなく、小さなカエルも捕らえて消化してしまう。北アメリカの湿地が原産であり、チャールズ・ダーウィンが「世界最高の驚異の1つ」と評している。
高さ12センチほどで、罠の部分にはスパイクのような”歯”が並んでおり、捕まえた獲物を閉じ込める鉄格子の役割を果たす。
罠に落ちた獲物は消化液で消化され、その後再び罠が開き、残ったカスを吐き出し、新たな獲物の捕獲に備える。ハエトリグサは非常に賢く、獲物に触れられた回数を数えるようプログラムされている。
これはたまたま捕虫器に付着したゴミなどに反応しないための仕組みだ。1回目の刺激で閉じる準備を行い、2回目の刺激で実際に罠を作動させ、3回目で消化プロセスが始まる。
1. マンサク
References:Capital Naturalist by Alonso Abugattas: Witch Hazel
薬草として親しまれるマンサクであるが、じつは種を9メートルも飛ばす能力がある。そんなものが目に入ったら大変だ!
北アメリカで4種、中国で1種、日本で1種が発見されている。大抵は背の低い茂みのような外見だが、中には10メートル近くも背を伸ばす種もある。
開花時期が非常に遅く、北アメリカでは最も遅く花を咲かせる植物である。またタネが成熟するまでにも時間がかかり、1年もかかる。
このためにその年の開花が前年のタネの成熟と並行することもある。タネの準備が整うと、それまでに蓄えられた運動エネルギーが勢いよく解放され、タネを吹き飛ばす。それが弾き出される様子はエアガンの弾のようだ。
written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
テッポウウリムービー……そんな効果音いれるなよ
2. 匿名処理班
「タヌ」「キモ」と言う外来語かと思いきや「ムジナ」「モ」の御蔭で狸藻なんだと気がついた
3. 匿名処理班
ビーガンに見せたいね。
4. 匿名処理班
テッポウウリふざけんなwwwwwwwwwwwwww
5. 匿名処理班
ハエトリ草とかの動くギミック形の植物は
むやみに開いたり閉じたりさせまくって遊んじゃ駄目だぞ
植物側としてはアレはすごくエネルギーを使うのでかなりの負担になって弱る
でも楽しいからちょっとだけならいいぞ、ちょっとだけな
6. 匿名処理班
ズッキーニも暴れるよ(´・ω・`)
7. 匿名処理班
今年の暑さのせいか食虫植物枯れちゃったよ・・・
8. 匿名処理班
ウツボカズラの動画、ネズミ落ちないんかい…
9. 匿名処理班
マンサクはそこそこ見かける木だけど
まさかそんな能力があるとは思わなかった!
10. 匿名処理班
蚊を食べてくれる植物はないものか
11. 匿名処理班
タヌキモ、ムジナモ、どっちも「化ける伝承のある動物」の名前をもらってるのが面白い
12. 匿名処理班
テッポウウリがうるさい
13. 匿名処理班
マイハギの動画は、タイムラプスなのか、実際の速度なのかがわからん。一緒に時計を写してくれるとありがたい。
14. 匿名処理班
ハエトリグモ、実際獲物捕えてるとこ初めてみたが結構えげつないな
15. 匿名処理班
動画がズレてるよ。
16. 匿名処理班
巨大化したらもはや兵器
と言うネタをエルフを狩るモノ達で見た
17. 匿名処理班
食虫植物・・・あいつら何で虫から栄養取れるって知ったんかな?しかも、それを捕まえて摂取すれば良いんじゃね?的な考えに至ったのか・・・
構造をこんな風にしたら逃げれまいとか、この匂いなら釣れそうだとかさ、不思議だよねぇ・・・
18. 匿名処理班
※8
ネズミを食べるってのは極く稀に弱ったネズミが
落ちて溺れてる事がある事から出た誤解です。
本当は呼び寄せたネズミに蜜を与えて、
代わりに糞やおしっこをツボに落として貰うのが目的です。
有機肥料を直で貰うという事ですね。
19. 匿名処理班
テッポウウリがおっさんにしか思えない!
20. 匿名処理班
どれも妖しく美しい(ただしテッポウウリを除く)
21. 匿名処理班
テッポウリ効果音なんだこれwwww
植物ってよく見てると本当面白い!部屋で育てていた豆苗が光源に向かってくるくる芽を動かすから(ほんの少し目を離していた間に明らかに向き変わってる)あーこいつらも生きてるんだなって食べるのが惜しくなった、さっき食べたけど。
22. 匿名処理班
じー… !かぷ!… げっぷ、、おぇっぷ(もう食えねー)
23. 匿名処理班
コメントこそ少ないものの、こういう記事は本当に助かる。
また少し賢くなったわい。造形美を堪能しつつ造詣が深まる喃。
24. 匿名処理班
霞の目博士「ネペンテス液を入れろ」