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野生生物が捕食者に襲われそうになるなど、差し迫った脅威に対して持つ最も一般的な2つの反応として、「闘争」もしくは「逃走」が挙げられる。しかし中には3つ目の反応をする生物が存在する。それが「死んだふり」だ。
この死んだふりはタナトーシス(擬死)と呼ばれ、哺乳類だけでなく魚類や爬虫類、両生類、クモ類など様々な生物が行っている。
では、なぜ動物たちは死んだふりをするのだろうか。
様々な種の生物に備わる能力のひとつ「死んだふり」
地球上の全ての種は、独自の特性や行動、および防御メカニズムを備えており、生物たちの行動の1つに、「死んだふりをする能力」が挙げられる。それは「タナトーシス(擬死)」と呼ばれ、異なる腫で様々な目的を果たしている。
ほとんどの種は、捕食者から逃れるために死を偽装するが、一部の種は獲物を捕らえるためや求愛の儀式の一部として死んだふりをすることが判明している。
理由が何であれ、死んだふりの能力は種の生存において非常に重要かつ興味深い適応行動といえるようだ。
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自己防衛メカニズムとして死んだふり
最も一般的な動物は、捕食者から逃れるために死んだふりをする。例えば、北米で発見された唯一の有袋類オポッサムは、捕食者やその他の脅威に直面するとぽかんと口を開けて死んだふりを始め、体からは悪臭が放たれ、昏睡状態のようになる。目撃した研究者らによると、その演技力はたいしたものだそうだ。
また、ブタハナヘビやある種のカエルも防御機能として死んだふりをする。捕食者は通常、獲物が動かなくなる=餌ではなくなると認識し、死んだふりをした生物を捕食することを避けるというのだ。
動かずにその場をやり過ごす戦略「死んだふり」は、見破られるとすぐさま捕食されてしまう危険性もあるが、逃げるよりは生き延びる可能性が上がる防衛スキルなのだろう。
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求愛の儀式で死んだふり
一方、キシダグモ種は全く異なる理由で死んだふりをするという。求愛の儀式の間、オスグモはメスグモに蜘蛛の糸に包まれた死んだ昆虫をプレゼントし、交尾に誘う。しかし、オスよりも体が一回り大きいメスグモは、プレゼントを受け取った後交尾をせずにそのまま去ってしまうという例も決して少なくないそうだ。
そこで、オスグモは交尾のチャンスを得るために死んだ昆虫にぶらさがって、自身も死んだふりをする。
メスグモが昆虫を持ち去ろうとした時、オスグモがすぐ背後に周り交尾のチャンスを狙う。また、メスグモが死んだ昆虫を食べている時にも、そっと近づいて驚いたメスグモと交配するオスグモもいるということだ。
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獲物を惹きつける手段として死んだふり
獲物が捕食者から身を守るために擬死するように、獲物を惹きつけるために死んだふりをする捕食者も存在する。カワスズメ科の魚、リビングストニ・シクリッド種がそうだ。アフリカのマラウイ湖水域に生息するこの種の魚は、しばしば湖底に沈み、腐った死骸に似た斑点のある着色で死んでいるように見せかけるのが得意だそうだ。
そして、近づいて来たものを遠慮なく捕食する。餌を得るためのテクニックとして死んだふりをしているのだ。
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におい、身体的外観およびその他の要因の役割
生物は、いくつかの異なるメカニズムにより死を偽装する。身体的な外見と動きを変え、短期間仰向けになったり横になったりして、通常とは異なる位置で寝転び、いかにも死んでいるかのように見せかける。例えば、落ち葉カエルは仰向けになり目を閉じて死んだふりをするメカニズムをよく使用しているという。
アジアやヨーロッパのヒキガエルも擬死することで捕食動物を阻止する。このヒキガエルについては、腹部分が黒く、赤やオレンジのまだらがあり、そこから臭いも放出し、捕食者に死んでいると騙すそうだ。
動きを止める態度や不快な臭いを伴う擬死は、捕食者の攻撃を思いとどまらせ、多くの生物に進化上の利点をもたらしてはいるが、死んだふりは常に生存を保証するものではない。
車に驚いて死んだふりをしたオポッサムがそのまま道路で轢かれて本当に死んでしまうこともあり得るからだ。
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しかし、野生生物は常に捕食者から生き延びるための強さと知恵を備えている。自然界の多種多様な不思議には、私たちは常に驚かされ続けて来た。そういう意味でも、種によって異なる役割をする「死んだふり」は、やはり生物の最も興味深い側面のひとつと言えるだろう。
References:worldatlas.comなど / written by Scarlet / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
爬虫類などは視力があんまりよくなくて動いてないと認識できないから有効ってのはなんかで読んだな。
獲物を捕らえるためにってすごいなぁw
体の模様が〜とはいえ自分を食いに来るやつを食うのか
2. 匿名処理班
基本的に腐敗したタンパク質はだいたい毒だからね。
腐敗臭まで出されたら、腐ってると判断してスルーしてくれる可能性はある。
スカベンジャーがあまりいない地域なら擬死行動は有効なんじゃないかな。
3. 匿名処理班
リビングストンシクリッドではないと思います。写真は南米産のSymphysodon aequifasciatusという別のカワスズメ類です。リビングストンシクリッドはNimbochromis livingstoniiですね。
4. 匿名処理班
魚の写真はアマゾン川原産のディスカスを観賞用に改良した品種です。同じシクリッド科の魚というだけで全く関係ありません。
リビングストニィはクエやハタっぽい体型、色は白黒の斑模様で、日本でも観賞魚として販売されてます。小さな魚と混泳させると、飼育下でも死んだふりをする場合があるんだとか
5. 匿名処理班
ナショジオソースだが、肉食動物同士で獲物を奪い合っている最中、気絶していた獲物が目を覚まして逃げおおせた例があった
狩りが終わると油断もするだろうし、取りあえず気絶するのは一つの手なんだろうな
6. 匿名処理班
死んだふりじゃなくて本当に気絶してるんだと思います。人間でも歯医者で気分が悪くなる人いるじゃないですか。あれと一緒。
7. 匿名処理班
>種によって異なる役割をする「死んだふり」
自分も妻に文句を言われてる時に死んだフリをします
8.
9. 匿名処理班
イヌ科やネコ科や大型鳥類は死肉食いするやつ多いから、そういうのが多いところではこんな生き物はあまりいないのかな
10. 匿名処理班
草むらとかで昆虫を捕まえようとしたときに死んだふりをされると、どこに落ちたのか見つけられなくて諦めちゃうことがよくあるよね。
ましてや昆虫や小動物とかって自分の住んでいる地形と体の色が似ていたりするから、探している間に明後日の方向を見ているときに、ささっと逃げられるなんてことのほうが多いと思う。
小さいやつほど逃げ足が速いってのはよくあることだし。
自転車泥棒対策の鍵と同じで、「この獲物を手に入れる労力をかけるぐらいなら、もっと簡単に手に入るカモを新しく探したほうが早い」みたいなものなんじゃないかなって思ってるよ。
もちろん、この記事にも書かれているように、全ての死んだふりがそれに当てはまるものではないだろうけどね。
11. 匿名処理班
すごーい