昔から人類は貪欲であり、それゆえに生態系の頂点に位置し、お金や権力を、地位や名声を求め続けてきたというイメージがある。だがそれだけではない。人は皆、生まれながらにして他人に同情する気持ちも強く持っているようだ。相手が子供でも親でも恋人でも友達でも、見知らぬ人でも、同情は芽生えるのだ。
米カリフォルニア大学では、新しいアイデアや科学に関する研究や技術などを発掘するビデオシリーズを公表している。今回、その最新作でダッカー・ケトルナー教授は、人間の脳は同情するようにデザインされていると説明した。さらには、他人に同情すること(情けをかけること)には大きな報酬があるとも付け加えた。
We Are Built To Be Kind
以下は動画内でケトルナー教授が語ったことをまとめたものである。
人間は優しくなるようにデザインされている
一般的な生物の進化といえば、個体の生存や競争、種の継続が強調されている。その観点から人類の進化を考える時、「人にやさしさは必要なのか?」という難問にぶちあたる。我々はさまざまな場面で思いやりや優しさを目にしている。時には自己犠牲させ厭わない場合さえある。これは、弱肉強食が主である進化論に当てはまっているのだろうか?
ダーウィンの提唱した人類進化の概念である「適者生存」は、冷酷で残虐な者が生き残り成長するもの、と誤って解釈されることが多いが、実はダーウィンの主張とは全く異なる解釈である。ダーウィンは、共感や同情こそが人間が持っている一番有能な素質だと考えていた。
「同情できる人が一番多くいる地域社会が最も繁栄し、多くの子孫を残すだろう。」
このダーウィンの言葉 が示すように、社会は脆弱な赤ちゃんを守るように進化してきた。共同で子供の世話ができたり、生理学システムもより妊婦に優しいシステムへと日々、進化している。
結ばれた思いやり
私が行ったカリフォルニア大学ロサンゼルス校の神経科学の研究で面白い発見があった。人は物理的な痛みを感じると脳の一部に信号が送られる。驚くべきは、それを観察していた人も、脳の同じ部分に信号が送られるというのだ。まるで相手の痛みを共有して感じているかのように。
これはミラー(鏡)ニューロンと呼ばれる神経細胞の働きで、他者の行為を観察することで、自分の脳内であたかも同じ行為が行われているような働きを示す。
”共感”は非常に複雑なプロセスが脳内で行われており、この大脳皮質の新しい発見は、言語や未来のことを想像するなど思考の中枢を司っている部分にあたり、前頭葉に深く関係している。
共感するには「自分以外の相手がいて、その人は自分とは異なる感情や考えを持っている」と理解することが必要である。バークレー社会的交流研究所で、被験者たちに典型的な痛みを感じる写真を見てもらう実験を行ったところ、被験者はとても強い同情の反応を見せ、物事を処理するときに働く中脳水道周囲灰白質と呼ばれる部分が反応した。中脳水道周囲灰白質は、哺乳類に共通する神経細胞で、昔から我々の脳にある。つまり、ダーウィンが憶測したように、同情は昔から脳神経に組み込まれていたのだ。
共感の欠落
私たちは”社会階級”というシステムとそれが与える心理的影響に強く興味を持った。そして、人間の神経システムで一番長い束の「迷走神経」と呼ばれるものに注目した。この迷走神経は、同情や助けたいという感情が生まれると活動することがわかった。ある実験を行い、下流階級の人と上流階級の人に「苦しんでいる写真」を見せた。すると、下流階級の人は、迷走神経に反応が現れたが、上流階級の人はそのような反応を示さなかった。これは正に富が生み出す思いやりの欠如と言えるだろう。
経済学の統計に従えば、金持ちの人ならお金を分け与えるのは簡単だと思われる。逆に、銀行の口座に10万円しかない人は、自分の生活に関わってくるので簡単には他人に分け与えない、と思われている。
しかし、我々が発見したのは、下流階級の人々の方が、上流階級の人よりも、多くのお金を分け与えているという事実だった。これは、ボランティア活動について研究した他の実験結果とも同じものだった。
このことから言えるのは、貧しい人たちのコミュニティーは、寛容で共感深く、協力して何かを成し遂げる力を持っているということだ。反対に、特権がある環境で暮らす人々にはこれが欠如していると言えるだろう。
利己主義の再定義
我々の行動の60パーセントは自己満足や欲求を満たすため、自分の生存のためのものだ。そして残りの40パーセントは他人のために行動している。自分を犠牲にしたり、利用されているかもしれなくても、他人のために行動する。それにより、自己満足を得るという結果になり、さらに他人のために行動しようという活性剤となる。
我々はこの副次的喜びを、他人のために行動して獲得する。つまり、自分の喜びのために行動しているとも言えるのだ。「情けは人の為ならず」なのである。
こう考えると利己主義も偽善も思いやりの一部といっていいだろう。昔から偉大な倫理上の教えは同情からくる思いやりを推奨してきたし、今や科学的にも証明されているのだ。そう、人間の脳は他人に同情するようにできているのである。
via:動画翻訳:melondeau
「同情できる人が一番多くいる地域社会が最も繁栄し、多くの子孫を残すだろう。」というダーウィンの言葉は、少子化が進む日本の現状と照らし合わせると感慨深いものがあるかもしれない。
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コメント
1. 匿名処理班
つまり同情することに種としてのメリットがあるため
同情する機能が本能に組み込まれたものが生き残ったということじゃないか
2. 匿名処理班
※1
つまりも何も、本文にそう書いてなかった?
3. 匿名処理班
これが本当なら人間は性善説が当てはまるんじゃないか?違うかな
この話が嘘だったとしても、人は思いやりの生き物って信じて生きた方が楽しそうやな
4. 匿名処理班
同情心の強い人は弱い人間なんじゃないかと思う。
ソースは俺。冷い人間でも勝ち組の人のほうが
いい人生だと思う。
5. 匿名処理班
※3
違うんだ 利己主義も偽善も思いやりの一部(本文の主張) ではなくて
思いやりも偽善も利己主義の一部だと思う(私の主張)と言っているのだ
メリットがあるから優しさの機能があるものが残った
優しくすることが無条件にメリットがある(正しい)わけでなく
優しくすることで快感を得るようなメカニズムがあるということが
生き残るメリットにつながっている
本文は結論を都合のいいようにひっくり返しているんだ
6. 匿名処理班
人間の優しさを積極的に引き出していけば暮らしやすい世界になるかも
7. 匿名処理班
良い人生か悪い人生かは、自分の心が決める。
お金があれば良いに越したことはないけど、
お金を自分の人生の根幹に置くのは豊かとは言えないだろうな。
8. 匿名処理班
同情と言うか共感して行動を起こすのは理解できるけど、言葉だけの「可哀想」って感想には余りいい感情が持てないんだよなあ
何となく哀れみの方が強く出てる気がしてな
9. 匿名処理班
金銭の豊かさを心の余裕に転嫁出来る人は実りある人生を味わえるだろうな
お金を沢山持っていても思いやりを失わない人ってのはお金との向き合い方が上手い人だと思ってる
10. 匿名処理班
主題から逸れるけど、
「中脳水道周囲灰白質は、哺乳類に共通する神経細胞」で、「とても強い同情の反応を見せ、物事を処理するときに働く」部分だと言うなら、
哺乳類が希に種を超えた――犬が猛獣を、とか猫が犬をとか、虎や狼が人間をとか――育児行動を自発的にするのもコレが理由の一端を担ってるんだろうか
11. 匿名処理班
自前の毛皮の無く裸で、強力な爪も牙も無い、本来最も弱い生き物なんだよ。
だからこそ、共感する事、考える事を武器にしてきた。
弱い動物は基本群れる。強いものは捕食者として数が多いとバランスが崩れる。
そんだけの事。
でも、自分だけがハッピーより皆ハッピーになれる道を探した方が
人として素晴らしい。
12. 匿名処理班
つまり性善説は正しいのだが 人は優しくする機能を生まれながらに持っているのだが
何故それを持っているかというと 生き残るメリットがあったから その機能を持っていて
性善説を性悪説が支えている 性悪説がベースであるとも読み取れるという事
13. 匿名処理班
この同情が発動するためには、相手の窮状を直接見たり、声を聞いたりといった刺激が重要名のだと思う。
ネットや新聞で抽象的に困っている人がいる、と知っているだけでは他人事としか感じられない人が多いだろうね。
14. 匿名処理班
同情は人の体温と離れるほど、その感覚が希薄になっていく気がする。
直接会えば同情できる、電話で声を直接聞ければ、まあ、そこそこ。
メールよりも、直筆の手紙。
だから、個人を特定する情報の少ないネットの体験談とかは、同情どころか殺伐とした気分になる。
僕の人生修行が足りないといえばそれまでだけど、個人的にはそう感じている。
15. 匿名処理班
思いやりや同情なんてのは人間の最後の砦の様に感じるよ。
便利になって何時でも何処でも誰とでも表面的に付き合えるようになった。
直接触れ合わず1人にかける時間も少なくなったもんな。
大事な能力をなるべく多く使いたいもんだ。
16. 匿名処理班
「同情できる人が一番多くいる地域社会が最も繁栄し、多くの子孫を残すだろう。」
失われっぱなしのわが国よ・・・
17. 匿名処理班
※5
他人を踏みつけにした人生を送った人はそれなりの最期を迎えてるよ。どんなに金を儲けてあの世には持って行けない。不思議と非道を行った分だけ辛い不治の病にかかったり、突然事故死したり、強盗に殺されたりして「ツケ」を必ず支払わされている。それがこの世の理(ことわり)。因果応報や自業自得はただの四文字熟語じゃありません。実際にあります。
18. 匿名処理班
優しい方が幸せになれるとは言ってない
19. 匿名処理班
冷たいほうが幸せになれるとも言ってないし
優しいと幸せになれないとも言ってないな。
何を幸せと感じるかは人それぞれだが、個人的には思いやりを持つ人には幸せになって欲しいと思う。
20. 匿名処理班
※20
因果応報は根拠ではなく人間の思考のパターンでしかない
宇宙は関係性の連鎖でできている、そこに善を見るのも悪を見るのも因果を見るのも、受け手の心の中にしかない、感情が受け手の心の中で応報してるだけなのだ。
生まれて間もなく亡くなってしまう赤ちゃんは何か悪い事をしたか?因果応報してるか?してない。
因果応報は人間がとらわれてしまう、もしくは利用することができる心の仕組みに過ぎない。まやかしだ。
憎しみが憎しみを生み 喜びが喜びを生む 人間はそのような性質をもっているだけで、
例外のない原理敵な法則ではない。人間はそこを離れることもできるし例外もある。
因果は応報する それは心の動きのようなもので、それは正当性のある根拠のようなものではない。
因果応報はそれを願う人の心の中にしか存在しない。
21. 匿名処理班
貧乏だと人の苦しみも理解しやすくなるし、弱い者は協力していかないと生きていけないしね
傷付いた分だけ優しくなるとは本当だった
22. 匿名処理班
※20
大分恩人殺人事件とかあるからね。
悪人には悪魔が手助けしてるんじゃないかと思うわ。
23. 匿名処理班
人の苦しみを理解できる人は、
より効率的に人を苦しませることができる
24. 匿名処理班
マーク・トウェインがいってる
人間は徹頭徹尾、自己満足のために生きる と
優しい人間は利他的行動が自己満足だし 共感性の欠如した人間は利己的な満足を得る
25. 匿名処理班
多くのものを失った末に残るものがそれだとしたら
別にこの先何も怖くないな
26. 匿名処理班
でも快楽物質が分泌されるから優しくするとか
そうプログラムされているから優しくする
とか言われると少し悲しい
なんか違う気がしなくもない
27. 匿名処理班
※33
ポジティブに考えよう
人間が他人に共感したり同情したり出来るのは後天的な経験だけじゃなく本能に根ざしたものである事が示されたんだ
同情したり共感したりする事が上から目線の偽善なんじゃないかとか
そういうあまりに悲しい後ろめたさを持つ必要は無くなったんだよ
自分の感情だけじゃなくて本能もそれを是としてくれてるってのは心強いんじゃないだろうか
28. 匿名処理班
互いに偽善を計ることによる生存率の上昇
29. 匿名処理班
ゲーム理論と似てる気がする
同情をお互いに示せる人間同士はよりプラスに
相手の同情を利用する人間は、一時的に得しても結局マイナスに
30. 匿名処理班
※6
言わんとしてることはわかるよ
人に優しくすると自分も嬉しくなるから
優しくするのは結局は自分の為(エゴ)てことだよね。
自分がそうしたいからそうしてる、って意味では、自己満足で合ってると思う。
ただ「利己主義」は、他人なんてどうでもいい、自分が得すりゃいいって事だから
やさしさは利己主義とはまた違ったものなんじゃないかな
31. 匿名処理班
しずかちゃんのパパが言ってたことだ!
32. 匿名処理班
そう言えば先進国の多くが少子化高齢化に悩んでいたね。
貧乏の子だくさんは、国家レベルでも同様のようだ。
33. 匿名処理班
※6
なるほど! 適者生存に当てはめるとそうなるな
34. 匿名処理班
周囲の人を痛めつけて喜ぶ人や、無残な映像を見て快楽物質を出すは何なんだろう、人間のエラーなのか?
35. 匿名処理班
優しい世界が良い
ADDの私が住みやすい
暮らしやすい
生きやすい世界になりますように
36. 匿名処理班
この優しさ利他心が、人類の生存戦略やったんやね!!
37. 匿名処理班
実はこれ人間だけじゃなく微生物なんかでも互恵関係はあったと思う。
ゲーム理論なんかでも単純に何割かを分け与えたりしたグループが繁栄するといったシミュレーションは多くある。
助け合いは本当に進化の根本にあるものだと思う。
人間社会の問題点はルールを無視したものが階級上部に君臨しやすいという事実。
上部に君臨したものは親族を繁栄させやすいだけでなく、社会のルールを決める、
さらには社会を先導する権利を持つ。これによって人間社会はなんども戦争に突入
する事になる。
米企業家でも多くの政治家でも、イスラム原理主義の指導者でも世界を混乱に導く
一部の人間は、ただ自分の利益だけを考えるサイコパシー人間だ。
思想とか主義とか理念とか関係ない。
38. 匿名処理班
人に親切にしてバカを見た気分になることもあるけど、
やっぱり総合的に見れば親切にしたほうがいいんだな
39. 匿名処理班
ああ、だから日本は少子化の一途を辿っているのか
40. 匿名処理班
同情の輪を広げて世界中を平和にできないものか
※21→幸せは個々の価値観だから、一概に「〜たら幸せは」当てはまらない
「同情するなら金をくれ」by安達祐実
41. 匿名処理班
※52
だな
やっぱ移民入れるしかないわ
42. 匿名処理班
だが、「同情心」も究極的には無償のものではない。
自分が犠牲になって死ぬことがあっても、
自分とおなじ「種」である他者が生き残れれば、
結果的に「自分が属する種」の遺伝子を後世に残せたことになるのだから。
このへんはたしかに、ダーウィンやドーキンスの主張どおり。
43. 匿名処理班
同情出来るって事は相手の責任も受け止められるって事。それで破滅する人は考え足らずで弱いけど、向上させる事が出来る人は強い。自分にとってのメリットにも無意識に気付いて強かに行動出来るから視野も思考も広がって賢くなるし、その周辺が栄えるんだろうね。
でも個人の利益となるには長期戦だから、短期で個人の利益を得たい人は同情策を捨てるんじゃない?
44. 匿名処理班
※39
人間は個としては弱いから、お互いを思いやることで種とか群とかの全体が反映されるっちゅうことじゃないかな。
イワシとか水牛とかの群とそんなに違わないと思う。
45. 匿名処理班
ミラーニューロン,相手が人じゃなくてもそう言うのかな?
よく,自分が持っている物を物にぶつけただけなのに,「痛っ」て言っちゃうのも同じ現象かなって思った。
ただの錯誤かもしれんけど。
46. 匿名処理班
※56
優しいな君
47. 匿名処理班
単なる擬人化だよ
物事に自分の価値観をこじつけることでしか物事を受け入れられん
人間はその程度だ
48. 匿名処理班
※58
まぁ、無償ではないわな
「自分の属する種」の範囲を決めるのが遺伝子によるところだけではないとは思うけど
自分と似ている=遺伝子が似ているっていうのを錯覚してしまって遺伝子が違う生き物を「自分の属する種」と思う事があるってだけかもしれないけど
49. 匿名処理班
優しさとは善悪で判断する物ではなく損得で量るものな訳か
情けは人の為ならず
日本では昔から言われている事じゃないか何を今更って感じです
50. 匿名処理班
ひとつの記事をとっても、こんなふうにいろんな解釈が出てくるって面白い
人間が自分たちの行動の意味について考えるって何か不思議だな…
51. 匿名処理班
最終的に生き残る方が進化論的に有利なわけで
飢餓の時代を生き抜いてきた「分け与えよう」精神をもつDNAが
受け継がれてきたのはまあ当然でしょうな