脳に電流を流して人為的に”ゾーン”へ突入すれば、学習効果や問題解決能力が2倍にも高まるかもしれない。こうした研究はまだ始まったばかりとはいえ、さらなる脳の強化やチップ移植による義体化まで、無限の可能性が広がっている。
研究者によれば、脳への理解が進めば、電気を利用して、集中力、記憶、学習能力、計算能力、パターン認知といった脳の機能を強化することが可能になるという。他にもうつ病や痴呆の治療といった用途も考えられる。さらにコンピューターチップを移植して、インターネットから情報やスキルを直接ダウンロードすることまで可能になる。攻殻機動隊の世界がすぐそこに待っているのだ。 こうしたことを実現するための鍵は、脳のコーディング機能の解明にかかっており、これへ向けた数多くの研究がなされている。
脳の修復と補強
脳の機能を強化する技術は医療においても重要な役割を果たす可能性がある。認知機能の低下や精神病の治療のほかにも、視力や聴力の回復といった用途が見込まれる。
実はすでに実用化されている技術すらある。脳へ電気を流し病気を治療する試みは、大昔からなされているのだ。古代ギリシャやローマでは、大プリニウスなどが頭痛を治すためにエイの針でショック療法を試みている。今日においては、経頭蓋直流電気刺激(TDCS)が、うつやてんかん、薬の効きにくい脳の疾患などにおいて有効な治療法となっている。
また神経移植も非常に有望な医療技術と見られている。聴覚障害者の脳に音を伝え聴力を回復したり、小型カメラを接続して全盲の障害者に形や動きといった視覚を認識させることすら成功しているのだ。
脳への電気ショック
こうした医療における進歩も驚きだが、そうした技術の未来の可能性にはさらに胸躍るものがある。
例えば、頭に電極を取り付けて、脳に微弱な電流を流してみる。すると突然頭がすっきりして、これまで手こずってきたパズルを急に解けるようになってしまったり、何だか判らない羅列から規則性を認識したり、記憶力まで良くなってしまう。
神経学者や脳強化の研究者によれば、こうしたことは最早SFの中だけのことではなく、TDCSを利用して実現していることなのだという。また、こうした結果を裏付ける将来有望な研究も数多く存在する。
「TDCSは外科的と言うよりは、ショットガン的な手法とでも言っておきましょう」とライト州立研究所の神経学者マイケル・ワイゼンド氏。同氏によれば、現段階では脳内の電気を流す対象となる部位を把握する研究が進められており、少なくとも研究室においては安全性が確認されているという。
ワイゼンド氏が実施した500人を対象とした研究では記憶、パターン認識、注意力の改善が見られ、とりわけ新しいスキルを修得する早さが通常の人の2倍にも達するという結果が得られている。また別の研究では、電気刺激によって計算能力が最大6ヶ月相当分も向上した。また米軍においては、集中力を向上させることで、狙撃手の成績向上や、パイロットがレーダーで目標を早期に発見するうえで効果が期待できるという結果もでている。
TDCSは安価で手軽に製作できるうえ、効果も期待できるため、脳機能を向上させたい人やゲーマー向けの自作製品まで出回っている。しかしワイゼンド氏は安全性にはまだ不明な点があるうえ、その効果にも過度な期待を抱いていると懸念する。「今の段階で判明しているのは、脳機能を変化させることで、能力を向上させることができるということだけです」
頭蓋骨内のチップ
頭蓋骨内にコンピューターチップを埋め込む覚悟が必要ではあるが、TDCSで最も興味をかき立てられることは直接ダウンロードの可能性だろう。
例えば、視覚や聴覚を補うために既に利用されているものと同様の技術によって、感覚をさらに向上させることができる。ニューヨーク大学心理学部教授のゲーリー・マーカス氏によれば、その代表的なものは記憶だという。米軍では、脳に神経や電極を移植することで、トラウマによって記憶に障害を負った人々の記憶を取り戻す研究を進めている。これを発展させば、記憶容量の拡大まで可能になるという。「ただしそれがいつになるかは判りません。10年以上はかかるでしょう」とマーカス氏。
これを実現するには脳が物事を記号化し、それを保存する仕組みの解明という大問題を解決しなければならない。しかし、これさえできるようになれば、それを模倣することで脳への直接ダウンロードが実現できる。こうした研究は政府や研究機関で最優先事項として進められているが、それは50年後を見据えてのことだ。
そして次の段階へ
こうした技術は多くの人々の想像よりも遥かに進歩しているとは言え、夢の技術の実現までの道のりはまだ長い。TDCSに関して言えば、まずは訓練プログラムや薬物が効きにくい脳疾患の治療での利用が広まり、場合によっては高度の集中力を必要とする職業でも普及していくだろう。
「こうした技術は30年後になっても未熟なままでしょう」とマーカス氏。しかし、すでに実現へ向けて世界が動き出していることだけは確かだ。
via:businessinsider・原文翻訳:hiroching
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コメント
1. 匿名処理班
快楽の座!
ロボトミーに代表される精神外科は、その経緯から否定されて現在に至る訳だけど
それと同じでは無いけど、似た様な手法がまた出て来るとはね
どうやら、脳ミソをなんとかして外部からコントロールしたいって欲望は無くならないみたい
2. 匿名処理班
人間の脳について、まだ解明されてない事が多いのに
こういう技術が伸びていくのって怖いな
3. 匿名処理班
教育や学習スピードが速く確実にできるのなら
堕ちこぼれもいなくなり良いと思うが
知識を実践させないと無理だろうな経験とセットだし・・・
あと良くあるけど欲しい記憶データほど
手に入らないんじゃないかなと最近この手の話を聞くと思う
格闘家や芸術家などのデータだとオリジナルの人が
「人の努力を横取りするんじゃね〜」と
拒否するんではないではないか?
まあ結局は自分の力でって事なんじゃないかな
4. 匿名処理班
雷に打たれたあと、急にスーパー能力を身に付ける人も、理屈解明されるかも?
5. 匿名処理班
皮膚の表面にしか電気流れてないけど……
6. 匿名処理班
スカーレット・ヨハンソン?
7. 匿名処理班
>トラウマによって記憶に障害を負った人々の記憶を取り戻す研究を進めている
こんな技術が日常になったら、逆にトラウマを増幅させて
意図的に精神崩壊させられる犯罪とか発生しそうで怖い…(´・ω・`)
8. 匿名処理班
これ、異常に疲れたりしないのか?
あと技術って必ず悪用する奴が出てくるし、脳なんて自分の核となるところ病気でもないのに他人に弄られたくないな。汎用されていけば抵抗もなくなるかもしれないけど。
9. 匿名処理班
弊害がはっきりしてくるのは何年後だろうね
新しい技術の一般化への期待もあるけど、犠牲になるだろう一部が怖い
10. 匿名処理班
もうちょっとしたら笑い男が現れるって事か
11. 匿名処理班
草薙素子の声で記事を読んだ。(脳内変換)
12. 匿名処理班
甲殻類に例えられてもそのアニメ観てないしなー
これCSドキュメント系番組で見た技術だ
記憶は自分でウソの記憶を作る話もあるよね…
鬱が治るならいいことなんだけど
13. 匿名処理班
脳が茹で上がったりするのはゴメンだぜ?
14. 匿名処理班
脳の増量とかが出来るのか?
15. 匿名処理班
そして人間は脳の一部分のみを残して全て機械化する
16. 匿名処理班
認知症とかアルツハイマーとかがハード的に治療できるようになるのかな
17. 匿名処理班
なんか・・・突然死しそう・・・・
18. 匿名処理班
こういうのって被験者には誰がなるのかな?
ぜひ俺で試してみて欲しい。
常人が持てないくらいの知能が欲しい。
世界には知りたいことが多すぎるんだ。
危険は承知のうえで、頭よくなりたい。
アルジャーノンみたいに、一過性の能力だったとしても全然いいし、
ひどい後遺障にみまわれたとしても恨まないから!
19. 匿名処理班
重力が衰えるとき!
20. 匿名処理班
いいぞ〜これ
21. 匿名処理班
上の人の言ってる通り、脳は個体を個体足らしめる核となる部位
それを乱れのないように平均化したらそれはもう個じゃなくなる
こんなパラドックスなんて何百年前から諸sf作品で訴えられてることだから勉強してきた科学者達が懸念しないわけがないんだが、
某掲示板のレス曰く、どうやら科学は科学するために存在するらしく人類の苦痛を緩和させ快適にするという建前を隠れ蓑に、個体を並列回路よろしく均一化していくつもりらしい
そうして何万年後には、全にして一。ただ在るだけ。という状態になり人類は生きながらにして涅槃に到達するんだろう
22. 匿名処理班
病気の治療以外で脳を強化する必要性を感じない
記憶と計算と作業は機械にやらせればいい
コミュ力とか創造性とかは強化しずらそうだ
それよりも注意散漫にならずにアニメ3本同時に見てラジオ2つ同時に聴いてネットに投稿もするマルチ機能が欲しい
23. 匿名処理班
※13
ウソの記憶の話が気になるあなたは、攻殻の原作やアニメを見るべき。
24. 匿名処理班
そもそも人間の定義は、
忘れそうになるものを如何に繋ぎとめ自己を規定していくかという過程にこそあると思うんだが
それを外部の装置を借りて済ますってんならもう機械以外の何物でもないし、主観や人格の概念もなくなる
人格の“格”という語は“資格を持っている”という意味。即ちその人の経験 それが人格
もしも経験をすっ飛ばしてスキルを手に入れられるとすればそれは人格とは言わない せいぜい“添える”という意味で人副
たしかアンドリューNDRでロボットが人格チップなるものを埋め込まれてたけど、知性なき知能は気狂いでしかないって演出だった
そもそも人間の脳は経験なしに柔軟で統合されたアウトプットが発揮出来るようには作られていない
25. 匿名処理班
シュタインズゲートにこんなのなかった?
26. 匿名処理班
脳内にダウンロードって事は疑似記憶植え付けたり、洗脳出来るって事と同じ事だと思うんだが、便利っちゅーよりもすんげー怖い。ある意味ゾンビチックな感じで敵を作り出してその敵を攻めろ的な事も可能じゃない?スマホだって結構危うい部分あるのに、ダイレクトとか、成熟した世界でないと無理だべ。出来る出来ないとかの前にさ。もちろん便利な事は認めるが、それ以上の危険性が凄いと思うんだがな。俺は歳だし、電脳化はパスしてオールドタイプでいいや。
27. 匿名処理班
ない人に与えなさい社会の現代ままだと、一般人がこういうのの恩恵を受けるのは金積まないと無理だろうな
少なくとも二十歳を超えるまでは使用を禁止されそう
28. 匿名処理班
筋力の調整まで自由が効いたら経験なんて要らなくなるな
少なくとも「コツ」みたいな職人的な分野も脳にその細かな情報があればいいわけだし。
仕事をするにしても手先の器用な職人技をコピーするにしても、脳が疲労に付いて行けなかったり手先の筋肉が付いてないために労働に耐えられなかったりヘマをしてしまったりとすればそんな情報なんの役にも立たない。
単純な娯楽、治療面での活躍と云えば正に効果覿面だろうなあ。法整備や犯罪への対策が相当難しそうだが。
29. 匿名処理班
脳に電気刺激を与える商品は既に存在するし、自作に励んでいる人もいる。
ただ、自分の精神疾患を緩和するために自作した人が発言してのは、刺激を与えるために張り付ける部位が普段と少しずれただけで性格の変化が自分自身でも感じられたそうで、副作用もありそうなのかな?この人は、6時間ぐらいで性格の変化の違和感はなくなったそうだけど。
なんて記事を別サイトで読みましたよ。
個人的には、電気刺激を与えると頭がすっきりして軽くなる、思考しやすくなる(ただし、成績が上がったとかはあまり聞かない)という人が多いらしいので機会があれば試してみたいものですが。。
30. 匿名処理班
※23
旧約聖書のバベルの塔はそんな世界を戒めているのかも
31. 匿名処理班
競争社会だと生活の為にも脳を機械化しないとやってけないってなりそうだな。
どれくらい能力が向上するかにもよるけど機械化した人間には仕事じゃ生身の人間は勝てないだろうから。特別頭使う仕事だと本当に大変なことになりそう。
機械化人間と非機械化人間の選民思想が一部に生まれそう。
32. 匿名処理班
知識が普遍的なものだとすると最後に残るのは職人技術だけになるんだが、
そうなったら人類の衰退が加速しそうな気がする。
知識も大事だけど人とのつながりも大事なのよ。
33. 匿名処理班
オウムのヘッドギアにもこんなのあったな
電気的に脳の能力をアップさせるってやつ
34. 匿名処理班
何の根拠もない個人的な妄想だけど、これって普段意識下でやっている事を電気刺激ですっ飛ばして表面的な事だけに脳パワーを集中させてるんじゃないかと思う、もしそうなら無意識で処理されていた部分が抜け落ちてなんの意味もない“記憶”だけが残るような気がします。
だったとしてもそれが分かるのははるか先の話だけど。
35. 匿名処理班
研究を推し進めて頂きたい。人間の知能はネットワークに接続可能にもなるため、人とのつながりは失われません。
始めは機械の外付けや内蔵になりますが、やがて数十年しないうちに、生身の体の部分部分を、あらゆる面で優れた部品に置き換えることが可能になるでしょう。バッテリーが足りない、などという時代遅れのデメリット等もなく、です。
もしかすると生身の身体でいたいという需要が強いかもしれない。その場合、機械の身体(現在の機械のイメージとは異なります)と、元の生身の身体を、いつでも差し替えられるようにしておくのも、不満が少なくなるかもしれません。