気が付けばそこにあったかのように、つつましく咲く黄色いタンポポの花。小さいながらも、その生に対する前向きな姿勢は素晴らしく、道端から世界の果てまでその種を飛ばす。
タンポポの花が咲く時期はミツバチの季節の到来を意味する。一見、単純に見えるこの植物の構造には、驚くべき秘密が隠されていて、特にヨーロッパではその文化的な響きを強く心に刻んでいる。植物の世界の小さな驚異に対して、ささやかではあるが真摯な敬意をもって接してみよう。
1.「ダンデライオン」の由来はライオンの歯
タンポポは英語でダンデライオンと言うが、もともとフランス語の“ライオンの歯”を意味するダン・ド・リオン(dent de lion)からきた。1066年の征服王ウィリアムのノルマン・コンクエストでイギリスに伝わったという。
ギザギザした葉が、ライオンの歯を思わせることからその名がついたようだ。イタリア、ポルトガル、スペイン、ノルウェーなど、ヨーロッパのほかの国でもこの名で呼ばれている。
2.フランスはタンポポを「おねしょ」と呼ぶ。
フランス語でピサンリ(pissenlit)とも言うが、これは「おねしょ」という意味。タンポポには利尿作用があると考えられているからだろう。
ドイツ語では、頭に強いPの擬音語がついたPusteblume(呼吸の花)という言葉がある。プッと息を突きつけて種を飛ばして遊ぶ様子が想像できるようだ。
ポーランド語では、花の状態のときは、ミルクを意味するmleczという言葉で呼ぶ。茎を折ると、ミルクのような白い液汁が出るからだ。種ができる頃には、種を飛ばすことを意味するdmuchawiecと呼ばれる。
フィンランドでは、バターフラワーと言われる。黄色い花をつけるせいか、乳牛が放牧されている草地いっぱいに咲くからだろう。ノルウェーでは、毛虫のためのバラという。
3.タンポポはほとんどがクローン
雑草と考えられているが、タンポポ属の分類はたくさんあり、世界中で広く認められているものには、T. erythospermumとセイヨウタンポポがある。実はタンポポはほとんどがクローンで、オシベやメシベがなくても誕生する無配偶生殖をする。種は受精しない卵から発生し、次の世代はいつも遺伝子的に片方の親とまったく同じクローンということになる。
この理由は、多くのタンポポの種がいわば三倍体だからだ。つまり、奇数の染色体が存在する状態をいい、通常ならばこの状態だと種ができない。ところが、無配偶生殖のおかげで、遺伝子をつなぐことができる。こうした三倍体は、世界の北部で見つかるタンポポに多い。
受粉によって生殖する二倍体は、ほとんどがアジアやヨーロッパの南部で見つかる。科学者たちの間では、南北という地域の違いで二倍体や三倍体の差が出る理由について議論が交わされているが、氷河期に受粉生殖が困難だった時代に、三倍体という手段によって繁殖の習慣が変わったのではないかと言われている。
4.人間に飛ばしてもらうことすらも計算のうち?種の拡散方法
タンポポがほかの雑草と違うのは、なんといっても種の拡散の方法だ。私たち人間の祖先の注意を引き、綿毛坊主を吹き飛ばすことに楽しみを見つけ出してもらって、繁殖の手助けをさせたのだ。
種は地面に落ちると、まず主根を伸ばし、それが葉をつける。葉はロゼット状(バラの花冠のような配列)になって、それぞれのロゼットが同時にいくつかの茎(最後は花になる)をのばす。
しまいには、ひとつの種が痩果という美しい綿毛となる。この先端には遠くまで空を浮遊するのに効果的な羽となる細かい産毛がついている。風が吹くとこれが散布され、まるでパラシュートのついた種のようだ。白い綿毛があたり一面を飛び交う様子は、ダンデライオン・スノーとして知られる。
一見、単純そうに見えるタンポポがこんなにも奥深い。これを踏まえてもう一度、見直してみる価値のある植物といえるだろう。
via:kuriositas・原文翻訳:konohazuku
たんぽぽが種を飛ばす様子を早回しでみる映像
Time lapse Dandelion flower to seed head
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コメント
1. 匿名処理班
水滴をマクロ撮影した写真が美しすぎる!
ちっちゃい宇宙だよなあ。
2. 匿名処理班
タンポポの茎の両端に裂け目を入れて川の中に入れると、
クルクルとカール状になるんだよね。
あれが面白くて、綿毛を飛ばしたらよく作って遊んだな。
3. 匿名処理班
フランス語でおねしょ、って意味を持っているとか面白いよね〜
実際に利尿作用があるようだし
言葉ってほんとうに面白い
4. 空缶
>人間に飛ばしてもらうことすらも計算のうち?種の拡散方法
「あ、そこの猫さんも大歓迎ですよ!」