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 ヨーロッパの泥炭湿原(ピートボグ)には、奇跡的ともいえるほど保存状態の良いミイラが数多く発見されている。自然に死蝋化し、湿地遺体と呼ばれるこうしたミイラの中には、1万年も前のものもある。

 どうして、彼らが泥炭の中で最期を迎えたのかは誰にもわからないが、喉をかき切られたりしたひどい傷跡からは、彼らは生贄にされたか、罪を犯して処刑されたと思われる。もっとも有名な遺体のひとつは、1950年にデンマークで発見されたトーロンマンだ。

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 ミイラのほとんどは北西ヨーロッパ、とくにアイルランド、グレートブリテン、オランダ、ドイツ北部、デンマークから、発見されている。これらの遺体が独特なのは、信じられないほど保存状態がいいことだ。泥炭が含む特殊な化学物質のせいか、皮膚や内臓がほとんど損なわれていない。

 泥炭は高濃度の酸性水を含む死んだコケの堆積物で、低温で酸素が欠乏しているため、遺体がほぼ完ぺきに保存されるようだ。柔らかな皮膚組織や胃の内容物、髪、爪、衣服などが法医学的分析に耐えられるほどきちんと残っている。胃の内容物からは食べ物、歯や爪からは、その人の健康状態や年齢を推測するのに役立つし、衣服は文化の様子を示す。


The Tollund Man: Denmark's remarkable bog mummy

  トーロンマンが生きていたのは紀元前4世紀、スカンディナヴィアで前ローマ鉄器時代が特徴的な時代である。頭と顔の保存状態が非常に良かったため、発見当時、近年に起きた殺人事件の被害者と間違われたほどだった。

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信じられないほど保存状態の良いトーロンマンの頭部

 トーロンマンは、1950年5月8日に発見された。デンマークのシルケボアから西におよそ10キロの湿地で、ふたりの兄弟とその家族が、燃料にするために泥炭を掘っていたときに偶然見つけた。

 その驚くべき保存状態と、首にひもが巻き付いていたことから、彼らは最初、最近起きた殺人の犠牲者だと思ったという。放射性炭素年代測定をしたところ、およそ紀元前375年から210年の間に死んだことがわかった。ほぼ2400年前のことだ。

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 発掘されたとき、彼は腰に細い革のベルトを巻いただけの、まったくの裸だった。ベルトの端は四角くカットされていて、もう片方の端を間に通して腰に結びつけられていた。

 頭には羊皮とウールでできたとんがり帽子を被っていて、顎の下で革ひもでしっかり留められていた。首には動物の皮を三つ編みに編んだ首吊り紐のようなものが巻きついていて、背中側に垂れ下がっていた。髪は短く刈られていて、帽子の下にほぼ隠れていた。顎と唇の上にわずかに髭が残っていて、彼は死んだ日に髭を剃らなかったことがわかる。

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 トーロンマンは、処刑されたのではなく、生贄の犠牲者だと思われる。発見されたとき、胎児のような格好をして、目や口が閉じていたからだ。

 彼の遺体は、現在デンマークのシルケボアは博物館に展示されているが、オリジナルは頭部だけだ。というのは、1950年代初頭には、まだ有機物の全身を保存する技術は十分に発達していなかったため、頭部だけを保存することにしたのだ。その後、体のほうは完全に乾燥して、組織は消滅してしまった。1987年、シルケボア博物館は残った骨格を使って体を再生して、頭部にとりつけた。

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 トーロンマンが発見される12年前の1938年、別の湿地遺体が見つかっている。エリンウーマンと呼ばれた24歳の女性で、発見場所はのちにトーロンマンが見つかった場所からわずか80メートルしか離れていなかった。トーロンマンと同様、首に縄がついていて、羊皮の服を身につけて湿地の中に埋まっていた。腰や足は、皮の毛布あるいは牛の皮でできたマントのようなものでくるまれていて、髪はおさげにして首の後ろで結んであった。

 トーロンマンやエリンウーマンのような湿地遺体は、これまでたくさん見つかっている。一番最近のものでは、2011年にアイルランドで見つかったカッシェルマンがいる。以下、保存状態のいい湿地遺体をあげてみよう。



オールドクロウアンマン(紀元前350年から175年)
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 2003年にアイルランドで発見された。胸の刺創から、惨殺されたことがわかる。斬首され、胴体も半分に切断されている。当時としては、珍しい六フィート六インチ(197センチ)の長身で、手には爪や皮膚が完璧に残っている。


クローニーカヴァンマン(紀元前392年から201年)
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 オールドクロウアンマンより3ヶ月早く同じ湿地から発見された男性。上半身だけしか残っていない。おそらく儀式の生贄で、頭部に斧のような鋭利な道具の一撃を受けて殺されたと思われる。


ウィンデビーガール(紀元41年から118年)
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 ドイツで見つかった保存状態のいい遺体。華奢な骨格から、14歳くらいの少女と考えられたが、のちのDNA鑑定から、実際は16歳の少年であることがわかった。


グラウベールマン(紀元前290年)
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 1952年、デンマーク、ユトランド半島で発見された。指の保存状態が大変良く、オールドクロウアンマンと同様、指紋がとれたほどだ。喉をかき切られて殺された儀式の生贄と思われる。胃の内容物から、彼は死の前に幻覚を起こすキノコの入ったスープを飲まされていたことがわかった。おそらく儀式の間にトランス状態にさせておくためだったのだろう。


ハルドレモースウーマン(紀元前160年から紀元340年)
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 1879年、デンマーク、ユトランド半島で発見。死亡時、40歳以上で、当時としては高齢。右腕が切断されていたが、これは遺体を掘り起こしたときのシャベルで切断されたと思われる。ウールの紐で髪がまとめてあり、首にも紐が巻きついていたが、法医学分析では絞殺の痕跡は見つからなかった。

via:amusingplanettranslated konohazuku / edited by parumo

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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 21:12
  • ID:hVvEBW1s0 #

アレクサンダー大王が生きてた頃の人なのか・・凄いなぁ

2

2. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 21:21
  • ID:WyXFYsdu0 #

有機物でも条件が重なるとこう言う事も起りうるんだよね、
日本でも青森で何千年も前の編みカゴなんかが出土しているし。
しかも漆塗りされてたオマケ付きで。

3

3. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 21:35
  • ID:1RfsKOci0 #

クローニーカヴァンマンは
映画「バタリアン」のオバンバみたいだ。

4

4. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 21:38
  • ID:pge6HGQj0 #

中国では前漢馬王堆墓の利蒼夫人の屍蝋が有名だよね。『史記』に名が載せられている人物の夫人だというのも重要だけど、出土品も『老子』の完本をはじめとして、中国思想史上、極めて価値の高いものだった。

5

5. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 21:50
  • ID:8cgp6FgO0 #

氷河で見つかったアイスマンってのもあったっけ
当時の格好そのままで見つかった歴史的な発見ってニュースを見たな

6

6. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 22:48
  • ID:4e9YeyGK0 #

腐敗しない仕組みをもっと詳しく理解出来れば、
生に近い長期保存食出来るかな?
遠い宇宙に旅が出来るかもw

7

7. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 23:10
  • ID:.HbN8NS10 #

エリンハートの「アイルランドの棺」面白かったなぁ

8

8. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 23:29
  • ID:sQDXi8je0 #

※7
腐敗しない仕組み>そんなに難しい理屈じゃ無く、単に死体が温度の低い泥の中に埋まった状態だと、周囲の環境が無酸素状態になるため腐敗を起こす細菌が全く繁殖出来なくて何百〜何千、時には万年単位で死体がほぼ生前(死亡直後)に近い状態で半永久的に保存される。
似た様なモノに天然コールタール沼に落ちて溺れ死んだマンモスやサーベルタイガーなどの古代生物の死体が、ほぼ完璧に近い形で発見される事がある。ただし記事にもある様に、発見された瞬間から常温空気に触れて腐り始めるので、一般人による偶発的な発見の場合は余り良い状態で保存維持出来なくなる場合が多い。

9

9. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 23:38
  • ID:.Nr0kguB0 #

11,000年前の「シギルの偶像」と同じ条件やね。
日本の泥炭には何も埋まってないのかなあ

10

10. 匿名処理班

  • 2015年12月12日 23:44
  • ID:6OAHgF7O0 #

死んだら火葬にして欲しいと思った。自然に還りたい。

11

11. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 00:05
  • ID:pMDdHfG20 #

キョウフウコシアンマンとかカンサイフウオコノミマンとか書くとそれっぽいね

12

12. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 00:33
  • ID:L.a8Rx.g0 #

すげえな、彫刻みたいだ

13

13. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 00:38
  • ID:2.AJRfEG0 #

昔の人の研究ができるのはありがたいが、生贄にされた本人はあんまり嬉しくないと思うんだけど。私なら「皆のために犠牲になったんだから、私の体で研究なんてしないでよ」とか思ってしまうなあ。「未来の研究に役立つなら名誉だ」とか思うだろうか?(研究自体は続けて欲しい)

14

14. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 02:09
  • ID:7wJbZaNI0 #

紀元前290年のグラウベールマンさんですら
フッサフサに残っているというに…

15

15. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 04:18
  • ID:iWHvNcxu0 #

当時からあんなに綺麗にヒゲ剃っていたってのが驚きだ

16

16. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 06:58
  • ID:lTMW9x.P0 #

泥炭といえばスコッチ飲みたい

17

17. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 07:07
  • ID:LkBTQs7l0 #

わざわざ泥炭湿地の上で殺されてるんだから、そこが神聖な土地だと考えられてたんだろうね。
燃える泥である泥炭は当時の人々からは不思議で恐るるべきものだったろう。

18

18. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 08:24
  • ID:44kSqooF0 #

意外と人の顔って古代と変わらないんだな
もっと原始人みたいなのだと思ってたよ

19

19. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 09:23
  • ID:m.C0AIcP0 #

いろんなマンがいるもんだなあ

20

20. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 09:39
  • ID:s0nmqmkD0 #

なんだか美味しそう

21

21. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 09:44
  • ID:NLMtSFzq0 #

トロマン

22

22. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 10:10
  • ID:ysrf7M4s0 #

24歳女性の画像はないの?

23

23. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 10:17
  • ID:jNQpMrfF0 #

日本の真夏なら2〜3日もすれば人相もわからないくらい腐って虫がわくのにね…

24

24. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 11:34
  • ID:2.AJRfEG0 #

※25
マジレスするのも何だけど、日本で言うと例えば尾瀬や北海道の湿原辺りで人身御供が行われていた…みたいな話なんだと思う(そんな例を私は知らないけど)。水草の有る水中に沈んだ死体が低酸素の状態で保存された…という話だから、日本でも条件さえ合えば有り得る話だとは思う。日本でも園芸用とかウイスキーの香付け用にピートは生産されているから、何か出て来る可能性も有るかも知れない。日本でのピートの生産は北海道が大部分らしいけど、当時、北海道に居たはずの縄文人は結構と平和的な文化を持っていたみたいだから、人身御供のイメージは薄いけどね。

25

25. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 11:55
  • ID:2.AJRfEG0 #

※20
100万年前なら原始人かも知れないけど、1万年前なら現代人と同じはず…
とマジレスしてみる。言葉は全く通じないと思うけど、それ以外では現代人と同じでしょう(たぶん)

26

26. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 12:15
  • ID:uRMccue60 #

化石燃料みたい
あれは徐々に体が石炭だかに置換されていくらしいんだけど
この遺体も同じ感じかな?

27

27. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 12:55
  • ID:fZkF.aPH0 #

こういうミイラを見ると弔ってお墓に埋めてほしいなって思う
自分や大切な人がミイラとして後世もずっと残り続けるのは嫌だっていう俺の価値観なんだけどね。
本人はどう思ってるんだろう もういないんだけどねー

28

28. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 14:09
  • ID:TiGPcvhs0 #

キリスト教以前のヨーロッパのある地方では くじに当たった男性は一定期間好きなことを好きなだけできる(衣食住や女性など)代わりにその期間が終わると生贄として殺される という話をどこかで読んだ うろ覚えだけど

29

29. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 14:24
  • ID:Uil232cw0 #

40歳で高齢者なら、男女とも10代半ばで結婚しなきゃ間に合わないわけですね…。

30

30. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 16:21
  • ID:K1hm0ENd0 #

口髭は死んでからも少し伸びるぜ、まぢで

31

31. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 18:14
  • ID:Jic4IN2s0 #

干からびるのはしょうがない。他の何かに食われなければ良い。
この数百年で化石を堀尽くすと考古学も衰退するんだろうな。

32

32. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 20:12
  • ID:13yiEsbc0 #

( ˘ω˘)スヤァ

33

33. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 20:19
  • ID:J1vL83Fx0 #

ふと思ったんだけど死体のDNAからまたそのひとつくるのって可能なのかな?

34

34. 匿名処理班

  • 2015年12月13日 23:40
  • ID:8Cdkq5Cf0 #

トーロンマンという人の写真と記事は、今は亡き「リーダーズ・ダイジェスト日本版」の
1978年ごろの記事で読んだことがある。
しかし、なんで無くなってしまったんや、
おもしろかったのに「リーダーズ・ダイジェスト」!

35

35. 匿名処理班

  • 2015年12月14日 01:01
  • ID:sl03QTfH0 #

※31
江戸時代の平均寿命は庶民の場合30〜40代。子育ての期間を考えれば、彼らの殆どは10代で結婚していました。還暦(60歳)を祝うのは、今でいう100歳の長寿祝い的な感覚だったと思われます。ちなみに今でいう成人式の元服(げんぷく)は、数え年で12〜16歳(実年齢11〜15歳)になると行われていました。身体の準備ができれば、すぐ子作りが求められる、男女ともに厳しい時代でした。

36

36. 匿名処理班

  • 2015年12月14日 16:08
  • ID:UkZdDThU0 #

※26
死蝋化だっけ?
一定の条件として「腐敗菌が繁殖しない条件下にあって、外気と長期間遮断」
「乾燥した環境ではなく湿潤かつ低温の環境において生成される」
だから尾瀬や北海道の湿原はその条件に当てはまったはず

37

37. 匿名処理班

  • 2015年12月14日 22:06
  • ID:83CGfvmt0 #

※12
アイスマンもそうだけど、とりあえずマンを語尾につけとけ感ww

38

38. 匿名処理班

  • 2015年12月14日 22:13
  • ID:KZYT46v10 #

ヒッポリト星人にやられたのか

39

39. 匿名処理班

  • 2015年12月15日 12:09
  • ID:pYUi6MUi0 #

天界では、此の世で病や老衰で没した者は弱い人間として暮らし、力強く健康なまま没した者は強き者として暮らす、だから病人は病没前に親族が槍や紐で自分の命を奪うように望む〜的な考えが在ったとローマ時代の記録には在るね、此の一帯の諸民族には。
其れと完全には当てはまらないでしょうが、似たような一種の安楽死制度の結果かもねえ。

40

40. 匿名処理班

  • 2015年12月20日 21:00
  • ID:XIOXIPDm0 #

討論マン・・・・・面倒くさい奴を連想した・・・・

41

41. 匿名処理班

  • 2019年06月25日 20:05
  • ID:s9tkEJ5R0 #

16歳の少年の名称ガールのまんまなんだ

42

42. 匿名処理班

  • 2019年11月17日 04:31
  • ID:ibQRDjAy0 #

中国の沼地でも同じ様に生贄と思われる縛り首のフレッシュな遺体が見つかってるのを昔写真つきの辞典で見たな

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