0_e17

 タイのチェンマイで、何十年も観光客の乗り物として働いていた象のメー・カムだが、ある日を境に背中に登った観光客を振り落とし、働くのを拒否するようになった。

 その度に、象使いは鋭いびょうがついた竹棒で、メー・カムの繊細な皮膚にたくさんのみみず腫れができるほど打ちのめした。それでもメー・カムは働くことを拒否し続けた。

 そんな彼女に手を焼いた象使いは、メー・カムを象の保護施設に引き渡した。そこでやっと彼女は待ち望んでいた人生を得ることができたのだ。

スポンサードリンク

子供を失ってから、一変したメー・カム

 メー・カムの人生は働くことだった。観光客用の象として働かされる前は、37年ほどタイの木材産業で働かされていた。来る日も来る日も、ひたすら重たい材木をジャングルから運び出していたそうだ。

 その後観光客を乗せる日々を送っていた彼女は2匹の子供を妊娠した。悲しいことに1匹は死産で、もう1匹は生まれてすぐにコブラに咬まれて死んでしまった。メー・カムは自分の子が蛇に咬まれる現場を見て、叫び声をあげたという。必死で子供の側に行こうとしたが、メー・カムの足は鎖でコンクリートに括り付けられ動くことができない。

 オーナーが鎖を外してやると、メー・カムは子供を守るため駆け出して行った。しかし時はすでに遅く、子供は毒により死んでしまった。それから、数時間ほど、メー・カムは誰であろうと、側に来ようとする者に突進するようになった。

1_e17

 メー・カムのことを知った「BEES(バーム&エミリーの象の保護施設)」の共同創設者であるエミリー・マクウィリアムさんとバーム・リンカウさんは、オーナーに彼女を「象乗り」から引退させてやる気はないかどうか尋ねた。

 最初、メー・カムのオーナーは手放すことを渋ったが、仕事を拒否するメー・カムを抱えてどのように暮らしていけばいいのか途方に暮れていた。そこで、マクウィリアムさんとリンカウさんはオーナーにある提案をした。2人はメー・カムを借りる事とし、レンタル代を払ったのだ。この代案にはオーナーも満足げに同意したという。

2_e13

 保護施設についたメー・カムだが、これまでの生い立ちから人に対して不信感を抱いていた。人間がまわりにいることすら好きではないのだ。

 だが心を許す人もいる。象はとても頭の良い動物である。その人間の本質を見抜いているのである。彼女に優しく接するリンカウさんと、保護施設にいる新しい調教師にだけには心を許した。

 人間が嫌いなメー・カムだったが、施設で過ごしていくうちに心の壁が溶けていったようだ。ここでは毎日、水浴び、ダスティング(泥などを体につけて寄生虫や乾燥から皮膚を保護すること)、狩猟採集、周囲の探索、泥遊びなどをしている。

3_e14

 メー・カムもやっと本来の象としての一日を過ごせるようになったのだ。

4_e9

 木や岩に体をこすりつけ、かゆいところを好きなように掻いたりと、前にいた場所ではできなかった事が、ここでは自由にできる。

5_e8

メー・カム、恋に落ちる

 メー・カムが来て2ヶ月半が過ぎた頃、別の引退した象がやってきた。71歳のメスの象で名前はメー・ジュンペという。メー・ジュンペもメー・カムと同じように、木材産業と観光産業で働かされてきた。

 メー・カムは他の象とも特に問題はおこさず順調にやっているが、マクウィリアムさんとリンカウさんは新しい象をメー・カムに紹介することをためらっていた。

 「メー・カムはとても心が傷ついた状態で、不安定でした。私たちは彼女のいる場所に新しい象を入れて、受け入れてもらえるか不安でした」

 いよいよ、メー・ジュンペとメー・カムを対面させる日がやってきた。
 メー・カムの世話係が少しずつメー・ジュンペを近づけさせていった。

 「最初、メー・カムは過敏に反応していました。ゆっくりと動き、周囲の空気を嗅いでいました。実際にメー・ジュンペに直面すると大声で鳴き、逃げ去って行きました。落ち着くまでには30分もかかりました」。

 数時間経ってから、世話係たちは再び2匹を引き合わせようと試みた。すると、メー・カムは今度は逃げようとはしなかった。代わりに、自分の鼻をメー・ジュンペのお尻に当てた。

6_e8

 その瞬間何かが生まれた。

 「2匹は地面を揺るがすような大声で鳴きたてたんです」とマクウィリアムさんは語る。「お互いにゆっくりと近づき、生殖器のにおいを嗅ぎ、顔にある側頭腺、口の中まで嗅ぎあいました。そして、お互いの体を優しくこすりつけ、愛情を示したんです」。

8_e8

 メー・カムとメー・ジュンペの間に何かが芽生えたようだった。それ以来、2匹はいつも一緒にいるようになった。一緒に散歩を楽しみ、森を歩いては食用の草や竹や果物を探し、川で泥遊びをする。いい木が見つかると、交代で体をこすりつける。

7_e8

 「なぜこの2匹の仲がこれほど良くなったのかは未だに謎です。人間が生涯のパートナーと出会った時のように、出会った瞬間に絆が生まれたんでしょうね。お互いに大好きな様子がこちらにも伝わってきます」とマクウィリアムさんは話してくれた。

9_e7

 「BEES(バーム&エミリーの象の保護施設)」は、観光業界から引退した象を保護する目的で2012年にタイにて創設された。

10_e6

 象たちは日中、300エーカー以上ある国営の森を自由にうろついて過ごすが、夜になると鎖につなげられる。

11_e2

 これは、象たちを守る唯一の方法なのだとマクウィリアムさんは語る。夜中に象たちが勝手に動き回り、迷って森の外に出たり、象を好まない村民たちに傷つけられたり、殺されたりしないように守るためである。

10_e6

 マクウィリアムさんとリンカウさんは鎖をつけなくてもすむように、保護地を囲うことを考えている。この施設を応援したい人はこちらのサイトから寄付をすることができる。

via:Beesanctuary Elephant Sanctuary/ translated melondeau / edited by parumo

▼あわせて読みたい
愛されて虐げられる。象と東南アジアの人々の複雑な関係を記録した写真


象も大切な人を見捨てない。いつも自分をお世話してくれていた飼育員さんが襲われた時の象の反応


群れから見放され、孤児となった象の赤ちゃんを支えたのは、1匹の退役犬だった(南アフリカ)


密猟者に銃で撃たれた象、それでも人間に助けを求めにやってきた(ジンバブエ)


お母さん、どうして動かないの?ねえ起きて!突然死んでしまった母親を必死に起こそうとする象の子ども(インド)


スリランカで盛大に行われる象の葬式。


この記事が気に入ったら
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
この記事をシェア :    

Facebook

コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 14:40
  • ID:wtn9L.OY0 #

もうお別れですサンタマリア

2

2. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 14:55
  • ID:2UNNzYtv0 #

お互い羊さんだからシンパシーを感じたのかな… って
「メー」は、タイ語で「お母さん」なのか
カムさん、子供みんな失ってるのに「カム母さん」ってなんか皮肉だな
お疲れさま、気の置けない友人と一緒余生をのんびり過ごしてね

3

3. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 15:07
  • ID:13LZxtSB0 #

象なのに人生なのか

4

4. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 15:56
  • ID:2C1xSWUx0 #

それというのもオツベルの頭がよくてえらいため

5

5. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 16:12
  • ID:Og.MqnKT0 #

募金したいけど海外のサイトだからわからない
WEBマネーじゃダメなのかな

6

6. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 16:58
  • ID:Au.g1Zvo0 #

目の前で子どもが危険な目に遭っているのに動けないだなんて辛すぎる
知能が高い生き物だから自分を鎖に繋いだ人間にも不信感を抱いたんだろうな…

7

7. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 17:44
  • ID:AhGx4TWX0 #

寄付する寄付するよ!
インドでも客を乗せている象がいるね
坂を上ってたけど、酷使されてないといいな

8

8. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 18:00
  • ID:Y5ttONyy0 #

姉妹とか親戚なんじゃないかな

9

9. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 18:28
  • ID:2YwWLotU0 #

※11
母娘かもしれんな

10

10. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 19:02
  • ID:TFp6Qvke0 #

サーカスやら、観光の客寄せやら、酷使され、虐待され、
手を差し伸べる人がいるから良かったものの、このオーナーとやらは未だにレンタル料をもらってるのだとしたら、恥ずべき人間だな。

11

11. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 19:26
  • ID:QNSKf0G90 #

世界丸見えの後半で放送される海外の感動系再現ドラマのネタになりそう

12

12. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 19:57
  • ID:FwJ.KCQh0 #

象の調教はかなり酷いものだが、彼らはそれでご飯食べてるんだしな
私達が食べる精肉にするために酷使するのはよくて、見世物はダメってのもエゴでしかないし
動物と人間の付き合いって難しいね

13

13. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 20:33
  • ID:f.gWGWz80 #

おや、川へはいっちゃいけないったら

14

14. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 20:57
  • ID:G6waHDZ.0 #

※1 ※6
宮沢賢治の「オツベルと象」を真っ先に連想したら同じ人がいて安心した

15

15. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 21:30
  • ID:TQALl.a60 #

うーん、メーってタイ語で母という意味なんだけど、この話は母親同士のレズカップルが誕生したって事なのかな

16

16. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 21:55
  • ID:3DCA9BDS0 #

なんでゾウさんを虐待が普通になってるんだ?悲しむし涙も流すし人間以上の存在だよね 
同じ生き物になぜこうも冷酷になれるんだ?やっぱり私を含めて人類は滅んだほうが少なくとも苦痛を与える存在が減るだろう

17

17. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 23:41
  • ID:IZpzOb.k0 #

自分の利益のために動物に鎖や首輪を付ける全ての人間は恥を知るべき。
そういうヤツに限って自分とこの動物は絆で結ばれてるとか言い出すんだ。
動物の心が判るってのか?嘘付くな。ただ単に躾の結果だろうが。
さっさと自分の手から放して自然に帰す事だけが唯一できる事。
それ以外はゆるやかか急激かの違いはあれど虐待でしかない。

18

18. 匿名処理班

  • 2016年08月31日 23:57
  • ID:uKTKLxyO0 #

う〜む、色々と考えさせられるゾウ

19

19. 匿名処理班

  • 2016年09月01日 00:20
  • ID:qIVZdN1k0 #

蛇に噛まれた時に調教師は助けようとしなかったんかな?
人間が必死に守ろうとしてたなら、この母象にも伝わった気がするけど
調教棒で痛いところをつついてばっかりいたなら、日頃から信頼関係は無かったかもね
犬や猫だって本気を出せば、丸腰の人間よりも強いわけだけど、殆どの飼い主は近づいても噛まれるどころか甘えてくるし 叩かなくたって褒める事で芸や仕事(盲導犬など)を覚える 一般的に使役動物は本来の寿命よりも短くストレスや疲れを感じてるのだろうけど、飼い主との信頼があればこそだと思う
日本も牛に鋤をひかせて農耕をしてた時代があったが、東北の曲屋に現れる様に、馬や牛が凍えないように人間と近い寝床で鳴き声等で異常があれば直ぐに世話を出来る距離感だったんだと思う ただし人間も低栄養や重労働で早死にな時代、牛馬にも決して楽な事は無かっただろうけど、多くの農家は愛情をもって労働に応えてたんじゃないかと思う 財産であっても牛馬が本気で反抗すれば人間なんて手に負えないんだし
この母象には調教師の愛情不足と不幸が重なったケースで
タイの伝統的な象の使役も本来多くは、人間と象の協同作業で仕事が終れば面倒をみて労ってあげるんじゃないかと思う じゃなきゃ年中踏まれたり潰されたりして人死が出て、とっくに廃れてると思う

20

20. 匿名処理班

  • 2016年09月01日 01:08
  • ID:ElHZlsfm0 #

白人は泣いて喜ぶだろう。

21

21. 匿名処理班

  • 2016年09月01日 01:21
  • ID:Kt1tdZcH0 #

ゾウを使ってお金を稼いでるならゾウのことを道具として扱わずに
仕事を共にしている相棒のように扱うべきだ
お金を稼がせてもらっているのに敬意も払わないなんて、地獄に落ちてしまえばいい。
働いて、途中で1時間ぐらいは遊び時間を与えて
ごはんや水も好きな時に食べれるようにして
仕事が終わったら終身時間まで遊ばせてやるべきだ。
調教師なんかじゃなくてただの虐待クズ野郎だ

22

22. 匿名処理班

  • 2016年09月01日 01:40
  • ID:V0xZW4WK0 #

オレも解放されたいわ・・・

23

23. 匿名処理班

  • 2016年09月01日 09:28
  • ID:zwR2I.Tm0 #

71歳と40歳ぐらいの2匹の象
きっと母と娘のような情が芽生えたんだろう

24

24. 匿名処理班

  • 2016年09月01日 14:01
  • ID:9HedeIGJ0 #

※1
「なんだい。成りばかり大きくて からきし意気地のないやつだ」

25

25. 匿名処理班

  • 2016年09月01日 14:03
  • ID:9HedeIGJ0 #

※19
魂の双子って感じじゃないのかな

26

26. 匿名処理班

  • 2016年09月01日 17:37
  • ID:jFWxFJbk0 #

象ライフでいいじゃないか
兄妹とか?

27

27. 匿名処理班

  • 2016年09月02日 03:08
  • ID:cyZpZf.W0 #

ミャンマーの話だけど、ジャングルで象は重要な労働力だった。
ただ、動物愛護の精神から労働時間を短くし、
最近は機械が普及したので仕事自体が減ってるそうだ。
で、そんな象たちだが、労働時間が減って運動不足で肥満になったり、
朝から晩まで交尾してるらしいw。

28

28. 匿名処理班

  • 2016年09月02日 07:36
  • ID:D3GrDcWe0 #

恋に落ちる、、?
百合か

29

29. 匿名処理班

  • 2016年09月02日 08:51
  • ID:iS94K40v0 #

※19 ※35
確か象はメスを中心にして群れを作り、皆で子育てをするんだよ。
母親以外のメスが子守を担当したり、助け合って暮らす。
だからスタッフさんもメス同士を顔合わせしたんだと思うよ。

30

30. 匿名処理班

  • 2016年09月03日 00:01
  • ID:7U5On6Ft0 #

観光地で、人間乗せてる像も、サーカスも、酷い虐待受けてるんだよね
何が猛獣使いだ、調教師だ
上手くやらなければご飯を与えなかったり、
鎖で首を吊ったり、尖った金属での暴力や恐怖で強制させてるだけ
人間は、オカシイやり方をしていると思うものを拒否する権利がある
人間が、動物を苦しませることをしないのが一番だけど

31

31. 匿名処理班

  • 2016年09月07日 13:42
  • ID:3hY.G7A50 #

最近、どこかの企業が「アフリカのゾウを密猟から守ろう」ってポスターを作ったんだけど、そのポスターに使われていたのが、一見、「仲の良い人間と海水浴するゾウ」的な写真だったんだけど、実は「"アジアゾウ"を鉤棒で"強制的に"泳がせてる」写真で、「この企業は、実はゾウのことなんて何もわかっちゃいないんだ」って、動物保護のサイトで批判されてた。
そのサイトでは、「ゾウを救いたいと思ったら、観光地でゾウに乗ったりゾウと写真を撮ったりしないこと」と呼びかけてた。我々も動物虐待の一端を担うことのないよう、気をつけなきゃいけないね。

32

32. 匿名処理班

  • 2016年09月17日 01:54
  • ID:YIvEWXwB0 #

ゾウって繁殖できないから森からさらってくるんだよね

33

33. 匿名処理班

  • 2016年10月16日 11:54
  • ID:uKyADAl70 #

オツベル の 所から 仲間によって救出された象の 続編かと思った・・ドキュメントリー なんだね・・

34

34. 匿名処理班

  • 2018年07月28日 19:29
  • ID:Lb4hKdOF0 #

メーカムもメージュンペも女の子でしょ?ビアンのゾウさんだったのかな

お名前
スポンサードリンク
記事検索
月別アーカイブ
スマートフォン版
スマートフォン版QRコード
「カラパイア」で検索!!
スポンサードリンク