メインコンテンツにスキップ

まったく眠れなくなり死に至る病「致死性家族性不眠症」

記事の本文にスキップ

41件のコメントを見る

(著)

公開:

この画像を大きなサイズで見る
Advertisement

 どうあがいても眠ることができず、体や脳の元気を回復するチャンスがまったくなくなる、究極の不眠症ともいうべき恐ろしい病がある。「致死性家族性不眠症(FFI)という病は、1000万人にひとり以下の割合で起こる非常に珍しい遺伝子疾患で、今のところ治療法はなく、発症後の余命は多くの場合約2年以内とされ最終的には死に至るという。

 BBCのレポートによると、FFIはあまり知られていないそうだ。無理もないことだが、この遺伝子を持っている家系の人が沈黙を保っているからだ。自分の子どもにこのような残酷な運命が待ち受けているとは、誰も思いたくないだろう。いつ、家族の誰が、発症するかはまるでわからず、治療法もないとなれば、誰もが話題にしたがらないのも当然だ。

FFIの家系:シルヴァーノの挑戦

 しかし、最近は自分の家系を苦しめてきたこの病気について、あえてオープンにすることを選ぶ家族もいる。イタリア、ヴェネチアに住むのシルヴァーノという男性は、1980年代に53歳でこの不治の病に屈した。彼の父親とふたりの姉妹も同じ病で亡くなっている。彼は自らの遺志で、この病の原因究明のために自分の脳を提供した。この話は、『眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎』という本にまとめられたが、著者のダニエル・T・マックスは、シルヴァーノの家系を18世紀後半のヴェネチアの医師までさかのぼって、この病のことを調べた。

 シルヴァーノの姪の夫であるイグナツィオ・ロイターと、その友人ピエトロ・コルテリのふたりの医師によってさらに調査が進められた。結果的には、シルヴァーノやその家族の命を救うことはできなかったが、脳の徹底的な調査によって、ついにこの病の原因のひとつがわかった。FFIの原因物質「プリオン」とそれが人体に及ぼす影響

 遺伝子異常によってタンパク質のプリオンが変形、脳内に蓄積してしまうことが元凶だったのだ。どういうわけか、中年期にだけこの変形プリオンが異常に増殖してたまり始め、ニューロンに害を及ぼす。

 FFIは、かつて騒ぎになったクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)や狂牛病と同じプリオン病のひとつとされている。今日、長年の調査によって、プリオンはまわりの環境に対するわたしたちの自律反応を調整していることがわかっている。だから、これが壊れると、脳内がめちゃくちゃになってしまい、異常な発汗や瞳孔の収縮、無気力、便秘、慢性不眠症などの症状があらわれる。

 FFIでは、不眠に苦しむだけでなく、周囲に対する知覚や意識がなくなる人事不省になることもある。コルテリによると、これは深い眠りのときにあらわれるレム睡眠の状態と似ていて、患者は夢を行動で表わしているという。テレサというある女性の場合、常に髪を梳くような仕草を繰り返していたが、彼女は発症する前は美容師だったという。

未知の治療に挑んだ患者

 FFIの患者は、発症すると肉体的にも精神的にも急速に衰えて、2年以内に死んでしまうという。しかし、1990年代にはこの運命に抗おうとした患者がいた。FFIの遺伝子を持っていたアメリカ人男性ダニエル(家族のプライバシーを守るために名前を変えた)は、ただ死を待つだけでなく、常軌を逸しているようなものも含めて、ありとあらゆる治療法を試した。ビタミンのサプリを飲み、定期的に運動して全身の健康状態を改善させ、ケタミンや笑気(一酸化二窒素)などの麻酔薬まで用いた。

 ジアゼパムのような睡眠薬を服用すると、15分程度のうたた寝はできるが、それではちゃんと睡眠をとったことにはならない。そこで、ダニエルは温めた塩水を満たした感覚遮断タンクを購入してその中でぷかぷか浮かび、いつの間にか眠りに落ちて、ついにしっかり4時間半の至福の睡眠をとることができた。

 だが奇妙なことに、ダニエルは目覚めたときにひどい幻覚に悩まされ、自分が生きているのか死んでいるのかよくわからなくなった。ダニエルは数年間苦しみ、さらに本格的な電気痙攣療法などの治療も試したが、そのせいで一時的に意識がなくなった。

Dying To Sleep (Full Documentary) FFI患者を記録したドキュメンタリー映像

 こうした過激な治療によって、ひどい健忘症に悩まされるようになり、さまざまな勇敢な試みにもかかわらず、ついに命を落とした。

 しかし、一般的なFFI患者よりは命を長らえたことは確かだったため、医師たちはFFIでも寿命を延ばす方法がほかにあるのではないかと思うようになった。コルテリは、少なくとも自分たちができることがなにかあると言える可能性が開かれたと言っている。

新たなる治療法の研究

 一方、ヴェネチアにいる、ロイターらはFFIの治療法発見に近づいたかもしれないと信じている。昨年、ドキシサイクリンという新薬の臨床試験で、この薬がプリオンがくっついて密集するのを防ぐ可能性があることを発表した。つまり、FFIになる危険性のある人の体内にプリオンがたまるのを十分に阻止することができそうだ。そうすれば、病気の進行を遅らせたり、妨害することができるかもしれない。

 しかし、薬を試すのにはひとつ問題がある。シルヴァーノの家系の現在の世代を巻き込んで、遺伝子検査で誰がこの異常遺伝子を持っているのかを調べなくてはならない。だが、お先真っ暗なこんな絶望的な運命が、自分の身にふりかかるという検査結果を誰が聞きたがるだろう?

 そこで、検査はFFIの危険性のない15人の被験者を加えて、彼らにも見せかけの治療を行うことにした。今後10年間患者を継続して観察し、もし6人以上がこの病気を免れたら、薬の成果があったということになる。

 だが、コルテリら一部の医師は、ふたつの理由でこの治験には懐疑的だ。まず、被験者によっては、薬の副作用が起こる可能性があり、実際に診断を明かすと不必要な苦痛を与えるかもしれない。それに、たとえ最終的に生存者が何人かいても、それが必ずしも薬が効いたことを示しているとは限らない。80代になるまで発病することのないFFIの遺伝子をもつ、たまたまラッキーな人たちなのかもしれないのだ。

 しかし、シルヴァーノの家族はこのリスクを進んで受けようとしている。何代にもわたって自分たちのDNAに課せられてきたこの呪いから自由になるために戦うチャンスがついにやってきたのだから。

FFIの遺伝子をもつ姉弟

 オーストラリアのクイーンズランドに住む若い姉弟のケースは、最近、アメリカのドキュメンタリー番組60ミニッツでも取り上げられた。ヘイリー(30)とラクラン(28)・ウェブが、最初にFFIに気づいたのはまだ10代の頃のこと。祖母がこの病になったのだ。「10代前半で、うちの家系にはこの呪いがかかっているのに気づいたの」とヘイリーは語った。

 「祖母の具合がどんどん悪くなって、視覚を失い、痴呆の症状を出てきたわ。幻覚をみるようになり、しゃべることもできなくなった。結局、FFIだと診断され、そのとき初めて、うちはFFIの家系なのだとわかった」彼らの母親は2011年に発症し、ひどい幻覚に苦しんで、わずか半年後に他界した。

 ヘイリーとラクランは、現在、異常遺伝子を持っていると診断されているので、いつ、どのようにこの病が襲ってくるかはまったくわからない。「おばは42歳、母は61歳、祖母は69歳、母の弟は20歳で死んだ。自分たちは若くして発症しなけばいいと思っているけれど、それは明日起こるかもしれないし、実は危険ゾーンにいるけれど、あとたっぷり10年の猶予があるのかもしれない。今から発症するまでの間に、治療法が見つかることを祈るだけ」

 「発症までのカウントダウンが始まっている今、あれこれ思い悩むだけでなにもせずにただじっとしているのは嫌なの」ヘイリーはラクランと一緒に、治療法を見いだそうとしているカリフォルニア大学の研究に参加している。「情報が欲しいし、答えが欲しい。なにより、治療法が見つかって欲しい」

 自分がこの悪魔の遺伝子を持っていることを知るのは、耐えられないことに違いない。毎日ベッドに横になって、今夜こそ永遠に眠れなくなる夜の始まりになるのかもしれないと思うのは、あまりにも残酷なことだ。

via:odditycentral・written konohazuku / edited by parumo

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 41件

コメントを書く

  1. 寝る時間がきたら寝る。それすらできないなんて・・・

    • +1
  2. ・・・・・・・・・・・・
    ひさしぶりに記事を読んで
    悪寒が走る記事でした

    • 評価
  3. 日本ではどうなんだろう
    不眠症と診断されてる人の中にもいたりするのかな。

    • +21
  4. 1日徹夜するだけでもかなり辛いのに、それが弱り切って死ぬまで何年も続くと思うと・・・

    • +10
    1. ※7
      難病センターのサイトを見ると、日本にも数家系は存在してるようで難病指定されている
      不眠症とはあきらかに兆候が違うので混同されてる事は初動以外ではないと思うよ

      • +4
  5. この病気たしか世界丸見えかなんかで見た記憶がある。
    最後は目を開けたまま応答すら出来ない 人となって無くなってたな。
    もう15年くらい前に見たと思うけど今だ忘れられない

    • +17
  6. 気絶は休むことにはならないのかね?
    毎日絞め落とされるのもいやだけど…。

    • -2
  7. 繁殖期の間は発症せずに潜伏するから
    次々と子孫へ遺伝するんだな
    発症した頃にはもう遅い

    • +40
  8. 寝る事ができる、食べる事ができる、見る事ができる、聞く事ができる、歩く事ができる。。。
    こういう当たり前の事が実はとてつもなく幸せだと言う事なんだよね。

    • +15
    1. >>11
      自分もみたよ。
      たしか高校の音楽の先生で突然一睡もできなくなって1か月後に亡くなる直前まで目はランランと輝いていたという。
      気絶とかできないんだよ、死ぬ前に意識がなくなるって眠るがごとくってこともない。
      永遠の眠りは彼にとって救いだった。
      自分の母は脳の病気で一日の大半を寝て過ごしている(最近はだいぶ短くなって6時間ぐらいは起きていられる)。 
      いつも赤ん坊のように爆睡していて本人的には幸せそう。

      • +61
  9. 眠れない一族~、本を読んだことがあるがおよそ記事の通りだったな。
    検査結果を聞きたがらない、でアメリカ人女性がハンチントン舞踏病だったかの発症する可能性を上司に相談したら、解雇かそこまででなくても極めて不当な処遇に遭わされたという話をテレビのドキュメンタリーでやってたのを思い出した。

    • +1
  10. 以前この眠れない一族を読んだがとても良い本だった。プリオンの仕組みや名称をめぐる人の思惑が交差し、食人文化、ヤコブ病の今後なども書かれていた。カラパイアで治療法やその後の新たな進展を知ることができてよかった。

    • +6
  11. 発症するのが大人になってからというのがまたなんとも
    子どもや孫がいるような状況で発症したとき、これが遺伝で自分の子孫も同じ苦しみを味わうのだと考えるとどんなに辛いことか…
    早く治療法見つかって欲しいね

    • +9
  12. 初めてプリオンの存在を知った時は驚愕した記憶がある。細菌やウィルスなどの病原体が病気を起こすプロセスと全く違っていたので、なかなか理解できずに混乱した。

    • +2
  13. もしかして年をとると睡眠時間が短くなるのもこれと同じメカニズムだったりして?

    • -1
  14. 大人になるとずっと起きてることが多いんだよね。頭が冴えきって眠るに眠れない状態。
    そういうとき仕方ないから布団の中で目を閉じて身体も動かさず朝までじっとしてることが何度かある。 頭が冴えてることは決して良い事ばかりじゃないんだよな。

    • +6
  15. 本に出てくる一族の祖先は、食人の可能性があると言われてるんだっけ
    でも本当なのかな
    確かにパプアニューギニアの未開の地ではプリオン病が関係あると言われてるけど
    ここまで子孫に遺伝するものなら、未開の地の小さな村が存続するのは難しいと思うんだよね
    パプアニューギニアのとはちょっと違うプリオンなのか
    BSEの牛を食べてもヤバいというのだから
    他にも感染の原因がありそう

    • -1
  16. プリオン病って、なんでこう絶望的なのばっかりなんだろう?多少軽いのとか無いのが不思議

    • +6
  17. 去年の一時期、自律神経失調で不眠状態になったけど本当に辛かった。
    それとはまた異なる状態なのはわかってるけど「眠れない恐怖」はほんの少しだけ分かる気がする。

    • +13
  18. 一般的な睡眠障害でも太りやすくなったり集中力が続かなかったりで鬱病を発症したりするのにこれはあんまりだな
    良く動いていっぱい食べてぐっすり眠るのが人間にとって一番しあわせなことなのかもな

    • 評価
  19. 前にカニバリズムについて書かれている本を読んでたらこの病気のことが載ってて、イタリアの修道院でカニバリズムが行なわれたという伝説のようなものがあるとかなんとか…。
    聖遺物的の力を得る的な意味合いでの人肉食いがあったとか。
    それがこの病気と符合するのではないか、みたいなことが書かれてと思うんだけど、何の本だったか思い出せなくて確かめようがない…。

    • 評価
  20. 読む前は睡眠薬を使えばいいんじゃないの?って思ってたけどそれも駄目なんだね…

    • 評価
  21. 不眠症とは全く違うから間違えないでね
    眠ることが出来る人が寝ない場合は1週間以内に ぬ

    • +1
  22. FFIは人肉食とは関係ない。
    人の肉を食べたからといって遺伝子に異常が生じるわけではない。
    逆に、狂牛病の患者は、脳に異常なプリオンがたまってはいるけれど、遺伝子がおかしくなっているわけではないよ。

    • +12
  23. 軽度の不眠症だけどそれでも苦しい
    3日眠れないと体が弱って、もう二度と起きれなくてもいいから寝かせてほしいと思うくらい弱気になる
    そのままずっと眠れなくなるなんてどれほど苦しいだろう

    • +8
    1. ※31 それだけプリオンが脳の機能と密接に繋がってるということだろうね

      • +6
  24. ほんと神も仏もいないのか
    もしくは人間が苦しむのをみて楽しんでいるのか
    身内がこんな病気になったら、神を殺したくなってくるわ

    • 評価
  25. 自分もテレビで見た。眠れる時が亡くなる時って、そんな恐ろしい病気もあるんだな…

    • +18
  26. 普通の不眠でもあの自分自身に対する無力感たらないよね
    お二人が末永く健康で快活な人生を送れるようにと祈念いたします

    • +1
  27. あまりにもかわいそうだ
    寝れない辛さは残業していると本当に感じる

    • +11
  28. ジアゼパムって睡眠薬だっけ
    そこが引っかかって嘘っぽく聞こえた

    • +1
  29. テレビで生まれてから1度も眠ったことがない男を見た気がするんだが、あの人は寝なくても死ななかったんだよな。
    不思議だ。

    • 評価
  30. 大人になってから発症するってのがなあ
    繁殖期は潜伏して、その後暴れるって、
    完全に悪意があるじゃないですか

    • +1
  31. まさにこの症状なんです。4年前くらいから明らかに症状が進行していた気がします。眠剤も効かなくなりました。病院行っても鼻で笑われ相手にされずMRI撮って異常ないからと帰され…途方に暮れてます…

    • +2
  32. この病気に限ってはさすがに安楽死認められてもいいと思う
    毎日一睡もできないことへの対処法が何もないまま死ぬまでなんて気が狂うじゃ済まない
    それか早いこと改善か治療できる方法が見つかってほしい…

    • +1

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

動画

動画についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

料理・健康・暮らし

料理・健康・暮らしについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。