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※画像はイメージです。 Colin Behrens from Pixabay

 遺伝コードを合成し、DNAを大幅に書き換えた生物の作成に史上初めて成功したそうだ。

 それは土や人の腸の中にいる一般的な細菌だが、普通のものよりも少ない遺伝的指令で生き抜くことができる。

 イギリスのMRC分子生物学研究所が2年がかりで作り上げたそれは、大腸菌のDNAを根本的に再設計し、それに基づく合成ゲノムによって細胞を作り上げる生き物だ。
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DNAの指示を記述するコドン


 その人工ゲノムはATGCでなる400万の塩基対で書かれている。A4サイズの紙に印刷したとすると970ページになる量で、これまで人間によって作られたゲノムとしては圧倒的な情報量を誇る。

 プロジェクトの中心人物ジェイソン・チン氏に言わせれば、「かつてこれほどのゲノムを作ることが可能なのかどうかまったくわからなかった」ほどの大きさなのだそうだ。

 細胞の中にくるくると巻かれて収まっているDNAには、それが機能するための指示が記述されている。

 たとえば、細胞が成長のためにタンパク質を必要とするような場合、DNAを参照すれば、そこに適切なタンパク質がコード化されている。その指示はTCGやTCAといった具合に、3つの塩基配列で記述されており、これを「コドン」という。

 クラゲから人間まで、ほぼすべての生物が64種のコドンを利用している。そして、そのほとんどが同じ働きをする。

 61のコドンが20種の天然アミノ酸を作り、それらがビーズのようにひも状に連なって、タンパク質を作り上げる。

 さらに3つのコドンには停止信号としての役割がある。文章の句点のように、どの時点でタンパク質が完成するのかを指し示すのだ。


合成DNAを持つ「Syn61」


 今回行われたのは、余分なコドンを取り除いて大腸菌のゲノムを再設計するというもの。

 コンピューター上でそのDNAを読み取りながらTCGのコドン(セリンというアミノ酸を作る)が見つかるたびに、同じ仕事をするAGCに書き換えた。そして、さらに2つのコドンについても同様の作業を行なった。

 このやり方で18000ヶ所以上を編集してから、これら3つのコドンをゲノムから削除。こうして再設計された遺伝コードを化学的に合成して、その1つ1つを大腸菌のゲノムに移植していった。

 その成果が、完全合成の遺伝コードによってDNAを劇的に書き換えられた新しい細菌「Syn61」だ。それは普通の大腸菌よりもやや長く、成長に時間がかかるが、それでもきちんと生きる。


デザイナー生命体の利用価値


 チン氏によると、こうしたデザイナー生命体には利用価値があるかもしれないという。というのも、DNAが普通とは異なるために、ウイルスが容易に侵入できない――つまりウイルス耐性があると考えられるからだ。

 糖尿病患者向けのインスリンを作ったり、がん・動脈硬化・心臓病・眼病に効く化合物を作ったりと、じつは大腸菌はすでに生体製薬産業で利用されている。

 しかし、このプロセスはウイルスの汚染があったりすると、完全に台無しになってしまう。そこでウイルス耐性を持たせた大腸菌を利用して、そうした被害を防ごうというわけだ。


初の合成ゲノム生物誕生から10年


 世界初の合成ゲノムを持つ生物が作られたのは2010年のこと。アメリカの研究者が作ったそのマイコプラズマ・マイコイデスは、ゲノムが大腸菌よりも小さく(塩基対が100万)、それほど劇的に再設計されていたわけでもない。

 それからほぼ10年、ゲノム置換の技術は新しい次元に到達した。

 しかし、今回の記録もそれほど長く持たず、近いうちに次の新記録が生まれることだろう。パンに使われるイースト菌をはじめ、今回のものを超える合成ゲノム生物の開発プロジェクトがすでに複数進行しているのだ。

 この研究は『Nature』に掲載された。

References:World’s first living organism with fully redesigned DNA created/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 09:55
  • ID:.wvMsy5W0 #

あと1000年も経ったら
人間もペットも工場完全受注生産とかになったりするんだろうか
遺伝子操作は期待と不安入り交じる

2

2. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 09:55
  • ID:tylvfZ5R0 #

合成神経細胞群塊

3

3. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 09:56
  • ID:0BYCgLjL0 #

こういうのが自然界に出て行ったら取り返しがつかないことになるんじゃないのか?

4

4. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 09:59
  • ID:aAFM.Cmy0 #

ミュウツー

5

5.

  • 2019年06月06日 10:07
  • ID:WudkxFGL0 #
6

6. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 10:10
  • ID:jaQ0qd9s0 #

素人な俺は予測不可能なカオスな挙動で恐ろしい事にならないかを疑ってしまう
本当に不必要だったのか、とか…

7

7.

  • 2019年06月06日 10:22
  • ID:ohM5KBPf0 #
8

8. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 10:26
  • ID:yBPf2OWy0 #

すごいね。
いずれは菌からすべてのビタミンやアミノ酸が合成できるようになる日が来るかもしれない。

9

9. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 11:04
  • ID:QEX2zBei0 #

バイオハザードまであとわずか・・・

10

10. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 11:10
  • ID:l3ua.87m0 #

コード一個間違えると、モンスターが生まれるなんてことはないんだろうか

11

11. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 11:23
  • ID:HPk46NjG0 #

プラスミドdna700kbp強?位だったような。核dnaもそんぐらいかと思ってたら全然違ったでござる

12

12. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 11:46
  • ID:.16iQ.0u0 #

あー 全然アサッテのコメントで なんだが

なんか某スーパーロボット漫画思い出した。
こう言う技術が積み重なってファティマになったりするのかな

最新技術が先行き過ぎて、リアルなんだかフィクションなんだか、わかんないよねぇ

13

13. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 12:12
  • ID:oTsH2Jyu0 #

人間はゲノムの単語を読むことはできるが、文法は解明できていない。
現在のこの手の実験は、単語を組み替えることで全体の「意味」がどのように変化するかを観察して文法を探っている時期。
科学者達もその危険性は重々理解してるんだろうが、どうにも悪い予感しかしない。

14

14. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 12:29
  • ID:gfQfng750 #

怖い気もするけどこの技術を突き詰めた成果の生命体を見たい気もする
紫外線や赤外線が視える眼、犬並みの感度を持つ鼻や耳を持った人間+

15

15. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 12:50
  • ID:o.cgwvCc0 #

ちょっと意味が通じないのでNatureの原著を読んでみました。

「このやり方で18000ヶ所以上を編集してから、これら3つのコドンをゲノムから削除。こうして再設計された遺伝コードを化学的に合成して、その1つ1つを大腸菌のゲノムに移植していった。」

ここ、「このやり方で18000ヶ所以上を編集【することによって】、【もともとあった】3つのコドンをゲノムから削除。【これによって20個のアミノ酸をコードするゲノムに使用さ
れた塩基の数は64から59に減少する。】こうして再設計された遺伝コードを化学的に合成して、その1つ1つを大腸菌のゲノムに移植していった。」

という感じの内容でした。Guardianの記事自体があまりよくまとまっていなかったです。ご参考になれば幸いです。

16

16. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 13:00
  • ID:o.cgwvCc0 #

>>15
まちがえた
コドンの数は64から59 に減少する
です

17

17. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 13:10
  • ID:d7sZsIY10 #

※6
逆に天才の彼等は、自分の技術を疑う事をしないから大惨事を生む事もある

18

18.

  • 2019年06月06日 13:19
  • ID:Y26enKjs0 #
19

19. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 14:46
  • ID:ohM5KBPf0 #

10年前からあるのに史上初とは?

20

20. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 15:22
  • ID:shPUu1bd0 #

改造実験帝国メスの獣戦士か

21

21. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 19:43
  • ID:ioU7NuYO0 #

いわゆるジャンクDNAを持たないのだとすると、遺伝子損傷耐性は低そうだから自然環境ではすぐに死滅するんじゃないかと予想

22

22. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 20:29
  • ID:c1Qsgux60 #

森岡浩之の「スパイス」って短編小説がいいんだ…

23

23. 通りすがり

  • 2019年06月06日 20:33
  • ID:iqrFosYH0 #

>>6
ひょっとしたら遺伝子を複製する為に適切な時間をかける為に長い一日中記号の羅列を使っていたかたも知れない
しかし3つの記号でアミノ酸を指定して作っていた事には間違いは無いだろう
ならどこに間違いがあるのだろうか?

デタラメに試してるわけではないだろうから失敗して複製不能になったり何かのトラブルが起きたらそれも教材
失敗からしか今まで積み上げてきた理屈を否定出来ないのでとても大切

24

24. 通りすがり

  • 2019年06月06日 20:39
  • ID:iqrFosYH0 #

>>17
疑うのとも違うと思ってが結果を知ってるのではなくて推測と同じ結果が生まれるのかを検証しているハズですよ
科学は実験が最も重要
理屈がその実験結果と異なっていたら理屈が間違っていた事の証明になることは確定

25

25. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 21:37
  • ID:J3UBmCFO0 #

※1
デザイナーズチャイルド VS オリジナルヒューマンの世界と
AI VS 人間の世界、どっちが先にくるかな。

26

26. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 22:27
  • ID:U3b0KOeB0 #

※10
そもそも世代交代のたびに遺伝子は突然変異で変化してるから、人工的に作られた生物が特別危険ではない。
人工的な生物でも天然の生物でも、突然変異やミスで人間の脅威になる確率は同じ。

27

27. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 22:35
  • ID:U3b0KOeB0 #

なんか知らないけどイクラ食べたくなってきた。

28

28. 匿名処理班

  • 2019年06月06日 23:10
  • ID:kWdawkn90 #

その3つを繰り返して削除してどうなるんだぜ?教えてエロい人!

『遺伝子組み換え不使用』とか食品のパッケージに書いてアピールしてる一方、メディアでは「デザイナーズDNA」というお洒落な感じのする単語でこれから期待してますみたいな扱いだったり何だかなぁって思うの

29

29. 通りすがり

  • 2019年06月06日 23:50
  • ID:nhCgbdmm0 #

>>23
長い一日中記号❌
長い記号⭕

ごめんよ間違ってた

30

30.

  • 2019年06月06日 23:55
  • ID:nhCgbdmm0 #
31

31. 匿名処理班

  • 2019年06月07日 00:10
  • ID:cGVUvPzW0 #

おお凄い 私が大学時代にやりたかった事だ

32

32. 匿名処理班

  • 2019年06月07日 00:37
  • ID:3hVgWPdc0 #

※3
なるけど、大局的視点で見ればそれも自然のうちって事なんだろうと思う。
ウイルスがDNA組み換えをやってるのも人間がやるのも自然さんにとっては別に変わりはない。

33

33. 匿名処理班

  • 2019年06月07日 00:42
  • ID:3hVgWPdc0 #

※19
思った。
日本でも人工生命ベースのナノマシンは研究してるよね。

以前のものはあくまで「部分組み換え」で今回のは一から再設計したのがすげえって事なんだろう。

34

34. 匿名処理班

  • 2019年06月07日 00:43
  • ID:a7WakHdr0 #

将来的にはFSSのファティマが

35

35. 匿名処理班

  • 2019年06月07日 02:12
  • ID:tM6SCW6n0 #

>>28
たとえば、3種類ある終止コドンを1種類に統一したとき、使われなくなる塩基があります。このように同じアミノ酸を指定するコドン同士が入れ替わったとき、そのゲノムを持つ生物にどういう変化が現れるかによって、同義コドンの機能の違いを調べることができます。この研究では、おそらくゲノム全体から特定の3つのアミノ酸を指定するコドンを置換することによって、どのような影響が出るかを網羅的に調査したいのだと思われます。その結果、ゲノムデザインを行う上での同義コドン選択の影響について知りたいのだと思います。

36

36. 匿名処理班

  • 2019年06月07日 02:32
  • ID:8OEucpYU0 #

記事を読む限り、研究目的は産業用途のベクターウィルスに耐性を持たせる為のDNA再編集って事で良いのかな?
(ウィルス君も知らない相手とは仲良くなれない)

危険な香りもしなくはないが、有害化のリスクを確実に排除出来れば、例えば糖尿病患者へ腸内細菌にインスリン生成をデザインして腸内からインスリンを補給(血液中へ)させるとか出来ないかな

37

37. 匿名処理班

  • 2019年06月07日 04:16
  • ID:UbKZjO.R0 #

30年後くらいには寿命も120歳を超えて、支配階級としての遺伝子調整新人類(コーディネーター:無論金持ち)とその他の従来人類(ナチュラル)が、次世代のホモサピエンスの座を巡って対決しそう。

38

38. 匿名処理班

  • 2019年06月07日 15:44
  • ID:aoYzh0ty0 #

※13
その未解明の文法を近い将来AIが一気に猖殘瓩靴討れそうな気がする。

39

39. 匿名処理班

  • 2019年06月08日 01:08
  • ID:x..lJi8R0 #

その内100%人間が作り上げた人造生物とかできるのかな

40

40. 匿名処理班

  • 2019年06月08日 01:43
  • ID:uZ5kfJvZ0 #

>>35
ありがとう親切な方
停止信号、句点の機能を持つ3つのコドンがどの時点で機能するかアミノ酸を作るのか停止信号として働くのか、またはその両方かとか羅列の文法を解読する第一歩という認識で良いんだよね?

>> コンピューター上でそのDNAを読み取りながらTCGのコドン(セリンというアミノ酸を作る)が見つかるたびに、同じ仕事をするAGCに書き換えた。そして、さらに2つのコドンについても同様の作業を行なった。
↑同じ仕事ってのは終止コドンとしての機能?

41

41.

  • 2019年06月11日 09:51
  • ID:DQKU2MEV0 #
42

42. 匿名処理班

  • 2019年06月11日 20:47
  • ID:vpQCRpmq0 #

>>39
100%作り上げるの定義が分からないけど背格好から肌や体毛や瞳のや色や質や量、既知の病気に対する耐性とかはデザインできると思う。肌を鱗や羽毛に置き換える事も不可能じゃ無いだろうし蛇の持つピット、鮫やカモノハシの持つ電気を感じる器官、コウモリやイルカのソナー機能も盛れるはず
渡り鳥の持つ強力な肺とか有ればアスリートの限界値も飛躍的に上がりそう、魚の持つエラつけたら水陸両用になれるし怖さと共に夢があるね
遺伝子も既存の物を選ぶことはできるけどATCGで作られてる枠の外をってのはまだまだ先の話だよね。実現出来るかも不明

43

43. 匿名処理班

  • 2019年06月14日 12:35
  • ID:9.NHzV8g0 #

>>25
デザイナーズチャイルド VSオリジナルヒューマンVS
AIで三つ巴になりそうなんですが

44

44. 匿名処理班

  • 2019年06月14日 23:01
  • ID:6HsvJOoV0 #

ロボットってあるじゃん?

あれってRURって作品で生まれた造語なんだけど
作中の人造人間を売るときの商品名なんだよね

で、その人造人間のそもそものコンセプトは
「人間は進化で生まれたので完成形になる前を引きずって余計で不必要な設計が残っている」
「新発見のこの素材ならより無駄のない人間を再設計で産み出せる」
「私はこの手で人間を生み出すぞ」

ってストーリーなんだけど物語開始時点で博士は商業主義の連中に干されて
ロボットは労働力として売られてるのよね

まぁだから何って訳じゃないが
無駄を省いた再設計ってことで思い出した

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